3話
船内をうろつく黒い影を数体、処理してから。
廊下から外へ出て、俺は愕然とした。
「・・・凍えるはずだ。」
船から海にかけて辺り一面が凍り付いている。
そして、俺は、外に浮遊しているソレを見たのだ。
「―こんなところでまた見かけるとは。」
いつか森で見た、そいつが空に浮かんでいるのだ。ただし、その身体はあのときよりも随分とデカい。
―今日は、本当に思いもよらぬ者を見る。
ソレは言う。
「・・・こんな所で何をやっているんだ?」
―久方ぶりに呼ばれたのでな
そいつは、まるで何でもないというように答える。
「・・・お前が相手では、とてもではないが、俺なんぞに勝ち目はないではないか。」
―我とて、全ての権能を使うことができるわけではない。それに我は、あやつに何もしてやることはできんかったのだ
「——何があった?」
・・・
だが、蛇、フリージアは答える様子がない。
―あやつも無理をする。この氷は、じき溶けるだろう
「おい!俺の質問に答えろ!!」
だが、フリージアは何も答えることなく、その姿が薄れていき、やがて姿を消した。
それと同時に、氷の世界が解除される。
はあ、と大きく息を吐く。白い息がキラキラと空中に舞って綺麗だ。
あの黒い影から魔力をいくらか吸収できたのは良かったが、あのままあの世界で居続ければやがて魔力が切れ、ジリ貧になっていたことは間違いない。
コキュートスが解除され、少しずつだが大気の気温が戻って行く。
「ラズリーが心配だな。」
コキュートスが切れたということは、もしかするとラズリーの魔力に何らかの問題があったのかもしれない。おそらくラスティアの魔力の負荷に耐えることができないのだろう。
あるいは、そう思わせておいて、何か別のことを企んでいるのか。
バシバシッと顔を叩き、あの場所へ向かうことにする。
「大体の道は覚えているな?」
途中、襲い掛かって来る黒いモノを処理しながら、先へ進む。先へ、先へ。
いつのまにか、俺は返り血をぐっしょりと浴びていた。
そして、扉の前に立つ。先ほどとは異なり、サフィラの姿はない。
―覚悟を決めろ
ギィっと扉を開けると
「遅かったじゃない。」
つまらなそうに床にぺたりと座り、あどけない顔でこちらを見つめるラスティア。
「・・・先ほどは覚悟が決まらんかったからな。」
彼女はゆっくり立ち上がり、
「そう。」
ぽんぽんっと裾を払う。
「それで、どんな覚悟を見せてくれるのかしら?」
そう言うと、手のひらの上で魔力を練り始める。
「・・・魔力が尽きたんじゃなかったのか?」
冷や汗が背中を走る。
「ふふ。そんなの、誰が言ったの?」
そう言うと、クスクスと笑うラスティア。
ゆっくり、ゆっくりと魔力を練っていく。その魔力は美しく光り輝いていて、思わず魅了されてしまいそうだ。
だが、そうやって見惚れている場合ではない。
―迅雷
俺はふっと姿を消し、一旦解除し、彼女の首に手刀を―
ぱしゃん
「・・・は?」
手刀を放った先には水たまりができていた。
「―—驚いたわ。そんな芸当ができるなんて。」
俺の迅雷を放った場所とは、全く別の場所からそんな声が聞こえてきた。
―転移魔法か!?
だが、手刀を放つ際、俺は確かにラスティアの姿を見ていたはずだ。
「・・・そういう魔法か。」
もちろん、今日初めて見る魔法であるが、彼女ほどの実力であれば可能だろう。
「そ。貴方がそのおかしな術を放った相手は、私のダミー。」
そして、ラスティアの手には光り輝く魔力が―
「今度は何だ!またコキュートスか!?」
こいつの魔法に対処するには、何かヒントが必要だ!!
「氷の神様は疲れちゃったんだって。だから、ね?」
ラスティアの次の行動に身構え身動きできないでいると、足元に素早く魔法陣が描かれ―
「なに!?」
瞬間、視界が暗転し、気が付けば、足元に海が広がっていた。
「転移魔法かよ!?」
―それだけじゃないわよ?
そんな声が聞こえてきた。




