298.即位記念祭に飴が採用
巨大過ぎる宝石がデンと据え付けられた、冗談みたいな指輪。中指に嵌めた指輪はするっと大きさを合わせ、ぷるんと大粒の赤い石が指からはみ出した。じっと見つめるアンナは、お祭りで買ってもらったお菓子を思い出す。
「この大きさって、昔食べたジュエリー飴みたい。思い出すわ」
アンナが発言した単語に、大公女のルーサルカが最初に反応した。ちなみに正式名称は思い出せず、宝石の形の飴があったと説明される。
「ジュエリー飴?」
「えっと、こんな感じの指輪で……この宝石部分が透き通った飴なのよ」
指で光る大粒の指輪を示すと、似たデザインの一粒石が飾られた指輪をそれぞれに引っ張り出した。
「この形の飴?」
「食べづらくないの?」
質問が向けられ、アンナは見本のつもりで指輪を唇に近づけた。
「こんな感じで舐めるの。食べやすいわけじゃないけど、楽しかったわ。服に飴がくっついたりして、それも懐かしいけど」
失敗もあったけど、いい思い出だと笑った。隣で娘スイと息子ルイの首飾りを探すイザヤも、話に参加した。
「たまに我慢できなくて齧って、割れた飴が落ちて泣いたっけ」
「もう! そういうのはいいの!!」
ぷりぷりと怒りながら叩く妹を、兄は笑いながら受け止めた。
「今度の小説の小道具に出してみるかな」
「いいわね」
夫婦の会話を聞いた大公女達は、目を輝かせた。もちろん、リリスも興味津々だ。すぐに夫ルシファーの袖を引っ張った。
「ルシファー、透明でこの宝石みたいな飴を指輪にしてちょうだい」
「ん?」
話を全く聞いていなかったルシファーは、言われた通り指輪を作った。が、明らかに形が違う。透明の大粒な飴を取り出し、その中をくり抜いて指輪にしたのだ。言われた内容は正しく形にしたが、話と違うと怒られた。
「絵を描いてみてくれ」
「いいわ」
ここでリリス画伯の実力が炸裂する。大きな丸と小さな丸が重なる雪だるまのような絵が完成した。愛する妻の力作から、最終的な形を汲み取ろうとするが、難しい。
助けを求めルシファーへ、ルーシアがそっと指輪の箱を差し出した。
「この宝石部分が、飴になればいいのです。頬張るくらい大粒で、透明な飴らしいですわ」
「ああ、助かった」
素直に話を受け入れ、今度はきちんと飴で宝石の形を作り上げる。大粒すぎて、過去にリリスの頬を膨らませた飴の表面を溶かして整えた。幸いにして濁らずに完成する。
「これでいいか?」
「これを、こんな感じの指輪にしてちょうだい」
自分が描いた絵を得意げに掲げる。丸い輪が二つ、一つは宝石の形の飴と仮定して、下は指を入れる穴か! ルーシアが見せた指輪も参考に、金属で輪を作って飴をくっつけた。
「完璧だ」
「わぁ、似てる!」
嬉しそうなリリスへ飴の指輪を見せ、右手の中指へ差し込んだ。リリスは嬉しそうに笑い、ぺろりと飴を舐める。思ったより楽しいのか、そのまま舐め始めた。
「何を行儀の悪い」
眉を顰めるアスタロトだが、次の瞬間、ころりと手のひらを返した。
「お義父様、この形の飴は流行りそうです。製品化しましょう。私も欲しいです」
「ぜひ作りましょう」
行儀が悪いんじゃないのか? ルシファーは疑問を浮かべたが、かろうじて声に出すことは避けた。以前より少し賢くなった魔王である。ルーサルカの発言で意見を変えたアスタロトへ、余計な口を利くと普段より酷い目に遭う。経験から学んでいた。
「そうだ! 即位記念祭の目玉商品にしましょうよ」
「そういや、目玉の飴もあったな」
イザヤが余計なことを呟いたため、目玉の形の飴も開発されることになる。今回の即位記念祭は、異形飴が華を添える、かも知れない。




