彼女(中身は妹)との甘い電話
ましろと母親と、綱渡りな話し合いを終えた後、俺はよしの(ましろのスマホ)に連絡をしてみた。
トゥルルル……♪ トゥルルル……♪
「………。ゴクッ」
発信音が鳴って、よしのが出るのを待つ間、俺はいつになく緊張している自分に気付いた。
妹に電話する事なんか、今まで何回もあったのに、俺は一体どうしたんだろう……?
ガチャッ。
「……!」
電話に出る気配にドキッとしたが、俺はいつも通りにしようと心に言い聞かせよしのに呼びかけた。
「よしのか?義隆だけど、そっちは大丈夫か……?」
『は、はいぃ……♡ お兄様の妹のよしのですぅ』
………!///
その声は、その持ち主のましろらしくなく、甘く優しい響きを持って、俺の耳を心地よくくすぐった。
早まる鼓動に気付かない振りをして、よしのと互いの近況報告をし合った。
どうやらよしのは、ましろのご両親とはうまく行っているらしい。
手伝いをする事に驚かれ、娘の成長を祝い赤飯を炊かれてしまったと聞き、笑いながらも、料理が好きなよしのとましろの母親は気が合いそうでホッとしたのだった。
こちらも母親とましろがバッティングして危ういところだったが、ましろを『反抗期』とする事で辛くも乗り切った事を報告した。
うちの母親、ましろの父親からそれぞれ、彼女、彼氏を家に呼ぶように言われた話をした時には、困った状況ながら、よしのと少し笑ってしまった。
先行きは不安だらけだが、何故かよしのと話していると、上手くいくような……そんな気さえした。
『ましろさんは……どうしてます?』
「ああ。今、大分気疲れしていたみたいで、隣の部屋で、休んでるよ」
『知らないお家にいるだけで、疲れますものね。後で連絡してみます』
「ああ。そうしてやってくれ……」
俺がよしのを巻き込んでしまい、NTRビデオレターについての訊問会→入れ替わりと怒涛の経験をする事になってしまったよしのは、さぞや疲れているだろうし、早めに電話を切り上げなければと思ってはいたのだが、よしのの声をもう少し聞いていたいような気がしていた時……。
『お兄様っ。あの…。少しだけでいいんですけど……。明日から学校でましろさんとしてうまくやって行く為に、お兄様との恋人同士のやり取りを練習してもいいですか……?』
……!///
よしのからの申し出に、俺は内心気持ちが明るくなりながら、噛み噛みで了承した。
「お、おう……。い、いいけど……?」
「では、よしの、ましろさん、いっきまーす!!」
?! よしの、ましろは◯ンダムじゃないからな?
『あら、義隆先輩。ちょっと低くてセクシーな甘い声をしているからっていい気にならないでよっ!』
「へっ?! ///」
突然のよしののキャラ変と、キツめの口調に合っていない甘い内容に俺は目を剥いた。
『その声で、『愛してる』って甘く囁くのはもう私だけにしないと許さないんだからねっ?
べ、別にこれは、ヤキモチとかじゃなくって、ただ、義隆先輩が悪い女の人に騙されるのが心配なだけなんだからっ!』
「ちょ、ちょっとよしの……?! ///ま、ましろは、そんな事言わないと思うぞ?」
思わず、途中で止めてしまった俺に、よしのは驚いたような声を上げた。
『あれっ?ダメでした?ましろさんと言えばツンデレだと思ったのですが……』
「いや、口調はツンデレでも、ましろは俺を罵倒するような事は言っても、俺を褒めたり、あから様に想いを伝えて来るようなことはしないよ」
いつものましろは、ツン:デレ=9:1、今のよしのはツン:デレ=1:9といった比率のような気がする。
『ええっ……!でも、どうしましょう? 私、お兄様を罵倒するなんてできませんし、私の中はお兄様への想いで、いっぱいですから『好きっ♡大好きっ♡』って気持ちが態度や会話の端々に溢れてしまいますっ』
「ぐふぅっ……! ////」
よしのが途方に暮れて発した言葉の破壊力に、俺はダメージを受けてその場に跪いてしまった。
「お兄様ぁっ。ただでさえ、お疲れのようなのに、ダメな妹でごめんなさいっ。ぐすっ」
俺に迷惑をかけてしまったと思ったのか、よしのに涙声で謝られ、慌てて聞きかじりのミームを交えて、新たな提案をした。
「い、いや。問題ない。大丈夫だ! よしの。今のましろを演じたいなら、別にツンデレにこだわる必要はないと思うぞ?
ましろは、寝取との件で反省して俺と復縁しているという状況なんだから、ツンデレを改めて、殊勝な態度を取ってもおかしくない。
呼び方と丁寧口調さえ気をつければいつものよしのでいいよ」
『……! いつもの私でいいんですか?』
「あ、ああ…。ましろが母さんの前で失言やらかしたときに思ったんだが、変にキャラを作り込むと、途中で破綻するような気がする。
入れ替わりがいつまで続くかも分からないし、今は出来るだけ自然な感じで相手を演じた方が、二人にとって負担も少ないと思うんだが、どうだ?」
『はいっっ。お兄様、流石ですっ! 全くその通りだと思います!!』
よしのは、俺の言葉にとても嬉しそうに賛成してくれた。
『いつものよしのでいきますねっ。私は優しくて賢い義隆先輩が、大大大大好きですっっ!!♡♡』
「ぐふぅっっ…!!////」
再びのよしのの攻撃に俺は血を吐きそうになった。
『義隆先輩としばらく会えなくて寂しいです。でも、この電話での義隆先輩の声を何度も頭の中でリピートして、今日一日乗り切りますねっ♡』
「かはぁっ…!////」
『あっ。そうだ! 明日も、いつものようにお弁当作って行きますね? 卵焼きでハートマーク作って、“よしたかせんぱいだいすき”って、ケチャップで文字書いてもいいですか?』
「くっふうっ…!////」
その後も、よしのの攻撃は止まず、俺がグロッキー寸前になっていると、よしのが気遣って来た。
『義隆先輩、どうして、叫び声ばかり??もしかして疲れちゃいました?もう終わりにしますね。最後に義隆先輩も恋人らしい声掛けをしてくれると嬉しいです……♡』
「……!////」
よしのにねだられ、これはいかん!最後に兄として妹にしっかりした姿を見せなければ思い、俺は咳払いをした。
「ゴホッ…。//よ、よしのがいないと寂しいよ。明日、学校で会えるの、楽しみにしてる」
『……!!////お、お兄様……!
わ、私も明日学校でお会いできるの楽しみにしてます。お、おやすみなさい。』
「??ああ。おやすみ。」
今まで攻めの姿勢だった、よしのが急に動揺し出した事を疑問に思いながら、電話を切ったのだが……。
「……!!」
その直後、気が付いた。
よしのがましろを演じる為の練習だってのに、俺は「ましろ」ではなく、「よしの」と呼んでしまった事に……!
しかも、全く嘘のない正直な気持ちを語ってしまっていた事が猛烈に恥ずかしかった……!!
「うがあぁっ…! ////俺って奴はあぁぁっ! 実の妹に対して何をっっ!!」
俺はしばらくベッドの上で身悶え、ゴロゴロと転がり続けたのだった……。




