第85掘:丸投げ
丸投げ
side:ラッツ
「いや、落ち着け。国なんざ作るつもりは無い」
お兄さんはそう言って、その場の興奮を抑えます。
いえ、醒ましたというべきでしょう。
最初からお兄さんは国を作るつもりが無いと言っていましたからね。
お国の重鎮であったセラリア、ルルア、シェーラ様は色々思う所があって興奮したようですが、私はそうでもありませんでした。
しかし、お兄さんの考えている大陸を救う方法は思い浮かびませんし、想像もできません。
セラリア達の言うように、お兄さんが王となって国を作るほうが確実だと思います。
「ユキさん、ではどうやって?」
エリスが答えをお兄さんに聞きます。
皆もその答えを待つようにお兄さんを見つめます。
「では、俺の考えを披露するかね。とまあ、これもダンジョン運営の一環だと思ってくれ、意見があればどんどんな?」
そう言われて、皆頷く。
……お兄さんは大陸を救う手段としてダンジョンを使うようです。
当然ですね、この便利なモノを使わない理由はありません。
「じゃ、さっきの戦争な。戦争は色々イケナイ。国力の低下、生産性の低下、労働力の低下、まあデメリットが多すぎる。ま、食い扶持減らしって意味もあるんだろうけどな。養えない人を減らすための戦争ってのもあるだろうよ」
セラリア達はお兄さんの言葉で顔を歪めます。
なるほど、建前では国土を広げると言って、本音は国土を広げるのではなく、徴兵した人を討死させることで、人口の調整をするのですか。
胸糞悪くなる話ですが、理解できない話ではありません。
「戦争を率先して行う国はない。一回事を起こすだけでも、膨大な資金や資源がかかる。それはわかるな?」
それは当然です。
戦争をしている国は税が重くなったり、徴兵があったり、物資も持っていかれます。
主に国民から。
「しかし、それでも戦争を起こす必要がある。なんとか、土地を確保しようとしてな。その根幹は、その土地だけでは国民を養えないからだ。だから戦争を使って、勝敗のわかりやすい結果を産む手段を取るんだ。余裕があるうちは国同士で交渉するだろうしな」
なんとか交渉の段階で収めてほしいのですが、それができれば戦争なんて起こっていませんからね。
「まあ、大国4か国はもう利権争い、つまりどれだけ利益が入るかに移行してるみたいだけど、小国はまず国力を上げる為に、他所の土地を奪い取らないといけないってわけだ」
「はい、その通りです」
「さて、大陸を救うには死人がでる戦争を起こさないようにするのが一番だと思う」
それが一番ですね。
結局は各国の面子の為の戦争。
その地で生きている人々にとっては、どの国であっても安全ならよいのです。
「で、戦争を起こさないように、俺は各国にダンジョンによるゲートを作って、物資のやり取りを簡単にしようと思う。お互いの資源を簡単にお金か何かで手に入れられるようにしようと思う。これを行えば、他所の国から普通に物資のやり取りができるから、無いから他所の土地を奪わなければいけないって事にはならないだろう?」
お兄さんがいう事はもっともだと思います。
なるほど、ダンジョンを各国に作ってつないで、交易の道具として使い、争いの原因である、物資の枯渇を防ごうというわけですね。
「あなた。その考えは甘いわ。どこでも交易はしているの、それだけで戦争が起きないならもうとっくに戦争は無くなっているわ。4か国は利益と言っているけど、小国も自国の収入原があるの、それが無いと何もできないのだから、収入を上げる為にも土地を切り取る必要があるの。国の我儘といわれれば、それまでだけど、人はそんな簡単に他人が裕福なのを黙って、何もしないでいるのは無理なのよ」
セラリアのいう事もわかります。
他人が自分よりいい暮らしをしているなら、自分もなりたいと思いますし、自国が飢えているなら、何としても良くしたいと思うものです。
交易があっても、賄えないから戦争を起こすんです。
「ふっふっふ……、セラリアのいう事はもっともだ。しかし、大事な事を見落としている」
「大事な事?」
「そうだな、交易があっても戦争は無くならない。それは尤もだ。だが、俺は各国に交易……つまりお互い、自由に行き来できるゲートを作るといったんだ。この意味が分かるかな?」
「ま、まさか…!?」
おや、シェーラ様が何かに気が付いたようです。
このシェーラ様は背格好からアスリン達よりちょっと上といったところでしょうか、しかし、先ほどからの言動をみれば、とても有能な人物の様です。
「ゲートを通じて、各国をお互いに監視させるつもりですか……」
「当たり」
お兄さんが嬉しそうに笑います。
ええ、とっても邪悪に見えます。
「ごめん、ユキさん。僕わかんないよ」
リエルは泣きそうになって、凄く申し訳なさそうです。
まあ、分野が違うから仕方のないことですよ。
「そうだな、リエル。今どうしても欲しいモノを横のトーリが持っているとして、それをトーリが譲ってくれない。又は、法外なお金を要求した場合どうする?」
「え、あきらめる」
「ああ、ごめん。あきらめるのは無しで」
「それなら、トーリがいない間になんとか盗む。ああ、でもトーリにそんな事しないよ!?」
「わかってる。私はリエルにそんな事しないし、やらないって信じてる」
「だよな。盗んでしまう。これが国の戦争の真実に近いかな。いやーむしろ、トーリを殴ってそのモノをリエルが奪い取る感じだ」
「うへぇ……いやだね戦争って」
「しかし、これは当事者が二人しかいないから、俺や、他の皆もどっちが正しいのか分からないし、もう決着がついてるから、何も言いようがない。じゃあ、前提をかえようか、その欲しいモノをトーリ以外の人間がいる間に盗もうとリエルは思うかな?」
「しないよ、それ僕が悪いってばれてるよ。……ああ、そういう事なんだね。各国、多くの国と繋がっている、監視されているのに、戦争を吹っかけたら、一気に諸外国が敵になるんだ」
そう、私が邪悪な笑みといったのはここが原因です。
私達が手を下さずとも、お互いがお互いで監視し、物資を一国に法外な値をつけても、他国で買えばいいし、その法外な値を付けた国は評判が落ちる。
逆にその国に憤慨して戦争を起こしても、他に手段があるのに、短絡的な行動を起こしたと、諸外国の評判が落ちる。
ある程度モノによっては、値は上下するようですが、一国だけに交易して一方的に値を吊り上げられることはないです。
モノを売る側も周りの価格に合わせて、色々取引するでしょうから、一定の価格で収まるはずです。
というか、ゲートを使って交易するのであれば、その価格情報はすべて私達が握ることになるはずです。
……お兄さん、恐ろしい事を考えますね。
「リエルさんの言った通り、戦争を仕掛けた理由が私欲と判断される様な行動をとれば、大義名分で多くの国が同盟を組み、その国を落とし、利権を分けるでしょう。余程の暗愚が国を治めていない限り、戦争を起こすメリットが無くなります。寧ろ国がなくなる危険性が格段にあがります。だれも戦争なんてしないようになるはずです」
「……流石我が夫。というべきなのでしょうが、それでも仕方なくや、お互いの主張の違いで戦争は起こるわよ。そこはどうするの?」
ですねー、世の中仕方なくってのが多いです。
まあ、それが許せる範囲かは別ですが。
「んなのほっとけ、国民が養えないから仕方なく戦争を起こすなら、そもそもその国の手腕の問題だ。国としての寿命か、土地がやせているのか、それとも暗愚か、そんな状態で国であろうとするのが問題。他所の国に併合されればいいだけだ。誇りで飯は食えん。そしてお互いの主張で戦争始める所は、それが長引けば長引く程、国民が離れていくだろうな。死にたくないし、移動するゲートはあるんだし、安全な国に退避するだろうよ」
お兄さんの説明で、セラリアも口を開けて茫然としています。
ああ、ゲートはそう言う使い方もあるんですね。
交易ができるってことは他の人も通れるってことです。
「……戦争するような国には余程の愛着が無い限り、人はとどまらない。……戦争をするメリットが本当にないわね。戦争すればするほど、人は、いえ安全を求める人々は離れていく。傭兵や成り上がりを目指す人は集まるでしょうが……」
「それも少数でしょう。戦争を起こした時点で各国から睨まれています。もう勝機などはありません。……私なら、各国に要請して、物資を締め上げますね。そうすれば戦争すらできないでしょうから」
おお、シェーラ様も恐ろしい事をいいますね。
物資が無ければ戦争なんてできません。
「ということだ。セラリアとシェーラが言うように、俺が国を興して、大陸統一を目指してもいいけど、どっちが色々な意味で時間や、損耗が激しいか考えるとな……」
「ユキ様の案が一番被害が少なく済むと私は思います」
「……私達がロシュールを落としても、その他の国を落としても、国内を安定、平定するのに、とてつもない時間と労力、物資がかかるわ。それを見越して、今ある国でそのまま管理を任せようってことね?」
「管理とは酷い言い方だな。俺は、戦争が起こらないように手を打つだけだけどな」
「はっ、よくいうわよ。これはあなたの提案に乗らない国はどう見ても、他国より遅れをとる。物資にしても、人材にしても、情報にしても、これはある意味脅しよ。ゲートを作らなければ国が滅びるっていう。あなたの思い通りに動いてる国を管理を任せているって表現はまちがっているかしら?」
お兄さんのいう事は、大陸を統一するより、時間が短く、被害も少ない方法です。
なんというか、よくもまあ、こんな事思いつきますね。
「セラリアは嫌かこういうの?」
「いえ、流石私の夫よ。嬉しく思うわ。でも、ここのダンジョンはもう独立する必要がありそうね」
「そうなんだよな~」
「そうですね。セラリア様の言う通り、これからユキ様の案を通すのであれば、このダンジョンが一国の下についているという図は不味いです。ロシュールがすべてを握っていると思われますから」
「まあ、独立を認めてもらうのは、さっきの話をすれば大幅な利益の増加が見込めるからいいけど、独立しても多少はロシュールの一部とみられそうね……」
「そこのところは、これからの私達の手腕ということでしょう。そうですよね、ユキ様?」
「……あーまー、面倒ばかりですまん」
お兄さんはそう言って私達に頭を下げます。
最初にであった頃もこんな感じでしたっけ?
「ん? なんで皆笑ってるんだ?」
頭を上げて私達の様子をみて首を傾げるお兄さん。
「いえいえ、相変わらず。本当に変わらないですねお兄さんは」
さあ、これから各国との交渉でさらに忙しくなりますね。
ロシュール、リテア、ガルツの3国はもうつてが…というより、かなりの権限を持っている人がもう身内にいます。
大国4つの内3つがつながるなら、小国はこぞって賛同するでしょうし……おや、これ布石だったんですか?
と、そんな事より、これから2週間程休憩日です。
お兄さんの子供でもこさえますか。
正直こっちのほうが重要度が高い私でした。
ふははは!!
面倒な政治はしないし、一々反発なんかの対応なんかしない!!
丸投げ!!
ゲートも各国にできるし、もううはうは!!




