第230掘:捕虜の情報とおとぎ話の真実
捕虜の情報とおとぎ話の真実
side:ユキ
「はぁー、なるほど。ユキも大変だね」
「ま、傭兵ですからね。契約した以上は働かないと次の仕事にかかわりますから」
「どこもかわらないべな」
お茶を飲みながら和やかに話す俺たち。
「しかし、ベータンの防衛にこの正体不明の軍の調査とか、流石に無茶がすぎないかい?」
「それに見合う契約金はもらいましたしね。魔物軍のほうは、実際交渉というより、様子見ぐらいのものだったのですが、見張りの魔物に声をかけられて驚きましたよ」
「ははっ、それはそうだろう。私たちも遺跡の中で必死に食料を漁って生きてきたが、まさか、ミノタウロス将軍たちの食い扶持を奪っているとは思わなんだ。味方が助けに来たときにようやく魔物の動きが悪い理由がわかったよ。まったく、ミノタウロス将軍には頭が上がらないよ、無知に暴れる私たちの命を奪うことなく、穏便に済ませてくれたんだからね」
「ですね。おかげで、ジルバとエナーリアはぶつからずに済みそうですから」
「まったくだね。戦争なんてさっさと終わらせて、この遺跡の研究に没頭したいもんだ」
エージル将軍とのんびり話をしているが、やっぱりマッドな方みたいだ。
戦争なんてさっさと終わらせてって、現状自国の領地を取られている状態なんかどうでもいいって宣言はマッドな証拠ですよ。
「あの、エージル将軍、流石に、領土を取られている状態を無視するような……。その、発言は……」
ほら、横の一般兵士のノークさんでも将軍相手に苦言を呈するレベルだ。
「なに言ってるんだい。国の面子で勝手にどっちの領土だーって言ってるだけのことだ。別にその地に住む人達にとっては害がない限り、どこが治めようが構わないんだよ」
「そ、それは……」
「確かに、穀倉地帯だから国庫を潤す要素をもってはいるけどね。それでも、その土地が穀倉地帯なのは国のおかげじゃない。そこに生きる人たちが毎日毎日頑張っているからだ。それで今回の争いはどうだい? ミノタウロス将軍の遺跡への崩落事故が無ければ、穀倉地帯に生きる人と、丹精込めて育てて来た畑を踏みつけ、台無しにし、焼き尽くす戦争を起こす直前だった。実に馬鹿な話さ」
「……」
「ここの収穫は、エナーリアだけでなく、ジルバや他国への交渉や売買にも使われる。ここを争いの場所にする価値はほぼないのさ。ジルバみたいにあっという間に奪い取る算段か、拠点に集まった攻防戦。これぐらいしかやっちゃいけないんだよ。でも、このままいけば大軍対大軍の広い穀倉地帯のど真ん中で戦争を始めることになるところだった。そうすれば、こんどの収穫への被害は甚大。飢餓すら心配しなければいけない状況になる。って、あっという間に取り返すはずだった私が言うのもなんだけどね」
へぇ、しっかり考えてるな。
エージルの言う通り、このまま再びぶつかることがあれば、今度こそ拠点での素早い攻防戦ではなく、丹精込めた畑をぶち壊す戦いをしなければいけない。
俺は、ベータン一帯の収穫量は情報として聞いていたが、そこまで重要度の高い場所だったか。
「たく、ユキのところの魔剣使いはどうやって、砦をあっと言う間に落としたんだい? おかげで、こっちは大混乱さ。あと、聖剣使いは無事か知ってるかい?」
「さあ、あの時は後方でしたから、さっぱり。聖剣使いの方は砦で手厚く持てなしているそうですよ」
「……なにをウソばっかいってるべ」
「……そうっす」
何か横で魔物さんがうるさいね。
しかし、エージルの耳には入らなかったようでなによりだ。
「そうか、それならよかったよ。なにぶん、彼女に聖剣を持たせたのは私だからね」
ふっーっと、安心したように、ソファーに深く腰掛ける。
って、おい、今凄く重要なこと言わなかったか?
「え、ええっ!? エージル将軍それはどういうことですか!? 聖剣使い様は運命で聖剣を引き抜いたのでは!?」
「あははは……、それはないない。物語の読みすぎだよ。あの聖剣使いを見つけたのはいつもの魔剣使い発掘の時さ。聖剣自体は、エナーリア王都の真下にある遺跡から回収したんだよ」
「は? 遺跡がエナーリアの王都にあるんですか!?」
「いや、隠してもないよ。大聖堂があるだろ。あれは遺跡を流用して作ったものさ」
ピースの言う通り、エナーリアにダンジョンはあったみたいだな。
当時ピースと敵対した相手が、ダンジョンを利用してたって話はこれで信憑性が出てきたな。
「ま、聖剣を見つけたのはエナーリアの古い文献を暇つぶしに見てた時に、気になる記述があって、それを調べたら聖剣がでてきたってわけだよ」
「でも、それが本物の聖剣と判断した理由はどこだ?」
「お、いい所つくねユキ。そうだよね、普通なら魔剣って言うべきだよね。でも、聖剣たる証拠があったわけだ」
「証拠?」
「うん、13本の聖剣っておとぎ話は知ってるかい?」
「それは、人並みには、な」
ジェシカから話聞いててよかったわ。
あ、ちなみにリーアとジェシカは隣の監視室でこの会話をしっかり聞いています。
こういうところはしっかりしてるのに、なんで身内だけだとああなるかね。
「ジルバは……そうか、確かにのってなかったから知らないのも当然か、13本の聖剣にはおとぎ話の方と歴史を綴った二つがあるんだ」
「歴史っていうと、聖剣の生まれとかの話か?」
「まあ、それも含まれる。聖剣にまつわるおとぎ話の真実ってやつだよ。ま、ここまで聞けばわかると思うけど、真実、歴史ってのは正直面倒な内容なんだ。だから、おとぎ話を作って真実の話を当時聖剣を所持した国が隠ぺいしたわけだ」
「大体真実ってのはそんなモノだろう? でも、それをエージルが俺たちに話していいのか?」
そう、問題はエージルが俺たちに話しているってことだ。
下手すれば国をひっくり返す内容がとびでる。
流石に魔剣使いの将軍といえど、首が物理的に飛ぶと思うんだが。
「……そうだね。その可能性もなくはない、だけど、僕の直感ではこの場で話しておかないと、次はない気がするんだ」
エージルは真剣にそんな言葉を言う。
こういうマッドサイエンティストは余程な確率じゃない限り突っ走るタイプだ。
……ということは、結構な確率でエージルが話せなくなる状況に陥るってことか。
「そうならないことを祈るけどね。といっても、君たちがこの話を他にしても信じてもらえないだろうけど」
「そりゃ、隠ぺいするために昔から手を回してたんだ。あっさり覆る簡単な話じゃないんだろうさ」
「ああ、ユキの言う通り、誰も信じられない内容さ。そもそも、亜人との戦いで13本の聖剣が存在したわけじゃない。もともと、魔王が出現したときに、13人の勇者が所持していたのが聖剣のはじまりだ」
……魔王ね、ピースの話か?
「魔王が現れたとき、奇しくも聖剣を持った13人の女性が存在していた。人も亜人もまとめてね。当時は亜人を排斥する動き自体は多少あったみたいだけど、それどころじゃなかったみたいだ。魔王が現れてから、大地は魔物で溢れかえった。どこもかしこも、必死に生きる為に戦った。亜人とも協力して魔物を押し返してって文献もあるみたいだ。今みたいな状態だと信じられないよね」
エージルの話にノークは驚いているが、俺はピースからの情報があったから、そこまで驚きはしないが、500年以上も前の文献がよく残っていたもんだな。
しかし、これがどうすれば13本の聖剣で亜人を追い払った話になる?
「ここで問題なのは、13人の聖剣で魔王を倒したって話がなぜないのかってことになる。どこでどうして魔王が亜人にすり替わったのかだ。ノークは話についてくるのでやっとみたいだね。ユキは大丈夫かい? 話についてこれるかい?」
エージルはこっちに気を使うように、こちらを見る。
……エージルの言ってる問題点はよくわかる。
だが、この問題において首を傾げる理由はない。
最初から答えは提示されていた。
しかし、これが本当なら、非常にくそ面倒なことになるぞ。
「……その後にまた大きな争いでもあったんだろう。たとえば亜人と、とかな」
俺がそう言うと、エージルは目を見開く。
そしてエージルは嬉しそうに口を綻ばせる。
「いやー、凄いね。君は歴史書を結構読み漁ってるほうかい? 同じ様なことでもそれにのってたのかい?」
「まあ、そんな所だ。とりあえず俺の話はいいとして、魔王を倒した後、聖剣を持つ亜人たちを脅威に感じたってわけだ」
俺がそういうと、エージルは真面目な顔にもどって頷く。
「そう、当時魔王との戦いで戦死したのは4人。残った9人の聖剣使いは人が6人、亜人が3人。戦死した4人の聖剣は人が1本、亜人が3本って言う風に持って帰ったんだ。そこに意図はなかったとおもう。ただ、親しい、死後聖剣を預けていいと思った人が形見として持って帰っただけだと思う。でも……」
「でも、各国の人族の王たちはそうは思わなかったわけだ」
「だね。そして最悪なのはこれからさ、無論魔王を倒す為に戦った生き残りの6人はそんなことを、手を取り合った人と亜人同士で戦争するのを認めるわけがない。だから、彼女たちのほとんどは聖剣を取り上げられ、服従か、暗殺されたんだよ。亜人の方の聖剣使いも同じだったんじゃないかな……」
「そんな……」
ノークは信じられないといった表情だ。
ま、世の中は所詮こんなもんだ。
だから、特別な力も何もない、一般人が一番楽なんだよ。
「魔剣ができたのはその人と亜人戦争の時さ。聖剣を量産できないかって言われて、命令されるがまま、人の元聖剣使いたちは研究をさせられる破目になった。ま、幸いなのは、人と亜人戦争において聖剣が使われたのは一度きりだ。そのあまりの威力に、人と亜人の王たちは聖剣を封印したわけだ。それからは劣化レプリカの魔剣を使うようになったわけだよ。と、古びた13本の聖剣の歴史書には書いてあるんだけど、今はだれもしらない。というより、僕が見た歴史書が真実という証拠もなかったけどね」
「それをどうして真実、本物だと思ったんだ?」
「簡単だよ。エナーリア聖国に囚われていた聖剣使いがこの歴史書を書いて、聖剣の場所を記していた。皮肉だね、魔王を追い払って王都の場所に聖剣使いがエナーリア聖国の祖を築いたっていうのに、それを奪われて、こき使われてってやつさ。結局、自分たちが作った魔剣が、亜人のほとんどをこの大地から追い出すことに成功するんだからね。最後に綴られていたよ、私たちの生になんの意味があったのかってね」
「なるほどな。本人が書いたと思しき本で本物の聖剣が見つかったわけだ。しかし、その本の内容は誰にも話してないし、言ってもないだろう?」
「当然だよ。こんな事実あっと言う間に揉み消されるからね。僕もバッサリやられるだろうよ。だから、とりあえず、聖剣だけを見つけたってことにしたのさ」
そこでエージルは話したいことは終わったのか、お茶を飲んで一息いれる。
しっかし、ピースや前任者のダンジョンマスターをバッサリやった奴らは、その後も色々苦労したみたいだね。
「で、その大層な話はすごかったが、それがなんで俺たちに話す理由になる?」
そう、そこがわからん。
なんで、エージルは誰にも話していない、禁忌みたな内容を俺たちに話したのか。
「いや、このまま黙っているのはつらかったってこともあっただろうね。でも、一番の理由はそこのミノタウロス将軍かな。ユキは偶然一緒にいたから……ってことはないな。多分この状況だから話したんだと思う」
「この状況?」
「そうさ。聖剣を見つけて、愚かにも戦争の道具に使おうとして、ミノタウロス将軍たち魔物の軍が現れた。これを偶然だと思うかい?」
「……どうだろな」
不味い、ミノちゃんたちは俺の部下でそのご大層な歴史とは全く関係ないですよって言えるわけがない!!
「ま、僕もそこまで大事になるような時代に生まれたとは思っていないさ。でも、何かが起こるならこれからだろう? エナーリア王都に僕が戻ればこの話をする場所なんて存在しない。だから、なにも政治に影響されていないユキの傭兵団とミノタウロス将軍だから話したんだ」
「……なるほどね」
「ま、万が一問題が起こっても、この話があれば、何かと予想はつくだろう?」
「そりゃな」
「どういう形で問題が起こるかは想像もつかないけど、恐らくはこの聖剣の真実が元で起こるだろうね」
「起こって欲しくないな。どう考えても国家レベルの問題だ」
なるほどな……、今回の聖剣の件で他国が色々動く可能性があるか。
しかし、このエージルは得難い才能の持ち主みたいだな。
なにか問題があれば、助けてこちら側に引き込むって手を考えておくか……。
「ま、その時はエージルを真っ先に助けるとしよう。君がいるのといないのではかなり違いがありそうだ」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
そのあとは、のんびり雑談をしつつお茶やお菓子を食べていたのだが、ノークだけは、今の話で大混乱を起こしていたみたいだ。
あー、この子一般兵だっけ?
どうしたものか?
昨日データすっとんで、全部書き直した。
ま、こっちの方がいい出来だとは思う。
さてさて、色々昔のことが分かって来たぞ、どうなることやら。
あと「夏色ハイスクル★青春白書(略)」をエロゲーと勘違いしている人がいるみたいだが、
PS4・3からでるオープンワールドのギャルゲーだ。
だから、俺はあえて女には走らず釣りとか、冒険をする!!
あ、あと本は結構売れてるって編集から連絡きたよ、みんなありがとねー。
とりあえず、自分が本買おうと行ったら売り切れとか悲しかったわ。




