第68掘:大事な場所を守る為
うーん、休むと言いつつも書いてしまう。
とりあえず、明日も休み予定ではあるから、そのつもりで。
あと「閑話 落とし穴」は一週間で移動しますわ。
それぐらい、期間あればいいよね?
あと、この場をかりて、焼き鳥コメント感謝の返答とさせていただきます。
大事な場所を守る為
side:エリス
『全軍に告げる!! 敵本隊へ前進を開始!! 接敵後、各々の判断で敵を『殲滅』せよ!!』
セラリア様から進軍の指示が出ます。
さあ、いよいよです。
「これより右翼は、本隊と足並みをそろえ、敵左翼を正面より粉砕します!!」
私がそう宣言すると、右翼の総勢140名が前進を始めます。
私達の部隊は魔物を主力とした、志願兵がいる部隊です。
僅か2週間という短い期間でしたが、ロシュール国の移住者にも、このダンジョンを守ろうという志をもって私達に協力を申し出る人がいました。
僅か30名、全体の約10パーセントではありますが、とても心強いです。
男手がこの30名の大半を占めてるのは少し、働き手を取ってしまうようで残念なのですが、しっかり女性も志願兵にいます。
この志願兵たちは、この戦いの後、ダンジョンの軍部に取り込まれることになります。
本来であれば、レベリングした私達、代表メンバーで事足りるのですが。
皆の判断で志願兵の参加を認めました。
これからのダンジョンの為に。
「さて、志願兵の皆さん。皆さんの役割はあくまでも、魔物のフォローです。彼等の方が今はまだ強いですからね」
ラッツがそう言って志願兵たちに声をかけていきます。
「皆もダンジョン訓練で強制的にレベルだけは上げたけど、技術が全然足りてないからね。向こうの兵士よりはステータス的には強いけど、絶対無理はだめだよ。そういう事は僕達に任せて」
リエルもそんな風に声をかけて注意を促しています。
そう、ダンジョンの機能を使ってレベリングしたのは何も私達代表だけではありません。
無論、私達は優先的にレベル100台まで引き上げましたが、志願兵たちもレベルは40台まで上がっています。
レベル的には熟練の兵士並です。
しかし、リエルの言っての通り、全然技術が追い付いていないので、ちゃんと訓練をしている兵士であれば半分以下のレベルでこの志願兵たちを翻弄できるはずです。
しっかりと、私達が、このダンジョンを守ろうと立ち上がってくれた人々を守らないと。
こんなふざけた争いで失っていい命ではないのです。
彼等は今後の未来を担っていく人達。
「…エリス。敵左翼もう目の前」
カヤが私に告げます。
「各部隊に通達!! これよりエリスが率いる右翼は敵左翼を殲滅します!! 各代表を中心に、突出しないように、正面から敵を削り取ります!!」
「「「おおおーーーー!!!」」」
雄叫びが上がる。
「ラッツ、ミリー、トーリ、リエル、カヤ、無理は禁物です。最悪はアレがありますので負けはありません。冷静に努めてください」
「「「了解」」」
各代表はそのまま敵と接敵戦闘を開始します。
「デリーユさんは万が一の為ここで待機してもらっていいですか?」
「構わんよ。妾はなるべく手を出さないようにいわれとるからの。エリスの指示に従うぞ」
そして右翼中央には私とデリーユさんが務めています。
殆ど鉄壁の布陣です。
しかし、心の焦りは消えません。
幾らレベルが強いからといって、ラッツ達もそこまでは強くなかったのです。
指定保護でこのダンジョンでは、攻撃を無効化できるのは確認しています。
でも、不安は消えません。
捕まったら? もしも指定保護が効かない敵がいるのでは?
そんな考えは浮かんでは消えます。
その対処も含めて、ユキさんを中心に協議をして対策も練っていますが不安は消えません。
あの人は、常にこんな気持ちでダンジョンに来る敵を迎え撃っていたのでしょうか?
正直ユキさんのトラップで一網打尽にしてしまえばいいと、頭の中では考えが傾いています。
ですが、セラリア様やルルア様の言う通り、こちらの実力を知らしめなければ後々面倒になるのも分かります。
そして、この場はダンジョンの移住者に中継をして、自分達でダンジョンを守っていると意識も持たさられて、私達代表の力も見せられて、私達代表への求心も考えています。
いろんな意味で、この戦いは必要なのです。
「のうエリス。そろそろ後方の志願部隊に弓の合図じゃよ?」
「あっ、はい。弓隊構え!! 味方を巻き込まないように後方を狙え!! 相手は大勢います、適当でいい、当たります。撃て!!」
私の合図で味方が弓を放ちます。
「「「ぎゃゃあぁっぁあぁ!!?」」」
敵の叫び声が聞こえます。
「何!? 魔物がまとまって弓を放つのか!? まずいっ、前衛と距離をとれ!! つめすぎっ……」
後方を連れて来た指揮官の叫び声が途中で途切れます。
「甘いよ!! 敵将、僕が、リエルが討ち取ったよ!!」
リエルがその敵の声を聞きつけたのが、レベルアップで手に入れた信じられない速度で戦場を駆け抜け、首を小太刀で落とします。
でも、その分リエルが突出しています。
あのままでは囲まれます!?
「誰かリエルの援護いけますか!? 一人で前に出すぎて……」
私は無線機で各代表に連絡を取ります。
『まかせて!! 私が、ミリーが行ってくるわ!! ミリー隊、リエル隊と合流してリエルに追いつくわよ!!』
リエル隊の近くにいたミリーが隊を合流させて、一気に敵陣を真っ二つにします。
「リエル聞こえる!? 今ミリーが援護に行ってるからなんとか合流して!!」
『うわわっ、っと分かったよ。よっと、でも何とかなりそうかも?』
「馬鹿なこと言わないで、単独行動はあれほどダメだって言ったのに!!」
『ごめん、ごめん』
リエルは囲まれてはいるようですが、まだ余裕がありそうです。
『こちらトーリ。交戦中の敵は後退気味。このまま押し込みます!!』
『こちらカヤ。トーリと合流。私の相手をしていた部隊はほぼ壊滅。トーリと協力して押し込むわ』
「了解しました。そっちは頼みます。ラッツ?」
『こちらラッツ。ミリー、リエルの置き土産の敵部隊が多いです。戦力的には拮抗中。数がこっちが少ない分、長い目で見ればこっちが不利ですね。おっと、そこ!!』
現在敵左翼は、ミリー、リエルが前衛を突破。中央に噛みついています。
左翼前衛半分は、トーリとカヤで間もなく殲滅。
残り左翼前衛半分がラッツが押えています。
「ほうほう、よくやるのう。千対百でよく押し込む。ラッツは抑えであんまり活躍しておらんが、ミリーとリエルは何か鬼気迫るものが有るのう」
それはまあ、実際接敵しているのは倍ぐらいの数字ですからね。
各代表に20人? 匹? 配分して、横ばいで敵に当たっているんです。
相手は千人いようが、前衛に300人、中央に500人、後方に200といったところでしょうか。
そんな事を考えていると、デリーユさんは目を凝らしてミリーとリエルのいる方向を見ています。
「見えるんですか?」
「ああ、敵兵が多くて見難いがの。それもすぐに倒れるからわかりやすい」
私は目を凝らしてもよくわかりません。
だけど無線からは……。
『皆は円方陣で牽制!! 僕が周りを削っていくよ!! どけどけーーー!!!!』
『まったく、叱られたのに懲りてないわね。背中を守る私の身になってよ。ま、このダンジョンを攻めてきてる相手に、手加減なんてしないけどね!!』
部隊は中央で守りを重視して、二人は近くの敵に殴り込みをかけてるみたい。
もう中央は乱戦に近い状態。弓の支援は危険。
なるべく早く、敵前衛を切り崩さないと……。
「ええい!! 兎人族の雌に何を手こずっておる!! 相手は20匹のゴブリンを連れただけではないか!! それなのに、我が陣を食い破られ、後方に被害が出ている…。何たる不始末!!」
ラッツが押えている場所で、髭を生やした偉そうな人が吠えています。
「せめてその雌を捕まえろ!! 嬲りモノにでもしないと割に合わんわ!! よく見ればそれなりに綺麗ではない……か?」
男は不思議そうに自分の胸を見ています。
そこには、槍が深々と突き刺さっています。
そして、その馬に乗っている男に何かが飛びつきます。
『あっはっはっは。お前なんぞに懸想されても気持ち悪いだけなんだよ』
無線からゾッとするほどの声が響きます。
『まったく。冒険者と商人をしていたころは、体を売ることも考えましたが、今はあり得ませんね。この体、髪一つから心までお兄さんのモノなんですよ』
ラッツがそう言い切ると、首と胴が離れて地面に崩れ落ちます。
『いやいや、ついカッっとなってしまいましたが。敵将、ラッツが討ち取りました!!』
「「「おおーーー!!」」」
よし、これで前衛の勝負はほぼ決した。
「ラッツ聞こえる? 敵前衛の殲滅は降伏勧告を聞かなければ逃がして」
『え? 殲滅するのでは?』
「ええ、逃げている敵はね。敵対する意思の無い者は敵ですらないわ」
『なるほど。生き証人という奴ですか?』
「そうよ。こちらの戦果が凄くてもリテアに伝える相手がいないとね」
『わかりました。私はこれから降伏した相手の監視ですか?』
「お願い」
そうやって、ラッツが降伏勧告をすると敵前衛の生き残り半数以上がその場で武器を捨てた。
のこりは中央部隊へ合流しようと後退している。まあ、残りは30名もいないんですが。
「トーリ!! カヤ!!」
『了解、殲滅します!!』
『ヤル』
二人はリエルとミリーに合流するついでに後退している敵を文字通り全て斬り捨てて合流。
「リエル、ミリーそっちの被害は? 大丈夫なの?」
『僕の方はちょっと、ゴブリンが3匹やられちゃった。戦闘不可能が7匹』
『こっちは死亡者はいませんが、戦闘継続不可能が5匹ほど』
「リエル部隊の半分程失ってるじゃない!?」
『ああ、エリス心配はいらないわ。私達二人が暴れまわって、敵さんこっちに手を出してこなくなってるの。だからこうして報告ができるんだけどね』
「そう、なら現状を維持。もうすぐトーリとカヤがそっちに行くわ。協力して敵中央を殲滅。消耗は避けたいから、武器を捨てれば攻撃しないと宣言して。後方から武装解除をしているラッツが行くから」
さあ、あとは左翼の中央を落とすだけ。
後方の部隊は基本支援とか回復ですから、戦闘にはならないでしょう。
今現在の被害は予想より軽い。
相手がこちらを舐めて弓隊による支援射撃がなかったのが幸いでした。
ん、リエルや中央、右翼が戦っている場所とは別の所に砂塵が浮かんでいます。
それはこちらに向かっているようです。
「あの、デリーユさん。あれ何かわかりますか?」
「ん? ほう、わざわざこの少人数を相手に別働隊で後ろをつくつもりか」
「……この見晴らしのいい平原で?」
「いうてやるな。普通ならもう全滅か、抑えられてても、気が付く余裕もない。向こうにとってはセラリアを捕虜にでもできればダンジョンも自由にできるからのう。ほれ、話してあっただろう?」
「ああ、セラリア様を捕縛して、ダンジョンを隷属化する話ですか?」
「そうそう。ま、本物はセラリアじゃないのじゃがな」
デリーユさんは嬉しそうな顔で、敵の別働隊を見ます。
別働隊は方向からみて、セラリア様が率いる中央を狙っているようですが…。
「……相手も気の毒に。ここで万が一中央を瓦解させても、セラリア様は絶対捕縛なんてできないのに」
指定保護とか、帰還の指輪とか、まあ色々で。
と、傍観しているわけにはいきません。
「デリーユさん。あれの対処お願いできますか?」
「ん、ここはいいのか?」
「私も押し込みに加わります。まあ弓がおもですけど」
「それがいい。志願兵はそうそう死なせていいものではないからのう。じゃ、妾はアレの相手をしてくるわ」
「はい」
そうやってデリーユさんは飛んでいって、騎馬隊の中に突っ込んで人が飛び上がります。
うん、やっぱりあの人は魔王です。
「さあ、私達も追いかけますよ!!」
私がそう言って前進の命令を出した途端…。
『こちらリエル。左翼中央粉砕!!』
『粉砕はないでしょう。トーリが中央の将を捕虜にしたわ。ミリー隊はこのまま降伏しない敵を殲滅します』
『…こちらカヤ。敵後方がもう敵中央陣に合流してる』
『まあ判断は正確ですね。中央に敵が切り込んだ時点で劣勢と判断したんでしょう。あ、ラッツです。もう合流済みです』
『えーと、この人どうすればいいんですか?』
『首刎ねればいいのに』
『で、でも降伏しましたし……』
……もう戦闘はほぼ終わってるみたい。
「降伏した相手には寛容にお願い。セラリア様だって逃げる相手は斬り伏せても、降伏した相手は斬り捨ててないわよ。間違えないでね。私達は敵を倒しに来たんだから。降伏した相手は敵ではないわ」
さて、合流して、残りの敵を中央か右翼に合流して殲滅しましょうか。
あ、でも私達がこの早さなら、ユキさんの所なんてもう終わってるんじゃないかな?
セラリアは逃げる相手も殺してはいますが、降伏した相手は寛容です。
ま、降伏してもリテアで財産没収などなど、色々あるんですが。




