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厚顔無恥

「それでですね……」

「ふふ! そうなんですね!」


 狩りを終え、僕とフェリシアは木陰の下でお茶を飲みながら談笑をしている。

 なお、僕が持ち帰ったアイトワラスの頭については、そのままにしておくと目立って面倒なので、陣幕を被せて隠してある。


「ですが、そろそろ他の方々もちらほらと戻ってこられましたね」

「そうですね。ただ、王太子殿下とショーン殿下の姿は見当たらないようです」


 はは、今も魔獣を探して森の中を彷徨(さまよ)っているのかな。ご苦労なことだ。


 そんなことを考えていると。


「「「「「おおおおお……!」」」」」


 会場の入口で、どよめく声が聞こえた。


「何かあったのでしょうか……」

「せっかくですし、見に行ってみますか?」

「は、はい」


 僕はフェリシアの手を取り、一緒にどよめきの起こった会場の入口へと向かった。


 そこには。


「うわあ……」


 荷馬車の荷台に大量に積み上げられた、大小の魔獣の山。

 そして、それをこれ見よがしに誇る第二王子の姿があった。


「フフ……これじゃ、来年からこの森で狩猟大会はできないね」


 そう言って、第二王子が肩を(すく)める。

 ハア……全く、何を勘違いしているんだ?

 あんな小さくて弱い魔獣を大量に狩って、どうするつもりなんだ?


「あ! なんだ、公爵殿はもう戻っているじゃないか!」


 目聡く僕を見つけた第二王子が、勝ち誇るような笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。


「ショーン殿下、お疲れ様です」

「どうだい? すごいだろう!」

「そうですね……」


 面倒なので、僕は視線を逸らしながら適当に返事をした。


「ん? ひょっとして悔しいのかい? まあ、それも仕方ないね。所詮は僕の聖女の加護(・・・・・)とは違い、悪女の呪い(・・・・・)なんだから」

「…………………………は?」

「っ!?」


 調子に乗って余計なことを言った第二王子に対し、僕は昨夜の王太子同様、殺気を向けた。

 全く……この程度(・・・・)の殺気を向けられたくらいで(おのの)くのなら、言葉を選べよ。


「……それで? 肝心の一番の魔獣とやらはどれになるのですか?」

「こ、これだよ!」


 第二王子は従者に指示し、魔獣の死体の山の中から一体の魔獣を出してきた。

 へえ……“アウルベア”か。確かにこの森だと、アイトワラスの次に大きな魔獣だな。


「どうだい? アウルベアは二メートル級が一般的だけど、僕が仕留めたものは、三メートルはある。さすがの小公爵殿も、これには勝てないんじゃないかな?」


 ついさっきまで僕の殺気に(おのの)いていたくせに、こうやって小馬鹿にしながら(わら)ってくる。

 本当にこの第二王子、残念だな……。


「さあ、どうなんでしょう?」


 適当にそう言って、僕は肩を(すく)めると。


「フェリシア殿、そろそろ戻りましょうか」

「はい……」


 フェリシアは表情にほんの少し悔しさを滲ませながらも、素直に頷いて差し出した僕の手にその細い手を添える。

 あはは、大丈夫ですよフェリシア……恥をかくのは、第二王子なのですから。


 そう考えていた、その時。


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」」」」」


 第二王子……いや、僕が戻って来た時よりもさらに大きな歓声が、会場の入口にこだまする。

 これは一体……。


「あ、兄上……っ!?」


 そんな歓声のする方向へと向いていた第二王子が、そう呟いた。

 なるほど、王太子が戻られたのか。


 だけど、これほどの大きな歓声が沸き起こったということは…………………………まさか。


 僕はフェリシアを連れ、王太子の元へと向かう。


 そこには。


「あーあ……」


 二つのうち頭を一つ失い、胴体に風穴を開けたアイトワラスの死体が、荷馬車の上に横たわっていた。

 そして、その(かたわ)らで大歓声に応えるように手を挙げる、笑顔の王太子がいた。


「ギ、ギルバート様、あのドラゴンは……」


 あはは、さすがにフェリシアも気づくか。

 そう……あのアイトワラスは、僕が仕留めたものだ。


 大きすぎて持ち帰るには邪魔で、頭の一つだけ切り落とし、残りを洞窟の前に捨て置いたものを拾ったんだろう。


 だけど、まさか王太子がここまで厚顔無恥だとは思いもよらなかったな……。


「ん? 小公爵、それにショーンではないか」


 まるで、今気づいたとばかりに声をかけてきた王太子。

 顔を引きつらせる第二王子とは対照的に、僕はあまりにも恥知らずな王太子に、冷ややかな視線を向ける。


 これで僕がアイトワラスの頭を見せたら、どうなるんだろうか……。


「王太子殿下!」

「おお! ソフィア!」


 まさにこのタイミングとばかりに、ソフィアが王太子の元へ駆け寄る。


「ソフィア……君の与えてくれた加護のおかげで、ドラゴンを仕留めることができたぞ」

「王太子殿下……」


 まるで恋愛小説のワンシーンのように見つめ合う二人。

 よくもまあ、人の獲物でここまで酔いしれることができるものだ。


 だが……さて、こうなると少々面倒なことになってきたぞ。


「こんなのって……こんなのって……っ!」


 フェリシアが、口惜しさのあまりサファイアの瞳に涙を溜め、肩を震わせながら唇を噛む。

 恥知らずな真似をして、彼女にこんな思いをさせたんだ。ただ暴いて恥をかかせるだけじゃ収まらない。


 すぐに向こうから接触してくるだろうし、その時に後悔させるとしようか。

 そう考えていると。


「……小公爵様、少々ご足労いただけますでしょうか?」


 ほうら、早速接触してきた。


 王室からの(・・・・・)使い(・・)が。

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