20話
女を追って扉の中に入った先にそれはあった。
――濡れた肉の塊
俺はおそらくそれが一体何であるかを知っていた。きっとかつてヒトであったのだろうそれは、不気味に波打っていた。
「―ふふ、ようこそ。」
嗤う、女。
「・・・こいつは、まだ生きているのか?」
「―ええ。といっても、貴方の思う「生きている」とは少し違うけれど。」
にっこりと微笑む。
「・・・お前は、誰なんだ?」
「私は、ラスティア。あの子、サフィラのお姉ちゃん。」
―ラスティア
それは俺の想像していた通りの答えだった。
「・・・ラズリーは無事なのか?」
「この子のこと?無事も、何も、この子は私よ?」
そう言うと、女はそっと優しく、肉の塊に触れる。
―この子は、私??どういうことだ??
「・・・ラズリーを返せ。」
「おかしな事を言うのね。返せも何も、この子は私よ?」
自分の胸に手を当てて、それから妖艶に笑う。
「—お前が。お前が!ラズリーの身体を乗っ取ったのだろう!?」
先ほどからラズリーの様子がおかしかったのはきっとそのせいだ。
「乗っ取ったとは少し違うわね?この子は私、私はこの子よ?」
困ったような顔をしてそんなことを言う女。
「そんなわけないだろう!ラズリーはこの船に来てずっと様子がおかしかったんだ!」
「そんなこと知らないわ?」
まるで何でもないというように言う女。
―訳が分からない
もちろん、目の前の女が嘘をついているとかそういうこと以前に、女の話は支離滅裂すぎる。
・・・しかし、仮に奴の言うことが真実であるとすれば、それは一体、どういうことだろうか?
「・・・鈍いのね。何度も言うけれど、この子は、私。こういうの、魂の転生体とでも言うのかしら?」
―は? 今、こいつは何と言った?
つまり、ラズリーはラスティアで、ラスティアはラズリー???
呆然とする俺に、奴は続ける。
「―きっと、この子自身も困惑していたのでしょうね?どことも知らないこんな船の中の記憶が自分にあるなんて。」
そんなことを言う。
「さっきまでのこの子は、間違いなくこの子よ?ただ、ほんの少しおかしくなっただけ。」
「―なら、今のお前は何なんだ!?」
「私??言ったじゃない。私はラスティア。確かに、この子は私の転生体だったかもしれないけれど、今のこの子は私。」
―頭が痛くなってきた
つまり、ラズリーはラスティアの転生体だが、それはあくまで別人格であって、このラスティアがオリジナルのラスティアだということだろうか。
「・・・・・・」
俺が何も言えないでいると、
「―理解して頂けたかしら?」
そう言うと、にっこり微笑む。
「・・・皆をどこにやった?」
むろん、レティやハーヴェル、それにガーランドのことである。
「ああ、あの人たち?邪魔だったから、あっちの船に送り届けてあげたわ。」
―つまり、今ここにいる、生きている人間は、俺と、そして目の前にいる女だけ??
いや、待て。それはおかしい。
そうであれば、今頃向こうの船から何か助けか、あるいは何か連絡があっても良いはずだ。
「―向こうの船からこちらに来るのは、今は無理ね?」
俺の考えが伝わったのか、そんなことを言う女。
「・・・どういうことだ?」
「言ったまんまよ?今、この船は、世界から隔離されているから。」
そう言うと、女は自身のツインテールをゆっくりとほどき、穏やかに微笑む。
―その割に、そんな所で・・・
と口に出そうとして、彼女の目を見てやめた。
「口に出さなかったことは褒めてあげるわ。」
女はつまらなそうに言う。
「お前の目的は、何だ?」
仮に、今まで言ったその言葉が真実であるとして。こいつの目的は何だ?
「——そうね、貴方とここで暮らすこと、かな。」
にっこりと微笑みながら、そんなことを言った。
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