1話
「・・・はあ?」
俺と、ここで暮らす?? 何を言っているんだ、こいつは。
気が付けばいつの間にかスクリュー音も止まり、静寂が周囲を包んでいた。
「―そう。この子もそれを望んでいるわ。」
自分の胸に手を当ててそんなことを言う女。
「・・・笑えない冗談だ。ラズリーを返してもらおう。」
具体的にどうすれば良いのかは分からないが、とりあえず無理やりにでも連れ帰るしかないだろう。
「貴方がここに居ればいいのよ。」
そう言うと、手のひらをゆっくり上にして、何かを溜めるような仕草をする。
―何だ?
不思議に思って見ていると、女の手の上に魔力の輝きが溢れるのが見えた。
「―!」
俺は素早く後ろに回避するが―
どぷんっ
―は???
俺の周囲に水球ができ、俺の身体はすっぽりとそれに覆われてしまう!
ガボガボッ
―――まずいっ!!!気道の中まで水が入り込んできやがった!!!!!
離脱しようと手足をバタつかせるが、どうにもこうにもならない。
―水の魔法
ラズリーは水、氷の属性を使用することができる!
そして、ラズリーが本当にこいつの転生体であるのであれば、その属性も同じ可能性が高い!
「―苦しまずに楽にさせてあげる。」
ゆっくりと手を前に広げるラスティア。
すると、どんどん周りが冷えていくのを感じる。
―やっべえ!!!
氷ついてきやがった!!!どうする???考えろ!!!
ガボッ
俺の雷は不定形であり、纏わりつく水を直接攻撃することはできない!かといって、通常の物理攻撃で水を殴っても意味がないことは明らか!!!まして気道の中の水など頼みの迅雷・雷切を以てしてもどうしようもない!!!!!!
咄嗟のことで気が動転する。どうにか思考を巡らせているうちにも、どんどん自身の周囲が氷に覆われていく!!
――ダメだ!落ち着け!!冷静な判断をしなくては!!!!
『電気分解』
そのとき、突然、その単語を閃いた。両の手に素早く魔力を集中させ、繊細な魔力操作に全力を注ぐ!!!
―おおおおおおおおおお!!!!
そして自分の周囲にそれを展開させる!!!
パアアアアン!!!
今まで俺の周囲を取り囲んていた水球が割れ、蒸発する!
俺は直ちに電撃を切る!!!水の電気分解で発生するのは、水素と酸素!
―冷や汗ものだぜ!!!
「ゴホゴホッ!―何しやがる!!!」
「まあ!さすがイシュバーンね!」
何故か嬉しそうなラスティア。
「・・・水はだめね。」
ぽつりと呟くラスティア。すると、こちらに手を広げ、それを瞬時に展開する!
—多重魔法陣!
俺の知る限り、それで展開される魔法は―!!!
―間に合え!!!
俺は自分の周囲に再度電撃を展開させ、熱を!!!熱を保つ!!!
「コキュートス」
ラスティアがそれだけ呟くと、
キィンという甲高いとともに、キラキラと舞う冷気に氷つく大気、氷結された世界が顕現する。
―せええええeeeeeeeeeeeeええええええええええふ!!!
一度見ておいてよかった!!こんなの生身で食らったらアウトだ!!!
この規模であれば、おそらくこの船全体が凍り付いていることだろう。以前ラズリーの展開したコキュートスよりも一段と輪をかけて威力は高そうだった。
―こいつ、まじでヤル気だ!!!
ここはまずい。せめて甲板に出る必要がある!こんな狭い所であの女とやり合うのは分が悪い!
「―あら?」
女は手を顎にあて、首を傾げる。
「・・・おかしいわね?」
そう言うと、そっと爪を噛むラスティア。
何事かをブツブツと呟いているが、俺はその間に、その場を離脱することにする!!!
「――あばよ!迅――!!!!?」
その瞬間、垣間見た彼女は、酷く寂しそうな様子でこちらを見つめていた。それはもうずっと長い間、独りぼっちでただ自分の爪を噛むことしかできなかった、ほんのちっぽけな少女のようで。
――迅雷
一陣の雷光となり、俺は一気に駆け上がった。
「はあ、はあ・・・。」
何とか食堂まで戻って来た。だが、ここも凍り付いている。
とにかく熱を保たねば、すぐに凍えることになるだろう。魔力量が心配だが、もはや気にしている場合ではない。
「どうする・・・?」
本当ならば、あの女に迅雷を叩き込むべきなのだろうが、それが仮に成功したとして、助かることができるのは俺だけ。
「それじゃ意味がねえんだよ!!!」
ドンっと机を叩くが、
「―ッ!」
机の上が信じられない位、冷たい。
―打開策はないか?
だが、今の所、俺ができる可能性のあることは、迅雷で接近し、手刀を打ち込むことでその意識を刈り取ることぐらい。
「・・・だが、アレに、そもそも近づけるのか?いや、近づけたとして狙い通りにいくか?」
相手の手の内が謎であるので、できれば無暗に接近することは避けたいし、ラスティア相手に「意識を刈り取る」といった生ぬるい方法が通用するとは到底思えない。
「――どうすりゃいいんだよ・・・。」
俺は途方に暮れる他なかった。




