第63掘:説明会とご案内、そしてようこそ…!?
説明会とご案内、そしてようこそ…!?
side:コヴィル
ユキってば、絶対におかしいよ。
だって、だって!!
「はい、次の10Pをご覧ください。そこに、ダンジョン内におけるルール、規則、いえ法律ですね。あそこは自治権が認められていて……」
アルシュテールとクラック、デストにダンジョンのパンフ渡して説明してるんだよ!?
もう、絶対おかしい!! 意味不明!!
クラックとデストなんて、さっきまで、剣を突き合せて殺し合いをする寸前だったんだよ!?
何がどうなってこうなってるの!?
「ねぇ、モーブ、ユキに何か言いなさいよ」
「何を言えばいいのかわからん」
「何って…ほら、まずは……あの二人の処刑?」
「今は矛を収めてるのにか? しかも、今回の争いの元はこいつらだが、こいつらを支援して、私腹を肥やそうとしていた連中は、謀反者代表として処刑されている。まあ、多分クラックたちに唆されたんだろうが……」
「えーと、それじゃ、あの二人を殺しても……」
「意味ねーな。というか、今の状況は結果から見れば、何も問題はないぞ。無血で和解…まではいかないが、言いたいこと伝えて、そして解決案も出てきた」
「むきーーー!! なんか納得いかない!!」
「世の中、道理が通じねえ奴がいるんだ。物理的にも、精神的にも、その代表がアレな」
モーブはのんびり、コーラを飲みながらユキを指さす。
あ、今はもう、リテアの大聖堂の下に即席の移動用ゲートを設置したダンジョンを作ってその中にいます。
適当に、机や椅子、説明用のホワイトボード、あとジュースサーバーも出してのんびりしてる。
ちなみに、私はオレンジジュース飲んでる。
「まあ、コヴィルもジュース飲んでんだし、文句いうな。没収されるぞ」
「むぐぐぐ……」
ユキってば恐ろしい子!! 私にもジュースを飲ませて、文句を言わせない気ね!!
「……と、なるわけです。なにかご質問等は御座いませんか?」
「いえ、山ほどあるんですが…」
「こちらもだ」
アルシュテールとクラックは同じ意見を口にする。
あ、アルシュテールは何で護衛いないのかっていうと、クラックとデストが何と近衛だったりする。
いやー身内が敵って怖いよねー。
でも、おかげで少人数の説明会で済んでる。
他の人がいたら大騒動だろう。
「あ、因みに言っておきますが、今から実物を見せますので「単語」の意味が解らないを一々教えるのはやめときます。後で聞いてくれ。後この綺麗な紙と風景画はどうしたのか、なんてことも聞くなよ。原理を説明するのがめんどくさい」
言い方が雑になった。
ユキってばちゃんとお仕事しないさいよね!!
「……一応納得しておきましょう。しかし、これだけは聞かせてください。ユキがダンジョンマスターなのはわかり……」
「いえ、代行ですよ? そこのルルアも使えるからね」
「は?」
「あと、先に突っ込んどくぞ。「なんで神聖なる大聖堂にダンジョンが作れんですか」って意見は、知らんがな、というか神聖な大聖堂は、何か結界でも張ってあるのか?」
「代行? ルルア様も? って、そうです。大聖堂は邪悪なる物は近寄れません!! 魔物しかり、ダンジョンしかり、ダンジョンマスターでさえも!!」
「それ、実証実験したの?」
「え?」
「いや、俺一応代行だけどダンジョンマスターの権限もってるし、ルルアも、あ、邪悪じゃないからか? つか邪悪の定義ってなんだよ?」
「う…」
あーあー、アルシュテールの顔がどんどん涙目になってる。
そりゃそうよね。今まで積み上げてきたこと全否定だし。
「まあ、出来ちまったものは仕方がない。そういう事で納得しろ」
何という強引な理論。いや、論より証拠ってやつかな?
「クラックの方は何か質問あるか?」
「あっ…っぐ。……まずは、君のいうその街を見てからにしよう」
おお、耐えた!! 耐えたよ、クラックすごーーい!!
君は将来大人物になるよ!! 私が保証する!!
「デストはどうだ?」
「私は、君を信用する。だから、頼む。仲間を、救ってくれ」
「任せとけ」
デスト、無口かと思ったら仲間思いなのね。
うん、大丈夫。ユキならどうとでもしちゃうから!!
「さて、質問は終わったな。いよいよ、ゲートを潜って、向こうにいくぞ」
何をいってるのよ。質問全部握りつぶしたくせに!!
そして、尻込みしているアルシュテールを蹴り飛ばして、ユキは中に入っていった。
……同情するわ。
「くっ!? やはり罠か!! しかし、ゴブリン如きで無手であろうが遅れはとらない!!」
中に私達も入ると、クラックの威勢のいい声が聞こえてくる。
あ、なんだゴブリンの巡回部隊じゃない。
わざわざ二階層に来たわけ?
「ゴブ? (なんすか大将。この人)」
あれ、ゴブしか言ってないのに、なぜか言っている意味がわかる。
いつのまに、ゴブリン言語取得したっけ?
あ、クラックは今、ゴブリンアーミーリーダーのスティーブにあっさりつかまっている。
「おお、スティーブ。どう? 一応モーブよりもレベル上だぜ?」
「ごぶ!? (まじっすか!? 全然手ごたえないっすよ?)」
「……」
クラック泣いてる。
いいのよ、今クラックは泣いていいの!!
「と、本題がずれたな。これがさっき伝えたリテアの客人だ。一応二階層の防衛機能も見せておこうと思ってな」
「ゴブン……。(ああ、なるほど。それなら丁度いいっすよ。いまグレネードランチャーの練習を……)」
スティーブがそう言い切る前に、目の前の荒野が吹き飛ぶ。
大轟音と共に、何度も……。
なに!? 大魔法でも使ったの!?
「おー、まとめて広範囲に撃つとそれなりに派手だな。迫撃砲とかも欲しかったんだが……」
「ごぶぶ……。(なーに、いってんすか。天井に大穴空けたんですよ。厚さがあったからいいものを、薄けりゃ上階が落ちてくるところだったす。)」
え、なにそれ怖い。
「そこら辺はちょっと疑問だよな。どこまで耐久があるのか調べないとな。最悪、穴掘って攻められるかもしれねーしな」
「ゴブ……。(そんなアホなダンジョン攻略、大将しかしねーっす)」
うん。ユキ以外あり得ないわ。
「まあ、いいや。スティーブはこのまま訓練がてら、巡回よろしく」
「ゴブ。(了解)」
「というわけだ、これが我がダンジョンが誇る防衛機能だ。凄いだろ、あれが説明でパンフの15Pにある塹壕で、その……」
「……」
「……」
「凄い、君は本当に凄い」
アルシュテールとクラックは口を開けたまま、なにも言えない。
デストは今の光景を心強いと思ったみたい。
そのあとも、三階層の住民区の訓練所やスーパーラッツ、居住場所、もう色々見て回った。
私も訓練所から外に一歩も出ずに、そのまま旅にいったから楽しかった。
四階層の仕事場も凄いのなんの、便利な鍛冶場があるわね~。
ほかの妖精族の皆も張り切って色々な武具作ってる。
五階層はまだ動いてるところは少ないけど、一番広いんじゃないかな?
冒険者区の先にダンジョン区ってのがあって、そこから先は死を覚悟して進めって!!
ワクワクするよね!! ユキたちがダンジョン作ってるんだって!!
うわー、冒険者になるのもいいかも!!
で、アルシュテールとクラックは……。
「夢…そうこれは白昼夢。私が民を救う為に見た幻。これを目指せというのですね、リリーシュ様」
「……はっ!? 何か、ゴブリンやスライムに負けた気がするが、気のせいか。気のせいだ!! だって私は生きてる!! 魔物に敗北して生きているなどあり得ない!!」
うん、ご愁傷様。
理解の限界を越えたみたい。
「さて、大体納得できたと思う。細かい説明はしないぞ、後で個人的に聞いてくれや、今はこのダンジョンに、リテアからの難民受け入れの話をまとめないといけないからな」
「……ぶつぶつ」
「……気のせいだ、気のせいだ」
「おいコラ、夢見たいなら永遠に寝かせてやるぞ?」
「はっ!?」
「ん!?」
ひぃ~、キユの体で、魔力全開にしないでよね!!? 怖すぎる!!
「とりあえず、そこの転移トラップで総合庁舎にいくぞ。そこにこのダンジョンの各代表が集まってる。話をそこでまとめるぞ」
そういって、ユキは転移陣に入って消える。
流石にアルシュテールも腰が引けないのか、それとも蹴られるのが怖いのか、堂々とその中にはいる。
私も後につづくと、そこには、私が来た時に案内をしていた人達が並んで出迎えてくれた。
「「「ようこそ!! ……」」」」
「セントエルジュへ!!」
「楽園へ!!」
「ユキ共和国へ!!」
「ダンジョン街へ!!」
「安全な街へ!!」
「ユキと愉快な仲間たち村へ!!」
「…お揚げ村」
「あわわ…」
「えーと、えーと兄様村へ!!」
「……名前決めてなかったわね」
「あらら、それは大変。これから沢山人がくるのだから、決めないと」
あ、名前決まってないのね。
この街の名前募集。
そして、最後は誰がどれを言ったかわかるかな?
あ、アルシュテールとクラックはまあ頑張れ。




