10話
その日の夕食はラズリー、ソフィアたち、そして俺とルディで宿のレストランで食べることになった。
「・・・結局、私たち、何をしに行ったのかよく分からないわよね。」
ポツリっとラズリーが呟く。
「すまない、余計な手間をかけさせてしまった。」
俺にしては珍しく、殊勝にラズリーに詫びようと思った。
「ううん、いいのよ。そういうことじゃないの。」
ラズリーは少し俯きながら首を振る。
「私、さすがに他の魔法学院にハーヴェルやアウグスタ、それにレティが負けるとは全く思えなかったの。」
「それについては、俺もラズリーと同じ意見だぞ?」
全くラズリーの見解に同意である。
「そうなの?」
ラズリーは少し顔を上げてこちらを見てそう言う。
「ああ、そうだ。」
実際、原作ではハーヴェルが一人で勝ち抜きをしていた。
「・・・」
そう言うと、何か考え事をしているのか、無言になるラズリー。
「だが、俺たちにはここに来る意味があったな、なあルディ。」
俺はルディに話を振ることにする。
「もぐもぐ・・・。ふ?は、はうだな・・・。」
さっきから黙っているなと思っていると、ルディの取り皿には料理がこんもりと盛られていた。
「おい、喋りながら食うな。それにお前、盛りすぎだぞ。」
「もぐもぐ・・・。ん!イシュバーンが急に話を振ってきたんじゃないか!」
口の中の飯を一旦飲み込むルディ。
「俺たちはラズリーのおかげで試験の範囲を知ることができたからな。ここに来る意味があったということだ。」
そう言うと、俺はニヤリと笑う。
「イシュバーン様。試験の範囲を知ることと、実際にその範囲の学習を進めることは大きく異なる気がしますが。」
ソフィアが適格な突っ込みを入れる。
「その通りだ。鋭いな、ソフィア。」
「——なあ、イシュバーン。おまえ、剣は練習しているのか?」
ルディがふと何かを思い出したように言った。
剣。
そう、試験が終われば、いよいよ剣の実技の訓練が始まるらしい。
「―ふっ。それなりにな。」
そう、最近俺は新しく剣の練習をし始めているのだ。俺はそう言って胸を張る。
「ああー、剣かあ。俺もやらなくちゃいけないのかなあ。」
ルディは嫌そうな顔をして呟く。
原作ではハーヴェルにエミリーをとられた後、ルディは剣を凄まじく鍛えてくるので、才能がないというわけではないだろう。イシュバーンの方は知らん。だが、女子に後れをとるのはどうしても俺のプライドが許さないので、せめて女子に勝てるくらいには訓練しようと思っている。
「剣と言えば、王都に剣術士が剣を教える訓練場がありますよ?私も剣の訓練によく行ったものです。」
ラズリーの使用人の一人がそんなことを言う。確か、クラウディアという名前だったか?どうやらクラウディアは剣士でもあるようだ。
「―ほう。そいつは興味深いな。」
素直にそう思う。今のところ、俺はセバスくらいしか剣の相手がいない。しかし、セバスと俺は力量が違いすぎるので、たまには別の相手に剣の訓練を行うのも良い経験になるかもしれない。
「ラズリーは剣の訓練なんかはやっているのか?」
「・・・え?剣?ええ、剣ね。もちろん剣の訓練もしているわ。」
ルディとは逆に、ラズリーはあまり料理に手を付けていないようだ。
どちらかと言えば華奢なラズリーでも剣を振るうことはできるのだろうか?
「・・・そこって多分、エミリーが剣を習いに行っているところだよなあ。剣、剣かあ。」
ポツリとルディが呟く。そこ、とは先ほど話題に出ていた剣の訓練場のことだ。
原作ではエミリーは腕の立つ剣士に成長する。ハーヴェルのパーティーメンバーでは剣の腕はハーヴェルに次ぐ実力がある。それに魔法も上手く扱うことができるので、エミリーはハーヴェルとよく似たところがある。そういうこともあって、エミリーはハーヴェルに惚れてしまうのだ。
ルディも原作では性格は歪んでしまうが、かなり剣の腕を上達させてくる。そしてそれは何よりもハーヴェルからエミリーを取り戻そうとするのだ。
というのが、俺の知っている話なのだが―。
今後どんな展開が待ち受けているのか、俺にも予想することは難しいのである。




