第70掘:後始末
後始末
side:アルシュテール・リテア
「よろしいのですか? あのような強行を認めてしまって?」
ロシュールとの交易支持派の一人が私に声をかけてくる。
「いいのです。実際、セラリア様も今回の件は、あのような勢力が出てくるのを見通していました」
「ならば、あのような少数戦力で……」
「それは予定通りですよ」
「は?」
「これで、反対派が失敗や全滅すれば私の判断が間違っていないと認められます。しかし、その相手のダンジョン側の戦力を実際に体験しないままでは、後々問題がでてきます」
私はユキさんに言われた通りの言葉を並べ説明します。
反対派の軍事行動を認めたのは、後腐れが無いようにするため、及び、私への不満を持つ勢力の排除も含めていると。
「ほぉ~。それは素晴らしいですな。予定通りに反対派の軍が失敗ないし、全滅などすれば、どうとでも罪状をつけられますな。なるほど、セラリア様の方も実際は隠している戦力がお有りなのですな?」
彼は、事前に偵察したロシュールのダンジョン防衛軍が400に満たない事を知っている。
そして、反対派が出した戦力が約5000人だということも。
だから、その情報はわざとだと思ったのだ。
当然の思考だと思う。
「いえ、セラリア様はあくまでもあの戦力で反対派の軍を相手にするつもりです」
「御冗談を。あの戦力では勝負にもなりませんぞ?」
ええ、勝負になりませんとも。
反対派が簡単に全滅します。
「ああ、そこのキユ殿が後方から攻めたてるのですな? それならば、相手は混乱し引かざる得ないでしょう。キユ殿ご心配なさるな。アルシュテール様は我らがしっかりお守りします。心置きなくあの反対派を撤退に追い込んでくだされ!!」
キユさんを見た彼は閃いたとばかりに、予想を言ってくる。
まあ、キユさんが後方から攻めればさらに殲滅速度が上がるでしょうね。
「いえいえ、僕は言っての通り。今回の戦いには参戦しませんよ。あくまでも僕はアルシュテール様の護衛でロシュールとの仲介役ですので」
キユさんはそう言ってやんわりと否定する。
ここだけ見れば、彼が強いなんて見えないのだが、ここに来た…いえ、セラリア様の宣言を伝えた時はトンデモありませんでした。
反対派は予想通り激昂して、使者であるキユさんを殺して見せしめとして、私を引きずり降ろす材料にしようと思ったのでしょうが…。
キユさんに飛びかかった者、あるいは私に害を加えようとした者は、あっという間に叩きのめされ、牢獄に送られました。
キユさんがいなければ、その場で聖女の座を降ろされていたことでしょう。
とりあえず、そのおかげで、上層部に私の言葉を信じる交易賛成派が多数できました。
もとより、妖精族もダンジョンにあるのですから、普通に賛成派も多数いました。
ルルア様の効果はすばらしいです。
ですが、どこにも反対するモノはいるようで。
「ロシュールに頭を下げる必要なぞない!! 我らがエルジュ様を暗殺しようとした証拠などない!! これは明らかに脅しだ!! それに付け加え、ダンジョンなどという、危険極まりない所に妖精族を押し込めるなぞ、正気とは思えん!! これはダンジョンを殲滅し、妖精族を助け出し!! いらぬ疑いをかけるセラリアを捕縛し、ロシュールに賠償を求めるべきだ!!」
なんて、まあもっともらしい事をいって反対派を糾合していました。
で、一番の問題の難民問題についてですが。
「他国に送る必要もない。それに資金を出すなぞ愚か!! アルシュテール様は気を確かにもってください。 ここにいる難民は自ら選んだのです。 自らが自分を救うべきであって、我らが救済するべきではないのです!! それにちゃんとするべき救済措置、炊き出しや救護措置は行っております!! これ以上は民がつけあがるだけです!!」
まあ、それも一理あります。
彼等はここに救いを求めただけではありません。
仕事を求めて職に就けず難民になった者も多数いるでしょう。
でも、それだけではありません。
そう吠える相手にクラックが調べ上げたお金の流れを記した書類を見せます。
「この記載されているお金はもう全て回収して…いえ、ほとんどが私用に使われていて回収できませんでした。確かに難民全員を救うには至らないでしょうが、半数以上はどうにでもなったでしょう。これを見てちゃんと救済していたなどと言えますか?」
「そ、それは……」
「勿論、この件に関わった者は全員処罰…極刑に値します。で、難民の事は私達が一時支援すれば、あとは向こうでどうにでもすると言っているのです。この目で実際街を見てきましたが、生きていくには十分でしょう。ここで無為に死んでもらって疫病の原因になっても困るのです」
「なぜ、人が死ぬと疫病などと?」
私がダンジョンに難民を送る利点をあげていくと疫病関連で首を傾げる者が多数います。
私もユキさんに教えられて初めて気が付きましたが、教えて貰えば納得です。
腐った物を食べればお腹を壊す。だから腐った物は処分する。
その当然の事を、周りに言って聞かせます。
それを食べる鳥や、ネズミが疫病の原因なるということも。
「なるほど。道理ですな。しかもアルシュテール様が言ったようにダンジョンへ難民を送ればこちらの疫病の心配もなくなりますし、セラリア様が欲しがっている街の労働力も確保できますな。これはセラリア様の話に乗るべきではないか? これは脅しでもなんでもないぞ? 交易も長い距離を運ぶよりずっと安全だ。しかも妖精族の一品だ」
一人がそう言うと云々と頷く者が多く現れる。
しかし、これでも頷かない者もいる。
「ええい!! 惑わされるな!! ダンジョンを使って我らを殺そうとしているのやもしれん!! それに、我が国民を他国にこちらから支援して護送するなぞ、我らが民を扱いきれないと諸外国に喧伝するようなものではないか!! さらにルルア様は戻ってきていない!! これは明らかな人質だ!!」
「そうだ!!」
国として簡単にうなずけない事ではある。
だから、セラリア様はこの案を残していたのだ。
「反対する者の意見もわかります。ですが、反対派は少数。議会は交易をする方向で行きたいと思います」
私がそういうと、反対派以外は納得した様子。
「ぐっ!!」
反対派は屈辱のあまり顔を歪めている。
ユキさんが言っての通り、これを内部に残すのは要らない火種ですね。
「しかし、セラリア様から提案をいただいております。此度の件で反対派を少数だからと言って無視してしまえば、後々要らぬ問題を残すと。そこで、不満がある者は我がダンジョンに攻めてくるがいいと」
「なんと!?」
「そこでセラリア様を討ち取れるのであれば、ダンジョンを好きに使えばよいとも。私としては争いは好むところではないのですが、万が一ダンジョンを制圧できるのであれば、それは物凄い成果となるでしょう」
「ほう、アルシュテール様は攻めるのをお認めになると?」
「それで、不満が無くなるのであれば。セラリア様が本当に交易がしたいというのも分かると思います」
こうやって、わざと反対派が膨れ上がる後押しをして、邪魔者を集めて殲滅する。
これがユキさんとセラリア様がいった作戦です。
セラリア様が率いるダンジョンの防衛軍が少ないのも、反対派にやれると思いこませる為。
そして今、目の前で、ダンジョンの力を知らしめる戦いが始まっています。
私がいる部隊が反対派とは別の100人前後の視察隊。
結果を見届けるため、上層部のほとんどが参加しています。
この中に反対派の軍を推し進めた筆頭もいます。
「さあ、アルシュテール様。我が軍がセラリアをひっ捕らえてくるでしょう。その時は貴女の無能さの証明ともなる。聖女の座は降りてもらいますからな。このような簡単な駆け引きもできぬ小娘はいらぬわ。わっはっはっは!!」
そうやって大声で私を糾弾する反対派の代表。
ですが、そんな余裕も二時間後には無くなっていました。
だって、彼が自慢していた軍は全滅していたのですから。
「う、うそだ…」
そんな風に茫然として、目の前に迫るセラリア様が率いるダンジョン防衛軍を見つめます。
「ありえない!?」
たった二時間でこの視察隊に逃げ帰ってこれたのは一〇〇人程。
彼等はもう恐慌して話せる状態ではありません。
仕方ないことです。
だって実力差がありすぎたから、彼等は只狩られる獣にすぎなかったのです。
ですが、これは今後平和な世の為に、必要な犠牲……。
「さて、私達の実力は分かって貰えたかしら?」
そして、私達の前に歩いてくるセラリア様達。
殆どが返り血を浴びて真っ赤に染まっている。
その姿を見て私とキユ以外は息を呑んでいる。
「はい、私達はセラリア様のいう要求を受け入れ、交易をさせていただこうと……」
「だ、だまれ!! きっと何か罠だ!! そうだ、そうに違いない!! そうでなければ、5千人が4百人足らずに負けるわけがない!!」
私の言葉を遮り、反対派の代表がまくしたてる。
「見れば小娘だらけではないか!! こんな女子供が我が軍を打ち破れるわけがない!! 私がこの場で叩き斬ってくれるわ!!」
錯乱したのか、剣を抜いてセラリア様に切りかかる。
とっさのことで私は止められなかった…が。
「あ、ぎ?」
そんな声が彼から響くと、剣から鎧を含めて、真っ二つになって地面に崩れ落ちる。
そのあとには、妙な剣? をいつの間にか抜いていたセラリア様が無表情で立っていた。
「アルシュテール。今の事は一応、今回の戦いの内ってことで処理してあげるわ。反対派なんでしょう?」
「は、はい!!」
「じゃ、さっさと難民救済政策を進めなさいな。こっちの約束も予定通り一週間後から始めるわよ。遅れないように」
そう言って、セラリア様は剣を鞘に戻し、軍を引きつれて戻っていった。
「今回のロシュールのダンジョンとの交易に関して反対はありませんね?」
そうやって、後ろで茫然としている上層部に聞くと、ようやく我に返ったのか、そのばでガクガクと首を縦に振る。
後日、会議の結果。
セラリア様に対するお詫びということで、反対派の代表が所有していた財産をすべて譲渡という形をとると、勝手に決まってしまった。
よほど、セラリア様が怖かったらしい。
……手続きで色々大変になるわ。
後始末が余計に増えた…頭が痛い。
アルシュテールは悩みで胃が痛いらしいw




