今日から兄の彼女始めます♡《鷹宮よしの視点》
入れ替わりなんていう不思議な現象に巻き込まれた私は、今日から、NTRビデオレターの件で追い詰めたお兄様の彼女
として過ごさなければならなりません。
入れ替わりの漫画や小説はお兄様からお借りして読んだことがありますが、まさか自分が当事者になろうとは……!
「ほ、ほえ〜〜。すごいです✨✨」
ましろさんのご両親との夕食後、私は虎田ましろさんの部屋に初めて《《戻る》》と、ゴールドとピンクの色調で統一された、ゴージャスかつ女の子らしい雑誌や雑貨で少し散らかった広い部屋をキョロキョロ見回しました。
凝ったアンティーク家具、高級感溢れる調度は、本当に日常使いしていいものなのか躊躇われる程の煌びやかさで、豪華な天蓋付きベッドの片隅に私は恐る恐る座りました。
ましろさんから聞くに、確か、触ってはいけないのは、机の上の日記帳と、ベッドの上のクマさんのぬいぐるみでしたね?
私は、机の上のそれらしい冊子と、ベッドの上の大きなぬいぐるみを確認してウンウン頷きます。
「しかし、ましろさん、理知的で、実用的な物しか持たないイメージでしたが、こんな可愛らしい大きなぬいぐるみを持っているとは意外ですね……。抱き枕にでもしていたのでしょうか?」
私はつぶらな瞳に、胸にリボンのついているピンクのペンギンさんを前にして、顎に手をかけて考えました。
意外といえば、ましろさんのご両親がこんなに優しい穏やかな方で、きちんと娘とのコミュニケーションを取っているのもそうでした。
失礼ながら、ましろさんの家庭環境はあまりいいものではなく、構われない寂しさからツンデレ気質になってしまったのかと勝手に思っていたのですが、全く違いました。
逆に、ご両親から完璧に満たされた愛情を注がれていたからこそ、お兄様の言動に少しの不満でもあると、納得が出来なかったのでしょうかね。
ましろさんの気持ちの全ては分かりませんが、彼女の言葉通り娘に対しては寛容な方達なので、いつもの彼女と違う行動をとっても成長か何かだとおおらかに受け止めて下さりそうで、これからの生活は安泰そうでした。
そう言えば、ましろさんは、今私の家でお兄様と過ごしているんでしたっけ?
いつもお父様お母様の帰りは遅いから、今のところ大丈夫とは思いますが、電話をかけてみましょうか……?と、思った時……。
チャラリー♪チャラリラリー♪
「……!」
ちょうどカバンの中のスマホの着信音が鳴りました。慌てて、スマホを取り出すも……。
『私の王子様♡』
え。ましろさんっ。私の王子様♡って?!
スマホの着信画面に、お兄様の番号共にそんな文字が表示され、ちょっと衝撃を受けながらも、私はその電話に出たのでした。
✽
『よしのか?義隆だけど、そっちは大丈夫か……?』
はうっ♡電話でのお兄様の低いお声、イケボです!ドキドキしちゃいますぅ…!
私は即座に録音ボタンを押しながら、デレデレと答えました。
「は、はいぃ……♡ お兄様の妹のよしのですぅ。 ましろさんのご両親はとてもいい方達でした。お母様は、とてもお料理上手で、いくつかレシピも教えて頂きました。お手伝いをしただけで、何故か『娘が成長した』って赤飯を炊かれてしまったのは、恥ずかしかったですけど……。//」
『ハハッ。そうか……。一人で知らない環境に身を置かせる事になってしまって、心配だったが、よかった。ましろのお母さんとは、一度文化祭でお会いした事があったが、ましろの親とは思えない程優しいいい方だった。
料理上手なら、よしのも、お料理が好きだから、気が合うかもしれないな』
優しい声をかけてくれるお兄様にニンマリして私は元気に返事をしました。
「はいっ。うまくやっていけそうです。そちらはどうですか?」
『ああ……。家には着いたんだが、今日は母さん早く帰って来て、運悪く、ましろが家事をやりたくないって騒いでいるところを聞かれてしまってな……』
「ええっ!その後、大丈夫でした?」
私が目を剥くと、お兄様は苦笑している様子で、経過を説明してくれました。
『ハハ…。まぁ、何とか、今よしのは『反抗期』に入っている事にして、乗り切ったよ……』
「反抗期……! ふふっ。流石お兄様です。それなら、ましろさんが多少ツンデレな態度を取ってもおかしくないですもんね……」
『ああ……。でも、母さん、その後、ましろに、体のサイズの測定を迫るは、彼女も家に呼んで、下着をプレゼントするとか、言い出して大変だったよ……』
「彼女って、中身はお母様の娘なのに……。私も、ましろさんのお父様から、彼氏を家に連れて来てくれって言われました」
『うわっ。よしのもか……!どちらの家に呼ばれても気まずい事この上ないよな……!』
「本当です……!」
お兄様と私はそう言って、困った状況ながら、少し笑ってしまいました。
「ましろさんは……どうしてます?」
『ああ。今、大分気疲れしていたみたいで、隣の部屋で、休んでるよ』
「知らないお家にいるだけで、疲れますものね。後で連絡してみます」
『ああ。そうしてやってくれ……』
そう言うお兄様の声にも少し疲れがあり、早めに電話を切り上げなければと思ってはいたのですが……。
『お兄様っ。あの…。少しだけでいいんですけど……。明日から学校でましろさんとしてうまくやって行く為に、お兄様との恋人同士のやり取りを練習してもいいですか……?』
もう少しだけ、お兄様の声を聞きたい私は明日からの学校生活が心配な事もあり、会話を引き伸ばしてしまいました。
「お、おう……。い、いいけど……?」
「では、よしの、ましろさん、いっきまーす!!」
私の申し出にお兄様は、戸惑いながらも了承して下さり、私は◯ンダムのパイロット出撃時のように、気を引き締めて宣言しました。
「あら、義隆先輩。ちょっと低くてセクシーな甘い声をしているからっていい気にならないでよっ!」
『へっ?! ///』
「その声で、『愛してる』って甘く囁くのはもう私だけにしないと許さないんだからねっ?
べ、別にこれは、ヤキモチとかじゃなくって、ただ、義隆先輩が悪い女の人に騙されるのが心配なだけなんだからっ!」
『ちょ、ちょっとよしの……?! ///ま、ましろは、そんな事言わないと思うぞ?』
お兄様にいきなりのダメ出しを食らってしまい、私は目をパチパチと瞬かせました。
「あれっ?ダメでした?ましろさんと言えばツンデレだと思ったのですが……」
『いや、口調はツンデレでも、ましろは俺を罵倒するような事は言っても、俺を褒めたり、あから様に想いを伝えて来るようなことはしないよ』
「ええっ……!でも、どうしましょう? 私、お兄様を罵倒するなんてできませんし、私の中はお兄様への想いで、いっぱいですから『好きっ♡大好きっ♡』って気持ちが態度や会話の端々に溢れてしまいますっ」
『ぐふぅっ……! ////』
早速、ましろさんを演じる事に当たって壁にぶち当たり、私が途方に暮れていると、お兄様は何やらダメージを受けたような声を出されました。
「お兄様ぁっ。ただでさえ、お疲れのようなのに、ダメな妹でごめんなさいっ。ぐすっ」
お兄様を助けるどころか、更に迷惑をかけてしまい、私が涙目になっていると、お兄様は、新たな提案をして下さいました。
『い、いや。大丈夫だ! 問題ない。よしの。今のましろを演じたいなら、別にツンデレにこだわる必要はないと思うぞ?
ましろは、寝取との件で反省して俺と復縁しているという状況なんだから、ツンデレを改めて、殊勝な態度を取ってもおかしくない。
呼び方と丁寧口調さえ気をつければいつものよしのでいいよ』
「……! いつもの私でいいんですか?」
『あ、ああ…。ましろが母さんの前で失言やらかしたときに思ったんだが、変にキャラを作り込むと、途中で破綻するような気がする。
入れ替わりがいつまで続くかも分からないし、今は出来るだけ自然な感じで相手を演じた方が、二人にとって負担も少ないと思うんだが、どうだ?』
「はいっっ。お兄様、流石ですっ! 全くその通りだと思います!! 」
私はお兄様の言葉に、これからへの学校生活への不安も和らぎ、満面の笑みで頷きました。
「いつものよしのでいきますねっ。私は優しくて賢い義隆先輩が、大大大大好きですっっ!!♡♡」
『ぐふぅっっ…!!////』
それから、しばらくいつも通りの私で会話の練習を続けたのですが、何故かお兄様に度々ダメージを与えてしまったようでした。
ダメ出しはされなかったのですが、何かおかしかったでしょうか?
でも、今まで伝えられなかったお兄様への想いをいっぱい伝えられて、心はすっきり爽快でした。
電話を切る間際、お兄様にも、恋人らしい事を言って欲しいとねだる私に……。
『ゴホッ…。//よ、よしのがいないと寂しいよ。明日、学校で会えるの、楽しみにしてる』
……!!////
お兄様がちょっと照れた声で言って下さいました。
ましろさんを演じる練習なので、本来ならそこは『ましろ』と呼ばなければならないところでしたが、嬉しくて……、嬉し過ぎて……!とてもダメ出しなんて出来ませんでした。
✽
『……よしのがいないと寂しいよ。明日、学校で会えるの、楽しみにしてる』
「はう〜〜!はうぁ〜〜!!////お兄様、私もですぅ〜〜!!」
電話を切った後、スマホに録音したお兄様の声を何度も再生しては、私はベッドの上で、ゴロゴロ転がり身悶えていたのでした……♡




