第20話 花火
訪問先で、仕事とは関係ないパソコンの不調を見てくれと言われて、調べているうちに何となく解決してしまった。礼にとスイカをもらう。
結構立派なまるまる一玉。社に戻ってみんなで食べればいいかと手に提げて戻ったのだが……
「おぅ。間、お帰り! スイカ食え……って」
同僚は俺の提げているスイカを見てゲラゲラと笑った。
「お前ももらったのか。支店長からも差し入れあってさ、俺も商店街でもらっちゃって……スイカ祭りだな」
すでに切られて差し出されたものを食べて、結局俺がもらったのは「若いんだから食えるだろ」と、そのまま持ち帰ることになった。
店主さんにもおすそ分けしようかなと、ひとまず家に帰って着替えることにする。ドアを開けると、いつもは風呂かと思うくらいむっとした空気に出迎えられるのに、今日はひやりと涼しかった。
「お帰りなさい」
ひょいとオマエが顔を出す。
「エアコンつけてたのか」
「そろそろ帰ってくるかと思いまして。先程つけました」
「ありがとう?」
暑くても汗ひとつかかない男なので、そんなことに気が回せたのかと若干訝しんでしまう。服装は季節に合わせて変わっているので、全く感じないわけではないと思っているけれど。
「暑い方がビールは美味しかったですか?」
傾げられる首に目当てはそれかと納得する。こいつは、アルコールならメチルアルコールでもいいに違いない。一応何か役に立とうとするところは、可愛げがあるかな。
「いや。さすがに暑くて喉乾いたか? 水分補給ならこれもあるぞ」
提げてたスイカを差し出せば、「おお」と網から出して、しげしげと眺めていた。
「売ってるのは結構なお値段がしますよね。畑の作物は駄目だと言われているので試したことなかったんですよ。買ったんですか?」
「いや。もらったんだ。職場でも食べてきたし一玉はちょっと多いから、店主さんにもおすそ分けしようかと――」
着替えて振り返ると、オマエがスイカの皮にかぶりつくところだった。
せめて切ろうとか、皮はあんまり美味くないとか口に出る前にスイカは消え失せた。
「……は? え?」
「この量だと確かに喉の渇きも癒えますね」
ぺろりと唇を舐めながらにこにこしたオマエは、呆然としている俺を見てハッとして少しだけ眉を下げた。
「店主にもあげるって言いました?」
「思っただけだから……残らないなら、まあ……いいかな」
皮も残らないとは思わなかったけどね!?
気を取り直して冷蔵庫を開けたけれど、晩飯になりそうなものは何もなかった。とりあえずビールを出して座り込む。オマエにも一本渡せば「いいんですか」と顔をほころばせた。
一口つけたところでスマホが鳴った。電話じゃなくてメッセージアプリの方だ。誰だろうとチェックすれば、大学時代の友人からだった。動画がついている。
『そっちも花火大会あんの?』
そういえば花火大会の季節か。向こうは毎日のようにどこかで上がってた気がする。
オマエに聞いてみたけれど、この辺では花火大会はないらしい。
「そっか。ちょっと寂しいな」
動画を全画面にしてオマエにも見えるようにテーブルに置いてやる。
夜空を彩る大輪の花や、吹き上がったり、枝垂れたり、形を変えるものが次々と現れては消える様子に、オマエは目をキラキラさせて食い入るように眺めていた。
子供みたいな反応に、ちょっとお節介な気持ちが湧く。
「この規模は無理だけど、コンビニに花火売ってたな。ちょっと童心に返ってみるか。ついでに夜食も買えるし」
ビールを飲み干してコンビニへと赴く。手持ちと噴き出し花火、焼き鳥やおにぎりなど摘まめるものをチョイスして『お伽堂』へと向かった。
もう店は閉めているだろうけど、縁側を貸してもらえればいいと思ったのだ。たぶん、若干の不安があったからお目付け役が欲しいと思ったのもある。
店主は少し驚いた様子だったけれど、快く小さな庭を貸してくれた。高い板塀で囲われているので、人の目もあまり気にしなくていい。
バケツに水も用意して、テディも店主の隣にやってきた。
「何年ぶりかなぁ」
店主の呟きに俺も心の中で頷いた。俺もずいぶん久しぶりだ。
太いろうそくに火を灯してオマエに手持ち花火を渡す。見本にと先に火をつけてみせると、勢いよく噴き出す火花に目を丸くする。
わくわくと自分も火をつけようと手を伸ばすのを横目に、箱型の噴き出し花火をセットした。火薬に火のつくシュッという音が聞こえて少し下がる。
噴き出した赤い火に嬉しそうに目を細めて、オマエはそれを口に突っ込んだ。
「!?!?!?」
一瞬驚いて固まっている間に、オマエは噴き出し始めた箱にも手を伸ばす。
「ちょ……ちょっと! 待った!! 違う! やめろ!」
後ろから羽交い絞めにして止めて、店主を振り返れば、やれやれと苦笑いしている。
「……エネルギーには違いねぇな」
子供よりタチ悪くありません!?
誰も見ていないからと、結局、食べる用と観賞用に分けることになった。
テディには「真似しちゃいけません」と言い聞かせたことをここに記しておく。




