純真な妹への想い
黒崎の部屋は、パソコンデスクと本棚、ベッドと簡素な家具しか置かれていなかったが、ひっそりと収納されていた筈のそういう系のDVDやら、メモやらが机の上に散乱していた。
「どうぞ。すいませんね。片付いていなくて……。色んな意味で女子には見せられない部屋ですね?」
俺に丸椅子を勧めて、頭を擦って舌を出している黒崎に俺は首を振った。
「いや、NTRビデオレターの件で色々調べてくれたんだよな。黒崎、今日は本当にありがとうな?」
「いえいえ。礼には及びません。半分は推しの女優さんの動画を加工した事が許せなくってした事ですから!」
改めて礼を言うと、黒崎は爽やかな笑顔で親指を立て……。
「それよりも、会長、これから大丈夫ですか?」
「あ、ああ。こうなってしまった以上、二人がスムーズに生活をしていけるよう、サポートをしていくしかないだろうな?」
気遣わしげに聞いてくる黒崎に、疲れた笑顔でそう言うしかなかった。
「いえ。それも大変だとは思いますが、聞きたいのは会長の気持ちの問題ですよ。鷹宮さんと虎田さんに強い気持ちを向けられている今、応えるのか拒否するのかハッキリさせないと、即、入れ替わりの妹ハーレム、最悪、伊◯誠のような状態になってしまいますよ?」
「はんぬっ!? く、黒崎は何を言ってるんだっっ!?」
神妙な表情で首に手刀を当てるポーズを取った黒崎に、俺は裏返った声で聞き返してしまった。
「よ、よしのは妹だぞっ! どうこうなんてなるわけないだろっ。」
「本当にそうですか?入れ替わる前はそうだったかもしれないですが、今は状況が違って来ています。妹にしか思えないと思っていた鷹宮さんは、虎田さんになり、肉体的には妹ではありません! 現にさっき、視聴覚室で鷹宮さんに熱烈な告白を受け迫られていた時、会長は陥落寸前だったじゃないですか。」
「……! お、俺、そんな風に見えていたか?」
「はい。かなりグラグラに揺れているように見えました!!」
黒崎の言葉にショックを受けて聞き返すと、彼は大きく頷いた。
「た、確かにましろの体に入れ替わってから、よしのが急に積極的に俺にアプローチをかけてくるようになって、戸惑ってはいたが、この状況なら、それは当然の事で……!」
「う〜ん。僕は鷹宮さんの会長への想いは何となく気付いていたので、告白したのは実はそんなに意外でもないんですが……。変わったのは、会長の鷹宮さんを見る目ですよ」
「な、何がだよ……?」
その先の答えを聞くのが恐ろしいような気がしながらも俺は黒崎に聞かずにはいられなかった。
「今の会長は、鷹宮さんを女として見ているように思います! もっと言えば、彼女に惚れているように思います!!」
「〜〜〜〜!!_| ̄|○ il||li」
黒崎の言葉に俺は椅子から転げ、膝をついた。
そう。黒崎に指摘される前から気付いていた。よしのがましろと入れ替わって、俺に寝ぼけて告白してきた時から、早まる鼓動にーー。胸の痛みにーー。
よしのの表情、一挙手一投足が気になってつい目で追いかけてしまう自分自身に俺は気付いていた。
もしかして、これは恋ではないだろうか?と思いそうになるのを、必死に頭で否定していたが、黒崎(もしかしたら渥美兄妹にも?)には、お見通しだったらしい……。
「会長、すみません。ハッキリ言い過ぎましたね? 大丈夫ですか?」
気遣ってくる黒崎に俺は縋るように訴えた。
「ち、違うんだ……。聞いてくれ、黒崎。俺、今までは本当によしのを妹として大切に思っているだけで、邪な目を向けた事なんてなかったんだ。いつかよしのを俺が認めるふさわしい男に託せるまでは、死ねんとまで思っていた……」
「それも、かなり重めの兄愛ですけどね……。」
黒崎は言い訳のような俺の言葉に苦笑いしていた。
「大体、会長ほどハイスペックな方が、認める鷹宮さんにふさわしい男なんて見つかるんですか?」
「いや、いるだろ、ここに! 俺より遥かにハイスペックな男が……!」
俺は真面目な顔で黒崎を指差すと、彼は目を丸くした。
「はい? もしかして僕の事言ってますか?」
「ああ。正直な話、俺はお前にならよしのをやってもよいと以前から思っていた。よしのもお前に好感を持っているし、お前がその気になってくれるなら……。」
と熱意を込めて話を持ち掛けた俺に、黒崎は呆れたような大きなため息をついた。
「いやいや、会長、落ち着いて下さいよ。この状況で僕に鷹宮さんとの交際を勧めてどうしようっていうんですか?ただでさえカオスな状況が更に混迷を極めるだけでしょう。
鷹宮さんは、生徒会メンバーとして好感は持ってくれているかもしれませんが、僕に対して特別な感情はありません。彼女が好きなのは会長だけなんですから。
僕だって同じです。鷹宮さんに好感は持っていますが、僕が心を捧げているのは、Amuちゃん。僕らの道は交わりませんよ。」
「そ、そうか……。そうだよな。お前とよしの気持ちも考えずに勝手な事を言ってしまった。すまない……。」
バカな事を言ってしまったと自己嫌悪と共に項垂れる俺に、黒崎はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「いえ。僕はいつも完璧に職務をこなす会長を尊敬していますが、動揺して冷静な判断が出来ない今の会長も人間らしくて魅力的だと思いますよ?
客観的立場の僕から、言わせてもらうと、今や鷹宮さんを他の男に取られるのは会長も辛い筈です。ご自分と鷹宮さんの気持ちにちゃんと向き合ってあげて下さい。変に逃げようとすると……」
「……?」
黒崎は言い辛そうに言葉を切った。
「考えたくはありませんが、鷹宮さんへの想いが虎田さんに向いてしまい、取り返しのつかない過ちをしてしまうかもしれませんよ?」
「はあ?それだけはあり得ないだろ! ましろは、それこそ血が繋がっているよしのの体なんだぞ?そもそも、NTRビデオレターを送り付けて来た元カノなんて、もう何とも思ってない!」
それに関しては、黒崎の心配は完全に的外れだと思い、俺はそう断言したのだが……。
「でも、会長。NTRビデオレターについて訊問会をしている時は、虎田さんに対して強い怒りと嫌悪感を抱いて、厳しい態度を取っていましたよね?
でも、入れ替わりをしてからそれは変化して、緩んでしまっていやいませんか?」
「……!」
黒崎に指摘されて、よしのに入れ替わったましろに対しても、前より強い態度を取れなくなってしまっていると気付いたが、理由があるので、俺は反論した。
「いや、ましろは今よしのの体で人質を取られているようなものなんだから、強く出れないのは仕方ないだろう?別にましろを許しているわけじゃないが……。」
「でも、会長のその隙! 女子達は気付いていると思いますよ?」
「!」
黒崎はそんな俺を鋭く一瞥し、人差し指を突き付けて来た。
「会長、女子を甘く見ていると、あっという間に足元掻っ攫われますから、気を付けて下さいね?
今頃は、鷹宮さんと虎田さんで会長を落とす為の話し合いや取り決めがされているかもしれませんよ……?」
ニヤニヤしている黒崎に、俺は憮然とした表情になった。
「黒崎。忠告は有難いが、それは無用な心配というものだ。
純真なよしのはそんな狡猾さ、持ち合わせていない!ましろが策を弄して邪な話を持ち掛けて来る事があったとしても、きっぱりとそれを跳ね除けるだろう!」
俺は確信してそう言い切ってやった。
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《虎田ましろ視点》
「は?あんた、今なんて?」
腹黒参謀、黒崎のリビングで、義隆くんのド天然妹と対峙していた私は、今言われた事が全く理解できず問い返した。
「ですから、私もましろさんもお兄様を想っていて、それぞれ、妹として、やらかした元カノとして恋愛対象外なのは同じ。それなら、いがみ合うのはやめて、お互い協定を結びませんか?
それぞれお兄様と二人で過ごす時間で、どんなアプローチをしようと誘惑をしようとお互い邪魔しないって。
せっかく羨ましいと思っていた相手になれたんですもの。この姿を最大限に利用してお兄様の愛を獲得しに行きましょう?」
「いや、だから、あんた何頓狂な事言ってんのよぉぉっっ!!」
自分そっくりのツインテールの少女が純真そのものな笑顔を浮かべてそんな腹黒な提案をしてくるのに、私はドン引きするばかりだった。




