虎田家の事情 〜娘の急成長〜《鷹宮よしの視点》
「こ、ここがましろさんのお家っ……?!」
土地坪にしたら、うちの3倍はあるんじゃないでしょうか。
広い庭に、スタイリッシュなデザインの2階建て、まるでモデルルームのような邸宅を前に、私が門扉の前で呆然と佇んでいると……。
「あらぁ。ましろちゃん!帰ってたの?」
背に声をかけられ、振り向くと小柄で綺麗な顔立ちの年齢不詳の女性が、買い物袋を下げて立っていました。
「……!」
上品なワンピース姿を着たその女性はお姉さんといってもいいぐらい若く見えるけれど、ましろさんに教えてもらった情報によると、同居している家族はゴク甘のお父様お母様のみで、姉妹はいなかった筈。
とすると、この方がましろさんのゴク甘のお母様?
「は、はじめまし…じゃない、た、ただいま。ママ。」
「ふふっ。お帰り。ましろちゃん♡今日はパパも早く帰れるって。すぐお夕飯の用意をするわね?」
ぎこちなく挨拶をする私に、ましろさんのお母様は、私に綿菓子のような笑顔を向けて、虎田家に誘導して下さったのでした。
✽
そして、1時間後ーー。
食卓には、ローストビーフバルサミコソースがけ、真鯛のポワレ、海鮮サラダ、カボチャのポタージュ、塩バターロールと、レストランのフルコースのような豪華なメニューが並びーー。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ましろさんのお母様とその後すぐに帰られたお父様(小柄で少しふくよかな優しそうな男性)と談笑している私の姿がありました。
「ふふっ。ましろちゃん。今日はなんと、料理の手伝いをしてくれたり、洗濯物を取り込んでくれたり、いっぱいお手伝いしてくれたのよ〜?お祝いに今日はお赤飯炊いたの〜♡」
「へえ〜。偉いじゃないか。ましろ!娘は急に成長するっていうけど、本当なんだなぁ…!」
「い、いえ。大した事はしてないのですが……、し、してないんだけどね?////」
いつものように家事をしただけなのに、何故かお赤飯を炊かれてしまい、ましろさんのご両親から絶賛され、私は恥ずかしさに頬を赤らめました。
「やっぱり、今お付き合いしている彼氏くんの影響かしらね〜?鷹宮くんだっけ?」
「……!」
ましろさんのお母様の口からお兄様の名前が出て、私は思わずビクッと肩を揺らしました。
「文化祭の時に、会った事があるけど、きちんと挨拶してくれて、イケメンでいい子だったわ〜〜。」
ましろさんのお母様に、頬に手を当てて、興奮気味にお兄様の事を褒められ、私まで嬉しくなってニヤけてしまいました。
「えへへ……。そうなの。おにい…、よ、義隆先輩、本当に素敵な人なのよ?」
「へぇ〜。彼氏くん、そんなに素敵な子なのかぁ……。」
ましろさんのお父様も感心したように聞いています。
「ええ、それは、もう!そう言えば、『今日は、義隆先輩と絆を深める記念すべき日になるから、帰りは遅くなるかもしれない』って言っていたけど、どうだったの?」
「えっ。||||||||」
私はその言葉にざっと青褪めました。
ま、ましろさんったら、あのNTRビデオレターで、お兄様とラブラブになる目算だったんでしょうか?!
今日、ましろさんはNTRビデオレターの件でお兄様に速攻で振られ、間男役である寝取先輩と共に、生徒会・風紀委員会合同の訊問会にかけられ、お兄様と私に散々責められた上に、妹の私と入れ替わってしまいました♡
……なんて、本当の事は言える筈もなく……。
「え、えへへ。ま、まぁ、一緒にお友達の家に行って、それなりには絆を深められた……かな……?」
引き攣り笑いをしながら誤魔化すしかありませんでした。
「ましろがそこまで心を許すなんて、鷹宮くんという子、相当誠実ないい子なんだろうね。今度、休日に遊びに連れて来なさい。」
「それは、いいわね!」
「え、ええ……。彼、色々忙しそうだけど、一応話してみま…みるわね…?」
うわ〜〜。お兄様を家に連れて来るなんて、相当気まずい対面になりそうです。
断られるかもしれないというニュアンスを入れつつ、私はなんとかこの場を切り抜けたのでした……。




