第67掘:嫁はガチバトルを好む
えーと、分かりにくいと思いますが「閑話 ダンジョンの日々 落とし穴」は更新してますので。
本編>閑話>本編>閑話って感じで更新していきますんで、よろしくお願いします。
嫁はガチバトルを好む
side:セラリア
「さあ、愚か者共に私達の強さを見せてあげるわよ!!」
「「「おおーー!!」」」
私の掛け声と共に雄叫びが上がる。
そして、目の前に迫るはリテア聖国のダンジョンとの交易の反対派。
攻略してすべてを奪うべしと判断した、愚か者共五千人。
「セラリア隊に告ぐ。直轄部隊の意地を見せろ!! こちらは30名と魔物が150体。されどこれが本隊だ!! リテアの坊主どもに、我らが力を見せつけろ!!」
クアルがさらに部隊を激励する。
そう、この四方4kmの中継ダンジョンで現在、私達ダンジョン防衛部隊とリテア聖国の反対派が、今まさに戦端を切ろうとしている。
この戦場に置いて、ユキのトラップによる援護はない。
なぜなら、真正面から叩き潰さないと、あとでごねられると判断したからだ。
曰く、真正面から戦えば我らが勝った。
曰く、ダンジョンが無ければ我らが勝った。
などなど、馬鹿な言い訳をして現実を見ようとしない輩を出さないため、そして……。
「あれが、セラリアだ!! 討ち取れ!! 所詮は女だ、噂などただの誇張よ!!」
まずは先発の500名を率いる馬鹿がそう吠える。
いい度胸じゃない。
「さて、セラリア。妾はどうするかの? あそこの馬鹿をやるのに周りの露払いでもしようかの?」
「デリーユ、それには及ばないわ。アスリンやフィーリア。他のチームの援護よろしく。いくら指定保護でも捕まったら終わりだから」
「アスリンとフィーリアはユキが付いておるからのう。エリス達の様子でもみてくるかの」
現在、ダンジョン内最高戦力の一人。デリーユがのんびりとして様子で、敵の前を横切る。
モーブ達は冒険者という立場ではあるが、この戦場では雇われという形で参戦してる。
彼等も、馬鹿どものせいで家族を失くしてるからね。
指定保護もあるし、あの3人はほっといても大丈夫でしょう。
でも、なんでわざわざデリーユは敵の前を横切るのだろう?
「あの女を捕らえよ!! このダンジョンにあるモノは全て自由にしてよいとのお達しだ!! あの女を私に献上したモノは白金貨3枚を約束しよう!!」
あ、しまった。
そう敵指揮官がそう言うと、デリーユに敵が群がる。
「はっ、下種が!! 妾に相手をしてほしければ、もっと優しくするといいわ!!」
デリーユが洗われた純白のドレスを翻し、拳を固める。
そして、綺麗に跳躍して、敵陣の真ん中に消えていく。
「まずっ!? デリーユにつづけ!! 早くしないと……」
そうやって、自分の部隊を急かすが…。
「「「ぎゃぁあぁあああっぁあっぁあ」」」
デリーユが舞い降りた地点から、敵兵が空中にはじけ飛ぶ。
もう、それは大型の魔物でもいない限り、あんな吹き飛び方は人体はしない。
「な、何が起こっている!?」
馬鹿な指揮官が驚いている。
率いている兵も何が起こっているか解らない様子で、その場で立ち止まっている。
「愚か者共が!! 戦場で止まるとは、その首を取ってほしいのね!!」
私もようやく敵兵に近づいてその首を切り落としながら、走り抜ける。
「セラリア様に続け!! 見ての通り、敵は只の雑兵!! あのダンジョンの訓練の日々を忘れるな!!」
クアルも部隊を率いてそのまま、烏合の衆を殲滅してゆく。
「ほらほら!! さっきの威勢は何処にいったの!!」
私も、愛刀をさらに加速させて駆け抜けてゆく。
やはり、私が使っていた剣とは格が違うわ。
あの剣も至高の一品ではあるけど、ユキがもたらした日本刀の技術と、妖精族のエンチャント効果で、けた違いの切れ味と耐久性をもたらしている。
「くっ!? 盾を前にだせ!! 弾けばそれでいい!!」
小隊長らしき男が部下に指示を出して、ちょっと鉄を張った、盾を私の前に押し出してくる。
「その判断力悪くないわ…でも!!」
私は、腰にまだ差してある、もう一本の刀に手をかける。
手に持っていた愛刀は一旦地面に放置。
ユキに教えてもらった、日本刀ならではの最速剣術。
そして、この刀は、その剣術に合わせた、切れ味が一番いい刀とエンチャント。
魔力を送り込み、雷による磁力の反発と鞘走りと切れ味とエンチャントで斬れぬものなどあんまりない!!
「空振りをしたぞ!! 盾隊そのままセラリアを囲め!! 槍で串刺し…に?」
私は抜刀した刀をまた鞘に戻して、地面に差した愛刀を拾いにいく。
「お前等、どうし……!!?」
後ろでドサドサっと、音が響く。
振り返ると、盾ごと、鎧ごと、真っ二つにされた遺体が5・6体転がっている。
「悪いわね。説明なんてしてる暇ないの。早くしないとデリーユに美味しいところを持っていかれるから」
未だに現状を把握しきれていない、相手を一刀の元に斬り伏せる。
それを見た周りの兵士は一様に、私から距離をとる。
「普段なら、やる気のない敵は殺すことはしないんだけどね。今日は、生き残りはいらないわ」
そうやって、私は再び敵の中に突っ込んでいく。
逃げる者だって容赦はしない。
……だって、これは傷つけられ、悲しんだ、我が民の為!!
この戦いに臨んだリテアのバカどもは、ロワールと手を組んだ確認が取れている。
逃がす理由など、どこにもない!!
「おお、セラリア追いついたか」
「まったく。そんな手で来るとは思わなかったわ」
「何を言っておるか、妾は他の場所へ移動しようとしたら襲われたから、仕方なく迎撃をしたんじゃよ?」
斬り進んでいくと、ようやくデリーユと合流する。
もうデリーユの周りに立っている者などいなかった。
「き、貴様、何者だ!? セラリアといい、なんでこんな出鱈目な!!?」
先ほど、こちらを罵倒した指揮官がこちらに吠えている。
そんな暇があれば後退すればいいのに、私がチラッと辺りを見ても、大半はもう地面に沈んでいる。
500名もいた敵前衛はもう50名程しか残っていなかった。
「出鱈目のう。そりゃ、お主では計れんじゃろう。なにせ妾は魔王じゃからな」
「馬鹿な事を言うな!! 魔王がなにをもってロシュールなぞに味方をする!! 魔王は只破壊のみを行うものだ!!」
「それはそれは、リクエストにこたえなくてはならんのう」
あーあ、デリーユが青筋たててるわ。
彼女の身の上は聞いたけど、なにも変わらない普通の女の子なのに。
「「「うわぁああぁああああ!!!!」」」
瞬間、デリーユはそのステータスにモノを言わせた、力技で残りの兵を一人に残らず殲滅する。
指揮官以外を残して。
「ほれ、お主の相手はそこのセラリア姫じゃ。妾は遊撃での。妾が首をあげても士気の上がりがいまいちでの」
茫然としている指揮官を私の前に殴り飛ばす。
「ぐっ…」
無様に地面を転がりながら、私の足元に倒れ伏す敵指揮官。
「立ちなさい。貴方はしっかり、叩き斬ってあげるわ」
「驕ったな!! 女がいくらレベルが高いとはいえ、この俺に!! レベル49に勝てると……」
その後の言葉は続かなかった。
だって、首が斬れてるから。
私は、納刀しつつ、のんびり答える。
「あらそう。私はレベル122なのよ」
落ちた首にその声が届いていたのか、目を見開いて驚きの表情を浮かべている。
貴方達がもたもたしている間に、私達はのんびりレベリングをさせてもらったわ。
技術はともかく、そうそう遅れをとるような事はないわ。
ユキに感謝しなくちゃね。
ま、能力が上がりすぎて、最初は把握するまでに時間はかかったけど。
「敵将、セラリアが討ち取った!!」
「「「おおーーーー!!!!」」」
部隊から雄叫びが上がる。
「部隊の損害は?」
「はっ、重症者3名、軽傷者5名です」
「重傷者は戦場より後退。治療をいそげ。軽傷者はポーションで回復」
「はっ」
伝令が後方に消える。
さて、これからどう動こうかしら。
「のうセラリア。敵さん、ようやく本隊を動かしおったな」
「そうね。普通はこんな短時間に全滅するなんて思いもしないでしょうから」
「妾は、エリス達の方に行ってくるわ。あそこが一番心配じゃ」
「あら、夫は心配じゃないのかしら?」
「何をどう心配しろと? 妾ですら相手にならなかったのじゃぞ?」
デリーユはそう言うと、エリス達が受け持っている右翼に文字通り飛んでいく。
「セラリア様どうなさいますか? このまま待機で迎え討つのですか?」
クアルが今後の予定を聞いてくる。
「普通なら、防衛は動かず迎え撃つのが鉄則ね。けど、クアルはどう思う? さっきの戦果を見て、目の前の約五千の敵は?」
「はっ、恐れながら。我らの敵ではないかと」
「理由は?」
「先ほどのセラリア様、デリーユ様を筆頭に、右翼のエリス様達、そして旦那様のユキ様がつとめられる左翼。何処に敗走の心配がありましょうか?」
「いいわ。通達!! えっと、コレどう使うんだっけ?」
ユキから借りてる無線機をもってどう使えばいいのか思い出そうとする。
「……それは、ここをこう押して……」
「…えっと、こう?」
「はい、でそれで喋れば……」
「通達。我が軍はこれより、動き出した敵本隊に向けて前進!! そのまま真正面から押しつぶす!!」
そうやって無線で告げると、直ぐに返答が帰ってくる。
『こちら右翼のエリス。了解しました。いつでも行軍の準備は出来ています』
『セラリア様、それはいいのですが。被害とかはどうなりました? 見た感じ勝ったのは分かりましたが……』
ラッツから疑問が飛んでくる。
ああ、いけない、いけない。
ちゃんと報告して、士気上げないとね。
「言い忘れてたわ。中央の本隊の被害は無し!! 多少の負傷者あれど死者無し!! 我が方の完勝である!!」
『『『おおーーーーー!!!』』』
無線越しに雄叫びが聞こえる。
よし、これで右翼は大丈夫ね。
「で、左翼はどうなの?」
『こっちも問題なし。セラリアとデリーユが、先陣きったのを見た時は肝が冷えたぞ。大丈夫か?』
「あら、心配した?」
『当たり前だ。世の中絶対大丈夫なんて事はないからな。過信はするな。危ないと思ったらすぐ下がれ。本来なら、俺一人で事が済むんだがな……』
「それについては、ちゃんと説明したでしょ?」
『ま、言ってる事は分かるからこの戦いをOKしたんだ。セラリアの言った通り、こっちも前進して敵本隊を叩き潰す準備は出来てる』
『セラリアお姉ちゃん!! 凄かったです!! かっこよかったです!!』
『セラリア姉さま!! 本当にかっこよかったです!!』
『…セラリア凄いわ』
ユキの後に続いて、私の可愛い妹達の声が聞こえる。
「ありがとう。二人とも、無理しちゃだめよ? ユキとラビリスのいう事をちゃんと聞くのよ」
『『はーい!!』』
「ユキそっちこそ油断して、二人に怪我させないようにね」
『わかってる』
『まかせて』
無線が切れる。
あとは、進軍の合図を待つばかり。
「セラリア様。進軍の宣言を」
クアルがそう言って、後方に下がる。
さて、本番はこれから。
「全軍に告げる!! 敵本隊へ前進を開始!! 接敵後、各々の判断で敵を『殲滅』せよ!!」
「「「おおーーー!!!」」」
覚悟しなさい、愚か者共。
その傲慢な全てを完膚なきまでに、潰してあげるわ!!
セラリアは突き進む。
デリーユも魔王の威厳を見せられて満足。
ユキは実践データが取れて満足。
まだまだ、戦いは始まったばかり。




