第240掘:筒抜け
眠ろうとしている時に鳴る電話とかムカつくよな。
筒抜け
side:ニーナ
暗い部屋を蝋燭の明かりが照らす。
その中には現在、結果報告を待ちわびた仲間たちが椅子に座って、私の口からの報告を聞いて沈黙を貫いている。
……私は、あの信じがたい結果をなんとか伝えて、重苦しい空気の中、リーダーが口を開くのを待つ。
そう、私だって信じられない。
かつての大戦、あの壮大な愚行から、既に400年以上。
人は未だ愚かな争いをやめず、確実にあの日から衰退している。
物理的にだ。
年々騎士たちの平均レベルは下がっているし、大規模魔術どころか、ちょっとした魔術ですら使えない人が多くなっている。
そして、魔物の減少により、絶対的強者と戦う経験が全くない。
だから、その腐りきった人々を排除するために、今まで溜めに溜めたDPを使って、グレーターデーモンを呼び出し、確実にエナーリアは無人の国となるはずだった。
自らの行いの果ての、当然の帰結に。
だが、結果は違った。
全ての人を殺しつくす為に分散させたのが不味かったのか、いや、あれを撃退されると言う事を考えていなかった。
違う、きっと魔剣使いとかいうゴミなら多少はやると思っていた。
だが、数で簡単に押しつぶせると思っていた。私も、スィーアもキシュアも。
しかし、エナーリアには別の何かがいた。
その何かを、遠見していた私は目撃した。
空という絶対の領域をわが物として飛んでいるグレーターデーモンがみるみる落下していく。
そしてそれを成しているのは恐らく最低3人。
1人は黒髪の人族、ハッキリと姿が見えた。
なぜなら、空を飛んでいるグレーターデーモンに跳びついては首を刎ね飛ばし、そのまま次へ跳び移っていくという信じがたい戦闘を行っていた。
もう1人は恐らく弓を使っている。なぜなら、私の所まで矢が飛んできて、地面に突き刺さったから。
これほど遠くまで飛ぶのなら、近距離で撃たれたものは生きてはいまい。
最後の1人は槍使い、これも、私の所まで槍が飛んできたのだ。
私は咄嗟に2人へ連絡を取ったが、信じられないことに、既に敵に捕まったという。
意味がわからない、作戦が漏れる要素はなかった。
しかし本当に、2人は連絡をくれた場所でロープで縛られ、跪いていた。
それで私は、2人の近くにいる男をしっかりと憶えて、仲間たちへ報告に戻ったのだ。
「……信じられん。と言うのは簡単だな」
リーダーのその声で私はあの時の記憶から引き戻される。
私以外の仲間もその声でリーダーを見つめている。
「だが、ニーナがここにいて、連絡が取れないスィーアとキシュアがいる。情報に多少違いがあれど、作戦が失敗したことには間違いあるまい。予想からは外れていたが、私たちがこれから行うことに変更はない。成功しようが、失敗しようが、それでも続けていく。それが私たちの方針のはずだ」
リーダーの言葉に全員が頷く。
そう、予想とは違った。
しかし、別に止まる理由もない。
「まあ、スィーアとキシュアを捕らえたとされる人物を調べる必要はあるな。スィーアとキシュアが犯人だと突き止めた理由もだ。今の愚かな人にそれが判断できるとは思えん。何かの理由があるはずだ。それを調べてから、スィーアとキシュアが生きているのであれば救出作戦を展開しよう。まあ、殺されていれば、ダンジョンコアを回収すればいいだけだ。……生きていた方が、私たちの作戦は楽になるがな」
その言葉で一旦辺りに静寂が戻る。
ゆらゆらと蝋燭の火だけが揺れる。
「では、ニーナは引き続きスィーアとキシュアを捕らえた人物の情報を集めてくれ。……そうだな。万が一のために、レイラも一緒に行ってくれ。くれぐれも、情報を集めるだけだ。勝手な行動を起こすな。情報を集めたあと、またこうやって会議を行い、確実にことを成す。他の皆は予定通り、自分たちの担当の場所で行動を起こしてくれ」
私たちは頷き、リーダーもその様子を見て満足そうに頷く。
その後、リーダーも少し気構えを解いたようで、張りつめた緊張感が緩んでいくのを感じた。
「しかし、不謹慎ながら私はこの事態を嬉しく思っているかもしれん……」
笑いながら、そんな不思議な言葉をリーダーが言う。
「なぜでしょうか?」
1人がそう聞く。
だが、リーダーは少し難しい顔をしてから口を開く。
「……自分でも測り兼ねているんだ。私たちの仲間を捕らえた者たち、それが本当にいるとすれば、そいつらは私たちの最大の障害となるだろう。この大地から人という種を消そうとしてるなら当然……」
確かに、スィーアとキシュアを実力で捕らえたというのなら私たちの障害となりうるでしょう。
リーダーの言う通り、私たちの目的はこの大陸の人の絶滅なのですから、どこかで確実にまたぶつかるでしょう。
「だが、それが不意に昔の自分たちに重なって見えてな。いや、聞いただけだから、重なって聞こえた?が正しいか。あの日の、無知だった私たちに。……きっと皆、分かりあえると信じて剣を握った。そんな敵がまだいるのかと思うと少し嬉しくてな。まあ、加減なんかはしない。ピースのように敗北してしまえば、私たちがここまで生きた理由がない。……その敵に会った時、自分たちの若さと無知さを叩き込んで、心をへし折って消してやろう。あの時の自分を見るのは嫌だからな」
なるほど、確かにあの時の自分を見るのは嫌ですね。
でも、リーダーのその気持ちもわかります。
あの時、信じて剣を持った……。
それと似た敵ですか、きっと私たちの計画に賛同してくれるとは思いません。
その知識すらないのですから……。
さあ、やることは決まりました。
私はその障害となりうる敵を徹底的に調べ上げ、ピースの二の舞だけは防ぎましょう。
side:ユキ
そんな感じで敵さんの会議は終わりを告げた。
とりあえず、俺が言いたいのは1つ。
「……お兄ちゃん、ねむい~」
「兄様~、うにゅ」
「ユキ……、んん……」
いつものちびっこ3人は、無理やり俺についてきたのだが、この状態だ。
……即ち。
「何時だと思ってやがる。こんな時間に会議とか馬鹿だろ?」
現在の時刻深夜3時。
異世界だろうが、地球だろうが、殆どの人は寝てる時間だ。
そして、宴会場の隅っこで正座をしている聖剣使い2人を見る。
「い、いえ。そんな事いわれましても……」
「そ、そうだ。私たちには関係ない」
たく、400年以上も経ってなんでこんな時間に……。
ん、ああそうか。
「早起きがすぎるってところか? 年寄だし、中身はお婆ちゃんか」
「やめてください!! 歳は重ねていますが、外見も中身も少女です!!」
「そうだ!! 酷い言いがかりはやめてもらおう!! あいつらの中身が年寄りなだけだ!!」
「そ、そうです!! 私たちはちゃんと寝てる時間ですし、彼女たちが年寄り臭いだけです!!」
……うーん、これって仲間を売ったって言えるのか?
仲間を婆宣言とか、内部分裂しそうだな。
「まあ、お婆ちゃんの戯言はどうでもいいとして、ピースどう思う?」
俺はさっきの会議の内容をピースに聞いてみる。
だって、相手さん全部ピースの知り合いだしな。
「……え? ええ、全員婆でいいのではないですか? だって、若いか年寄りかって歳で決めるのでしょう?」
「「ピースゥゥゥ!!」」
ここで思わぬ裏切りが来たか、いや、その若いか年寄りかの話じゃないんだけどな。
「お前たちがなんで年寄りを毛嫌いしてるかわからんが、私もその年寄りに入るしな。まあ、私たちを年寄りというカテゴリーに入れるのは、本当のお年寄りに対して失礼だろうが」
「え、なんで?」
「どういうことだ?」
「お前たちもウィードは多少見て回っただろう。そこで生きる人たちから年寄りと呼ばれている人たちこそ、本当のお年寄りだ。今までしっかり生きて生きて、経験を重ね、多くの人を見てきて、生活の基盤をずっと守ってきた人たちだ。ただ感情に身を任せて、血に濡れた私たちと同じにするのは失礼だろう」
「「……」」
「お前たちも1度公園にいるお年寄りたちと話してみるといい。私たちが感情に任せて命の奪い合いをしていた時、彼らは必死に村を守り、作物を育て、子を守り、次代へつなげていった。それがきっとわかる。まあ、私がこうやって高説を垂れるのも失礼なんだがな、私も教えてもらった身だ」
うんうん、ピースをウィードに連れて来て正解だな。
ちゃんと、勉強もさせてるし、やれば出来る子だったんだよな。
「ま、そこはどうでもいいんだがな。俺の聞き方が悪かったな。あの会議はどう思う?」
「ん? ああ、そういう事ですか、申し訳ない。恐らく、スィーアとキシュアが言ったように、この大陸から人を絶滅させるつもりでしょうね。……私がしたことを繰り返すとは、余程の事があったのでしょう。彼らが絶滅させようとしているのは、かつて自分たちが守ろうとしていた人たちなのですから……」
「「……」」
「何があってそう言う方向になったかは、いずれ聞くとして、とりあえずはスィーアとキシュアの言った通りに敵さんは動いてると思うわけだ」
「ええ、人をこの大陸から消す。それを確実に行おうとしています」
ピースがそう言って、周りが静かになる。
人を大陸から消す、絶滅させるね……。
まあ、エージルが言った手記からすれば、絶望したんだろうけど。
わかりやすいというか、決断が早すぎると言うか、人類に絶望して、地球つぶしを実行するってのはね……。
いや、規模は小さいけど、内容は似たもんだし。
「さて、諜報、ピースとスィーアたちの話で敵さんがこの大陸の人を絶滅させてしまおうと言うのはわかったが、俺たちはとりあえず、エナーリアで調べ物を続ける。あと人脈の強化な」
「え!? ユキさん、それじゃあの大陸の皆を見捨てるの?」
リエルがとても悲しそうな目でこっちを見てくる。
「いやいや、見捨てるつもりはないけど、俺たちは一応傭兵だ。しかもジルバと契約中。これじゃ、他国へ飛びまわれないし、乾坤一擲で敵さんの集まってるところを襲撃して倒せればいいけど、しくじれば、確実に潜伏されて、追うのが難しくなる。かといって、敵の秘密を話して各国に要請もできない。基本的に聖剣使いの裏話はタブーというか、国が隠しておきたい汚点だしな」
「うー、ごめんねユキさん。ちょっと感情的になっちゃった。そっか、今できるのは、なるべくいろんな国と仲良くして、有事の時には駆けつけられるようにする事なんだね」
リエルは俺の話を聞いて、好き勝手に動くのが難しいこと、国との関係が厄介な事に気が付いたようだ。
「そういうこと。まだ、国々はスィーアたち聖剣使いが動き出している事すらしらない。それに注意しろって言うのは不可能なんだ。だから、俺たちはエナーリアで人脈を広げて、すぐに動けるように備えるってのが大事だ。まあ、相手は残り7人。同時に色々動かれると、俺たちはかなりキツイ。正直、一網打尽にできないことはない。というか出来ると思うけど。それじゃ、意味がない。スィーアとキシュア、その仲間たちがなぜここまでのことを起こしたのか、各国の代表は知るべきだ。俺たちがなあなあで済ませていいことじゃない」
「そっか、仲直りは大事だよね」
「ああ」
うん、リエルの言ってることは正しい。
すっごく眩しい答えだ。
仲直りは厳しいと思うが、自分たちの祖先がしてきたことをひた隠しにしてたんだ。
そのツケってのを身をもって知るといいクスリになると思う。
「だが、情報は知ってるから、被害は最小限に防ぐぞ」
「「「はい」」」
よし、あとは敵さんの動きをニーナを通して詳細に調べて、被害を調整する。
そうすれば、俺たちが各国へ貸しを作れるし、優位に動ける。
まあ、もう動きだしてるみたいだし、数国は潰れてもらう覚悟はいるけどな。
それを補うほど、人手は足りてないですから。
「よし、今日の緊急会議は終わり!! さっさと寝よう!!」
「「「うん」」」
「あと、そこのお婆ちゃん2人は湯呑とか片付けてな」
「「お婆ちゃんじゃない!!」
オチもついた事だし、さっさと寝よう。
明日も早いんだ。
しかし、情報が筒抜けなのはいいが、この時間帯でやられるのは困るわ。
今度から録画にしてもらおう……。
深夜の連絡はなるべく控えましょう。




