2話
―そういえば、あの謎の黒いモノの姿が見えないな?
ここまで逃げてきたのはよいが、黒いモノも船と同じで既に凍り付いてしまったのだろうか?
「どこにいった??」
俺は、そっと食堂の扉を開けて、外を確かめる。すると、
いた。
どうやら、あの黒いモノは魔力の影響を受けるようで、動きを停止している。
「そもそも、アレは何だ?」
ラズリー、いやラスティアはあれらを自分の知り合いだと言っていた。
ラスティアはサフィラの姉。つまり、王族だろう。王族の船に、王族だけが乗っているとは考えられない。王家に仕える使用人や、あるいは王国の国民などが乗っていたと考えるのが妥当である。
「・・・なんてことだ。」
確かに、この船はラスティアの作り出した最後の楽園であるだろう。
―ラスティアが作り出した?
いや、これは望んでラスティアが作り出したとは考えられない。
そもそも生贄というのは何だっただろう?それは確か、門を。魔界の門とやらを開けるためのもの。魔界の存在はゲームの世界でも一応、そんな設定はあったのだ。だが、転移魔法なども存在する世界だ。わざわざこんな大がかりなことをせずとも、門の一つや二つくらい、簡単に開けることができるのではないか?
「そもそも、ゼヘラとは何なのだ・・・?」
皇帝サフィラはゼヘラを革命軍だと言っていたが、ラスティアはかなり強力な魔法使いだ。おそらく、魔界からやってくる四天王を超えるし、その四天王を何とか倒してクライマックスを迎える頃のハーヴェルすらも超える。ラスティア一人で、人間の軍隊や魔王軍すらも相手にできるかもしれない、というか、できるだろう。
―そんな存在が生贄に捧げられることなどあり得るのだろうか?
話の経緯を考えて、ラスティアはおそらく人質に弟であるサフィラを取られたのだろう。しかし、その程度で後れをとるものだろうか?
――相手が並みの相手であれば
つまり、そもそも並みの相手ではなかったのだ。きっと相手もラスティアと互角あるいはそれ以上の実力があった。
「・・・俄かには信じられんな。」
だが、そんな存在がいるのであれば、あるいは、聖王国を滅ぼすこともできただろう。
原作では―、というか、もはやその原作とやらもよく分からないな。
ここは、本当にゲームの世界なのだろうか?
「行くか。」
いくら考えてみても、分からないものは分からないので、俺は先に進むことにする。
どうするって?
とりあえずラズリーを連れて帰らにゃならん。そのためにはあのラスティアをどうにかする他ない。
俺の今できることと言えば、やはり手刀でラスティアの意識を刈り取ることぐらいのことしか思いつかない。
「・・・やってやろうじゃないか。」
手をグーパーグーパーさせ、持って来ていたマナポーションを飲み干す!
―よし、いける!
熱を保つことに魔力を使用し続けるのはかなりきつい。さっと行ってさっとやろう。
自分自身に発破をかけ、俺は外へ踏み出そうとすると―
―!?
今まで凍り付いていたはずの影が蠢いている。
そして、心なしか、こちらを認識しているような・・・?
俺はそっと外に出ると、蠢いていた黒いモノがこちらを見た。
「・・・何だ?」
すると、にゅうっとその手をこちらに伸ばしてくる!!!
「おわっ!」
大丈夫だ、そこまで速くはない。
「やろうってのかよっ!」
俺は戦闘態勢に入る!!
―縮地
そして、間髪入れず、その腹に一撃突きを入れる!!!
ズバンッ!
―びちゃ
飛び散る血しぶき。
「まじかよ。」
動きこそ遅いが、あの時とほとんど同じ感覚。
血に濡れた拳を見る。鈍い嫌な感触がまだ残っている。
周囲を見るが、まだまだ大勢のソレが居る。
・・・人を相手にしないといけないのか
赤黒く濡れた拳をじっと見つめる。
「——悪く思ってくれるなよ。」
誰かに言い訳をしながら、先に進むことにした。




