第79掘:王様乗り込む
王様乗り込む
side:アーリア・ラス・ロシュール ロシュール次期女王
「いらっしゃい。お姉さま」
私の前には大事な妹が迎えに立っていた。
でも、素直に私は喜ぶことができないでいた。
「まったく、トンデモないことをしてくれたわね」
私はそう返すのがやっとだった。
セラリアは良くも悪くも、剣に生きる道を選んでいた。
だが、今回の争乱でセラリアは自分の道を見い出だしたのか、一人の男にあっさり嫁いでいった。
お父様は特に反対し、支援の金額もかなりぎりぎりまで絞ったりしていたが、全くの無意味だった。
結局、セラリアの見立て通り、あの男、ダンジョンマスターは傑物だったとみるべきだろう。
「トンデモないこと? なんの事かしら? 私は私の与えられた領地を豊かにするために、周りと交渉を重ねていただけですよ?」
この子は~。
頭を押さえつつ、妹の言った事を噛みしめる。
そう、セラリアがしたのは、表向きどう見ても交渉の末の物。
だが、裏は下手をすれば一国が傾くようなことばかりしていたのだ。
いえ、国からすればどんな事でも国が傾くことはあり得ます。
些細な事が原因だったりするのが世の常です。
この事態を招いたのは、セラリアではなく、父と私という国の頂点に立つ私達の責任でしょう……。
「しかし、よくもまあ、御父上とお姉さま、お二人が王都を離れられましたね。空けている間に、乗っ取られたりして」
そう今私達は、セラリアが領地としているダンジョンに訪れている。
表向きは実の妹を心配して、真実は、このダンジョンの危険性を把握するため。
「それはないな。いや、むしろ少し王都を離れただけで玉座を追われるなら、その程度というものよ」
「そうですわね」
「さて、ゆっくり話したいのだが…少し質問をよいかセラリア?」
「何でしょうか?」
「……いや、わずかここに来てから2か月とちょっとで、しっかり木々を切り開き、しっかりした建物があるのは凄いとおもう。しかし、これでは現在いるはずのリテアからの移住者、七千人もいるとは思えんのだが」
お父様の言う通り、現在ダンジョンを囲むようにできている、小規模な村といった建物があるだけ、どこに手紙にあった様な大人数が暮らしていける空間があるのだろうか?
「そして、わしの前に婿殿が姿を現さないとはどういう事か?」
最後の一言には少し怒りが入っている。
お父様は娘にべったりですからね。
今回はセラリアが自ら立候補しなければ、適当な貴族の娘をダンジョンマスターに嫁がせるつもりでした。
わざわざきた、王族の訪問。
ましてや、妻の父や姉に姿を現さないとは、不敬がすぎるとお父様は怒っているのです。
「はっ、なにを言っているのです。普通であるなら、我々が頭を地にこすりつけて、感謝の意を示さなければならないのに、お返しが、貴族の位を渡して、勝手に女性を押し付けて監視することのどこに、王族や国に敬意を払う理由があるのかしら?」
「ぐっ」
「さらに、税金をむしり取ろうとする。馬鹿なのかしら? 夫が了承したからよいものを、元来通り、伝承通りのダンジョンマスターなら攻め滅ぼされても可笑しくはない下策な対応ね」
「ぬぬっ!? しかし、徴税は5年後と…」
「……本気で言ってる? 何年後なんて関係ないわ、本来であるなら、ここはすでに独立国家として成り立っている。それなのに、そっちの事情を考えて、一応ロシュールに属しているだけ。税を取ろうとする姿勢だけで、夫に対して敬意を払っていないわ。…クソ親父、夫が首を獲れと言うなら、この場で刎ねてる所よ」
セラリアから凄い闘気がでている。
……前より強くなっている?
しかし、いくら、リテアの強硬派と一戦交えたぐらいで、目に見えてわかる程、レベルが上がったりはしないはずだけど……。
「む、昔は…わしの…お父様のお嫁さんになるっていってたのに…」
「…死ね」
「ちょっ!?」
お父様もお遊びがすぎます。
その話はすればセラリアが激昂するのは分かってるくせに!!
ガキン!!
「おおっ!?」
セラリアの剣を受け止めたお父様の体が浮き上がり、そのまま横殴りに、壁へ飛んでいきます。
ドカン!!
な、な、腕力だけで、お父様を吹き飛ばした!?
お父様もレベルは92という高レベル。
そして剣のレベルも5という人類最高峰。
それを、鞘に入れたままの変な剣で吹き飛ばした!?
「…一々子供みたいに死んだふりはやめてくださいな。夫は現在ダンジョンの評定で忙しいのです。ですので、私が外に迎え上がった次第です」
セラリアがつまらなそうに、土煙が上がってるところを見つめて言う。
「おー、おー、また腕を上げた様じゃな。しかし、これほどとはな。で、外に迎えだと? ここがダンジョンの街ではないのか?」
お父様も何事もなかったかのようにこちらに歩いてくる。
「…はぁ、まあとりあえずついてきてください。ここで、色々話すのは不適切すぎます。夫も会議場所につくころには、こちらに来られますから」
セラリアはそう言って村の中央。
ダンジョンの入口へと歩いていきます。
「クアル、今日は特に警備をしっかりね」
「はっ!! といっても、中に入って無事に済むとは思えませんけどね」
「馬鹿いうんじゃないの。夫の手を煩わせたら減給するわよ」
「「「警備を開始します!!」」」
セラリアの言に敬礼で返すセラリアの直轄部隊。
相変わらずよく訓練されている。
……心なしか、セラリアと同じくたった2か月で極端に強くなったような気が……。
そして、ダンジョンの中に入って私達の常識が崩れていきました。
今回の件で一言文句のあった大臣達も、ダンジョンの中にある街に唖然としています。
「とりあえず、街の説明を私自ら行いましょう。夫もそれが終わるのに合わせて戻ると思いますので」
セラリアはそう言ってくれたのですが、私達全員は目の前に広がる光景に反応できないでいました。
それから、セラリアに導かれるまま、ダンジョンの中にある街を見て回りました。
なんという、予想もできない、理にかなった街の区画分け、信じられない嗜好品の数々、娯楽施設という庶民でも使える国庫を潤す施設。
そして、階層を利用した、施設の種類分け、学校という本来であれば貴族でしか知識を得られない場所を庶子へ解放、子供の教育を推し進め人材を確保。
なにもかもが、まるで王都と違います。
……正直、負けています。
人の使い方から、ここにある技術力、そしてここの利点。
無駄など全くありません。
「さて、どうでしたでしょうか? 今日一日では詳しく説明できない所も多々ありますが、一週間はお過ごしの予定ですし、明日からじっくりお楽しみください」
セラリアは私達を「そうごうちょうしゃ」という所の会議室に連れて行って、私達をそこの席につかせて、お茶を出してくれます。
「でも、明日からお楽しみいただくために、そちらが来た目的をお聞きしましょうか? お仕事を終えなければ、お楽しみも何もありませんからね」
「お、おお、そうであった。しかし、セラリアの婿が来ない事には……」
お父様がそう言いかけると、会議室の扉が開いて、コール画面で一度だけ見た男がのんびり入ってきます。
「丁度ね。あなた。ダンジョンの評定はどうかしら?」
「まだ3日目だしな、まだまだ最初だな。下手すれば評定期間が延びるかもだと」
「仕方ないわね。中規模ダンジョンが最低6つあるモノね」
…あのセラリアが嬉しそうに男と会話している所を見ることになるとは思わなかった。
お父様も他の大臣もセラリアの気性をしっているので、目を丸々とさせて驚いている。
「さてと、この度はお出迎えできなくてもうしわけない。王に頂いた侯爵の務めを果たすため、領民の暮らしを支える為今の今まで仕事をしておりました。なにせ、元手も何もない状態ですので」
この男、さらりと嫌味を言ってきた。
資金もなにも与えず、そっちの裁量に任せると言ってしまったのは私達だ、これで下手に文句を言えば……。
「ユキ侯爵殿、いくらセラリア様の婿とはいえ失礼が過ぎるのではないのですかな?」
一人の大臣が、ダンジョンマスター…ユキさんを糾弾します。
「ええ、ですからここでこうして謝っています。私の能力不足ではありますが、見本があれば見せて欲しいものです。だれか白金貨300枚で300人の奴隷を連れて、2か月でここまで以上にできる方がいれば紹介いただきたい。是非参考にさせてもらいましょう。それとも、大臣殿が見せてくれると?」
「……い、いやそれは」
糾弾した大臣が苦虫を噛み潰したような顔をする。
そう、誰も彼に貸しはないのだ。
むしろ、この場の全員がユキさんに借りがあるのだ。
国規模での大きな借りが……。
「出迎えの事はよい。そちらの事情もセラリアより聞いておる。リテアにある冒険者本部のグランドマスターがきてダンジョン評定を行っているのであれば、当然の処置。むしろ、席をはずして大丈夫なのか?」
お父様がそういうと、文句を言っていた大臣が顔を青くします。
そう、冒険者ギルドとはリテアに本部を置いていますが、その規模はこの大陸中に広がっています。
いえ、噂ですが、この大陸すら飛び越え、あの魔境の海の先にある大地にも冒険者ギルドがあると聞きます。
その力は一国では敵わないと言われるほどです。
人材にしても、財力にしても……。
そのギルドの長が来ているのだ、それを蔑ろにしろなどと言うのは、冒険者ギルドにケンカを売れと言うことに等しい。
「その点は大丈夫です。本日で評定3日目。まだまだ始まったばかりです。グランドマスターもこちらの生活に興味があり早目に仕事を引き上げ、色々お楽しみいただいております」
「そうか、ならばよい。では本題だ、今回のリテアとの一件なにか弁明は無いのか?」
「はぁ? とりあえず、リテアからセラリアに個人的に送られた財はガルツ国との和解に有効につかわれたとか。それが問題でも?」
「そ、その事はよい!! 問題は勝手にリテアと戦端を開くようなまねをなぜしたのかという事だ!!」
いきなり痛い所をついてきましたね。
そう、今回私達はリテアの強硬派とはいえ戦端を開いた責任を問いに来たのですが、その戦いはセラリア陣頭指揮の下、圧勝。
その結果、強硬派はものの見事にリテアでの立場を失い、セラリアという規格外の戦力を持つ相手を怒らせたとして、強硬派の私財没収、賠償いえ、謝罪としてセラリアが貰い受け、それを私達ロシュールがガルツに対しての賠償に使うように輸送してきたのだ。
その私財の総額凡そ白金貨3万枚。
私達の年間国家予算の5分の1程の大金だ。
今回のガルツとの争いは魔王の策謀ということで、どちらが悪いわけでもないということにはなったが、お互い被った被害がそれなりにある。
しかし、どちらも賠償をしたくないという、悪循環に陥っていた。
それに投じられた、自由に使ってもいいお金がセラリアから渡されたのだ。
それをガルツの賠償と自国の補填にあてて、ガルツも納得してくれて緊張状態を解いてくれた。
「なるほど、お父様やお姉さま、大臣達は私達にルルアを見殺しにし、強硬派に政権を握らせて、3国の戦争状態を続けたいと言うのですね?」
「「「……」」」
「では、まずガルツに渡したという賠償金を取り返してもらいましょうか。あれは私が国を思って渡したのですが、まさか戦争を望んでいたとは……。リテアの方もルルアを首にして送り付け、ロシュール国と戦争状態にすぐにでも致しましょう」
本来は国を危険にさらしたとして、注意と賠償をこのダンジョンから搾り取るつもりだった大臣達が青ざめています。
私達も大臣達程ではないですが、それなりの領主としての自覚を促して欲しいと思いきたのですが……。
自覚が足りなかったのは私達だったようです。
セラリアの気持ち一つで3国がいつでも戦争状態になりうると、彼女がそんな行動をとるとは思っていなかったのです。
「反対意見がありませんわね? では、戦争状態にするため、この街にいるルルアをまずは処刑いたしましょう」
「どういう事かしら、ルルア様をこちらで保護してリテアに送り届けたのは知っています。ですが、セラリアの話ではまるでこのダンジョンにルルア様がいるようなセリフでしたが?」
「いますよ。リテアの謝罪と私達の融和としてルルアは我が夫に嫁ぎました。その融和の証でもあるルルアを首にして送り付ければ、現聖女であるアルシュテール様はすかさず事を起こすでしょう」
まずい、まずすぎる。
まさか、ルルア様がユキさんに嫁いでいたなんて。
このダンジョンを表向きに断罪すれば、リテアを助けたことが間違いだったと喧伝するような物。
ルルア様が嫁いでるということは、リテアにとってのここのダンジョンの重要度はかなりのもの、下手に手を出すこともできない……。
「理解はできましたか? では今からルルアを首にしま…」
「まって、待ちなさい!! セラリア!!」
「何でしょうかお姉さま?」
「今回の責は問いません!! ですからルルア様の処刑はやめなさい!! 我が国は戦争を望んではいません!! よろしいですねお父様!!」
私がそう勢いにまくしたててお父様に同意を求めます。
「うむ、今回は不問とする。しかし独断、褒美は無いということで罰とする。みなよいな?」
大臣達はその場で顔を上下に振る。
「何を今更、褒美なんてあげた事ないくせに」
セラリアがとても嫌そうな顔をする。
「…コホン。では視察は又明日からだが、セラリア……いや婿殿にもう一件話がある」
「私にですか? セラリアではなく?」
「うむ。この件はリテアがどう反応するか心配であったが、すでにルルア殿が嫁いでいるのなら何も問題はあるまい」
「どういうことでしょうか?」
「今回、セラリアから多大な額をもらい、ガルツとの和解になったのは理解しておるな?」
「ええそれは」
「しかし、これではガルツの面目が立たんのだ。いくらロシュールが先に戦端を開いたとはいえ、魔王の策謀。そして我らだけが頭を下げて多額の金を支払った」
「ああ、ガルツは何もお返しをしない失礼な国と諸外国に伝わると?」
「うむ、そこでガルツから姫を預かった」
「……すげー嫌な予感がするんですが」
「第7王女でな、我が国へのお返しとして送り付けられてきた。諸外国に対してはお礼返し……」
「本音は厄介払いですか?」
「……言いづらいがそうなる。下手に大臣達の嫁と迎えるわけにもいかん」
「第7ね……下手に迎えてロシュールの内情が知られるのも困るし、雑に扱えばそれはそれでガルツとの信頼を壊しかねないと?」
「そうだな、向こうにとってはいなくなっても何も痛くもかゆくもない。第7王女にはガルツ本国ではもう立場も何もないのでのう」
「そりゃ、第7ですからね。その前のご兄弟がどうにでも役職は継いでいる事でしょう。真面目に厄介払いですね」
「そこで、婿殿だ!! 婿殿はロシュールの細かい内情はしらぬし、セラリアに次いで、ルルア殿というリテアの大物を嫁として迎えておる。婿殿が王女を引き受けてくれれば、ガルツも納得しよう!!」
「……まさか、連れてきてるんですか?」
「ああ!!」
お父様がそう答えると、セラリアがものすごい勢いでお父様に踏み込んでいた。
「クソ親父!! しねぇえぇぇぇぇええ!!」
セラリアの気持ちは分かりますが、引き受けてくれないと困ります。
あとはユキさん次第でしょうか。
あ、これって少しは仕返しができたのでしょうか?
また嫁追加。
まあ、詳しく書くか、幽閉にするかは別問題。
これでガルツともある意味、繋がりができましたw




