10話
食堂の中で俺たちは思い思いの場所に腰かける。
「・・・船を調査するどころか、ここからどう脱出するかが問題になっちまったな。」
ハーヴェルがぽつりと呟く。椅子には腰かけず、床に直接座っている。
「・・・ああ。」
そんなハーヴェルを見る。
「お前はこの船こそが、王族が、最後の皇帝サフィラが処刑された船だと思うか?」
ハーヴェルは俺の方を見ずに、ぼんやりと空中を見ながら言う。
「――おそらくは、な。」
「何があったんだろうな?」
宙を仰ぐハーヴェル。
「・・・・・・」
そんな話は「魔法王国エルドリア」では一ミリも触れられてはいない。それに関して俺は何の情報も持っていなかった。
「ガーランドの言っていたことが事実だとしても、俺たちに何の用があるんだろうな・・・?」
そのことは俺も疑問に思っていた。
たとえこの船がロデリア聖王国の船でないとしても、こんなにも回りくどいことをする必要があるだろうか?おそらく今俺たちがいる場所は何らかの結界の中なのだろうが、仮にそれ程のことを行うことのできる者がいるのであれば、俺たちなど敵ですらないだろう。
一つだけ可能性があるとすれば、それは――
「・・・生贄か。」
「キミ、怖いこと言うね!?」
レティが真っ青な顔をする。
「ただの推測だ。だが、俺の知るゼヘラという連中は、生贄という手法を使う。」
「そいつらを知っているのか!?」
ハーヴェルが急に身を乗り出し、こちらを驚いた様子で見る。
「もちろん、ガーランドが話したゼヘラと同一存在かどうかは知らん。だが、俺の知るゼヘラも、頭のおかしなならず者であることは確かだ。」
俺はラズリーに目を向けるが、椅子に座ってじっとその瞳を閉じているようだった。
「・・・ちょっとした因縁があってな。」
だが、俺もゼヘラの一人と戦ったことがあるにすぎない。連中がどれほどの戦力を有しているのかなど想像もつかないことだ。
「ラズリーが襲われたことと何か関係があるの?」
レティがラズリーを見る。
「・・・」
俺は口を閉じる。話すにしても、なぜ知っていたのかということについて、その本質的な情報についてはやはり偶々居合わせただけということにするしかないからだ。
「―何を隠している、イシュバーン。」
ハーヴェルがこちらを訝しむように見る。
「・・・俺も立場上言えないことが多いんだ。」
「イシュバーン、キミ、やっぱり自分の強さを隠しているよね?」
レティがずばり聞いてくる。
「―どういうことだ?」
ハーヴェルがレティを見る。
「だってさ、考えてもみてよ。本当に一つの魔法しか使えない相手に護衛の依頼なんてする?」
「その護衛は仮初のものではないのか?犯人の姿を見たとか、あるいは―」
そこでハーヴェルははっとしたような顔をした。
「・・・イシュバーン、貴様、俺との試合では手を抜いたのか!!!」
その目はつり上がり、口は大きくへの字に歪んでいた。まさしく鬼のような形相である。
―こいつはこれだから面倒なのだ
「仮に手を抜いたから何だというんだ。それに俺はあの試合では決して手を抜いてはいない。」
「ならばどうやってそのゼヘラという連中を打ち倒した!?一人か、複数か!?いや、そもそもゼヘラとは何なのだ!!!」
俺の話など聞いちゃあいない。
「―ちょっと、落ち着きなよ、ハーヴェル!」
レティが慌ててハーヴェルを宥めようとする。
「・・・そもそもおかしいと思っていた。魔法剣をあのようなタイミングで回避することは不可能であるはずなのだ。だが、貴様が俺の想像していた以上の強さを持っていたのであれば・・・!!!」
そうして、俺に向かって剣を向ける。その剣はいつかの模造剣などではなく、本物の剣だ。
「俺と勝負しろ!!!イシュバーン!!!!!!」
大声で言うハーヴェル。
そして、俺は大きくため息をつき、
「――誰かこの阿呆を何とかしてくれ。」
剣を持つハーヴェルに対して、丸腰で言うのだった。




