第38話 戦場の宴
パーティー[戦場の宴]の彼らは、流石ゴールドランクと言うべきか順調に目的の階層、地下三十三階へと向かっていた。
立ちふさがる大型の魔蟲型や獣型のモンスターを大剣使いのテッドが豪快に蹴散らし、小回りの利く小型のモンスター達は短槍使いのアッシュが突き殺し、宝掘師のドルアーデが双剣で即座に切り刻む。ヴォルケンは魔力を温存しているのか、基本的に傍観している。
護も補助魔術を掛けてからは時々素材の価値が高いモンスターの解体を手伝うくらいで、後方を警戒しながらもほぼついていくだけだ。実際今は殲滅の手が足りているので何もする必要は無いのだが、いつもソロで、絶えず何かをしていた護はどこか落ち着かない気分でそわそわしていた。
「なんだか落ち着かない様子だね。いつもは目的の階に着くまでの道中、どうしてるんだい?」
「あはは、えーっと……出来るだけ物陰に身を隠したりしてやりすごしてますね。毎回死骸を焼いたり素材を回収してたら帰りまでもちませんから」
「なるほど、ソロなら確かにそうなるか。いつもとそれだけ勝手が違うとなると、落ち着かないのも仕方ないね」
「はは……」
大体は合っているのだが、その意味合いは違う。
いつもは肉体活性化によって高められた身体能力と、体捌きと影魔術その他諸々によって無駄に高められた陰身技術によって極限まで気配を殺し、モンスターの横をすり抜けるようにして駆け抜けている。
今回はパーティーなので極端に気配を殺す必要は無いし、抑える気配は必要最低限でないと不審がられて同士討ちの火種になりかねない。そんなわけで"いつもしていた事をしない"という状態が、特に護を落ち着きの無いものにしていた。
その日の夜、地下十三階に到着した面々は、テキパキと夜営の準備をしていた。パーティーでの夜営の仕方のよく分からない護も、冒険者御用達の結界を張る。流石にいつものやたら高性能な影結界は張れない。
補助魔術も普段に比べればやや性能を落とした効果のものを掛けたが、本来のメンバーである支援術師のものと比べてもそこまで悪いものではなく、問題無いとお墨付きを得ている。
食事をとり、見張りを交代しながらそれぞれ睡眠をとっていく。護は相変わらず人の気配でろくに寝付けず、その上アッシュとドルアーデが見張りの時はやたらと二人が仲睦ましげにしていて、よく眠れるはずも無かった。
翌朝、やや寝不足な目でそれとなく二人を観察してみるが、特に変わった様子は無い。……護は悪い夢でも見たのだと忘れることにした。
三日目、とうとう目的の地下三十三階に到着した彼らは、テンション高くDオークを攻め立てていた。ここに来るまでに肉への期待を高まらせていた護も若干引くほどである。
「うおおうるああああっ!!肉寄越せ豚ああああああ!!」
「うららららら!肉っ、肉!肉ううう!」
「うふっ、うふふふっ。さあ、すぐに解体してあげますからね……!」
テッドの振り下ろす重厚な大剣が、その質量によって強引に肉を切り裂き、高速で突きこまれるアッシュの短槍が肉を抉り、関節を叩いて動きを鈍らせ、ドルアーデの鋭く研がれた双剣が的確に振り抜かれ、首から猛烈に血を噴出させる。
大量の血を失って早々に呼吸を止めたDオークは速やかに解体され、周辺にモンスターの気配が無い事が確認された後、ヴォルケンが今まで温存していた魔力を解放するかのように魔術を使い、周囲を岩壁で覆い、竈を作り、鉄板を取り出して次々にDオークの肉を焼いていく。
香ばしい脂の焼ける匂いが辺りに充満し、換気用に空けられた穴から外へと逃げていく。
「よっしゃあ!焼けたぞお前ら!食えっ!!あ、野菜もちゃんと食べろよ!」
ヴォルケンは影から人数分の食器と様々な野菜、肉に合う調味料を取り出し、後は勝手にしろ。とばかりに自分も次々と肉を口の中に放り込んでいく。流石[戦場の宴]のリーダーと言うべきか、肉を前にして若干性格が変わっている。
護は周囲のテンションの高さに若干怯えながらも、食いっぱぐれまいと慌てて渡されたフォークを伸ばすが、
(なっ、速いっ!?)
取ろうとした肉がどれも寸前で奪われていく。それでも次々に肉は投入されていくが、焼けたと見るやあっという間に奴らの腹の中だ。護は残された野菜しか取ることができない。例え家族との食事でも遠慮しがちな護の、いや地球人の性格がここに来て邪魔をしていた。だが護もこちらに来て三年半、舐められたままでは終われない。
(負けて、たまるかあああああ!)
抑えていた肉体活性化の出力を上げ、高速でフォークを突き出す護。
しかし、無情にも誰かの突き出したナイフに弾かれ、またも肉を奪われる。
「なっ!?」
「くくく、もぐもぐ。[戦場の宴]は弱肉強食!そんなへっぴり腰で肉が食えると思うな!」
ナイフの主はテッド。そのごつごつとした大きな手でナイフを巧みに操り、周囲を牽制しながら肉ばかりを口に詰め込んでいる。
飢えた獣達の縄張りに入ってしまったかのような感覚に護は怯んでしまいそうになるが、歯を食いしばって耐える。
(弱肉強食……?なら、これでどうだ!!)
「『炎熱付与』『電撃付与』」
ナイフに触れれば手がピリッとする程度の電撃を纏わせてわざと牽制のナイフに当て、若干焼けていない肉を周囲から掻っ攫い、炎熱を纏わせたフォークで内から焼いて仕上げ、口に運ぶ。ようやくありつけた肉はとろっとろの肉汁をあふれさせ、口の中で柔らかくほぐれる。ピリッとした調味料が肉の味を引き立て、護は際限なく食べられそうな感覚に陥る。
「やるね、マモル……。だが、勝負はまだまだこれからだ!!」
その後、追加で来たDオークやDリザードマンの肉も追加され、壮絶な勝負が展開された。護は会話の無かった家族との食事や、一人で黙々と食事をしていた昔に比べて最高にこの日を楽しんでいた。
食事を終えた後、依頼を受けていた事を忘れて帰りそうになり、慌ててDオークの肉を集めに引き返すというアクシデントもあったが、護はおおむね順調に初めてのパーティーでの依頼をこなして冒険者ギルドに戻ってきた。
「あ、おいおまえら。ひどいじゃねーか!Dオーク狩りに俺を置いてくなんて!!」
依頼の報告を終え、報酬の分配を済ませた時だ、後ろからローブを纏った魔術師らしき男が彼らに声を掛けたのは。
「え?」
「お?ああ、お前が俺の代わりをしてくれた支援術師か。俺は[戦場の宴]所属の支援術師、ワロウスだ」
「お、ワロウス、来たのか。マモル、今回は急な話だったろうに、ありがとう。また次があればよろしく頼むよ」
「ばっか、次なんてねーよ!二度も肉を逃してたまるかっ!」
「ぐはは!それはお前も悪いんだろうが、『Dオークの肉にはもっと合う調味料があるはずだ!』なんて前日に宿を飛び出したまんま帰ってこなかったんだからよ。それで、その調味料は見つかったのか?」
「あ?おう、それが聞いてくれよ――」
賑やかに話す[戦場の宴]を尻目に、分配も済ませた護は一つ礼をしてギルドを出て行くしかなかった。[戦場の宴]への加入は一時的なものでしかなく、ワロウスの代役でしかないのだ。
あの賑やかな食事を経験したせいか、その日の夕食はどこか味気なく思えた。
あわれまもる




