第62掘:空気は読まない
空気は読まない
side:モーブ
世の中、理不尽ってのは沢山あるんだ。
その中でも極めつけは、目の前にいるこいつ。
「あー、はいはい。発言いいですかね?」
そうやって、アルシュテール…現在の聖女の執務室に、殴り込みをかけている強硬派にユキが言っている。
今現在、強硬派はほぼ壊滅している。
ユキの所でつかまえた、リテア兵士の自白(穏やかな表現)をしてもらい、今回のルルア暗殺をけしかけた、輩の割り出しを、ルルアを経由して、すでにアルシュテールが早馬で調べていたらしい。
そして、あっさり、証拠が見つかり、なおかつ、ルルアが生存して暗殺されそうになったと供述。
コヴィル、もとい妖精族と今後、親交を結ぶ約束という大手柄も一緒に抱えてやってきた、ルルアに手出ししようとする輩はいなかった。
ルルアに手を出すと、妖精族との関係悪化に即座につながるからな。
利益に目ざとい、貴族の輩はあっさり、ルルアに寝返ったってわけだ。
で、現在生き残りの強硬派が最後の望みをかけて、聖女二人を亡き者にしようと、殴り込みをかけてきたわけだ。
そして、なぜ今回の事を起こしたのか、理由を言ってくれた。
「貴女方の政策では、この聖国の国民も救えないではないですか!! むしろ、知っているのですか!? 今日、この日の食べ物もない子供が沢山いることを!! お金が無くて、家族が死んでいくのをただ見守るしかないことを!! 今の信仰は大事なものを救えない、そんなモノはいらないんです!! 何がこの大陸の最大都市ですか!! 飢えている人が1万人もいて、養えないのに人だけ集めて、信仰などと言って金をむしり取るだけ!! なんのために、彼等が寄付をしているかわかりませんか!? あんた達の食事を豪華にする為じゃない!! 贅沢をさせる為じゃない!!」
目の前の青年がそう叫ぶ。
まあ、お前の言う通りだとは思うけどな…。
それでも、巻き込まれた俺達はたまったもんじゃねえよ。
「……貴方のいい分はわかりました。しかし、エルジュ様を暗殺し、ルルア様を暗殺しようとして、国の問題においては、ロシュールとガルツがほぼ戦争状態へ、今は沈静化していますが、一体幾百、幾千、幾万の血が流れたと思っているのですか?」
「……それは理解している。しかし、貴方達が今後ずっとこんな政策をしてるよりましだ。俺達がここで争いを起こし、リテアを握れば、リテアだけでなく、他の国で失われる命も救える。」
「つまり、私達のやり方は争いを起こす事より、命を奪っていると?」
「その通りだ!! 今のままでは…いや今もきっとこの城下で飢えて死んでいる子供がたくさんいる。知ってるか? 配給に出される食べ物ってほとんど出回ってないって? どこかのバカ野郎が、自分の懐にため込んでる。自分の国の自浄さえできないんだ、もういらないだろ、そんな国のトップは?」
ああ、こいつ…。
「わかるか? 明日食いつなぐために、必死で駈けずり回って、知らない男に腰振って、子供まで孕んで、それでも俺を大事に育ててくれた姉貴は、寄付が少ないからって、そのまま子供と衰弱死だよ!! 姉貴泣いてたんだよ!! 自分の子供も助けられないって!! 俺も必死に駈けずり回ったけど、餓鬼でさ、何も仕事もらえないんだよ!!」
……何処にでもある。一つのお話だ。
それで、こいつは必死に頑張ってきたわけだ。
聖女の二人はその話に、目を丸々させて驚いてる。
そりゃ、温室育ちだからな。
「姉貴と姉貴の子供の亡骸に縋り付いて泣いてるとさ、俺と同じような境遇の奴らが集まって、手厚く葬ってくれたよ。ああ、あんた達のいう立派な葬儀じゃない。でもな、俺からすれば、それよりも立派な葬儀だったよ。でもな、そんな気のいい、優しい連中も日を数える度、少なくなっていくんだ。わかるか? 食い物がナインダヨ」
「……」
「黙るなよ!! お前等はその時何をしてた!! のうのうと自分の才能磨いて、研鑽積んでましたなんていうなよ!! こっちは、分ける食べ物すらなかったんだ!! ふざけるんじゃねぇ!! いまさら、謝罪や改善なんていらねえ!! その首落として、皆の墓前に添えてやる。そして、俺が、俺達が本当に皆の為の国を作ってやる!! じゃないと、なんで姉貴が、皆が、死んだか意味わからねぇ……俺だけ生き残っちまった」
もう、止まれねえな。
俺は、一歩前に進み出る。
「お前の境遇には同情する。が、俺もお前のせいで家族を亡くした身だ。後ろの嬢ちゃん達はわからねーが、俺がお前を殺そうとするのはいいよな?」
「…ああ。でも、俺もここで死ぬわけにはいかねー。やらなきゃいけねーことがあるんだ。これから沢山。あんたの墓はそいつ等と違ってちゃんと建ててやる」
お互い剣を引く抜き、構える。
なるほど、こりゃスゲー。
なんとなくだが、こいつ俺より強いぞ。
必死に、死にもの狂いにここまで来たんだろうな。
でもな、俺にも引けない理由がある。
お互い、隙を見計らって……
「あー、はいはい。発言いいですかね?」
ずっこけた。
こ、この野郎。
この空気でなんでそんな軽いノリなんだ!?
「つまりだ。今このリテアにいる難民を救えれば、ここで争うことはないってことだよな?」
いや、それが無理だから、こうやってな……。
「そんな事は不可能だ。ここでそこの聖女達が呼びかけても、精々もって2・3か月が限度だ。それぐらいの、貯えしかこの国庫にはない。俺達…いや私達が欲しいのは、安全に飢えることの無い、幸せな国なんだ。それは理想とはわかっている。しかし、現状よりは上手くやってみせる」
あ、なんか真面目に返答している。
やめとけ、ユキと話すと無茶苦茶になるぞ。
そこのアルシュテールは意味わからんって顔してるけど、ルルアに至っては気絶寸前だぞ。
ライヤやカースは窓眺めて現実逃避してやがる。
うわー、剣構えてる手が震えてきてるんですけど?
「お前、名前は?」
「小僧にお前呼ばわりか、まあいい。私はクラックだ。そして横の相方がデストだ」
殴りこんできて、微動だにしなかった男がその時初めて軽く頭を下げる。
「そうか、お前等が俺の下につくなら、とりあえず、今言った問題は、時間はかかるが、お前らがするよりも、聖女様達がするよりも手早くかたづけられるぞ?」
うわ、いやーな予感がしてきやがった。
「どういう事だ? そんな事はさっきも言ったが不可能だ」
「いやー、それが聞いてくださいよお兄さん。最近好景気でしてね。ちょっと、人手が欲しい所があるんですよ。ご心配なく、お兄さんが言った人数でしたら、しっかり賄えますよ。ああ、でも1・2か月は準備がいりますので、そちらの聖女様方にご協力願いたいんですが?」
そうやって、ユキがアルシュテールとルルアの嬢ちゃんを見る。
「ユ、ユキ何を馬鹿な事を、無論、先ほどの話を聞いて、民に対して何もしないわけがありません。しっかり、厳正に、彼等を手助けしていきます。しかし、ユキ。貴方の言ってる事は妄言です。第一、そんな場所があるとしても、移動するのに莫大な費用も時間もかかります。今の話では、民はそんな余力すらないでしょう」
アルシュテールはそうやって、当たり前の事を並べて異を唱える。
うん、そうだな。ユキを知らないなら誰だってそう思うよな。
「ルルアもそう思うかい?」
うわー、厭らしい顔でそんな質問するかよ。
「……あ、貴方は何処まで、お人よしなんですか?」
あ、お人よしって取るか?
ん、お人よしかこれ?
俺は馬鹿な選択だと思ったけど、あれ、これ以上ないぐらいの妙手じゃないか?
今、ロシュールからの移民もきて、毎日DPがっぽがっぽ。
次に必要なのは、街を広げる為の人手が欲しいわけだ。
でも、他所から引っ張ってこようにも、攫うわけにもいかない。
あれ、丁度いいな?
理解できるけど、なんか納得いかねー。
「ダメかい? ルルア?」
「……絶対に、あとで言う事を聞いてもらいますよ」
「あいあい」
そうやって、二人だけで会話が成立し、ルルアが一呼吸おいて告げる。
「ユキの発言は、このルルアが保障します。彼が協力してくれるのであれば、貴方が最も救いたい人々は、助けられます。今もいるのでしょう? この城下で必死に生きている仲間が」
「そうだが…信じられない。だが、嘘を言っている様にも思えん…」
そうやって、剣を下げるかどうか悩んでいると、いきなりクラックの剣が折れた。
「よし、もう面倒だから、この剣みたいになるか、俺のいう事信じてみるか、どっちか選べ。あと10秒な」
「なっ!?」
クラックは驚いているが、全く剣を動かせない。
ああ、剣は折れました。勿論ユキが折った。
でも方法が、握りつぶし。
もう、絶句だ、全員。
「8…7……」
それでも刻々とカウントダウンを始める。
容赦なさすぎだろ。
コヴィルはもうプルプル震えて、ルルアに抱き付いてる。
「5…4……」
5過ぎた時点から、建物が揺れて、クラックの鎧はヒビが入り始める。
「おい、クラックさっさと頷け!! 真面目にカウントダウン後木端微塵だぞ!!」
もう、クラックは敵ではない、救い出さなければいけない被害者になっている。
「わ、わかった!! 君のいう事を信じよう!!」
もう、主導権はクラック、聖女達どちらにもない。
それを握っているのは……。
「さて、じゃゲート作るから、ここダンジョン化するわ」
暴虐非道のダンジョンマスターだった。
やべ、胃が痛くなってきやがった。
向こう戻ったら、キャベジ○飲まなきゃ。
はい、空気は読みません。
吸って吐くものなので、ユキは自由にやりました。
不意におもった、今、オーバーラップ文庫で応募があってるが、これは異世界バトルになるのか?
まあ、ちゃんと異世界の王様や権力者と交渉バトルしてるよね!?
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