19話
「お菓子・・・?」
一体何を言い出すんだ、こいつは。こんな所で食べられる物が出てくるとは到底思えない。
「そこに座ってて!」
そう言うと、いそいそとそいつは右手にある扉の先に向かう。
「あれ・・・?えっと、おかしいな?」
部屋の奥をごそごそと探すが、お目当てのものが見当たらないようだ。
どうしたものかと焦ったが、おかしげなものを出されなくて一安心ではある。
「おかしいなあ?あ、いたた・・・。」
するとどこかを気にするような声が聞こえてきた。
様子を伺いに厨房に行くと、頭を押さえて蹲るそいつが見えた。
―どういうつもりだ?
声をかけるのを一瞬ためらってしまう。
しかし、百年以上も放浪していた船で準備された食事などと、一体何を企んでいるのかを知る必要がある。
「どうした?」
「・・・うん、大丈夫・・・。」
すると、よろめきながら立つ女。
「こんな所で食べられる物があるとは到底思えないが、何か見つけたのか?」
「うん、ここにはね、私とあの子でこっそりと隠しておいたお菓子が――」
そこまで言うと、急に能面のような表情になる女。
「そう・・・ね。こっち、こっち。」
そして、突然俺の袖を引っ張り出す。
「おい・・・!急にどうしたんだ!」
訳が分からない。
俺はその手を振り払う。
「ひどいよ・・・。」
こちらを見て涙目になる女。
「あ、いや、すまない・・・。」
何故か後ろめたさを感じる。
「案内、するから・・・。」
そう言うと、俺をどこかに案内したがる女。
―罠か?いや、どこからが罠だ?
相手の意図が全く分からない。何をするつもりだ?
だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。レティたちの行方について何か分かるかもしれない。
―やむをえないか
ラズリーの姿をした、ラズリーではない存在。そんなものに翻弄されっぱなしであり、我ながら非常に情けないと思った。
俺は女の後をついて行くことにした。
途中、蠢くモノたちとすれ違うが、女は気にした様子もない。
「・・・おまえには―。あれらが見えないのか?」
蠢くモノの一体を指で示し、女に問う。
「見える・・・?みんな知り合いだからね?」
―知り合い?
そんなことは聞いていないし、それらと知り合いというのもかなり奇妙な話だ。一体アレは何だと言うのか?
「知り合いなのか?あれは一体何だ?」
「ふふ、みんな、優しくしてくれるよ?」
会話が嚙み合っていない。
―さっきから何だ、これは?
まるで何かの映像の録画を見ているような気分だ。
「・・・気にしても仕方ないか。」
俺はあえて女に聞こえるようにして言う。
「うん、だからね、行こ?」
こちらに振り向いて言う女。だが、その目はどこか虚ろで、ここではないどこかを見ているようだ。
「こっち、こっち。」
俺たちは蠢くモノの脇をすり抜けるようにして船底へ向かう。
すると、とある扉の前で俺たちは立ち止まる。
―こんな場所あったか?
ここに来るまでの道には見覚えがあったが、辿り着いた先は見たこともない場所だった。
「―お姉ちゃん、その人をどうするつもり?」
そう言ったのはサフィラだった。その表情には怒りが浮かんでいるように見える。
「・・・そこをどきなさい、サフィラ。」
すると、低く、静かな声で言う女。
「・・・どかない。僕はこの人にお姉ちゃんを助けてって、頼んでいるんだ。そんな人をどうするつもりなの?」
「・・・助ける?」
不思議そうな顔をする女。
「そう。この忌々しい場所から僕たちを解き放つことができるのは、彼しかいない。」
「―ふふ。・・・あはは!!ここは私たちに残された最後の楽園よ?サフィラ、貴方のために私が用意したと言うのに!」
「もういいんだ・・・。僕たちはこの時代にいちゃいけない・・・!」
「・・・」
すると、女はギィっと扉を開けて、その中に入って行った。
「―おい!待てよ!!」
俺は女を追いかけようとして、
「・・・お兄ちゃん、この先にあるモノを見たら、それをすぐに壊してほしいんだ。お兄ちゃんの技ならそれが出来るから。他の人たちはきっと大丈夫。」
「おい、あいつは―、ラズリーは、どうなる!?」
「あの子は、気の毒だけど―。」
俺はそこまで聞いて、すぐに走り出す!!!
「―必ずだよ!この船から出るにはきっと、そうするしかないんだ!!」




