第74掘:冒険者ギルドの方針
冒険者ギルドの方針
side:トーリ
私はこのダンジョンに来る前は奴隷でした。
そして、奴隷になる前は冒険者をやっていました。
冒険者にとってダンジョンというものは、一攫千金の夢が詰まった宝箱のようなものです。
私も小規模ですが、ダンジョンに潜って一攫千金を狙っていました。
しかし、今では、ダンジョンを作る側になろうとは、不思議なものです。
今は、冒険者ギルドマスターのロックさんが、このダンジョンの扱いを説明してくれています。
「では、改めて。代表者の方々にこのダンジョン内にある「小ダンジョン」と代表の方々は呼ばれていますが、私達の判断からすれば、あのダンジョン群は一個一個が中規模ダンジョン相当です。このダンジョン自体は歴史上類を見ない最大規模ダンジョンです」
うん、そうだと思います。
約一万人がダンジョンの中で生活できるなんて、考えられない大きさです。
「そして、現状を見て冒険者ギルドはこのダンジョンの安全性は類を見ない物と判断しております。この目の前で、魔物が生成され、私達に危害を加えず、このダンジョンの治安維持に当たっています」
危険が無いって判断されるダンジョンってのも珍しいよね。
いや、世界初かもしれない。
「さらに、このダンジョンを制御できるというとてつもない事が加わり、冒険者ギルドはこのダンジョンを全面的に支援することに決定いたしました。それに伴い、申し訳ないですが、ダンジョンの管理に口を出させていただきたい」
「へえ、いい度胸ね」
セラリア様が目を細めて、ロックさんを睨み付けます。
怖いです。
「いえ、勘違いしてほしくないのですが、このダンジョンの運営ではなく、皆さまが小ダンジョンと呼ばれている所に関してです」
「…どういう事からしら?」
「簡単に言えば、好き勝手に魔物を作ってドロップアイテムを出されては困るのです。市場が大混乱します」
「ああ、それはそうね」
「どういう事ですか?」
私は意味がよくわからず首を傾げます。
「そうね、トーリ。ダンジョンで倒したモンスターはドロップアイテムを出して、解体する必要がないのは知ってるわよね?」
「はい。それと、普通では手に入らないアイテムがドロップすることもありますよね?」
「そこが問題です。自由に私達は魔物を生成できて、レアなアイテムを任意で出るまで戦えるんです」
「あ」
そうか、そんな事すれば欲しいアイテム取り放題って事になる。
そんな事になればそれを材料にしている商品が、とんでもない事になる。
「はい、エリス様の言う通りです。下手にそんな事をすれば、それで日々の糧を得ている冒険者、商人、鍛冶屋、薬屋、数多の人が混乱します。それは控えていただきたい」
「道理ね。私達も周りを混乱させるのが目的じゃないわ。しかし、クエストとして出して。ある程度ストックを置いておくのはいいのではないかしら?」
「はい、それがいいでしょう。本部の方からも貴重なアイテムは指定数そろえて保管していただけるとありがたいとの事です。ここは貴重品を守るには丁度いいですからね」
「そうね。保管庫はギルド長の部屋の奥がいいかしら?」
「はい、そのようにお願いいたします」
「口出しというのはこれだけかしら?」
「いえ、できうる限り、魔物の種類や対処を教えていただきたい」
なるほど、それは大事だ。
普通なら、偶然に遭遇して数多死者をだす魔物をそうやって事前情報を集められるのなら、今後は色々使いようがあるだろう。
「それも納得ね。実験場所を用意したほうがいいかしら?」
「できればお願いしたいです」
「……あのーセラリア様。それならいい案があるんですけど」
「何? 言ってみてトーリ」
「前々から提案していた娯楽施設の闘技場で、魔物の実験をやればいいんじゃないでしょうか? 闘技場なんて冒険者ぐらいしか使いませんし」
「それはいい案ね。普段、闘技場は使わないから、設置に悩んでいたわよね?」
「はい、維持費も馬鹿になりませんし。しかし、普段は実験を行うなら常駐の警備を置いても無駄になりませんし、魔物を生成する際は必ず私達の立ち合いにすれば何も問題ないかと。流石に、呼んだ魔物を闘技場で飼うのは反対ですが」
「へー、それって僕達も魔物を色々見れてダンジョンの為になる魔物が見つかるかもね!!」
リエルがそう言うと、みんなハッとした表情になります。
「リエルの言う通りね。今までゴブリンとスライムが強力すぎたから他の魔物は趣味で呼んでたけど、リエルの言うように使い方次第で有効な魔物がいるかもしれない。これは絶対に作らないといけないわね」
「それでしたら、専門の部署を作りましょうか? 今の話から考えるとしっかり情報を纏めて、管理する人員が必要になります」
「そうね。新たに部署設置がいいでしょうね。…しかし、責任者をどうしようかしら?」
「セラリアまてまて、今はロックさんの話を聞いてる途中だ。そういう話はメモでもして後日しっかりまとめよう。即時判断でできるもんじゃない」
「あら、ごめんなさい。なんか面白くてね」
セラリア様はそういって、ユキさんに笑いかけます。
…なんというか二人は夫婦です。イラッとするのは気のせいでしょうか?
「代表の方々に興味を持っていただけて感謝いたします。色々細かい事は資料を用意したのでそちらをご覧ください。今要望もまとめておりますので」
「へえ、ロックさん。しっかりこの紙に慣れたみたいだな?」
「ええ、ユキ殿に感謝ですな。ファイルと合わせて便利すぎですな」
ユキさんとロックさんはお互いに笑い合っています。
男同士色々通じるものがあるのでしょうか?
とりあえず、配られた資料に目を通します。
大体は私達が考えた構想通りみたいです。
『冒険者ギルド 方針・要望』
方針
冒険者ギルドは本来通り、冒険者への仕事の斡旋、設置地域への徴兵義務、及び冒険者を管理し問題を起こさないように努めるモノである。
尚、ここの冒険者ギルドに限り、冒険者区の管理も兼ねているので、冒険者ギルド統括となる。
これは、冒険者が傲慢や粗暴な行動を改める為、他の人に足を延ばしてもらい、冒険者のモラルの向上を目指すものである。
迷惑をかけた者には、罰金や、資格剥奪などの重い罰を下すものである。
小ダンジョンへの管理に関しては、各代表に委ねる。
我々は、状況の把握に努めるものとする。
変更の際は代表から変更点が記載された資料が来るのでそれをしっかり把握する。
小ダンジョンへの移動に関しては、発見者はそのダンジョンの特定の物を持ってきてもらい、転送陣の使用を許可するものである。
譲渡などでの転移陣の使用は禁止とするが、こちらは詳しく調べない物とする。
自分の命は自分でしっかり管理するべきと判断する。
前記述の通り、冒険者、あるいはダンジョン区に足を踏み入れた者の命の保証はしない。
代表者達は死者が出ない調整ができるとのことだが、それでは冒険者の質が下がると判断する。
小ダンジョン攻略はダンジョンコアではなく、特定のアイテムを持って帰ることで、攻略したと認め、賞金を渡すものとする。
ダンジョンコアを持ってくることは重罰とする。
これは、このダンジョンがダンジョンコアで動いているという認識を持って欲しいが為である。
以下略………
要望
魔物のドロップアイテムに関する制限。
市場を混乱を防ぐため、調整をお願いしたい。
上記から魔物の種類や特徴、対処を知る為の機会をもらいたい。
警備の魔物をしっかり見極めるための特徴が欲しい。
ダンジョン区の魔物は来ないとのことですが、こちらに来る冒険者はそのことを知らないので、しっかりわかるものが欲しい。
ダンジョンにいる、これから育つ子供達に対して、警備の魔物がいるので、子供達の魔物への認識がとても甘い。
それで、子供用のダンジョンを作り経験させることで、ダンジョン内の警備魔物と野生の魔物が違うという事を教えるべきと愚考する。
定期的に、魔物の大氾濫を再現してほしい。
冒険者や住民に対してよい訓練になり、自分達もやれることがあると認識してほしい。
尚、この件については、死者及び重傷者が出ない措置を願いたい。
以下略………
大氾濫の再現ですか。
うん、色々勉強になりそうですね。
私達は指揮の練習にもなりますし、住人も安全な場所への避難などを的確にできる様になるでしょう。
志願兵の募集とか、結構得るものは多そうです。
そうやって、皆と資料に関して色々話していると……。
「トーリさん達の作ったダンジョン攻略に向かった冒険者が転移されてきました!! 重症です!! エルジュ様!! ルルア様!! 治療をお願いします!!」
ドアを思い切り開けて、多分冒険者ギルドの一員が慌ててなだれ込んできました。
「「「え!?」」」
私達は驚きます。
そんなに時間たってないですよ?
精々一時間です。
いったい何があったのでしょうか?
私達のダンジョンは動物系で纏めた、森と草原を主につかったダンジョンです。
一階層の防衛はコボルトですよ?
私達は首を傾げながら、その冒険者の所へ向かいました。
冒険者ギルドの方針でした。
多分色々なっとくできることがあったと思います。
やりすぎもいけねーってことです。
何事もバランスが大事。
そして、次はトーリ達のダンジョンに挑んだ冒険者視点になりますw




