悪い子のよしのといい子のよしの
「よよ、よしの……?一体何をっ……!?」
下着姿のよしのにベッドに押し倒されて俺は目を見張った。
「お兄様……。教えて下さい。このましろさんの体とはどこまで行ったんですか……?」
ツインテールの黒髪美少女は、ましろどころか、よしのらしくもない妖艶な笑みを浮かべ、俺に迫って来た。
「ましろさんが、胸を偽ったNTRビデオレターをお兄様に送って、バレないと思っていたという事は、一線は越えてないという事ですよね。なら、どこまで行ったんですか?キスをしたり、体を触ったりしましたか?考えたら、私、夜眠れなくって……。」
プニプニッ!
「よ、よしのっ。ちょっ…。当たってるって!////」
俺を押し倒し、ぎゅうぎゅう抱き着いて小さな胸を押し付けてくるよしのを押し戻そうと苦労していると……。
「いいんですよ?触っても。今、私達は恋人同士なんですから、私にも彼女にしたのと同じ事をして下さいっ……。」
「……!!////」
花のような女の子の香りと、甘く優しい誘惑の声に脳の芯が溶かされそうになる。
よしのは小悪魔な笑みを浮かべて俺の手を取り、自分の胸に近付けていき、あと数センチで指先が黒いレースブラを身に着けた白い小さな胸に触れるという時……。
パシッ!
「やめろって!! 俺達は兄妹だろうが!!」
「……!!」
よしのの手を振り払い、惑う感情を振り切るように叫んだ。
「一体どうしたっていうんだよ。こんな風に誘惑するの、よしのらしくないっ! いつものよしのに戻ってくれ! 大体ましろの体でこんな事しようとするのも彼女に悪いだろうが!」
「お、お兄様っ!」
よしのは俺の言葉に、傷付いたような瞳を見開いた。
「今の悪い子の私は嫌いですか? お兄様への想いを抑えきれない私はやっぱり気持ち悪いですか?」
「そ、そうは、言ってない! だが……。……!」
今はましろの体で恋人の振りをしているが、よしのは実の妹。いくら入れ替わり解消の為とはいえ、彼女の想いを受け入れ、決定的な関係になる事など到底できよう筈もない。
そう言おうとするも、目の前で大粒の涙を零すよしのを見て、言葉が出なくなった。
「ふえっ。せ、せっかくお兄様の好きだった女の体になったのにっ…。それでも、ダメなんですかっ?
この体に入れ替わってからの私は、新しく生まれ変わったように頭もいつもより回って、何でも出来るような気がしていました。
困った状況に復縁のアイディアを思い付いたり、ましろさんには、お互いにお兄様と過ごす時間は邪魔をしないようにしようと黒い取り引きを持ちかけたりもしました。
全てはお兄様を手に入れる為にっ……!
けれど、私にはお兄様の言う事が絶対ですっ。
今のお兄様を想うちょっと悪い私よりも、前の方がいいと言うならっ……。また前のようにお兄様への想いを押し殺して、いい子の私に戻りますっ。ふぐっ…。」
「よしのっ……!」
後から後から零れてくる涙を必死に拭っているよしのに、俺は胸がギュッと絞られるように痛んだ。
「頼むからそんなに泣かないでくれよっ……!」
「おにい…さまっ?」
堪らない気持ちで、その柔く温かい体を抱き締めると、彼女は戸惑ったような声を出した。
「キツイ言い方をしていたらごめん……。今のよしのが嫌いなわけじゃない。
自分の気持ちもどうにもならなくて、俺も戸惑っているんだよ……。」
「……!////」
彼女の温もりと匂いを全身に感じて、心臓がうるさいぐらいに鳴っているのを感じていると、よしのにひそっと指摘された。
「お兄様……。心臓バクバクしてますね……?」
「そ、そりゃ、そうだろ。下着姿の女の子を抱き締めるなんて、初めてなんだから緊張するよ……」
「女の子……。///初めてって……ましろさんともこうやって抱き合ったりした事なかったんですか?」
「ないよ。元々、自分に責任の取れる年齢になるまでは女の子に手を出すつもりはなかったし、ましろも奥手だったから、付き合ってた時は手を繋いだり、頭を撫でたりした事ぐらいしかないよ。」
「そ、そうなんですね……。」
よしのは、大きく息をついた。
「なんだ……。私、一人置いていかれたような気持ちになって焦っていました……。」
「よしの……?」
少し身を引いて彼女の顔を見ると、ホッとしたような笑顔を浮かべていた。
「お兄様が、私の事を「女の子」として認識してくれたのが嬉しいから、これ以上お兄様を困らせないよう今日のところは引いて妹の「よしの」に戻ります。」
「よしの……。」
よしのは、ベッドサイドに置いてあったお気に入りのうさぎのぬいぐるみを抱き締めるとぽふっとベッドに体を横たえた。
「安心したら、力抜けて、眠くなっちゃいました……」
「よ、よしの。そのまま寝ると風邪引くぞ?」
あと、目のやり場に困るしな……。
毛布をかけてやると、よしのは頬を緩めて礼を言って来た。
「ふふふ♡お兄様、ありがとうございます〜。よしのが眠るまで、昔のお話して下さぁい。この「よしくん」の事、覚えてますかぁ?」
「ああ。小さい頃、家族皆で動物園行った時、俺がお土産に買ってやったやつだろ?」
「そうれす……。よしのは、あの時お兄様に初めてプレゼントをもらえたのが嬉しくて、お兄様の名前をこの子に付けたんれす……。
むにゃむにゃ…。あれ以来、お兄様がいなくて寂しい時は、この子を抱き締めて耐えてたんれすよ……。
よしの、偉いでひょ?」
「ああ。偉い偉い……。」
想い出話をする内、自分の事を小さい頃のように名前呼びし、呂律が回らなくなって来た眠そうなよしのの頭を撫でてやると、彼女の口角はニンマリと上がった。
「えへへ……♡お兄様、大好きれ…すぅ…むにゃむにゃ……」
そのまま寝入ってしまったよしのに、俺はホウッと息をついた。
「全く、急に大人っぽく迫って来たと思ったら、今度は子供になって……。妹といえど、女の子は分からないな」
安らかな寝顔を見ながら苦笑いをしていると……。
「ふわぁ……。あれ……??俺も何か眠く……」
ドサッ。
昨日の睡眠不足がたたってか、急な眠気に襲われた俺は、よしのと並んで数時間寝こけてしまったのだった……。




