第72掘:軍部のお仕事
軍部のお仕事
side:セラリア
「ふう、今日はいよいよダンジョンの評定ね」
私は最後の書類に目を通して、印鑑を押す。
印鑑便利よね。
サインなんて何十枚もしてたら、手おかしくなるわ。
そして、書類を認可済みの場所へ振り分ける。
「さて、お昼を食べて冒険者ギルドに集合だっけ?」
「はい、その通りです」
クアルはここでも私の部下としてしっかり働いてくれている。
今も軍部の統括とダンジョンの表向きな代表としての活動を補佐してくれる。
「ねえ、クアル」
「何でしょうか?」
「貴女の目から見て、私達の部隊はどう? このダンジョンになじんでるかしら? そろそろ二か月。いい加減、いくら鍛えていても不満が出ると思うのだけど?」
そう、あの防衛戦から一か月。
私達が来たのは、防衛戦の一か月前。
そして、この一か月はリテアからの難民、移住者受け入れで、色々と軍部と警察は色々大変なのだ。
馬鹿は何処にでもいるということ。
「…そうですね。正直に言ってよろしいでしょうか?」
「ええ、ハッキリと言ってちょうだい。いざという時に動けないのが一番困るのよ」
不満がある人員はロシュール本国にいる私の残りの部隊と入れ替えの方針だ。
ここまでかなり無理をさせている自覚は私にもある。
特に防衛戦はいくらレベルを過剰に上げたとはいえ、ほぼ十倍以上の敵と戦わせたのだ。
しっかり重症者もでた。
…死者は私の部隊には無しという、奇跡に等しい大戦果。
でも、いくら彼等が勇猛であろうとも人なのだ。
私だって、夫やエルジュの顔を見ないでいると心が荒む。
アスリンとフィーリアとかの顔を一日でも見ないと心配でたまらない。
まあ、本国との連絡役も担っているのだが。
今回のリテアとの件。私とユキの独断だ。
下手をすれば、ロシュールから凄い突き上げ喰らっていたところだろう。
手紙で連絡した後、返事で後日、会談を設けるとすぐさま返事が親父からあった。
さぞ慌てたことでしょうね。ふふふふ……。
と、それは又別の話か。
「では、正直に申しましょう」
クアルは一旦そこで言葉を切り、私を真剣に見つめる。
「一部ではなくほぼ全体で……」
「……全体で?」
「ダンジョン屋外の技術レベルをダンジョン内に合わせて引きあげて欲しいとの事です」
頭を机にぶつけた。
「は? どういうこと?」
「現在、私達の部隊はダンジョンの警察と連携して、ダンジョン屋外、つまりこのダンジョンの大本の入口の村…町ですかね。防衛していますよね?」
「そうね、外に一応それなりの場所がないと、このダンジョンに人が寄り付くとは思えないし」
「はい、それは部隊の全員が理解しております。で、その屋外警備は期間を一週間と決めて、隊を送って任務に当たらせています」
「ええ、それは知ってるわ」
「簡単に言いますと、このダンジョン内が便利すぎて、外で暮らすのが不便だと騒いでいるのです」
「……鍛え直しなさい」
「ですが、外にはお風呂も常備されていないですからね。他の村や街に合わせて、井戸の水を汲んでという感じです」
「…衛生面から考えると、好ましい状況ではないという事?」
「はい、ですから、もう内外の区別は無くして、小規模ながら、ダンジョン内の施設を屋外にも欲しいとの事です。私見ですが、それはそれで、ダンジョンの宣伝になりますし、中にさらに凄い設備があると言えば喜んで中に入っていくと思いますが」
「……ふむ。前向きに検討しましょう。流石にダンジョンの改変は全員の代表から許可をもらわないとできないわ」
「進言を聞いていただき感謝します。私もセラリア様付きでダンジョン内で仕事をしていますが、もう外回りの目が痛いのです」
「あら? 別に外の警備いってもいいのよ?」
「お断りします。明かりをつけるにも蝋燭や魔力の光という、不便極まりない。セラリア様こそ、外まわりに行かれては? ユキ様は別段否とも言われないでしょう。あの方はよくセラリア様の御気性をご存じで、セラリア様がすると仰るならと頷いてくれるでしょう」
「い・や・よ」
誰か外回りなんて行きますか。
ロシュールに戻った時だってどれだけ不便だったか。
「と、それとはまた別の意見が」
「まだあるの?」
「まあ、こちらは私でも判断しかねるので」
「どんな内容?」
「一部…そうですね4分の1程の隊員が家族をこちらに住まわせてほしいとの事です」
「あー、なるほど」
このダンジョンの防衛機能に、ダンジョン内の法律、もといルール、そして技術力。
それは、この大陸では類を見ない高度なものだ。
内容をしっかり知っていれば、ここに家族を連れてきたいというのも納得だ。
「それも、皆と話してみるわ」
「ありがとうございます」
そんな話をしていると、時計が12時半を回っている。
「もうこんな時間ね。さっさと食事を済ませて冒険者ギルドに行きましょうか」
「そうですね。本日ようやく私達のダンジョンが一般冒険者に開放ですか」
「ちょっと待ちなさい、今回はまだ試験の段階よ。呼んだ冒険者を実際ダンジョンに行かせて、感想をもらうの。そして、冒険者ギルドの査定難易度と比べて、違いが無いか調べるの。そしてようやく、ダンジョンの難易度を決定できるのよ」
「失礼しました。自分達でダンジョンを作るなどという経験は初めてでして、たった4つの階層を部隊全員で構想を練っただけですが、やはりこう、こみ上げるモノがあるのです」
「それも分からなくはないけどね」
そう言いながら、執務室をでると、丁度デリーユがこちらに向かってきていた。
「おお、セラリアはまだここにおったか。丁度いい、一緒に昼でも食べんか? 無論クアルも一緒じゃ」
「ありがとうございます。しかし、デリーユ様今日は何を食べるか決めておいでで?」
「あ、いや。まだ何を食べるかは決めてないのう」
デリーユは今、軍部と警察の特務という扱いになっている。
魔王だから、当然といえば当然。
この特務は、自由に軍部と警察の行き来ができ、ルールから逸脱しなければ個人の判断での戦闘が許可されている。
いや、各代表もそうなんだけどね。
デリーユに限っては代表ではない。だけど、そんな特殊の立場にいる。
無論文句を言ったやつは魔王の力をその身に味わって刑務所行きだが。
「そういえばユキとラビリスはどうしたんじゃ? 一緒のはずじゃろう?」
「二人とも所用で別行動よ。冒険者ギルドで落ち合う事になっているわ」
「所用?」
「ユキは鍛冶関連でナールジアとラビリスは庁舎で確認することがね」
「……二人とも多忙じゃのう」
「デリーユも手伝っていいのよ?」
「うむ、なるべくユキの手伝いをしたいのじゃが、ユキの仕事は基本頭使うものばかりじゃからなぁ」
「しかも、規格外の頭の使い方なのよね」
「と、昼の話じゃ。最近、回転寿司屋というのができたらしいぞ? そこでどうじゃ?」
「へぇ、ユキがしてくれたお寿司がお店にね」
「美味そうじゃろ?」
「ええ、そこにしましょうか」
そうやって、私とデリーユは足を進める。
「あの、お寿司ってなんですか?」
ああ、クアルは食べたことなかったっけ?
これは反応が楽しみだ。
「ついてくればわかるわ。きっと初めての味よ。楽しみにしてなさい」
この後、クアルは寿司屋に入り浸るようになり、ユキに握り寿司を作ってくれとせがむのには驚いた。
はい、セラリア率いる、軍部の内情でした。
つらいよね、中はこんなにも便利なのに、外は不便とw
まあ、仕事ってそんなものだよね!!
あと、セラリアのダンジョンはセラリア、クアルと部下、デリーユで考えています。
ある程度予想は出来るよなw
今回ユキは出てきませんでしたが、しっかり会話にはでてくるからご勘弁を。




