あらすじ 第12話~第24話
第12話 二年の成果
護が異世界へと渡って二年。
その二年間、護は定めた目標に至るために愚直に努力を重ねた。
目に見えて伸びた身長に、しなやかに引き締まった筋肉を身に付け、赤子にも劣っていた最大魔力値を成人男性と同等程度にまで引き上げた。
冒険者としてもシルバーランクになり、取得しただけでまるで"身について"いなかったスキルを使いこなす。
狼一匹で這う這うの体になっていた頃と違う。
今や護は、数え切れぬほどのゴブリンが巣食う洞窟に正面から単身で乗り込み、ボスであるオーガを大幅に余力を残したまま仕留める事が出来る程の実力を身に着けていた。
第13話 受付嬢さんとの小話
オーガ討伐依頼の報告を果たしに冒険者ギルドへと戻った護。
いつものように並んだ冒険者の列の先にいたのは、受付嬢のラーニャである。
順番が巡って護が受付の前に立つと、心配そうな顔をしたラーニャが無事を確かめながら苦言を呈してくる。
護はシルバーランクでありながら、一つ上のランクのオーガ討伐依頼を、それも単独で行っていたからだ。
ギルドの規約上、依頼の受注に問題は無いのだが、普通の冒険者からすれば自殺行為にも等しい。親しい者であれば、苦言を呈したくなるのも当然と言えば当然と言えるだろう。
そう、"いつものように"というのは誇張ではなく、護が冒険者ギルドに訪れてから二年、ラーニャがいない時を除いて、護は常にラーニャの受付を利用している。
ほとんど毎日のように顔を合わせていれば多少の親しみも湧くし、出会った日のごたごたもあって、ラーニャは何かと護の事を気にかけているのだ。
ギルド職員の間では、二人がくっつくのもそう遠い話ではないのではないかと思われているが、当人達にそのつもりは全く無いのであった。
第14話 宿の子供との小話
ある日、依頼を終えて宿に戻った護は、受付カウンターにもたれて寝息を立てる少女の姿を見つける。
少女の名はカリーナ。その宿を営む夫婦の一人娘だ。
自覚無くセクハラ染みた起こし方をしようとしていた護だったが、間一髪の所でカリーナは目を覚まし、魔の手より脱する事が出来た。
寝ぼけ眼に居眠りを誤魔化すカリーナは、それはさておきと護に冒険の話を促し、護もそれに応える。
その関係はおよそ一年ほど前、カリーナが宿で食事を摂っていた護に話し掛けたのがきっかけだ。
タイミングやフィーリングの関係で護に声を掛けたカリーナは、自身が冒険者に憧れている事を明かし、護のこれまで経験した、これから経験する冒険の話をねだった。
護としても、子供には比較的まともな対応が出来る事もあって、会話の練習がてら構わないか。と、その話を了承し、その関係が今も続いている。
何度も言葉を交わすうちに、カリーナの呼び方が”マモルさん"から"マモルお兄さん"になり、二人はそれなりに親しくなっていったが、愛娘に不埒なマネをしやしないかと睨みを利かせる宿の主人の視線に、今一歩カリーナと親しくなりきれない護なのであった。
第15話 おっさんたちとの小話
護の泊まっている宿の裏庭。
そこでゲートルに訓練を付けてもらっていた護は、これ以上の訓練には付き合えないと告げられていた。
訓練を終えて負けを宣言したゲートルは、悔しげながらも"スキルを取得せずに自らの実力を超えて見せた"護を褒めそやす。
しかし"スキルを取得していない"という話がそもそも偽りである護は、称賛の言葉に対して素直に喜ぶ事が出来ないでいた。
この世界に護を送り込んだ神、アマテラス。
彼女に餞別のように与えられたスキル取得用のポイントが、その本人の想定を外れて異常な数値となってしまっていた。
護がそうと気付いたのは、多種多様なスキルをふんだんに取得し、数か月も経った後の事であった。
取得したスキルを打ち明けるような相手がいなかったのは、幸いと言うべきなのであろうか。
護の内心はともあれ、ゲートルは自らの役目が終わったのだと理解していた。
そもそも、護が草原に立ち入る事が軽くトラウマになっていたために、それを払拭させてやろうという事で始めた訓練だったのだ。
目的を果たして尚も訓練を続けてきたが、兵士として長年勤めてきたゲートルをすら下してしまえるようになったのなら、いよいよお役御免と言う事なのだろう、と。
その事を告げたゲートルは、それでも何かあれば相談して来い。と言い残し、護の下を去って行く。
去るゲートルの背に、護はこれまでの感謝を籠め、深く深く頭を下げて見送るのであった。
所変わって場所は武具店。
ギルドに紹介されて訪れて以来、護がずっと利用し続けている店である。
先日のオーガ討伐で傷んでしまった武器の修理に訪れたのだが、武器の販売を担当している店主の息子から、思いがけず他の店へ移る事を勧められる。
戸惑いながらも話を聞いてみれば、護の狩る獲物と装備の性能が釣り合っておらず、この武具店では今以上の物は提供出来ないのだと言う。
護は世話になっているのにはいそうですかと乗り換えるのは気が引けるなどと口で嘯くが、その実、店の新規開拓は知らない人物と話さなければいかないから気が進まないなどという情けない理由であった。
最終的には店主の息子の説得に押し切られ、渋々了承する事となったのだが。
その後、店主の息子、二階の防具屋にいる店主にも今まで世話になったと感謝の意を伝えた。そして護は、彼らの激励を背に店を後にする。
冒険者にとって武具は、命に直結した重要な物だ。
着用者が成長によって、より稼ぎのいい、危険度の高い獲物へと標的を変えるのなら、獲物の強さに合わせて、より性能の良い装備へと更新していかなければならない。
さもなければ、自身の刃は敵に通じず、防具がまともであればかすり傷で済むような傷が、致命傷となってしまうような可能性もある。
始めから余程腕の良い鍛冶師の世話にでもなっていない限り、冒険者が実力に合わせて利用する武具店を変えるのは、至極当然の事なのであった。
第16話 鍛冶屋さんとの小話
馴染みの武具店に別れを告げた翌日、護は様々な物を加工する音で賑わう工業地区へと来ていた。
腕の信用できる鍛冶師がいる工房がその地区にあると、武具店の店主から教えてもらったのだ。
目的の工房を見つけた護であったが、"工房"という、日本にいた頃ではそうそう足を踏み入れる事が無い場所に立ち入る事に躊躇し、うろうろと工房の前を行
ったり来たりした末、工房の者から不審者と間違われ(?)る始末である。
すぐに件の誤解……は解けたものの、護の外見年齢と装いから駆け出しの冒険者と新たな勘違いをされ、早々に追い払われてしまう。
結局護は初対面の者に冷たくあしらわれた事であっさりと心折られ、消沈した様子で宿へと引き上げてしまうのであった。
とはいえ、今後も冒険者として上を目指すのであれば、迷宮素材を使った武具は必須。簡単に諦めるわけにはいかない。
翌日。なんとか奮起して再度工房を訪ねた護は先日の誤解を解き、話を聞いてもらう事に成功した。
新たに知り合う事になった鍛冶師の名は、カズィネア。
背丈も体格も護より二回りは大きく、赤土色の髪に褐色の肌を持つ山人族の女だ。
冒険者でも珍しい格闘家である事に呆れ交じりに驚かれたり、だと言うのに、シルバーランクくらいではまだまだ貴重なはずのポイントで影魔術を取得している事に更に呆れられたりしながらも、なんとか製造依頼をする事が出来た。
なんだかんだで新しい装備に胸を高鳴らせ、帰路につく護なのであった。
第17話 休日の小話
新たな装備が出来上がるまで依頼に行く事が出来ない護は、日課にしている武術の訓練、最大魔力値の増強、魔力操作の訓練をノルマの三倍程こなした上で、暇を持て余していた。
無趣味な上、元々出不精な気のある護。
依頼、買い物、食事等、それ以外は必要が無ければ基本的に外に出かける事は無いのだが、この世界には娯楽が少ない……いや、正確には"一人で出来る"娯楽が少ないと言うべきだろうか。
要するに、護のようなぼっちには、完全な休日がものすごく暇な日になってしまうという事なのであった。
いっそ溜め込んでいる素材もあるし、生産系スキルでも取得してみようかなどと考えていた時、ふと最近、魔術の開発をしていなかった事に思い至る。
スキルによる魔術の習得が一般的であるこの世界では、新しい魔術の開発はあまりされておらず、もっぱら既存魔術を省魔力化する研究ばかりが進められている。
とは言え、それは現世界人にとって、の話だ。
元の世界の、それもサブカルチャーの発展著しい日本に住んでいた、フィクションとは言え様々なファンタジーの創作物に触れていた護。
当然のように一つや二つ、いや十や二十、記憶に残る"かっこいい"技や魔法を再現したくなってしまっても何らおかしくはないだろう。
想像を重ねて明確なイメージを固め、時折街の外、人気の無い場所でその成果を確認する。
新たな装備が出来上がるまでの数日。
勿論数多くの失敗も重ねるのだが、護は未完成ながらも実用に足る魔術の開発に、成功していくのであった。
第18話 護の日常
ダンジョンには地上の生物の姿をした、しかし基となった生物からは格段に強化された敵性体――総じてモンスターと呼ばれるモノが蔓延っている。
ファスターの地下迷宮型ダンジョン、その浅層の一角。
そこにもまた、侵入者を排せんと凶刃をふるうモンスターの姿と、それを跳ね除け、脅威たるモンスターを骨の髄まで金に換えようと攻め寄せる、勇猛な冒険者達の姿があった。
それはいわゆる"パーティー"。
何人もの冒険者達を容赦なく飲み込んで来たダンジョンに抗い、攻略するために、精神面でも肉体面でも仲間と支え合って挑む、冒険の一つの理想形である。
また、ダンジョンに潜る際にパーティーを組む事は、冒険者の間では常識ともされていた。
一人では遠からずダンジョンに飲み込まれてしまうであろう彼らは、先人の築いた常識に倣ってダンジョンに潜る前からパーティーを組み、親睦を深めて互いを知り、組み上げた連携と互いの信頼によってその背を支え合い、次々にモンスターを殲滅していく。
――そんな冒険者達の姿を、通路の片隅に出来た影の中から羨ましそうに眺める一対の瞳があった。
そう……何を隠そう、護である。
一人前とされるシルバーランクになった事でダンジョンでの探索が許可された護であったが、"ダンジョンにはパーティーで挑むのが常識"とされているため、初めから一人で挑もうとは考えていなかった。
しかし、個人的事情から本来の実力を公開する事が出来ず、また、パーティーに入れてもらおうと最初に自分で声を掛けた者達に手ひどく拒否される護。
翌日やけになり、単独でダンジョンへと突入、そして十分な手応えを得て無事に帰還。
結果として、護はそれからもソロでダンジョンに潜るようになってしまった。
物資の蓄えも戦利品の回収も影魔術のおかげで問題は無く、戦闘能力、継戦能力、危機回避能力も十二分に通用してしまい、「別にパーティー組まなくてもいいんじゃね?」と自己完結してしまったのだ。
ともあれ、実際に問題が無かったのならば、ソロで活動する事に護が躊躇する理由も無かった。
そう、何も問題は無い。
例え独りで食べる食事がどれだけ味気なかろうと、時たま見かける他の冒険者達のパーティがどれだけ羨ましかろうと、ダンジョンに潜れば潜るほど他人との会話が無くなろうと、ソロでの活動に何も問題は無いのだ。
護は自らにそう言い聞かせ、今日も独り、ダンジョン探索にいそしむのであった。
第19話 覗き魔術師
ファスターの地下迷宮型ダンジョン内にいくつも点在する小部屋の一室。
護は極めて隠密性に優れた結界を展開し、休息を取ろうとしていた。
が、その一室へ近付く、冒険者と思しき複数人の気配を察知する。
トラブルがそう起こる事は無いが、油断は出来ない。
万が一の時も考え、護は結界はそのままに、いつでも戦闘に移れるよう警戒をしていた。
護はそのまま通り過ぎる事も予想していたのだが、よほど休憩に適した位置にあった部屋なのか、冒険者達は護と同じく休息を欲して部屋の中へと入り、護がいる事に全く気づかないままに小部屋全体を覆う結界を展開してしまう。
隠密性に優れすぎてしまった影結界の中で、護は仕方なくそのまま隠れ続ける事に決めるのだが、護に気付いていない冒険者の内の一人が、おもむろに服をはだけさせ、汗を拭い始めてしまった。
それが男であったなら、護も不快げに顔を背けていたかもしれない。だが問題は、部屋に入って来た冒険者達が全員"女"だった事である。
誰が知る必要のある事でもないが、護はこの世界に来てから一度も性欲を発散させていない。
ずっと宿住まいで一人で致す事が出来ないとか、"そういった仕事"の女性の世話になる度胸も無いとか、生活を安定させるための依頼や今後生き残るための自己研鑽が忙しかったとか、まあ理由は色々あるが、ありていに言って、護は"溜まっていた"。
"誰にも気付かれていない"という状況につい魔がさしてしまった護は、服をはだけさせた女の肌を凝視する事で集中力を欠き、迂闊にも冒険者達の内の一人である宝掘師の女に気配を察知されてしまう。
姿が見えないままであったために、誰何の声を受けて影結界を解き、用心の結果からのすれ違いであり、純然たる事故であると主張する護。
当然というべきか、その言がそのまま受け入れられるわけも無く、主に服をはだけさせていた盾剣士の女によって護は激しく詰られる。
最終的には女達のパーティーのリーダー、斧槍使いの女によってその場は収められ、かといって信用されたわけでも無かったため、女達は別の休憩場所を探して部屋を出て行ってしまった。
去り際に「覚えてなさいっ!! 覗き魔術師!」などと吐き捨てたのは無論盾剣士である。
一人残った護は、どことなく女達の去った部屋に居心地の悪さを感じながらも溜め息を一つ、再び休息に入るのであった。
第20話 不名誉の行方
女四人組の冒険者達と揉めて翌々日。
ダンジョンから戻った護は、依頼の報告を済ませにギルドへ立ち寄り、いつものようにラーニャの立つ受付へと歩を進める。
開口一番に「おかえり。覗き魔術師さん」などと笑顔でぶちかまされた。
どうやら件の女達と知己であるらしいラーニャは、さすがに覗き魔扱いは冗談らしいが、同じ女として無遠慮に肌を見るのは見過ごせないそうだ。
護としても、あの時にすぐ目を逸らしていたなら特に非を感じる事も無かったであろうが、そうは出来なかったため、謝る事に否は無かった。
そんなやりとりの後に依頼の報告を終えた護は、昼時という事もあって暇そうなラーニャから、特殊型の希少個体が出現したらしいが、どこかで見なかったかと尋ねられる。
特殊型の希少個体――ダンジョン内で無秩序に湧出し続けるモンスターが時折低い確率で変異を起こし、何らかの特殊能力を得た個体の事だ。
護はそれらしき個体を見た覚えは無かったが、ダンジョンに潜っていれば一つや二つ、おかしな事にも遭遇するもので、数日前にやけに大量のモンスターが群れていた事を思い出したので伝えておいた。
殊更身を案じられながらも別れを告げ、ギルドの外へ出ようとした護は、そこで苦い記憶と向き合う事になる。
ギルドの入口で鉢合わせたのは、先日ダンジョン内で揉めてしまったパーティーの、リーダーらしき――イーシャと言うらしい斧槍使いの女であった。
突然の邂逅に硬直する護をよそに、彼女は穏やかな雰囲気で話し掛けてくる。
どうやらギルドで護の人となりを聞いて先日の揉め事で誤解していたと分かり、失礼な態度をとった事を謝りたかったらしい。これ幸いと護も結果的に覗いてしまった事を謝り返しておいた。
幸いと言うべきか、その事に関しては特に気にしていないらしい――盾剣士の女、レーナ以外は。
あまり気にしていないらしい事に少し安堵し、しかしおよそ一名は結構なお冠らしい事にひどく憂鬱な気分になりながら、重い足取りで帰路に就く護なのであった。
第21話 異変
イーシャとの不意の遭遇からまた幾日。
その日、またダンジョンに潜ろうと依頼を受けにギルドへと訪れた護は、ギルド内が妙にざわついている事に気付いた。
いつもの如くラーニャの立つ受付で話を伺ってみれば、件の希少個体がその姿をはっきりと確認されたらしく、その危険性を鑑みて討伐隊が組まれるのだとか。
討伐隊に参加していない者は危険なのでその階層には近づかないようにと勧告が出ており、ラーニャもダンジョンに行くのならせめて明日にしておいた方がいいと忠告するのだが、別段護も希少個体にこだわりは無く、何層か手前までしか行かないと約束してダンジョンへと向かった。
約束通り希少個体のいるらしい何層か手前で狩りを始めようとした護。
が、その階層では無かったはずの異変が、そこで待ち構えていた。
異様なまでの静けさ、不自然なほどに遭遇する気配の無いモンスター。
果たしてそれは、数層下にいるはずの特殊型希少個体が原因であった。
特殊型が発生する事も稀であるものの、ダンジョン内で発生したモンスターがその階層から移動するという更に稀な出来事が起きていたのだ。
そしてこの希少個体が持つ特殊能力『蟲型モンスターの支配』によって、道中にいたあらゆる蟲型モンスターを群れに加えながら階層を上ってきたらしい。
数日前に護が見かけたモンスターの群れは、およそ百体に届かない程度。
それが今や、十倍に届くのではないかというほどに膨れ上がっていた。
遠方から気配を感じ取った護は咄嗟に気配を極限まで殺し、勇ましく立ち向かおうなどと欠片も思わずに、希少個体が階層を移動している事、群れの規模が異常に膨れ上がっている事をギルドに報告しに戻ろうと考えた。
帰還する前に詳細な群れ情報を得ておこうと、より深く気配を探り、そして発見する。
逃げ遅れた冒険者達が小部屋に結界を張って立てこもり、そして負傷した仲間の治療のために魔力を使い続けているせいで、その結界の存続すら危うい様子を。
護はその冒険者達の気配に覚えがあった。
数日前に諍いを起こした[迷宮の薔薇]というらしい女四人組のパーティーだ。
たった一度、良好とは言えない出会いをした者達。
しかしここで報告を優先してしまえば、まず間違いなく彼女達は助からないだろう事は容易に想像できた。
僅かな逡巡を経て、護は動き出す。害意を寄せ付けぬ強固な結界と、捉えた敵を決して逃さない漆黒の炎を身に纏って。
第22話 その後の事
ダンジョンの一室でその命を散らそうとしていた[迷宮の薔薇]の 冒険者達。
彼女らは突如として張られた強固な結界と、モンスターの群れを燃やし尽くした漆黒の炎によって、辛くも危機を逃れ、地上へと帰還した。
しかし誰一人としてその魔術を行使した人物を見ておらず、また、希少個体やモンスターの群れの殲滅を確認する事も無く帰還したために、数日に渡り調査隊による捜索がなされたが対象は発見されず、討伐されたものとしてこの一件は一応の落着を得た。
騒動の解決から一夜明け、しかし冒険者ギルドに未だ護の姿は戻っていない。
その事にただ一人、ラーニャはもしや護が件の群れに遭遇して命を落としてしまったのではないかと、胸を痛めていた。
当の本人は暢気に帰還までの日程の調整を考えていたのだが。
所変わってある宿の一室では、負傷と失血によって眠り続けていた[迷宮の薔薇]の盾剣士、レーナが目を覚まし、事のあらましを仲間から伝えられていた。
仲間に心配をかけた事を詫び、正体不明の人物に深い感謝をささげる。
そうして彼女達は鋭気を養い、更なる冒険に備えるのだった。
第23話 駄目だこいつ……
騒動の収束から三日。
尚もギルドに姿を見せない護に、ラーニャは生存を諦め始めていた。
直接態度に表したりはしないが、その空気は同僚の職員やその職員の馴染みの冒険者などに伝播して、ギルド全体の雰囲気すら心なしか重たくしていた。
と、そこへそんな事情を欠片も知らず、暢気な様子で護が顔を見せる。
生存を喜び涙を零しながらも笑顔を見せるラーニャに、わけもわからずおろおろと困惑する護。不甲斐ない様子に周囲は色々な反応を見せるが、呆れる者が大半である。
兎にも角にも、この時を境にギルド、ラーニャ共々いつもの調子を取り戻していくのであった。
事情の説明ついでに当時何をしていたか追究されたものの、さらりと嘘で誤魔化してギルドを辞し、護はその足で以前知り合った女鍛冶師、カズィネアの所属する工房を訪ねる。
歳に見合わぬ高いスキルLvの秘密の追究を恐れて平凡を装っていたはずが、護の中の"職人"というものに対する妙な信頼感から、一連の騒動の説明と共に女王蟻の素材の加工を頼むのであった。
第24話 そして伝説へ
護の宿泊する宿の受付、そこにはどこか誇らしげに女王蟻との戦闘の様子を話す護と、それを目を輝かせて聞くカリーナの姿があった。
なんだかんだで人助けに誇らしさを感じていた護は、一応は他人が戦っているのを見たという体で自慢話を続ける。それが大きなしっぺ返しとして帰ってくるともつゆ知らず。
騒動が収まってからおおよそ一週間が過ぎた頃、ファスターの街ではとある噂で持ち切りになっていた。
なんでも、今回の騒動の収束にはとある存在の活躍があり、その名を『永遠なる影炎を駆る漆黒の貴公子』と言うのだという。
カリーナが友人に話した事から広まったこの噂。耳にしたのは老若男女を問わず様々な冒険者や、はたまた領主から街の外にまで広まっていった。
――『永遠なる影炎を駆る漆黒の貴公子』こと護の名は、こうして世界へと知られ始める。
その事が一体護にどのような影響をもたらすのか、当然護本人にも分かるはずも無く、今はただ宿の一室で、噂の恥ずかしさに身を悶えさせるのであった。
というわけでダイジェスト風あらすじの第二弾でございます。
文章の圧縮量に迷って無駄にモチベーションを削ってしまいましたがなんとか投稿と相成りました。




