第75掘:わんわんおなめんな!!
今までで一番長いです。
ごめんよ、冒険者ギルドの仕組みとか出しておきたかったから。
わんわんおなめんな!!
side:冒険者 ランク7 オーヴィク
俺は今売り出し中の冒険者、まあ、最初から周りとは差があった。
才能って奴なんだろう。
初心者がランク1から4に上がるまで、時間がかかると言われている。
理由は、ランク4から通常の魔物退治ではなく、盗賊退治も含まれるからだ。
1から2までは普通にお手伝いみたいな、冒険者ギルドの評判をよくするための、村や街の中でのお手伝いが多い。
それをしっかりこなして、ようやく魔物退治ができるようになる。
ランク2からは言っての通り魔物退治が始まるが、ゴブリンやスライム、コボルト、キャタピー、などと言った、雑魚の相手だ。
まあ、力量があると思うなら強敵を探していいのだが、それはギルド評価にはつながらない。
魔物自体の買取りがあるだけで、ランクが上がったりしない。
よく考えられていると思う。
無駄に力量が伴わないルーキーが運よく勝って、不相応なランクになるのを防ぐためだ。
このランクは強さではなく、冒険者としての信頼ともいうべきだろう。
そして、俺は冒険者になって3年という短期間でランク7という、高ランクまでのぼりつめた。
言葉でランク7と簡単だが、実際はここまで上り詰めるのは並ではない。
ランク4の盗賊退治は魔物ではない人相手で一筋縄ではいかない。
このランク4で結構足止めを喰らったり、命を落とす冒険者が多い。
といっても、盗賊は盗賊だと見てわかるものではないから、より難易度の高い魔物退治がランクアップの条件になっていたりする。
冒険者全員が、ランクアップの為に盗賊を毎回退治するようでは、その国はもうどうしようもないだろう?
ランク5これも更に難易度が高い。
今までの依頼達成率とか、周りの評判とか、人格とかを問われるランクで、仕事の内容もさらに難しくなっている。
ダンジョンなどへ、特定のアイテムを探しに行ったりと精神的にもつらいものが多い。
魔物の強さも、厄介さや能力が上がって今までとは比べ物にならない。
初心者などがこのランク5クラスの魔物に会えば、なにもできずに全滅する可能性が非常に高い。
ランク6。俺がつい一か月前までいたランクだ。
ランク5での成果を問われ、さらにそれから評価をされて、特定のクエストをこなして上がれるランク。
この段階から指名依頼が入ってくる。
まあ、低ランクでも指名はあったりするが、このランクの指名依頼は機密だったりするものが多い。
大抵は魔物の大氾濫を調べるモノだ。
これはよく行われている。
でも公にすれば、周りがパニックになる。
日々の調査から大氾濫がわかるのだ。
だから、大抵の調査ははずれ、安全だということが分かるだけだ。
あとは、被害の多いダンジョンの攻略。
これは、ランク6の冒険者でもつらいものがある。
ダンジョンは一攫千金の場所ではあるが、未曽有の天災の場所であることは変わりない。
気が付けば、魔物が溢れて来たり、特定の階層に強力な魔物が出現したりする。
そういうのに対処として呼ばれるのだ。
ああ、そうだ。
冒険者ランクとは別に、ダンジョンランクというものが存在する。
ダンジョンを専門としている冒険者も多いので出来たそうだ。
基本的にダンジョンランクの方が上がりやすい。
特定の魔物と階層攻略が条件だからな。
だから、冒険者ランクが3でダンジョンランクが6なんて事もままある。
どっちが優れているとは言いづらいが、そうだな……。
冒険者ランクが高いと、コミュニケーションや周りの状況を判断するのに優れている。
総じて、拠点にしている、住人からの信頼が厚いというところか。
ダンジョンランクが高いと、トラップや不意打ちに強く、魔物に対しての対応力が非常に高い。
戦闘能力が高いと言ったところか。
因みに俺はダンジョンランクは5。
まあ近場にダンジョンがなかったのが原因。
攻略済みの訓練ダンジョンがあったから、そこでランクを上げたってわけだ。
冒険者ランクを上げるほうが、いいクエストや名声を得やすいって言うのも理由の一つだが。
そして、今俺がいるランク7。
ここからは更に厳しいし、機会も少ない。
そうだな、実質冒険者ランクは6が最高と思ったほうがいい。
ランク7からは、大規模の魔物の掃討戦における、部隊の統率が求められる。
しかも、統率ができるだけではランク7には上がれない。
俺の場合、以前拠点にしていた場所に、200体近い魔物の群れが来たことがあった。
他の所に援軍を求めてはいたが、時間的に間に合うようなものではなく。
現地の騎士団と冒険者、志願兵を纏めて対応に当たった。
その時は、騎士団を本隊として総勢100名に届かないぐらい。
志願兵も加わってだから、正直かなり不利だった。
当時ランク6の俺は俺に割り当てられた冒険者を纏めて、一角を守ることになったのだが……。
倍近い魔物の攻勢に、騎士団本隊が劣勢。
俺達の冒険者組も劣勢を強いられていて、情けないことに、俺と同じように部隊を任せられていた冒険者の一人が逃走。
俺は慌てて、その部隊と合流して、その一角を巻き返し、それに呼応するように、全体も巻き返して難を逃れた。
その時の功績が認められて俺はランク7になったってわけだ。
ランク8の上がり方は分からない。
モーブとかいう守りの英雄と言われる冒険者達は上がっているが、その話はどこかの英雄譚レベルの話だ。
当時、その町の領主は盗賊討伐で、ほとんどの戦力を出して町が空っぽに近かったらしい。
タイミング悪く、魔物の大群がきて、判断を仰ぐ領主もいない状況で、冒険者ギルドは人々を逃がす方向で、作戦を固めていたらしい。
その時、逃げる為の時間を稼ぐ為の防衛にいた冒険者が守りの英雄と言われるモーブだったらしい。
その圧倒的不利のなか、冒険者達をまとめ上げ、士気をあげて、4倍近い魔物の群れを押し返し、町を守り切ったらしい。
尊敬に値する人物だ。
いつか会ってみたいとは思うが、悲しいかな、今回起こった魔王の策謀のおかげで、彼が専属となっていた町が国の同士討ちで滅んでしまった。
生きているのなら、色々話を聞かせて欲しいのだが情報がいまだ混乱していて、探せない。
まあ、まだ終戦宣言から3か月。
落ち着くまでは一年はいるだろう。
ランク9、10に至っては不明。
守りの英雄がランク8と考えると、国とか魔王をどうにかしないといけないレベルじゃないのか?
「ねえ、オーヴィクどうしたの?」
「あ、すまない。俺もランク7になったんだなーってな」
「ふふ、貴方は立派な冒険者よ。私が保証してあげる」
俺がクエスト掲示板でぼーっとしてるのを不思議に思ったのか、パーティメンバーのラーリィが声をかけてくる。
ラーリィは俺がランク2の時、魔物退治して帰る最中、魔物に馬車が襲われていてそれを助けたのだが、遅かったらしく、ほとんどの人が死亡していた。
その中での少ない生き残りが当時奴隷のラーリィだった。
不幸中の幸いか、馬車の主人は生き残っていて、生き残りの奴隷は行く当てのない状態にならずにはすんだ。
一般的に奴隷は扱いが悪いイメージがある。
まあ、それも否定しないが、ボロボロの奴隷を欲しがる人はいない。
だから、最低限の衣食住は確保されるということだ。
奴隷商人にも良し悪しがあって、人攫いを引き受けて非道な売買をするものもいるが、生活の為仕方なく、家族を奴隷として売り渡し、それを買い取る商人もいるのだ。
後者の商人は全員飢えて死ぬしかないのを、一人をお金にして生き残る方法を示せる。
ある意味善行行為と見てもおかしくない。
俺が助けた商人は後者で、奴隷達は家族を生かすために自ら奴隷となった者ばかりだった。
商人も穏やかな人で、売る相手を選び、奴隷達にも狭くはあるが寝る場所、食べ物、簡易だが衣類も与えているいい人だった。
まあ、そんな縁があって当時駆け出しの俺が、ラーリィという可愛い女の子を奴隷として引き受けられた。
奴隷の価格はまちまちだが、ラーリィぐらいだと金貨7枚はすると商人さんはいっていた。
今の稼ぎでも金貨7枚は難易度の高いクエストを10個程クリアして手に入れられるかどうかだ。
というか、難易度の高いクエストが10個も転がっていることはないので、どれほどの大金かわかると思う。
これで、エルフとか狐人族、兎人族なんてのは白金貨があたり前の世界だと、まあその分可愛いのだろうけど。
ああ、女の子ばかりの説明になったが、戦闘要員としての男奴隷も人気があったりする。
正直ラーリィを引き受けた時は舞い上がって散財して、男の欲望を叩きつけたりしてしまった。
お蔭で貧しい期間がちらほらあったりしたが、ラーリィは笑って一緒にいてくれた。
そして、ラーリィが一人で食べていける様になったとき、奴隷から解放した。
これは俺の感謝の気持ちでもあった。
今まで俺の我儘に文句言わずついてきてくれて、夜にはしっかり包み込んでくれた彼女をこれ以上、俺の出世欲の為に、危険な事につきあわせるのはどうかと思ったからだ。
けど、ラーリィは今も一緒にいる。
彼女は自らの意志で俺について行くと言ってくれて、正直その時泣いてしまった。
で、他に仲間を作ったりして、今の俺がある。
才能なんていったりしたが、正直仲間のおかげだ。
でもリーダーはおれだから、ある程度ランクに応じた威厳とか自信ってのがいるらしい。
「おおい、オーヴィク。なんかギルドマスターが呼んでるぞ!!」
「こら、ラーリィといい感じなのに邪魔しないの!!」
残りのパーティメンバーが俺達を呼ぶ。
この二人は俺とラーリィと同じような関係で、その話を聞いてそれ以来一緒にパーティを組んでいる。
お互いに相手がいるから、険悪にもならないしな。
妊娠とかは魔法薬で抑えているが、いい加減どっかの専属になって腰を落ち着けたいとパーティで話してはいる。
そして、あるクエストがギルドマスターから依頼された。
「は? ダンジョンを作ったのでその評定ですか?」
いきなりぶっ飛んだ話で目を全員白黒させている。
「ロシュールの聖女エルジュ様がダンジョンを聖なる力で治めたという話はしっているな?」
「ええ、でもエルジュ様は魔王の策謀で暗殺されたと…」
ラーリィが何とか言葉を返す。
「うむ、それは事実だ。だが、それには続きがあってのう……」
それから、あらかたの話を聞いた。
エルジュ様が治めたダンジョンの管理権限を姉のセラリア様が引き継いだ事。
そのダンジョンの機能を使って、色々試しているとの事、移住者や魔物の生態など……。
今回のダンジョンの件も、ダンジョンの街の中にさらに、冒険者用のダンジョンを作ったらしい。
なんて無茶苦茶だ。
ダンジョンの中にダンジョンを?
でも、利点なども聞いて、そのダンジョン街が機能すれば、すさまじい利益や人の未来が切り開けるというのもよく分かった。
「わかりましたその依頼引き受けます」
「感謝する。3日後、他の冒険者たちと一緒にダンジョンへ我らと一緒に行ってもらうので準備を頼む」
「他の冒険者ですか?」
「ああ、セラリア様が戦女神と呼ばれておるのは知っておろう?」
「はい、名に違わぬクラスにレベルと伺がっています」
「その彼女だからこそ、性質の違うダンジョンを8つ作り、軍や冒険者の能力向上も狙っておるのじゃよ」
「8つもですか!?」
「そうじゃ、一応資料として、ダンジョンの階層数や地図はいただいているが、もう常識なぞ通用しないと思ったほうがいいじゃろう。それが8つじゃ、最低1つのダンジョンにつき2チームは探索に行かせるつもりじゃ」
「なるほど、それだけあれば俺達じゃ荷が重いですね」
「そういう事じゃ、そうじゃ、お前さん達から一つ推薦してもらおうかのう。ランク7の冒険者の推薦じゃ、それなりに頑張ってくれるじゃろうて」
「いいんですか? そんな大役の仕事相手を俺達が決めてしまって?」
「構わんよ。ランク7と言えば、いまリテア冒険者ギルドにはお前さん達しかおらん。まあ推薦はランク5か6に限定させてもらうが。正直な話、目ぼしいランク6には声をかけてしまったのじゃよ。いや、ランク6には全員声をかけたというべきじゃな」
「あの、今リテアにランク6の冒険者は何人ぐらいいるのでしょうか?」
「全体で言えば70人ほどじゃな。でもパーティじゃなかったり、仕事中というのもあってのう。実質参加が決まっているのは8チームほどなんじゃよ」
なるほどな、そういう事ならあの人たちなら……。
「今すぐ思いつくランク5の冒険者がいますがいいでしょうか?」
「おお、言ってみてくれ」
「ルーメル国のタナカさんが率いる勇者様達はどうでしょうか? 彼等は戦力的にも精神的にも申し分ないはずですが」
そうルーメル国が召喚した異世界の勇者達に、この仕事は適任ではないだろうか。
そして、タナカさん自身、勇者達より強いと俺は思う。
本人は「レベル1だ」と周囲から笑われてもその事実を隠そうともしない。
だがその実、戦闘能力は俺達ランク7よりも個人で上だ。
リテア近辺で魔物の討伐をしていた時だ、情報よりも数が多く、俺達でも手こずるオーガテンペストがオーガを率いていたのだ。
その時はなんとか、一角を切りくずして、逃げようと思っていたのだが……。
爆発音が響き、一瞬でオーガテンペストの頭部が四散し、残りのオーガも次々と頭部が四散して倒れていった。
そのあとに現れたのが、勇者達を率いるタナカさんだった。
「すまない。危険だと思って手助けをさせてもらった。勿論こっちが勝手にやったことだ、魔物の素材はそちらでもっていってかまわない」
「ちょ!? どうやってあの障害物が多い森で的確に狙撃できるの!?」
「……相変わらず、物凄いですわね」
狙撃? でもタナカさんは弓をもっていなかった。
魔術師なのか?
「あ、いえ。助かりました。ありがとうございます。俺はオーヴィク。冒険者をしています」
「……俺はタナカという」
「僕はヒカリ」
「ナデシコですわ」
「俺はアキラ。そしてこっちは…」
そうやって自己紹介をして、リテアまで戻って別れた。
後日に彼等が勇者達と知ったが、なるほどその名にふさわしい実力だ。
「ああ、タナカ殿達は今回の件は参加できぬ。あくまでもこれはロシュール国とリテア国での機密での、彼等は立場上ルーメル国の重鎮じゃ、ダンジョンが暴れ出したわけでもない。下手にルーメル国をかませると、外交問題になりかねん」
「ああ、そういう関係ですか」
それでは、彼等はこのクエストを受けるわけにはいかないな。
「まあ、未確認ではあるが、守りの英雄がリテアに訪れているという話もある。事実ならば彼等にクエストを受けて貰えば2チーム分の活躍はしてもらえるだろう」
「本当ですか!!」
「ほほほ、やはり守りの英雄は人気じゃのう。まあ、まて、まだ確認中じゃ。とりあえず話はこんな所だ、準備をしてもらえるとありがたい」
「と、すいません。わかりました。失礼します」
そうやって、俺達は評定のクエストを引き受けて、このダンジョンにやってきたのだが……。
「うそ…だろ。これがダンジョンの中なのか?」
「空があるわ…」
「木も、川も…」
「畑まである…ってあれオークじゃねえか!? 畑仕事してる!?」
俺達の目の前に現れたのは、リテアの大聖堂の下にダンジョンがあるという驚愕の事実と、ロシュールとリテアをつなぐ転移陣があるというトンデモない事実。
そして、それは序ノ口にすぎなかった。
セラリア様が直々に治めているというダンジョンにたどり着けば、今までの常識が追い付かない、建物やお店、スーパーラッツだとか言ったか? 珍しい商品の数々。
そうやって茫然としてると、ダンジョンの説明が行われて、彼等がやってきた。
「この度、評定クエストに参加してくれることになった。みんなも知っているだろう。ランク8の守りの英雄達だ!!」
「「「おおー!!」」」
冒険者ギルドが一瞬でざわめいて、俺も正気にもどる。
あれが、守りの英雄か。
多分槍を持っているのが閃光の槍のライヤ。
杖を持っているのが賢者カース。
そして…変な男と話をしている剣を持ったあの人が、リーダーのモーブ!!
「…よ。無理だって……俺達を……楽しい…のか!!」
「……いや………だろ? ……で………俺はお前たちに期待している!!」
「別方向だろ絶対!!」
「否定はしない!!」
「しろよ!!」
「えーと、すまぬが、モーブ殿。挨拶を頼めるかの?」
「ほれ、行ってこい」
「ちくしょー!! あとで、絶対いい酒出してもらうからな!!」
きっと、演技なんだろう。
皆がモーブさんの演技をみて微笑んでいる。
なるほど、これが英雄の成せる業か。 ※違います。演技ではなく、心の底から思っています。
「…うぉほん。えー、まあ俺が守りの英雄なんて呼ばれているモーブだ。だが、そんなのは関係ない。お前等だって必死でここまでやってきたんだからな。今までの自分を信じてやれ、俺との差なんてないと思う」
彼が言う言葉を全員が静かに聞いている。
やっぱり、違う。
自分の力に驕ったりしない立派な人達だ。
「そして、今日ここにいるのは、冒険者の中からの選りすぐりだと聞いている。まあ言わなくてもいいと思うが言わせてくれ。評定ではあるが一つ間違えば死ぬ!! 決して油断するな!! このダンジョンは性格の厭らしい奴が作って…いて!?」
そんな風に言っていると、奥から貴族であろう女性がでてきた。
「私が一応ここの領主なのだけど? 誰の性格が厭らしいですって? まあ、貴方達が行くダンジョンについては御悔み申し上げるわ。でもこのダンジョンがマイナスイメージになるような事は言わないで頂戴な」
領主?
ということは、この方がセラリア様!?
皆も気が付いたのか、膝をつこうとするが……。
「頭をあげなさい。こちらが請うて来てもらったのです。貴方達の協力に頭を下げるべきはこちらです。この度は私に助力してくれて感謝するわ。ありがとう」
そういって、セラリア様が頭を下げる。
そのあと簡単な説明が終わり俺達は指定のダンジョンを攻略するために、もう1つのチームとそのダンジョンに赴いた。
「さて、君達はどう動くつもりだ?」
「そりゃ、攻略してしまうのさ!! セラリア様だってああも頭を下げたんだ。ここで頑張れば、覚えめでたく、名誉もお金もがっぽりだぜ!!」
俺と一緒にきたチームはランク6なんだが、どうにも落ち着きがない。
王族に頭を下げられて興奮しているようだ。
「悪いが俺達は先にいくぜ!! 運が良ければ、セラリア様から求婚されるかもな!!」
そう言ってそのチームは笑いながら、先にダンジョンに入って行ってしまった。
「大丈夫かしら?」
ラーリィのいう事に俺達全員が同じ思いになる。
「…まあ、一階層でやられるような事はないだろう…」
俺はなんとかそんな言葉を絞り出して、遅れてダンジョンに入る。
そのダンジョンはやはり、モーブさんが言っていたように普通ではなかった。
「……広い草原ね」
「奥に森と小道が見えるな」
「一応、周りに魔物は見えないわ」
瞬時に円陣を組んで辺りを見回す。
初めての場所を探索するのはには当然の行為だ。
「……下への階段はどこだと思う?」
「そりゃ…奥だろ?」
「…奥って何処よ……」
そう、この一階層は迷路ではない、見渡す限り草原と森があるだけだ。
何処が奥なのかわからない。
「とりあえずだ、草原にそれらしいものはないから森の奥だと思う。見えている小道をまずは通ろうと思うけどどうだ?」
「うん、私もそれがいいと思うわ」
「そうね。万が一囲まれても、道がある分撤退はしやすいでしょう」
「俺も異存はないぞ」
そうやって、俺達が小道を進んでいるとコボルトが数匹でてきたが、初心者相手の魔物なので、苦戦もすることなく撃破。
「一階層はコボルトか、うん良心的だと思うわ」
「そうね。ルーキーには丁度いい場所ね」
「だな、特殊な状態もあるにはあるが、しっかり前情報をきいてりゃ、そうそうそんな状態にはならないけどな」
「え? コボルトに特殊な能力あったっけ? 精々棍棒とか武器持つぐらいじゃないの? オーヴィクは知ってる?」
ラーリィは知らないのか。
まあ無理はないそんな事は普通おこらないからな。
「コボルトってのは見た目通り犬だから、仲間意識が強くて、縄張り意識も強い。鼻もいいから、血の匂いなんかで、仲間が死んだと気が付くと群れがいる場合かなりの数を相手にしないといけないんだ。まあ、ゴブリンにも言えることなんだけど」
「ああ、なるほど。ただ死んだだけならいいけど、私達が騒いで、私達が殺したってばれるのがまずいのね?」
「そういう事だ。倒して騒ぐと思いもよらない敵の援軍が来たりする。まあ、浮かれるなってことだな。まあ自然の中じゃ、群れも余程の事が起こらない限り爆発的に増えたりしない。コボルトとかゴブリンは比較的弱い魔物だからな」
そんな事を話していると、小道の奥から振動が伝わってくる。
「…なんだ? 地震か?」
「いや、これは何かの大群が移動する音だ」
「え、大群って…もしかして…」
「見えた!! ってあの人たちまさか!?」
小道の奥から、先に行った冒険者達が走ってこちらに逃げてくる。
6人の内2人は背中に背負われている。
そして、さらにその後ろからざっとみても100匹近いコボルトの群れがこちらに向かってきていた。
「「「わんわんお!! わんわんお!!」」」
「……騒いだんだろうな」
「浮かれてたからねー」
「どうするよ? 流石にあの群れはやれない事はないが、怪我の覚悟はいるぜ?」
「私はさっさと、撤退するほうがいいと思うわ。一階層でわざわざ怪我する意味なんてないもの」
相棒の彼女の意見に同意だ。
彼等が招いたミスだ。
俺達が付き合う必要はない。
けど、なぜ彼等は帰還の指輪を使わないのだろう?
まさか、この騒動で頭から抜け落ちてるのか?
「…撤退するが、一回あの人達に帰還の指輪を使うよう言ってみる。そのために、一回ラーリィはでかい魔術をつかってコボルトの足を止めてくれ」
「…指輪の事忘れてるなら、正直ランク6じゃないわよ? 初心者レベルよ?」
「……言いたいことは分かるが頼む。助かるかもしれない命だからな」
「わかったわ。じゃ詠唱始めるわ」
そうやってラーリィが詠唱を完成させて、逃げてくる彼等の後方に魔術を放つ。
「ファイアーストーム!!!」
炎の渦ができて、コボルト達が巻き込まれて死んでいく。
しかし、数が数なので、後方の連中はファイアーストームを避けてどんどん進んでくる。
でも、その時間があれば十分だ。
「「「わんわんお!! わんわんお!!」」」
「た、助けてくれ!! な、仲間が!!」
「指輪をつかえ!! 帰還の指輪だ!!」
「あっ!?」
本当に忘れていたのか、これはギルドマスターに報告だな。
そう思っていると、逃げてきていた連中はあっと言う間に消えてしまう。
「よし、逃げたか」
「オーヴィク、私達も早く!!」
「ああ!!」
そして、俺達は僅か一時間で探索を中断しギルドへ戻って行った。
俺達がギルドに戻った時には、彼等はルルア様に治療を受けていた。
ああ、そういえばルルア様もこちらにいたんだっけ?
なんて贅沢な治療だ。
「すいません。彼等と一緒のダンジョンに潜っていたチームですよね? 何が起こったか聞いてもよろしいでしょうか?」
俺達が、事態をギルドマスターに報告しようと思っていると違う人物から声をかけられた。
「え、トーリじゃない!? リエルも!? なんでこんな所にいるの!?」
ラーリィが驚いたように声を上げて、俺もそれで気が付いた。
身なりはとても良くなっているが、確かにその顔はトーリとリエルだ。
彼女達もランク6の冒険者の2人コンビだ。
最近連絡が取れなくなっていたが……。
「あれ? でも2人ともこっち来た時いなかったわよね? 後からきたの?」
「ええっと、オーヴィク。ラーリィ、それに二人も落ち着いて聞いてください……」
「皆が入ったダンジョンはこの僕、リエルとトーリ、そしてカヤが作ったんだよ!!」
「…どうも」
「「「ええーーー!?」」」
相変わらずリエルは突拍子もないなーと思える自分は大物なんだろうか?
どうだったでしょうか?
これがこの世界の冒険者ギルドの仕組みです。
ああ、タナカの事は気にするな。
トリノ(ユキ)とあったら、世紀末レベルの勝負になるから。
当分二人が顔合わせることはない。
あとは、わんわんおだって数が集まれば強い!!




