第3話 大地に降り立つ
神様が手を叩くと景色が変わる。先程までの和室ではなく、どこかヨーロッパの宮殿のような豪華な部屋で椅子に座っていた。
「あら~可愛いボウヤね、あなたが地球からの召喚転生者ね~」
その声の主は、どう見てもオカマだった。
「あん!?なんだって?」
「いえ、なんでもありません美しい女神様」
長い物には巻かれるべきだ。目の前の神様はどこからどう見ても美しい女神にしか見えない、たとえ筋肉が盛り上がっていようとも、顎が青くてもそれを含めて美しいのだ。うん、間違いなく女神様だ。
「あら、あなたって正直者なのね。照れちゃうわ~」
というか、神様は俺の事を可愛いボウヤと言ったが、地球の俺はどこから見ても可愛い要素0だと思うのだが・・・?
「どうしたの?どこからどう見ても可愛いわよ?あそこに鏡があるから見てみたらどうかしら」
「髪が赤い・・・羽根がある・・・」
俺の容姿はアナザーワールド5の紅蓮の物だった。全く違和感が無かったが、この空間に飛ばされる時に地球の神様が変えてくれたのだろう。
「え~っと、データによると30歳?有り得ないわね、どこからどう見ても10台半ばよ!取り合えず成人年齢が15歳だから15歳に変更っと・・・」
「あ、ありがとうございます?」
「性別はどっちかしら?触って確認しなきゃいけないわね・・・ふふふ」
じりじりと女神様が寄って来る!
「男!男ですから!確認しなくても大丈夫です!!」
「あらそう、残念ね」
「え~っと、何々、このゲーム?っていうのと同じ状態で転生させてあげればいいのね?ボウヤすっごく可愛いから色々サービスしてあげなきゃね」
バチン!とウィンクが飛んでくるが甘んじて受け入れよう。俺はただの子羊だ、ここでは無力である。
「ふふふ、素直な男の子は大好きよ。え~っと、これとこれも必要よね、あとこれもおまけして・・・」
よく分からないが女神様が何やら手を動かして俺のデータを改変しているみたいだ。これは普通の事なんだろうか?
「そうねぇ~普段はあんまりやらないのだけど、あなたが転生するのってあっちの神様のせいだって言うじゃない?なんだか可哀相になっちゃって、それにすっごく可愛いし、私がオマケしたのは秘密よ?」
「分かりました、有難う御座います!」
「これでいいかしらね。転生の準備は出来たけど何か聞きたい事はあるかしら?」
さっきは地球の神様の名前を聞き忘れてたから今回はちゃんと確認しておかないとね。
「お名前をお伺いしても宜しいでしょうか」
「私は大自然と生命の女神フェアリーナよ。宜しくね紅蓮ちゃん」
またまたバチンとウィンクが飛んでくる、勿論受け入れるのみだ。
「他にも4人の神がいるんだけど、多分関わる事がないと思うわ。もし気になるようなら神殿に行って確認して頂戴ね」
「あ、そういえば転生する場所はどうなっているのでしょうか?いきなり空に放り出されたりしたら怖いのですが・・・」
「そうねぇ、今回は勇者召喚でもないし魔王召喚でもないから特に場所の制限はないわね。その羽根も隠せるのよね?だったら見た目は普通の人に見えるし、好きな所に飛ばして上げれるわよ」
好きな所と言われてもあんまり詳しい国や街の情報は貰ってないからなぁ、どうするのがいいんだろうか?
「だったら無難に一番大きな大陸の王都にしておく?色んな人種がいるし、その後の計画も立てやすいんじゃないかしら」
「では、それでお願いしていいですか?」
「分かったわ。それにその辺りの情報は向こうに行けば分かるわよ・・・ふふふ」
なんだろうか?意味深な笑みだがよく分からないな・・・。取り合えず王都からスタートなら余程の事がない限り大丈夫だろう。後はなるようになるだろう!
「前向きって素晴らしいわね。そうねぇ、こちらから特に制限とかはないんだけど、あんまりいっぱい善人を殺したりすると天罰があるかもしれないから気をつけてね?」
「そ、そんな事絶対しませんよ!何言ってるんですか!?」
「ふふふ、冗談よ。この世界を思う存分楽しんで頂戴ね、美しい場所も沢山あるからきっと気に入って貰えると思うわ」
「有難う御座います。精一杯楽しみたいと思います!」
「では、転生させるわね。もし機会があればまた会うかもしれないわね」
フェアリーナ様がブチュ!っと投げキッスを飛ばしてきた。何か得体の知れない感覚が身体の芯を走り抜けたが気が付いた時には20mはあろうかと言う壁が見える場所へと立っていた。
「ここがアリーシャエル・・・。本当に転生したんだな俺・・・」
太陽が真上にある、どうやら今は昼なのだろう。立っている場所は王都の高い壁の外、500m程はなれた街道のど真ん中だった。行き成り人が現れて怪しまれなかっただろうかと周りを見渡すが、こちらに気付いた人はいないようだ。もしかしたら神様が何か細工してくれたのかもしれない。
「ん?なんだ?」
なぜか目の前の王都の名前が分かる。そして俺が立っている街道の名前も理解出来ている、なぜなら俺の視界には前世でのMMORPG「アナザーワールド5」のUI、つまりユーザーインターフェイスが表示されているのだ。
取り合えず深呼吸をして街道の端に寄って木の根元に腰を下ろす。俺は確かにゲームのキャラクターである紅蓮になりたいと言った、言ったがまさかゲームのシステムから適用されるとは思ってもいなかった。
「と、取り合えず確認するしかないよな・・・」
視界に映るのは見慣れたメニュー画面、しかし、見える風景は全く違うしそもそもこれはゲームではなく現実なのだ。
まずは一番上から順番に確認していく。一番上はステータス、開く為に手を動かそうとするがその前に反応してステータス画面が展開する。どうやらある程度意識する事で操作が可能なようだ。
名前 :グレン(紅蓮)
種族 :人族(不死鳥人族)
クラス:メイン/サブ 忍者Lv255/義賊Lv122
忍者Lv255 義賊Lv255 狩人Lv255 軽戦士Lv255 白魔導士Lv255 黒魔導士Lv255
鍛冶師Lv255 裁縫師Lv255 革細工師Lv255 木工師Lv255 彫金師Lv255
錬金術師Lv255 調理師Lv255 etc...
ステータス
STR:420
VIT:255
DEX:554
AGI:595
INT:392
MND:315
装備
右手:忍神黒刀
左手:忍神白刀
頭 :影嵐鉢金
胴 :影嵐闘着
脚 :影嵐袴
足 :影嵐足甲
装飾品
耳 :遠耳の耳飾り
指1:祝福の指輪
指2:シノビリング
背 :極炎鳥の羽根飾り
所持金:650,405,331G
名前と種族以外はどこからどう見ても最後に確認したステータスのままである。それによく見ると俺の格好はゲームの忍装束だった。これはちょっと恥ずかしい・・・。しかし、装備類がそのままというのは助かった。こんな場所に転生していきなり裸だったら恥ずかしすぎて死んでしまう。それに使えるか分からないが所持金もたんまりある。
「何で名前と種族が変わってるんだろう。それにこの世界にはステータスは体系化されていないって言ってたはずなんだけど。これが例外って事なんだろうな、うん。そう思っておこう、神様ありがとうございます」
聞こえるか分からないがお礼はちゃんとした方がいいだろう。今ここには俺の生き甲斐であり、俺の全てだった紅蓮がいる。そして俺は紅蓮として生きているのだ、これを感謝しないはずが無い!
名前はカタカナ表記が一般的みたいだからしょうがないとして、問題は種族だよな。なんかこの世界って空を飛ぶ人っぽい種族は漏れなく魔族認定されるみたいだから羽根隠して人族に偽造しておけって事なのだろうか。取り合えず今は人族って事で通してその内どこかでしっかり確認しておいた方が良さそうだな。
「まぁ、種族は取り合えずいいか。元々は普通の人間だったし、嘘はないって事にしてステータスは取り合えず把握っと。次は装備欄を念の為に確認・・・」
装備欄にはしっかりと今まで集めた装備が入っている。ゲームの時は一瞬で着替えられたのでその確認をしたが、違和感なく一瞬で装備が変更された。試しに手動で脱げるかも確認したのだが、問題なく装備を脱いだり着たりする事が出来た。勿論、外なので上着だけだ。俺は公衆の面前で下着を晒すような性癖は持ち合わせてないからな。
「装備も問題なし。アイテム一覧も問題なし、お!課金のアイテムボックス拡張もちゃんと反映されてる。これは有り難いな」
課金のアイテムボックス拡張は非常に便利だったので殆どのユーザーが使用していた、この世界で課金をどうするのか分からないが使える物は有り難く使わせて貰おう。
流石にフレンド一覧やメッセージの機能は使えなくなっていた。勿論ログアウトボタンも無くなっている。
「ヘルプ機能が生きてるみたいだな・・・なんだろう?」
ゲームのヘルプ機能が生きててどうするのかと思ったが念の為に確認してみた。するとそこには女神からのメッセージが。
『この世界に転生するにあたって、必要だと思う「言語能力」と「一般常識」を与えておいたわ。安心して生活してね、後はお金も使えるようにしてるわよ。必要な金額を念じれば手の中に出てくるわ。基本的にあなたの行動は希望通りゲーム?に沿ったものが反映されるようになってるわよ。あなたの女神より』
「女神様有難う御座います・・・!」
俺としてはそこまで希望したつもりは無かったが貰えるものは素直に受け取るスタイルだ。更に確認を進めるとUIの設定やON/OFF、行動毎のゲームシステム適用のON/OFFも出来るみたいだ。正に至れり尽くせりの俺に優しい世界である。
「確認はこんなもんかな・・・取り合えず周りを見る感じ俺の格好は怪しすぎるから着替えておくか・・・」
システムの確認をしつつ街道を通る人を見ていたが、どう考えても和装の忍装束は目立つ。ここはゲーム時代の初期装備に着替えておいた方がいいだろう。その後で周りを見て装備を考えよう。
「さて「一般常識」によると俺の場合は冒険者になるのがいいみたいだし、街に入ったら異世界定番の冒険者ギルドにでも行きますかー身分証明書も作らないといけないしな」
女神様が付けてくれた「一般常識」によって転生直後の混乱もある程度落ち着いたので一瞬で着替えて街の入り口へと向う。その足取りは軽い、それに凄く気分が昂ぶっているのが分かる。これから俺のアリーシャエルでの新しい人生がスタートするのだ、その喜びの感情が溢れて止まらない。




