19話
中から表れた男は、壮年の深い髭を蓄えた武人だった。
割れた甲冑を脱ぎ捨てると、筋骨隆々の素肌が露わになる。
「さて。まずはおぬしに敬意を。そして——ワシの愛馬を紹介しよう。」
—は?愛馬???
すると、魔法陣が強烈な光を発し、その中から男と同じように燃えるような真っ赤な闘気を放つ黒い馬が姿を現した。
——これは、無理だ
もはや誰が何と言おうと、こんなのに敵うわけがない
「こいつは、わが愛馬―」
―ダッシュ!!!
もはや魔力が枯渇してしまって、何も魔法を放つこともできない!ひたすら走ってその場を離脱することにする!!
脇腹から血が滲み出るが、そんなの関係ねえ!!!!!
一刻も早くこの場から離脱せねば!!!!!!!!!!!
幸い、あの男が自身の馬に気を取られている間に、大きな隙ができていたので、何とか逃げることはできそうだ!
「―む?」
武人が先ほどまでいた男の方を振り向くと、既にその姿はなかった。
「・・・やれやれ。こいつの紹介だけをしようと思ったのじゃが。」
「―――――――――!!」
武人が極めて大きな声を出し、既にその場から離脱した男に呼びかける。
——後ろから何事かを叫ぶ声が聞こえてきたが、それを気にするわけにはいかない
魔力は使用することができないが、闘気ならまだ使える!遮二無二駆ける――
「はあ、はあ、はあ・・・!!」
・・・人生最高速度といってもいい。長距離走をこなし、何とか俺は宿の前まで戻って来た。
―他の学院生に見られるとまずいか
俺は念のため、傷口を持ってきていたタオルでシャツの上から隠す。元々シャツの色は黒色であるので、傷口から血が滲みさえしなければ目立たないはずだ。
幸い、かなり夜遅い時間になっていたので、誰に遭うこともなく、部屋までたどり着くことができた。
「―ふう~~~~。」
自分の部屋に入り、扉を閉めると、俺はその場で座り込んでしまう。
「痛ええええええええ!!!!」
戦闘中はほとんど痛みを感じなかったのに、今になってかなり痛い!!
―ポーションを!
部屋に置いてあった予備のポーションを探す。
「これだ、良かった・・・!」
俺は迷わず傷口にポーションを振り掛ける。
深く抉られているが、あまりに綺麗に切られているので、どうやら細菌に感染したりしていることはなさそうだった。
「そういえば、風呂・・・。」
本当は今すぐにでも風呂に入りたいが、この傷ではしばらく風呂には入れそうにない。
「―明日、早く起きて風呂に入れそうなら、そうするか・・・。」
俺はそのまま布団の上にダイブすると、いつの間にかそのまま意識を失っていた。
翌朝、部屋に差し込む朝日を感じ、目が覚めた。
時計を確認すると、まだ起きるには早い時間帯だ。
昨日の傷を確認するが、綺麗に傷口が塞がっているようだ。ぐっと体に力を入れて動かしてみるが、特に痛みを感じることはないようである。
「これなら風呂に入れるな。」
幸い、着替えは同じ上下を何着か持って来ている。
「―これはどうするかな・・・。」
昨日の血糊がべっとり付いたシャツとズボンをこのまま捨てるかどうか迷うが、
―やっぱり持って帰るか。
こんな場所に血の付いた服を捨てたとすれば、何か別の事と勘違いされかねない。
一旦、持って来ていた別のズタ袋に包んで、いつものズタ袋に入れておくことにする。
風呂に来てみれば、誰もまだ起きていないのか、大きな浴場を独り占め状態であった。
「―これは快適だ。」
少しゆっくりしていこうか?
まずはタライを持って湯をかける。
シャワーもあるにはあるが、いつもの習慣でまずはタライに湯を汲んでそれを掛けることで、見えない自分のスイッチが入るのである。
備え付けにシャンプーやリンスといったものはないが、石鹸ならあるようだ。
元々、今回の宿の浴場はかつて慣れ親しんだ風呂とほとんど同じであり、快適に風呂に入ることができるのだった。




