16話
「・・・物語ではな。だが、その聖剣は失われたはずだ。」
―ご名答。詳しいのね?
「・・・」
俺はそれには答えず、その勇者からは目を離さない。
聖剣
光を以て影を裂き、闇を払うとされる聖なる剣である。もっとも、ハーヴェルが持つ聖剣ファルバランは先ほどのように鋭い光を放つことはないが。
―出し惜しみはしない。迅雷
勇者の腹を俺の拳が砕く・・・はずだった。事実、鎧は木端微塵に砕かれている。
しかし、
「・・・再生するか。」
直ちに距離をとる。
——剣の方を砕かなければ駄目か
魔眼で見る限り、怪しく輝いているのは黒騎士よりもむしろ剣のほうである。
幸い、相手には魔力があり、俺の魔力が回復しているので、何度か迅雷をぶち込むことができるが—
「光よ・・・。」
勇者は剣を一閃する!光の刃がこちらに迫って来る!!
「ちっ!!」
迫り来る光の刃をすんでの所で回避する!!!
―勝てるか?
おそらくは、全盛期よりも素早さに劣るのであろう。勇者にしては動きがもっさりとしている。
だが、気になるのはやはり聖剣を聖剣たらしめる所以である。光の刃を飛ばすことだけがその権能であるとすれば、それは他の魔剣の類でも可能だろう。聖剣と言われる所以があるはずだ。
すると、勇者は剣に魔力を込め始める—
そして光を纏わせた剣を突き立てた!! 瞬間、目の前に膨大な熱量が迫る!!!
「迅雷!!!」
咄嗟に海の方向へ回避する!!!瞬間移動した後、一瞬、空中で見たのは、船の上に半球状に展開された光の塊。アレに触れていたらと考えるとゾッとする。
じゃぽーん!!!
当然、そこには足場になるようなものがないので、俺はそのまま海へ落下することになる。
―履いてきていおいて正解だった・・・!
マーマンのゴンズに感謝である。仮に何の装備もない状況でこうなってしまってはどうしようもなかっただろう。
そのまま勢いで数メートルほど海に潜ることになってしまったが、そのままキックして、浮上を試みようとする!
ふと下を見ると、どこまでも暗く果てしなく広がる闇があった。
―本当にゴンズに感謝だ
ザバンッ!!勢いよく浮上する!!幸い、船までの距離はそれほど遠くはない。グッと水中を蹴り、そのままの勢いで、今はスクリューを停止させ不気味に波間にたゆとうだけの船の縁にしがみつく。
「・・・ここから登ることができそうだな。」
見ると、手近な場所に昔整備用に使ったと思われるはしごが付いていた。
そして、はしごを登った先には、何かの部屋を見つけた。
何故かこの部屋だけは扉が鉄でできているようだ。重い扉を開けることにする。
ギィ・・・
「何だ、ここは・・・?」
―子ども部屋??
そこには朽ち果てたおもちゃと、ボロボロの本棚、ベッド、そして大きなシミのある絨毯があった。
おもちゃは、男の子の物と思われる船や車のおもちゃと、女の子の物と思われるぬいぐるみである。
「ようこそ、お兄ちゃん。僕たちの秘密基地へ。」
咄嗟に振り返ると、サフィラがそこにいた。
「―おまえは。いや、お前たちは一体、何だ?」
「・・・・・・」
それには答えず、サフィラは悲しそうな顔をする。
「・・・この部屋はね。僕たちの秘密基地だったんだ。」
すると、懐かしそうな様子でサフィラは船のおもちゃを手に取る。この船そのものを模したものだろうか?
「ここで何が―」
そこまで言って、俺は目の前にある古ぼけた黒い大きなシミに気が付く。
―まさか
「あの日、僕を人質にとられたお姉ちゃんにはなすすべがなかったんだ。」
「・・・お前たちはもう随分と長い間ここに囚われているのか。」
この船は、俺たちにとっては外界から隔絶された場所である。しかし、それはどうやら彼らにとっても同じことのようだった。
この船に乗り込んだロデリア聖王国の者は、魂の浄化を受けることなく、ひたすら大海原を彷徨うことになったのだ。
―こんなことがあっていいのか?
「——ねえ、お兄ちゃん。お姉ちゃんを助けてよ。」
そう言うと、サフィラの姿は薄くなって、そのまま姿を消した。
「・・・一体どうしろってんだ。」
思わず漏れた俺の本音は、波の音に静かに掻き消えるだけだった。




