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第67話 卵3

間に合わせ投稿!

 ある冒険者の男が冒険者ギルドに魔獣の卵を持ち込んでから二日。

 ファスター中を歩き回って買い手を探したものの、灰色の卵は未だ男の腕の中にあった。


「クソっ……」


 思わず衝いて出る男の口癖にも、いつものような力が無い。

 この二日間、男は思いつく限りの買い手になってくれそうな人物の下を訪ねたが、結果は今の通りである。


 一時は金の卵にも思えていた、今となっては爆弾を抱えてように思えるそれを忌々しげに睨みながら、二日間繰り返したやり取りを思い返す。




 ギルドを出て、まず最初に向かったのは商人組合の組合会館だった。


 冒険者ギルドにいるのは、所詮組合員の一部が出向してきているだけだ。それ故に、予め価値が定められた物以外はその場で取引する事が出来ない。

 一方、多くの商人が訪れる組合会館であれば即金で買い取ろうという商人の一人や二人いてもおかしくはないはずだ。


 と、男はどこか甘い考えで組合会館を訪れた。


「は? 魔獣の卵を買ってくれ?

 ……あのですね、何か当会館を誤解されているようなので申し上げますが、当会館はあくまで商人の者達のための施設であって、冒険者の方々の持ち込む物品の買取に関しましては、冒険者ギルドの買取カウンター担当の者に一任されているのです。ですので、まずはそちらの方へ持ち込まれてはいかがでしょうか?

 ――はあ、断られたと。だからここに売り込みに来たと。

 そう申されましても、当会館におきまして冒険者の方々との直接の取引は行ってはおりません。このまま当会館に居られた所で、貴方にとって()何ら益となる事は無いかと思われます――どうぞお引き取りを」


 とはいえ、そう言われて素直に引き下がる男ではなく、組合会館に訪れた商人を捕まえては撃沈し、遂には営業妨害だと判断され、警備の者に追い出される羽目となった。




 悪態をつきながら歩く冒険者の男が次に足を向けたのは、騎獣を扱う商人の所だ。


 騎獣と言えばやはり基本的に馬がよく用いられているが、大きな商会の持つ牧場からは、騎乗戦闘に適した走竜や大型の車を牽く地竜、飛籠を運ぶ翼竜なども売られる事があるのだと言う。

 ならば例え竜でなくとも魔獣の卵くらい買ってもおかしくはないはずだ。


 と、男はどこか頓珍漢な考えで商会を訪れた。


「何? 魔獣の卵が売りたい? それで、特性は何なんだい?

 ……ふむ、岩石系ねえ。ああいや、別に悪いなんて事はないよ。岩石系は力持ちが多いから荷運びとか車を牽くのには丁度良さそうだね。

 ただねえ、うちの牧場じゃあ岩石系の魔獣は育てさせた事無いからねえ、何の魔獣かにもよるんだけど……それで、それは何の魔獣の卵なんだい?

 ――はあ? 中身は知らない? おいおい、冗談だろ? どこに品物の詳細も知らずに仕入れをする商人がいるってんだ。――……ああ、はいはい分かったよ仕方ねえな……はあ。

 ならこれぐらいでどうだ? ……あ、そう。なら縁が無かったって事だな。

 ほら、とっとと帰ってくれ――商売の邪魔だ」


 邪険に商会を追い出された男は外から罵詈雑言を浴びせ掛け、しばらくして他の騎獣屋を訪れるが、どこも反応は似たようなものであった。

 卵の中身さえ把握出来れば事はスムーズに進むのであろうが、卵の鑑定、それも魔獣のものなどは特に難しい。

 知識系スキルで得ようにも、まずスキルの元となれる程に精度の高い知識の蓄積、研究が必要なのだ。


 ただの獣の卵であればまだ比較的容易くとも、魔獣の卵となれば難しい。

 そもそも魔獣の生息する地域は人族に厳しい生存環境が前提として存在する。

 よしんばそれに対応できても、それに完全に適応した魔獣達の目を掻い潜ってわざわざ研究のために巣から卵を盗むほどの猛者などそうはいない。

 勿論、依頼があれば受ける冒険者はそれなりに存在する。成功するかどうかは別の話だし、一回や二回で完全に研究され尽くすかどうかも別の話だが。


 要するに、魔獣の卵を判別出来る程の研究など、ろくに進んではいないと言う事なのであった。

 強引に売りつけようとした男も悪いのだが、商人達に安値で散々足元を見られた男は、沸き立つ怒りで周囲に当たり散らしながらその日は寝床へ引き揚げた。




 翌日、男は時折冒険者ギルドのロビーを覗いてはファスター中の酒場をハシゴしていた。

 目的は酒場に(たむろ)する冒険者だ。


 卵を売りつける相手として男が考え付いたのは、まず商人で、次に好事家の金持ち、そして冒険者だった。

 好事家を相手に売りつけるのが最も金になると考えていたが、男には好事家に繋がるツテが無かった。

 商人相手に関してはあえなく撃沈してしまったが、同時にツテを持つ商人を探す意味合いもあったのだ。結果として徒労に終わってしまったが。


 商人も金持ちも相手にすることはやむなく断念し、男はなるべく金をため込んでいそうな、一人で飲んでいる冒険者を見つけては声をかける事にした。


 滅多に見ないが、冒険者の中には隷獣使いと呼ばれる者がいる。

 彼らは獣や魔獣、あるいは魔物を首輪で縛りつつも、良きパートナーとして隷獣を扱う。

 中には無理矢理首輪をつけて単なる壁として扱ったり、敵の気を惹く囮として扱う者もいるが、卵や幼体の頃から苦労して育て、共に育ったような者達は隷獣の事を家族と称して憚らない者が多いのだ。

 一人で飲んでいるような寂しい奴であれば、無聊を慰めるためにぽんと大金を吐き出してくれる事くらいあってもおかしくはないはずだ。


 と、男は失礼な上に多分に希望的観測の入り混じった考えで酒場へと訪れた。


「うん? 隷獣に興味がねえかって?

 そうさなあ。多少は無い事もない。そんで? おめえさんが隷獣をくれたりすんのか?

 ――ククッ、分かってる。何をそんなに苛立ってんのか知んねーが、そんなに睨むなよ。冗談だよ、じょーだん。で? この酔っ払いにどんな話があるってんだ。言ってみろよ。

 ――はあん。魔獣の卵ねえ。それを一から育てて隷獣に、ってか……んあーまあ値段次第だな。さっきも言ったが興味が無い事も無い。飽きたらバラして素材にすりゃあいい話だしな。

 しかしおめえさん、大した腕にゃあ見えねえが、よく魔獣の卵なんざ手に入れられたもんだな。大体この辺りに魔獣の出る場所なんざ…………あ?

 おい待て。てめえ……まさか俺に、岩石系の魔獣の卵を売りつけようってんじゃあねえだろうな?

 ――――っざっけんじゃねえっ!!!

 俺のっ! 俺の、仲間はっ!! ()()祭りの日に挽肉にされて殺されたんだぞ!! そ、それをっ! てめえはっ――ブチ殺してやる!!!」


 何人かに断られて、ようやく好感触が得られたかと思えばこの騒ぎである。

 よくよく考えれば当然の話だ。この男とて仲間を一人失っているが、それに関して特に思うところはなかった。

 しかしだからと言って、それが他の者にとっても同じかと言えば、当たり前だが、違う。

 あの日、仲間や身内を一瞬のうちに奪われた者にとって、岩石系の魔獣と言うのは見ただけで怒りや悲しみを掻き立てられる存在なのだ。

 男はこれまで運良くそういった人物に当たる事は無かったが、今ようやく現状を再認識し、自分がいつの間にか結構な危ない橋を渡っている事に気付いた。




 男は寝床として確保している宿の一室に悄然とした様子でベッドに座り込み、床に転がした魔獣の卵を眺めていた。


「こんなモン拾うんじゃあなかった……クソッ。今頃はコイツを売った金で一発しけこんでたってえのによっ!

 はあ、もう壊しちまうしかねえか……? ああクソッ、でもなあ……!」


 無用なトラブルを招きかねない事に気付いてしまった男は、これ以上買い手を探す事を完全に諦めてしまった。

 だとして、仮に誰かに譲ったとしても、その後に何かトラブルが起こった時、卵を抱えて散々街を練り歩く姿を見られていた元の持ち主である自分に、何らかのとばっちりが来るのではないかと恐れ、ならば元あった場所と言わずとも森に捨てに行くか、あるいは卵を破壊して無かった事にするか。

 そこまで考えた所で、しかし……折角神経をすり減らしていつ魔獣に出会うともしれない今の森の中から取って来たのに……! と、男は目先の欲に駆られて躊躇っていた。


 ――そんな時だ。


 ガリガリ、パキリ――と、音がした。




 いや、男が気付いていなかっただけで、しばらく前から音はしていたのだ。

 そう、男の目の前にある岩の塊のような魔獣の卵の中から。


 いつの間にか頭を抱えていた男は、音に釣られて目を向けた先に、黄砂色に輝く双眸を見た。




 これが、後に単独(ソロ)で――いや、一人と一匹でプラチナランクにまで上り詰め、『四重死刃』と呼ばれるようになる冒険者の男、ライドと、その唯一無二の相棒である鋼刃鼬の隷獣、ゲントの出会いであった。






 そして余談ではあるが、同じ町、とある宿に部屋を取っている冒険者の青年もまた、一つの出会いを果たしていた。


「おお……! やった! ようやく生まれるんだ……! 俺の相棒(パートナー)がっ!」


 こちらの青年……誰とは言わないが、彼は森で拾った魔獣の卵を売ろうとした時、同じような説明を受け、帰り際に顔を合わせた馴染みの受付嬢から隷獣についての話を聞き、危険性も十全に理解したうえで、生まれてくる魔獣を隷獣とする事を望んだ。

 そして今、待ちに待った出会いは果たされたのだ。


「――……え? ……? え?」


 ――青年の大の苦手である、百足(ムシ)の魔獣との粘液でヌラヌラとした出会いによって。




「ぬおあああああああああああああああああああっ!!

 ――蟲はっ!! 森にっ!! 帰れえええええええええええ!!!」


 脳が現実を理解した一瞬後、開け放たれた窓から即座に発動された風魔術によって元々の魔獣の住処であろう山脈の奥深くにまで吹き飛ばされて別れる事になったが。




……ふう。

ぎりぎり二週間以内に間に合わせるためにほぼ勢いだけで書き上げました。

ぶっちゃけ九割は昨日一日で書いた分だったり()


はい。オチはいつも通り某青年がっかりエンドでしたね!

しかしこの青年、責任感皆無である。

皆さんは生き物を飼うって決めたらちゃんと最後まで面倒見ましょうね!☆ミ


※一応突っ込まれそうなので補足

――何故卵から哺乳類である鼬が生まれたのか――

何故なら、それはファンタジーだから


というのはさすがに冗談ですが、ある意味外れでも無いのです。

具体的に説明すると、魔獣の棲む厳しい環境の中では、魔獣とは言え生まれたての赤子の生存率は非常に低いです。

それを克服するために生み出された方法が、卵の形をした岩の殻の中で普通に出産するよりも大きく成長させ、内部に閉じ込めておいた養分が尽きた頃に改めて誕生する、という方法です。

実質卵と同じかもしれませんが、卵であって卵では無い、"岩の揺り籠"というのが本質である、と定めます。


まあ、今考えた設定なんですけどね!てへ☆ミ

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