妹ましろ 夜Ver.&朝Ver.
遅い時間でもあったので、あれからすぐに名残惜しそうなよしのに別れを告げ家に帰ると、母さんから、「義隆の彼女って虎田さんの娘だったのね?」とテンション高く話しかけられた。
どうやら、ましろの母親から連絡をもらったらしい。
今度二家族で食事でもという話も出ているとの事で、頭痛を覚えながらも俺もましろも了承するしかなかった。
部屋の前で、ましろと別れる時……。
大きなペンギンのぬいぐるみをぎゅっと抱えたましろは、俺に珍しく殊勝な態度を取って来た。
「あ、あの、ペンペンの件では、迷惑かけたわね……。その、ママにも会えたし嬉しかった。あ、ありがと。」
「お、おう。あんないいお母さんに迷惑かけるんじゃないぞ?入れ替わりもだが、娘がNTRビデオレター作って、彼氏に送り付けたなんて知ったら、お母さん、卒倒するぞ?」
「マ、ママには言わないで!」
「言わねーよ。親同士も知ってる仲で、そんな事になったら大騒ぎだ。よしのの姿なんだから、これ以上は問題おこすなよ?」
「むっ。分かってるけど、それはよしのさんも同じでしょ?彼女にも注意してよね?」
「??いや、大人しくて真面目なよしのが問題起こすわけないだろ?」
「分かってないわね。虫も殺せないような顔して、ああいうのが一番腹黒いんだから。」
「それは、お前だろ?名前は、ましろだが、腹の内は真っ黒じゃないか。むしろ、まぐ…」
「それ以上言うと張っ倒すわよ!////変態兄!!」
ましろは赤い顔でぷるぷると拳を震わせた。
「女の外見や物腰に騙されて痛い目見るんだからね?」
「いや、ご忠告痛み入るが、お前が言うセリフじゃないんだが……」
「っ……!」
呆れて俺が突っ込むと、ましろは一瞬傷付いた表情になり……。
「あっそ、じゃ、もー知らないっっ!!」
バタン!!
自分の部屋に入り、力任せに部屋のドアを諦められた。
「ったく……。」
ちょっとはしおらしい態度を見せたかと思えば、やっぱりましろはましろだった。
部屋に戻った俺は、諸々の事で一気に疲労感を覚え、ベッドにダイブしたのだが……。
『もう……、義隆先輩って意地悪よねっ。そう思わない?』
??!
隣のよしのの部屋から、甘えたような声が聞こえ、思わず俺は半身を起こした。
元々隣の部屋との壁は薄いのだが、感情が昂ぶっているのか、その声は大きく、丸聞こえだった。
『そりゃ、NTRビデオレターを送ったのは、私もちょっとは悪かったと思うけどさ、すぐ振るし、断罪するし、おまけに私と体が入れ替わった妹に惚れちゃうし、ひどいよねっ。ねっ?ペンペン?』
「ま、ましろっ…??」
本人らしからぬ素直でちょっと幼さを感じるような言い方に、耳を疑うが、内容から言っても、状況から言ってもましろの発言に違いない。しかも、友達に電話とかじゃなく、まさか、連れ帰ったぬいぐるみに話しかけているのかっ?!
衝撃を受ける俺をよそに、ましろの話は留まる事を知らなかった。
『でも、義隆先輩のママによしのさんらしくない発言聞かれちゃった時も、ペンペンがいなくて寂しくて泣いちゃった時も、何とかしてくれて……。そゆときは、なんか優しいなぁって思っちゃって。嫌いになれないんだよね……。』
〜〜〜〜!
『まだ好きなのに、妹なんかになっちゃって……ペンペン……。私どうしたらいいのかなぁ……?』
「くうっ……!////」
これは、絶対本人聞かれたくない奴だろう。これ以上聞いてはいかんっ!!
ボフッ!!
俺は枕を耳栓代わりに押し当ててみたが……。
『それでね……。義隆くんが……で……。そしたら、私が……。』
「っ……!っ……!」
枕越しでも途切れ途切れに聞こえるましろの声は日付が変わるまで続いて、心身疲れ切っているにも関わらず、俺はなかなか寝付けなかった……。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
彼女からのNTRビデオレターについての訊問会、そして元カノと妹の入れ替わりと怒涛の1日が終わった翌日の朝……。
「ううっ……。寝不足だ……。」
ましろの声のせいでよく眠れなかった俺が洗面所に顔を洗いに行くと、先に着替えた制服姿のましろが鏡を見ながら髪をセットしていた。
「あっ。おはよう。義隆先輩。」
「お、おはよう。ましろ。」
昨日の事を思い出し動揺しながら挨拶を返すと、ましろは顰めっ面をして、俺の顔を覗き込んで来た。
「うわっ。ひどい顔……。睡眠不足はお肌の大敵!夜更かしは大概にした方がいいわよ?」
「いや、お前が言うか!」
昨日の弱っていた姿とは打って変わって、腰に手を当てて偉そうに注意してくるましろに突っ込んだ。
「夜、ぬいぐるみの件であれだけ騒いどいて……」
こちらが恥ずかしくなる程、赤裸々に俺への想いと悩みをぬいぐるみに語っていた事を全ては言えず、視線を逸らすと、ましろも少し気まずそうだった。
「あ、ああ。ペンペンの事?//だから、泣いて迷惑をかけたのは悪かったって言ってるじゃない。昼間は気を張って優等生で大人っぽい私モードでいられるけど、夜お家にいる時は、つい寂しがり屋で子供っぽい私モードになっちゃうのよ。しょうがないでしょ?
よしのさんとの入れ替わりを解消するには、私の要求も満たされる必要があるんでしょう?せいぜい、私を優しく甘やかす事ね…!」
「いや、何だよ。その開き直りと理不尽な要求……。」
顔を赤らめて人差し指を突きつけ、そんな要求をしてくるましろに、俺は呆れるばかりだった。
ただでさえ厄介なツンデレ気質なのに、昼と夜で性格違うとか余計にたち悪いわ!
「取り敢えず、家事をやるって言ってしまった以上は実行するわ。朝食作りのお手伝いをしてあげるから、私に作業を教えなさい?」
「いや、『教えて下さい』だろ……?」
そう言うましろは、やっぱりいつものましろで、俺は拳を震わせた。
そしてその後キッチンにてーー。
「ねえ、お兄様?ウインナー、ジャリッていうんだけど、焼くのコレぐらいでいい?」
「え。ジャリッ??…って、ソレ、ウインナーなのか?完全に炭化してるから!!も、もうここはいいからそこで、レタス洗ってくれ!」
「分かったわ。」
ドクドクッ。
「まし…っ、よしの!何レタスにクレンザーかけてんだよっ!?||||」
「え?だって、洗えって言われたから、こっちの洗剤だった?」
ジュウッ…!
「ひぃっ☠☠!それは、塩素系洗剤だからもっと駄目だ!!」
✽
家事を手伝わせると言った事を後悔するレベルのましろの家事の出来なさに、俺はキッチンで度々叫ぶ事になり……。
「(母さん、よ、よしのは一体どうしたんだい?)」
「(父さん、よしの、今、反抗期なのよ……。)」
「(ああ。反抗期か……。よしのも色々あるんだねぇ。)」
両親にヒソヒソしながら、心配げに見守られる事になったのだった。




