第237掘:敵と書いて、路傍の石(どうでもいい)と読む。
聞いてくれ、俺は悪くねえ。
敵が悪いんだ。
第237掘:敵と書いて、路傍の石と読む。
side:ジェシカ
いったい何が起こっている!?
いきなり城のあちこちで響く叫び声に怒号。
私はミスト様と一緒にミフィー王女様の護衛を勤めていたのだが、いきなりエナーリア城内が豹変した。
咄嗟に、私は扉の前で剣を抜き、いつ不届き者が来てもいいように備える。
ミスト様もミフィー王女様を窓から引き離し、窓側で緊急事態に備える。
「どうですか、ミスト様?」
「いえ、窓は残念ながら、城内へ向いていないので、特に何も見えません」
「……そうですか」
くそっ、場所が悪い。
この位置では、情報が何も入らない。
いや、ユキたちに連絡を取れればいいのですが、この状況ではミフィー王女様やミスト様に色々ばれます。
それをユキたちも把握しているからこそ、連絡してこないのでしょうが……。
「いったい何が起こっているのですか?」
「……わかりません。しかし、私たちが危険な状況にあるのは間違いありません」
「ええ、ジェシカさんの言う通りです。停戦に来たこの状況での騒ぎ。恐らくは停戦に反対する勢力が城内で暴れていると見ていいでしょう」
「そ、それなら、護衛のユキ殿たちと合流するべきでは?」
「いえ、この状況で未だミフィー王女様がいるこの部屋に敵が来ていないということは、敵がミフィー王女様の場所を把握していないか、ユキたちが敵を止めている可能性があります」
そう、本当に危険ならユキは迷わず真っ先に私を助けに来るはずだ。
私の旦那様はそういう人だ。
だから、それを踏まえて状況を考えると、私でどうにかなる相手ということ、しかも2人を守りながらどうにでもなるレベル。
ここはこの場で事態の推移を見守るべきでしょう。
「ミスト様の言う通り、敵がこの場に来ていない以上、ユキたちが動いてくれているはずです。逆にミフィー王女が動けば守りにくくなるので、連絡が来るまではここで防衛に徹するべきでしょう。不安なのは分かりますが、ここはじっとこらえるべきです」
私はそう告げて、ミフィー王女様をじっと見つめる。
ミフィー王女様、ここが踏ん張りどころです。
ここを乗り切れば、きっと停戦が成ります。
「……わかりました。ユキ殿たちを信じ、ここで待ちます。ミスト様、ジェシカ、どうか私を守ってください」
「「はっ」」
恐らく、これがミフィー王女様の護衛としての最後の戦い。
最後ぐらいは、ユキの妻でなく、私は貴女が憧れた騎士でいましょう。
あ、でも敵が来なかったらどうしよう……。
ユキが連絡すらしてこない以上、どうでもいいレベルの敵ってことですからね……。
うわ、どうやって騎士らしい姿を見せたらいいんですか!?
ちょっと、ユキ、私に見せ場を残してください。
お願いします。
願いよ、届いて!!
そう、扉に顔を向けて、ミフィー王女様たちにばれないように祈る私でした。
side:ラッツ
まったく、いきなりデーモン系?ですかね、湧いてくるとは。
お蔭で、エナーリア観光とお兄さんから頼まれた情報収集がパーですよ!!
というか、なにが目的でしょうか?
手あたり次第人を襲ったり街を破壊したりしてますが……。
『ラッツ、無事か』
「無事ですよ。でも、なんですかこの団体様は。数はそこまで多くないですが、レベル的にここの一般人じゃ蹂躙されちゃいますよ!!」
私が鑑定をかけた結果、レベル92のグレーターデーモン。
なぜか、わらわらと増えてるんですよね。
しかし、私たちには雑魚に等しい敵ですが、このレベルでは一般人どころか、ここの兵士は相手になりませんし、魔剣使いで一匹やっと倒せるかどうかですよ。
つまり、エナーリア崩壊の危機です。
『エージルに協力しつつ魔物を排除してくれ、原因を俺たちが探る』
「お願いします。って、こらぁ!! 親子に手ぇだしてんじゃねーぞ!!」
お兄さんと話をしている間に、馬鹿な魔物が仲睦まじい親子に手を伸ばしていました。
今や私も一児の母。
だから、その場面を見て同じ子を持つ母として、ブチ切れました。
即座に手持ちの槍を投擲、頭を消し飛ばして、母と子供を助けました。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます!! 本当に、ありがとうございます!!」
「ままー、うわーん!!」
母と子はひしっと抱き合って泣いています。
よかった。
親子は一緒にいてこそですね。
「さて、お兄さんから連絡は聞きましたか?」
私は壁に突き刺さった槍を引き抜いて、後ろにいるはずの2人に声をかけます。
「はい、無論です。と言うより、この無作為な破壊、戦争より度し難いですね」
「……あの光景は一度だけでいいわ。今はユキさんがくれた力がある。今度こそ、守ってみせるわ」
振り返ると、2人とも魔物の首を両手に持って笑っています。
いや、私と同じようにキレてます。
エリスは同じように母と言う立場ですからね。
ミリーに子供はいませんが、私たちの子供がミリーの子でもあるのです。彼女も立派な母親です。
「……はあっ、ふうっ、えっと、なんで3人はそんなに強いのかな? 僕でも結構ぎりぎりだったんだけど」
と、視界の端にエージルさんがいました。
すっかり忘れてましたが、一緒に来てたんでしたね。
結構ボロボロですけど、なんとか魔物は退治できたようですね。
ふむ、これなら戦力として見てよさそうですね。
「「「傭兵ですから」」」
「いや、説明になってないからね!!」
「まあ、そこはどうでもいいです」
「よくないよ!!」
「落ち着いてください、エージル。現在、見ての通り魔物があちこちで暴れています。どこか避難出来る場所はないのですか? この母子がまた襲われるようなことがあってはいけませんし」
「あ、うん。それなら、大聖堂がいい。魔物に対して聖なる守りがあるって言われているし、大事の時には大聖堂に集まるように国民には言ってるから」
なるほど、なら……、私たち3人は顔を見合わせて頷きます。
「では、エージルさんは一旦私を、大聖堂まで案内してください。この母子も一緒に連れて行きます」
エリスがそう言います。
「いいけど、2人はどうするんだい?」
「私たちは、魔物をぶっ飛ばし、人々を助けつつ大聖堂へ行くように言ってきます」
ミリーはそう言って、片手に持ってた魔物の首を空中に放り投げて、剣で細切れにする。
ありゃ、随分キレてますね。
ま、これでエージルが引き留めることはしないでしょう。
「あ、うん。大丈夫そうだね。あ、あははは……。情けないけど、頼むよ!! すぐにエリス君も連れて戻ってくるから。皆聞いてくれ、魔剣使いのエージルだ!! 魔物が攻めてきた!! 皆は大聖堂に移動してくれ!! 私が皆を守る!! だから、誘導に従ってくれ!!」
エージルがそう叫ぶと、恐怖で無作為に逃げていた人たちが一斉に大聖堂がある方向へ走り出します。
「……ほお、伊達に将軍というわけではないのですね」
「みたいね。私たちの初陣の時よりは全然上だわ」
しかし、人の流れができたことによって、それを狙う魔物が出てきます。
それに気が付いた人は絶望で足を止めています。
ま、仕方ないですよね。
ですが、魔物たちはその場で崩れ落ちます。
いや、頭部がありませんでした。
「さあ、皆さん進んでください!! 皆さんは私とエージル将軍が守ります!!」
エリスが弓を持ち、矢を放ったのです。
流石、森の狩猟民族と言われるだけありますね。
エリスはそう言うと、集まってくる魔物を即座に撃ち殺していきます。
「そこっ!!」
おや、あれって100メートルは離れてません?
弓でそこまで狙撃って銃より難しくないですか?
「さあ早く!!」
「はっ、皆落ち着いて移動してくれ!! 僕とエリスが守るから!!」
2人の声で我に返ったのか人々は移動を開始します。
「戻ってくるまで頼みます」
エリスはレベルで上げた身体能力をフル活用して、常識外れの速度で縦横無尽に飛び回り、迫ってくる魔物を倒しながら、私たちに声をかけて遠ざかっていきます。
「さて、私たちもいきましょうか」
「ええ、しかし敵は広範囲。別れましょう」
「分かりました。でも、無理は禁物ですよ? お兄さんが泣いちゃいます」
「分かってる。と……」
ミリーの姿がいきなり消えます。
いえ、私は見えてますけど、ああ……なるほど。
「離れろ!! 親父がいないんだ!! 俺が……俺が姉ちゃんや、母ちゃん、家族を守るんだ!!」
視線の先には、家族を背に、ズタボロになって、敵わないと知っても、家族の為、大事な人の為に立ち上がる少年がいました。
馬鹿な魔物ですね。
わざと手加減して遊んでいるのでしょうが……。
ゴトン。
そんな音がして、少年の目の前の魔物は崩れ落ちます。
「え?」
ゴトン、ゴトン、ゴトン。
更に立て続けに、周りを囲んでいた魔物も首が落ち崩れおちます。
無論、それをやってのけたのは……。
「……よく頑張ったわね。さあ、ここは任せて大聖堂に逃げなさい」
優しい顔をして、ミリーが声をかけていました。
「あ、ありがとう!! さあ、母さん、姉ちゃん、いくぞ!!」
少年は自分の不甲斐なさを嘆くより、すぐに家族の安全を取り、その場を離れます。
ふむふむ、将来が楽しみな少年ですね。
一匹空を飛んでいた魔物が、その少年たちを追おうとしますが、即座にミリーに斬り飛ばされます。
「……あの家族に、あんな思いはさせないわ。さあ、かかってきなさい。いえ、にがさない」
そう言ってミリーは空中で死んだ魔物の遺体を足場に、空中を跳ね回って、敵を斬り倒していきます。
「まったく、ミリーもエリスももうちょっと人目をですね……」
私がそう言いかけると、ちょっと違った叫び声が響きます。
「ウサギちゃんが!!」
「なっ、戻ってきなさい!!」
そこに視線を向けると、母親の手を払い、落としたウサギの人形を取りに戻る幼い少女がいました。
「よかった……。え?」
少女はウサギの人形を無事拾うのですが、突如暗い影が少女を覆います。
目の前には魔物が爪を振り上げていました。
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!」
母親の絶叫が響きます。
普通であれば、少女は物言わぬ遺体になっている事でしょう。
普通であれば……。
「よっと」
「え?」
ああ、いけませんね。
私も2人のことは言えません。
片腕に少女を抱いて、もう片腕で魔物をめった刺しにしてました。
「お人形さんは無事でしたか?」
「うん。ありがとうお姉ちゃん。これはね、お母さんが買ってくれた宝物なんだ!!」
「そうですか、それはよかったですね。じゃ、次は落とさないようにしっかり持っててくださいね」
「うん!!」
そっと降ろすと、少女は母親に走り寄り、きつく抱きしめられます。
「さあ、ここは私が引き受けます。皆さんは大聖堂へ」
「ありがとうごさいます!!」
「おねーちゃん、頑張ってー!!」
少女は母親に抱えられながらこちらに手を振ってくれます。
いやー、可愛いし、あの時の少女を思い出しますね。
そして、私は振り返ります。
目の前には、私の力量を感じたのか、それなりの団体様がいます。
「あんな声援を受けたんです。手加減は出来ませんね」
私が一歩踏み込むと、団体様が一歩下がります。
「おや? 逃げられるとは思わない事ですよ。恐らくは、そこに隠れている人に呼び出されたのでしょうが……」
私はそう言って、槍を投擲します。
「ガッ……!?」
壁を貫いて、隠れていた人は大通りへ、私の目の前に飛び出します。
「女性の方でしたか」
私はそう言いつつ、即座にその女性に鑑定をかけて……!? ダンジョン人族?これはまた厄介な。
「くそっ、なぜだ!! 貴女のレベルは精々70、なのに……なぜ私が投擲の槍ごときで、ここまで……」
「馬鹿ですねぇ。誰がそんなこと言うと思います?」
なるほど、隠ぺいでレベルを隠してたのがよかったみたいですね。
さて、無駄な会話を戦闘中にしてはいけませんし、さっさと、逃げられないようにしておきますか。
ということで、魔力封じの槍を彼女に数本ばかり突き刺しておきます。
「あぐっ!?」
これで、転移とかで逃げられることはないでしょう。
「……!? 転移、できない!?」
ああ、おバカですね。
敵わないと思った瞬間に退くべきでしたね。
「そこでしばらくじっとしててください。聖剣使いのキシュア・ローデイさん」
「!?」
じゃ、私は魔物狩りでもしますかね。
今の現場を目にした魔物は私に絶対敵わないと分かったのか、背を向けて逃げ出しています。
「いい的ですよ」
投擲用の槍をアイテムボックスから出し、雨のように投げつける私でありました。
あ、お兄さんにこのへっぽこ聖剣使いのことを知らせないといけませんね。
side:ユキ
「ラッツか? 今さ、そっちに厄介なのが……、あ、もう捕縛した? うん、それならいいや。とりあえず、魔物は減ってきてるし、ルルアを大聖堂にやってるから怪我人はそこで一斉に治すように言ってる。いま俺がどこにいるかって? えーと、エナーリア王都近くの森だな。そこに厄介な反応があって……、あ、大丈夫。もうこっちも押えてるから」
連絡をしつつ、横目でその厄介なのを見る。
そこには、コサックダンスをしている女性がいる。
ついてきたセラリアは、可哀想な者を見るような目でみてるが、紛う方無き、スィーア・エナーリア。
聖剣使いであり、エナーリアの祖であり、ピースと戦いを繰り広げたその人である。
あ、デリーユとピースはミノちゃんたちと一緒に城内の鎮圧に乗り出した。
監視はリーアだけにして、霧華はちょっと別の用事で動いてもらった。
「……あなたが動いたのだから、まともな戦闘になるとは思っていなかったけど……、流石にこれはやりすぎじゃない?」
セラリアは彼女のコサックダンスに見かねたのか、俺にそう言ってくる。
「……くっ、なんで体が言う事を聞かない!?」
当の本人は至って真剣に、自分の体が言う事を聞かないのを解除しようとしているのだが、コサックダンスをしていてギャグにしか見えない。
「やりすぎか? 街を魔物に襲わせ、怪我人や死人をだし、城内で行われようとしている停戦をぶち壊しにしようとしている。それをコサックダンス程度で許しているんだ。本来ならタコ殴り拷問直行で、斬首だと思うぞ? あと、女性の尊厳も木っ端微塵になると思うが?」
「……そうなのだけど、なにか、何か間違ってると思うのよ」
ま、セラリアの葛藤こそ狙っているんだけどな。
こういう大事を起こす奴は、真面目に対応すると、勝つにしろ負けるにしろ、生きるにしろ死ぬにしろ、勝手に悦に浸る奴が多い。
これが結果か仕方ない、なんて言ってな。
だから、まずはそこをぶっ壊す!!
俺を相手にして、まともに敗北できると思うなよ!!
ラッツが捕まえたもう1人の聖剣使いと合わせて、たった2人でファンファンウィーヒッタス◯ーッステーをやらせてやる。
スリ◯ーとかも考えたけど、あそこは大御所すぎるしな。
「で、なんで彼女がここまで言う事を聞いてるのかしら? 触っただけにしか見えなかったけど? ……しかも下腹部を」
「いや、下腹部って大事な所じゃないからセーフだろ。っと、言葉で説明するより見せてもらったほうがいいな。コサックダンスしたまま下腹部を見せてくれ」
「だれ、っが……くそ!!」
器用にコサックダンスをしながら上のシャツのボタンを外し、下のズボンも脱ぐ。
全裸になり、胸が露わになって形の良い胸が揺れる。
ついでにセラリアの目が鋭くなる。
「おい、上の服をめくるだけでいいだろ!! なんで全部脱ぐんだよ!?」
「あ」
なるほど、命令は受け取った本人が解釈して行動を起こすのね。
つまり、この人は俺が下腹部を見せろと言った事を、エロイことをするから全部脱げと受け取ったわけだ。
「……なるほど。そこにダンジョンコアがあったからあなたがいきなり痴漢行為に走ったわけね?」
「いや、制御奪うとどうなるかなーって思ったんだけど」
「それでこの結果ね。……で、スィーアさんは夫に慰み者にされると思って全部脱いだのね。エロイわね」
「エロくないです!!」
「全裸で踊っているあなたにいわれてもね……」
「……ううっ」
あ、泣いた。
ま、自業自得だし。
『主様、こっちは抑えました』
「お、なら証拠を持って登城してくれ、俺たちも向かう」
『わかりました』
「さて、セラリア、こいつらのおかげで色々面倒はあったが、こっちも色々できた。あとは仕上げだ、行こう」
「わかったわ」
そして、その場を離れようとするのだが……。
「あの!! 私はほったらかしですか!? せめて、せめて服を!!」
真剣に叫び声を上げている。
うむ、いい感じだ。
「大丈夫。誰もいないし、後で君の友達もきて、同じように裸になって、ファンファンウィーヒッタス◯ーッステーをやらせるから」
「何ですかそれ!? ってキシュアもやられたんですか!? なんて出鱈目な!! と、ま、魔物に襲われます!! だからこんな所に放置はやめてください!!」
「大丈夫、レベル150もあれば問題ないだろう。ま、心配だし、コサックダンスかファンファン以下略をしながらの撃退を許そう」
「いやーーーー!!」
後に、彼女の叫びがエナーリアの城まで届いたとかなんとか。
更に、外で全裸になって踊っている美少女がいるという噂が流れたが、まあ、俺に責任はない。
しかし、彼女たちはコサックダンスとかファンファン以下略は知らないのに、踊れるってことは、俺を介して記憶ないし知識が移ってるってことだよな。
なるほどなるほど、良い情報だ。
さて、残りのお仕事がんばりますか。
いいか、何度か言ったが、真面目の脅威はギャグだ。
ギャグの前には真面目は機能しない。
これも戦略だ。
ほら、だってみんな敵が可哀想って思っただろう?
最後のオチで、ラッツ、エリス、ミリーの活躍が吹っ飛んだだろう?
そういうことだ……がっ、体が!!
5月26日
FUN FUN WE HIT THE STEP STEP
さあ、皆も一緒に、彼女たちは今度の話でな。




