12話
「・・・ここが機関室か。」
かなり当てずっぽうだったが、魔眼を使いながら周囲を探り、下へ続く階段を降りていくと、歯車やら何やらがたくさん備わった部屋に到着した。
ここに至るまでに特に変わったことはなかった。ハーヴェルはずっと不機嫌そうにしているが、これは特に気にするほどのことでもない。
肝心の機関室の様子であるが、かなり埃をかぶっており、備え付けられている歯車の上も埃が積もっていた。これまでに動いていた形跡は全くない。
「・・・どうなっているんだ?」
思わず声に出る。確かに、この船が人為的に動いていたところを俺たちは見ている。しかし実際に動力を用いて動いていたのであれば、こうはならないはずだ。
―何か見落としているものはないか?
「ハーヴェル、何か気になるものはないか?」
俺一人の調査では、何か見落としがあるかもしれなかった。
「・・・埃まみれだ。」
ハーヴェルは目の前にある光景をそのまま言う。
「それは見れば分かる。」
「・・・いつから動いていない?十年、二十年、いや、もっとか・・・?」
ハーヴェルはそう言うと、歯車の一つに触れる。
「―おい!」
俺はハーヴェルに注意しようとして―
―ふふっ
笑い声が聞こえた。
「誰だ!?」
・・・だが、返事はない。
「おい、一人で何を喚いているんだ?」
ハーヴェルが訝しむようにしてこちらを見る。
「――お前、何も聞こえないのか!?」
今の笑い声ははっきりと聞こえた。
「俺が聞こえたのは、お前の喚く声だけだ。ところで―」
そう言って、埃の積もった機関室内を見渡し、
「・・・この船は一体どういった仕組みで動くのだろうな?」
何てことのないように呟くハーヴェル。
俺も船の仕組みについては詳しくはないが、機関室がある以上、それを使って動かすものが存在するということ。そして、船に推進力を与えるのは、きっとスクリューだろう。以前の世界では、蒸気、ディーゼルエンジン、あるいは原子力といった動力源があったが、この世界では考えられるところで、蒸気である。とすれば、蒸気を生み出すためのボイラー室があってもよいはずだが、見たところそういったボイラー室のような場所は併設されていない。ということは―
―魔石か
この船のどこかに魔石が隠されているはず。そして、これだけの船を動かす魔石である。きっとこれまでに見たこともないような魔石が使用されているはずだ。
「なるほど、魔石か。」
ナイスだ、ハーヴェル。俺一人では、それに気が付かずそのまま引き返すところだった。
「魔石?」
ハーヴェルが怪訝な顔をする。
「ああ。魔石だ。これだけの船を動かす魔石だ。きっとこれまでに見たこともないほどのものだろう。」
俺はそう言って魔眼を発動させる!きっと、付近にあるはずだ。これまでに見たこともないような巨大な魔石が!!
・・・だが
俺の目には、確かに巨大な魔石が見えた。しかしそれは―
・・・割れている
俺が目にしたのは、バラバラに割れた魔石だった。これでは船の動力源に使用することはできそうもない。
実際にその魔石が安置されている部屋に行こうと、辺りを探すが、どうやらこの機関室から直接その場所に通じる扉はなさそうだ。
―その部屋からは繋がっていないわ
・・・まただ。
「・・・お前、さっきから何をしているんだ?」
辺りを見回す俺を、目を細めて見るハーヴェル。だが、仕方がない。ハーヴェルには割れた魔石も見えていないし、このおかしな声も聞こえていないようだった。
―さあ、出発しましょう? もっと、深く深い、場所まで
その声は楽し気に言う。そしてそれは俺の知るある人にとてもよく似た声だった。
「―ラズリーの声を真似るな!」
つい大きな声を出してしまう。
が、
―うふふ
相変わらず不気味な笑い声が聞こえるばかりである。
「おい、イシュバーン。さっきから誰と―」
ハーヴェルがそう言ったときである。
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン
音が聞こえてくるとともに、機関室が息を吹き返し始めた。
―まさか!
ぐらっと一際大きな揺れが俺たちを襲った!
「―なに!?」
ハーヴェルの驚く声が聞こえてくる!
船が動き出したのである。




