19話
昨日は、ボアのステーキとサラマンダーの唐揚げセットという、かなり豪華な料理が並んだ。
むろん、食したのは俺だけではない。執事や使用人など、ヘイムの別邸に住む者は皆これらの美味い料理を食することができたのだ。
そして、昼休み、いつもの屋上にて、
「イシュバーン、もう模擬戦まで1週間だぜ?おまえ、どうするんだ?勝算あるのか?」
ルディが心配そうな顔をして聞いてくる。
「ふん、心配するな、ルディ。ハーヴェルなんぞにこの俺が負けるはずなかろう。」
もうこれは俺の決まり文句のようなものだ。
「そうは言ってもよぉ、イシュバーン。お前、ハーヴェルに負けたらアイリス嬢の婚約が破棄されたあげく、廃嫡されるんだろ?何でそんなに落ち着いてられるんだよ?」
「ふっ。ルディは心配性だな?考えてもみろ?お前は、俺がハーヴェルの野郎に負けるところを想像できるのか?」
「・・・イシュバーン、本当言うとよぉ、ハーヴェルの野郎の模擬戦を見たことがあるんだ。ありゃあ、やべえ強さだぜ?学年の中でも指折りだろうよ?お前は知らないだろうけどよぉ。」
それはよく知っている。
「この俺のサンダーボルトがハーヴェルを貫くだろう!」
「イシュバーン・・・」
涙ぐむルディ。
「全く、ルディは心配性だな。」
ちなみに、この時点での学年3強は、ハーヴェル、ラズリー、アウグスタという3名である。
この3名の実力は拮抗しているとの話だ。
アウグスタというのは、別名、ゴーレムマスター。土属性のエキスパートである。
作中では、明らかに研究肌の人間であり、強力なゴーレムを使用し、魔族の撃退を行っているシーンがあった。
実のところ、本気で殺し合いをするのであれば、おそらく俺はハーヴェルに勝てるだろうと思っている。だが、今回は本気で殺し合いをすることが目的ではないのだ。
ジンライをかなり高い精度で決める。俺の目標はそれ以上でもそれ以下でもなかった。
そして、未だ俺のジンライの精度は、俺の目標としているものに少し遠い。更なる鍛錬が必要だった。
さて、模擬戦まであまり時間がない。今日も今日とて、欠かさず鍛錬を行うことが重要である。今日も森まで来た。
目を閉じた訓練は一旦は充分だろう。
目標とするところは、目をしっかり開き、相手の攻撃を見極めた上で、ジンライを発動させること。そして、目的の位置に、瞬時にかつ精密に移動するのだ。
「ジンライ」
バリバリバリッ
―ビュン
―やはり移動距離が大きい。
目が開いている場合、猛スピードで移動する途中で、ある程度の距離と方向を感じることができる。そのため、目的の位置からのズレが直ちに分かるのだ。
この移動の途中で分かるズレの感覚をなるべく小さくしていくことが重要なのだろう。
レーダーを使用することよって目的位置を指定することができないために、距離と方向の感覚は、何度もジンライを繰り返すことで身に着けていかなければならない。
とはいえ、これまでに目を閉じた状態で鍛錬してきたことによって、その感覚は随分と研ぎ澄まされている。
要するに、俺が鍛錬するべきことは、距離と方向の感覚を、目を閉じた状態でレーダーを使用した状態と同じレベルで、目を開いた状態で何も意識せずとも把握できるレベルにまで高めることである。
―これは魔力の大きさやその威力といった問題ではない。
いわば、体の運動の感覚。そして、一度使いこなすことができれば、例えば武術の技を繰り出すときのように、何度でも同じ感覚をもって運動を再現できる、そういった類のものなのだろう。
そういった意味ではこの、ジンライという魔法、かなり俺の古武術に近いものを感じる。
鍛錬の方向性を改めて確認し、今の俺の鍛錬が間違いではないことを認識する。
さあ、模擬戦まであと少し。鍛錬は怠ってはならないのだ。
「―ジンライ」
その日も俺は鍛錬を続けるのだった。




