落とし穴6掘:住人問題
今回はちょいと重いお話
住人問題
side:トーリ
執務室でいつもの通り、私は警察のお仕事をしている。
でも、最近はリテアからの大量移住者で、やっぱり問題が多くなっている。
「代表。訓練所でいざこざです」
「リエルは?」
「リエル代表は現在、住民区の問題を解決中です」
「訓練所の警備している人たちは?」
「なんというか、代表に会わせろと一点張りでして。奴隷の私達とは話さないと」
「はぁ、また馬鹿ですか。妖精族の人員は?」
「妖精族も同じく人族ではないから口を挟むなと」
「……状況は?」
「訓練所の一角、講義室Bに立てこもっております。人数は12・3人程ですね」
「わかりました。向かいます。道すがら詳しい状況を」
私はそう言って、椅子から立ち。
ドアを開けて訓練所へ向かいます。
「で、どの訓練棟?」
「はい訓練棟4棟です」
現在数多の移住者の為、2棟あった訓練棟を増設。現在は5棟ある。
基本400人前後なので、2棟で人数的にはたりるのだが、トイレやお風呂はちょっと回転が間に合わないので、4棟まで解放している。
「人族ってことは、相手は人族?」
「はい、私達獣人族や妖精族とは一緒にいられないと」
「……最初から来なければいいのに」
「まったくです」
「とりあえず、一応説得はしますが追放予定で鎮圧します」
「はい、お願いします」
この手の手合いは今日のは過激として、大小、毎日報告が上がっています。
こっちの説明を聞いていないのか甚だ疑問です。
こんな事をしても自分の首を絞めるだけなのに。
そんな事を考えていると、現場にたどり着きます。
「近寄るな!! 代表を呼べ!! お前等じゃ話にならねえ!!」
「そうよ、そうよ!! 私達が話があるのは代表よ!!」
「「「そうだ!!」」」
あーメンドクサイ。
あんなに机をばらしてバリケード作るなんて、後片付けが大変です。
「はい、代表のトーリです。貴方達はすぐにそのバリケードを解いてこちらに来てください。公共物の破損に執行妨害ですよ? なんでこんなことをしたんですか?」
「お、ようやく来たな!! 俺達は人族の権利向上を願うものだ!!」
「は?」
「ここの領主はセラリア様だ!! なのに、なぜ俺達は他の種族と同じ扱いなんだ!! 俺達はもっと優遇されるべきだ!!」
「そうよ!! 私達人族は偉いのよ!!」
「で、具体的な要求は?」
「……」
「……」
私が睨みを効かせると途端に静かになります。
「何をもって権利の向上とするのですか? 答えてくださいな? それとも、エルジュ様やセラリア様が皆平等にと言ってる政策が気に食わないだけですか?」
「そ、それは……」
「当ててあげましょうか? 各施設の無料使用、商店への厚遇といったところですか?」
「そ、そうよ!!」
「馬鹿言わないでください。正直に言ってくださいな。お金が欲しいだけでしょう?」
「「「っ・・・!?」」」
相手は全員目を丸くして驚いています。
「全員の身元は確認してます。何のために身分証や戸籍を作ったと思っているんですか? 貴方達、全員が各施設や商店でトラブル起こしていますね。しかもほとんどが窃盗に近いものばかり、貴方達のお金の流れも調べましたが、只の散財。これで、どうやってお金以外の目的を探せと?」
それをその場でいうと、様子を窺っていた他の移住者の目がとても冷たくなる。
それはそうでしょう。ただの子供の我儘なんですから。
私がそう言って、署員からもらった資料に目を通す。
ん? これは…後で相談してみますか。
「さてここで最後の通告です。そちらの要求は受け入れるに値しません。いま大人しく逮捕されるなら、強制労働数か月で穏便にすませます。それが嫌なら、このダンジョンから追放となりますがよろしいでしょうか?」
「う、うそつくな!! お、俺達を追い出したら、悪評が広がるぜ!!」
「各国に話は通しています。この特殊な奴隷の首輪をつけて放逐します。何、奴隷みたいな扱いではありません。ただ、このダンジョンに入れなくなるだけです。まあ、その首輪は私達のダンジョンで迷惑行為を働いて追放されたという意味も持ちますが、頑張ってください。私達との友好国からは白い眼でみられることでしょう」
「「「…っつ!!?」」」
彼等はかなり動揺してます。
…正直、こんな事が上手くいくと思ってる時点でダメダメです。
「では、拘束させてもらいます。全員逮捕後罰金、追放となりますので頑張ってくださいね」
「ちょっ…!!」
「……という事が、ありまして」
「僕の方は、エルフ族と猫人族のケンカだったな。あれ、種族の文化違いみたいな話だったよ」
「私の方の商店も商品の盗みが多少ありますね。ま、魔術の関係でレジを通さないと麻痺するので簡単にばれるんですが。スーパーラッツは特に、あれだけ商品置いてますからね」
「娯楽施設の温泉も大変ですよ。最近は少なくなりましたが、石鹸やシャンプーを持ち出す愚か者が多い事。私すこし本気で怒っちゃいました」
「……ナールジアさん手加減はしてください。そのおかげで、フロント焦げたんですから」
夜、旅館に帰ってから、今日の出来事を話すと、どこも同じような感じでトラブルを抱えているようです。
「ま、世の中そんなもんだ。徐々に住人のモラルを上げていけばいい。すぐに理解できるものでもないからな。一つ一つ積み重ねて、住人の皆がそれを理解していくってことだな。どんどん改善はされているんだろう?」
「はい、全体的にリテアからの移住が開始した時よりはトラブルは減っています。寧ろ、移住者、住人が協力して、このダンジョンにそぐわない、不適切な行為は止めてくれて、通報するケースが多くなってます」
私はユキさんの話から、ここ最近の問題件数を頭に浮かべて返事をします。
「それはよかった。よくよく考えれば、最初は色々ありましたねー」
「だよねー。いきなり、部屋が一緒なんて嫌だ!! いう馬鹿もいたからね。僕唖然としちゃったよ」
「ありましたね。酷いのは私はパンしか食べない!! なんてのもいたわね」
そうやって苦労話をしていくと、セラリア様が酷く怒気を放ってやってきました。
「…どうしたんですか?」
「今日、巡回でレイプされていた女性を発見したわ」
「「「!!?」」」
「…被害者は?」
「…命に別状はないけど、精神的にはズタズタよ。話せる状態じゃないわ」
「…あい「斬ったわよ」」
「「「……」」」
今の所セラリア様が言ったトラブルはなかったわけではありません。
でもセラリア様が直接発見されたのは今回が初めてです。
「婦女暴行。児童暴行。強姦。その類は斬り捨てるって言ってるわ。まったく、汚いものを見たわ。明日トーリの方に関係書類が届くわ、処理お願い」
「はい」
「ラビリス。今回の広報はしっかり今回の事件を報道して、非道な犯罪には容赦はしないと」
「…わかったわ」
「たく、どこにでも屑はいるわね」
セラリア様はそう言って、ユキさんの胸に飛び込みます。
「ごめんな」
「…あなたのせいじゃないわ。私がまだまだ甘いのよ。あんなことは何処でも起こってる、それなのに、あの場面をみたら気持ちが抑えられなかった。……女性をあんな風に」
ユキさんは優しくセラリア様を抱きしめてあげます。
…最近セラリア様が、ユキさんにべったりな気がします。
「と、そこはいいとして。あなたは間違っても、強姦なんてするんじゃないわよ」
「しねーよ」
「「「ぶっ」」」
その一言で、暗かった空気が散逸します。
「世の中色々あってこそだ。全部上手くいくなんてありえないしな。これからもみんなよろしくたのむ」
ユキさんがそう言うと、みんな頷きます。
そうです。
今回の事件は悲しいですが、これで何もかも終わったわけじゃない。
ちゃんと、次につなげないと。
ああ、明日からまた忙しくなりそうですね。
何事も上手くはいかない。
何処にだって、大なり小なり問題を抱えて生きてるもんです。
ですけど、それを放置するのではなく、改善することを忘れずに、日々頑張っていくのが大事なのではないでしょうか。
あ、ユキは強姦なんてできません。
される側だと思いますw




