第215掘:周りの動き
更新が遅くなって申し訳ない。
本編更新です。
どぞ、お楽しみください。
大会議
side:ユキ
「大将、大将、ミストさんたちがお呼びっすよ」
「はぁ、俺はニートになりたい」
「いや、意味がわからないっす」
「ニートという働かなくていい職業があってな、子供からも侮蔑されない素敵な職業がな……」
「いや、それ働いてないっすから。で、何度もいいますけど、ミストさんがお呼びっす」
「……しかたない、働きますかね」
あー、こんな仕事さっさと終わらせて、娘たちの姿でも見に行こう。
と、流石にこんな意識でミストたちと話すわけにはいかないか、意識を切り替えよう。
「で、ミストやホーストはどんな感じだった?」
「そりゃ、崩落現場見て唖然ですよ。追撃はあきらめたようっす。現在は監視に少数を配備して、後方で大将の起床まちっすね」
「そうか、流石に追撃をかけるような真似はしなかったか。ま、ミストならそういう判断をするだろうな。ミストの姉と風姫さんなら突撃しかねなかっただろうよ」
「あの2人は砦で待機っすからね。で、実際これからどうするつもりっすか?」
「どうって?」
「そりゃ、ダンジョンにいるエナーリア軍のことっすよ。表向きにも、裏向きにもあのままってわけにはいかないっすよ」
歩きながら、重要な話をしているが、聞かれて困るようなことはない。
だって、理解できないから。
横にはリーアとジェシカがしっかり固めてるし、聞き耳立ててる奴も実際いない。
「いろいろ考えてはいるが、とりあえずミストたちと話して状況を整理しよう。ミストやホーストがどう動きたいか知れば都合のいいように運べるかもしれない」
答えも急ぐ必要はいまのところない。
ダンジョン内のエナーリア軍はいつでも料理可能だ。
まずは表向き上司の意見を聞くのは大事だろう。
「そういや、おいらたちは雇われの傭兵でしたね」
「おう。この大陸ではほぼ無名の傭兵団だ」
「ところが、この傭兵団は一国家の戦力を上回っているんですよねー」
「出鱈目もいいところですが、事実なんですよね」
リーアが嬉しそうに言って、ジェシカがこめかみを押さえて言葉を吐きだす。
そう、戦力だけなら、俺が知りうる限り、ウィードの大陸とこの新大陸を含めてトップだ。
だが、それですべてが解決するわけではない。
俺の目的は、最初から一貫して世界の魔力枯渇原因を探り止めることだ。
この世界が星と呼べる形をしているのか、デカい亀が大陸を支えているのか知らないが、その地に生きる人という種族を全て平伏させ、王になることが俺の目的ではない。
「おお、もう起きられて平気なのですかな?」
俺たちが会議用のテントに入ると、ホーストが椅子から立ち上がり歓迎してくれる。
ホーストもしっかり兵を率いてきたみたいだが、完全にジルバ側についたって感じだな。
ホースト的には俺たち傭兵団の傘下と言いたいのだろうが、いろいろ問題があるからジルバ側って振る舞ってるんだろうな。
「起きたようですね。まっていました。ユキさんたちの意見を聞きたかったのです」
ミストはそう言って、テーブルに地図を広げる。
俺たちもミストたちの考えが知りたいので、そのまま地図の周りに集まる。
「ユキさんからの報告で、この場に兵を集めてきましたが、エナーリア軍はすでに遺跡内に撤退しており、出入口に少数の見張りを残しているようです。これでは追撃のしようがないので、見張りの兵だけを残し、遺跡に入っていったエナーリア軍が別の場所からでてくる可能性を考慮して、お互いの町に戻ろうと話をしていたところです」
ふむふむ、間違っていないと思うよ。
俺でも同じ状況ならそうするわ。
付け加えるなら……。
「つけ加えるなら、エナーリア軍が出てくる場所を探すといいんじゃないか? 別に大軍じゃなくて少数でいい。遺跡の入口を探すだけでいいしな」
「ふむ。それもそうですな。町の守りさえ固めてしまえば、あとはこちらも遺跡の出口を探すべきですな。先に発見できれば、不意をつけて敵軍にそれなりの被害を出せるでしょう」
「確かに、遺跡の入口という制限された場所では、あの大軍の力を活かせない。防備を整え次第、すぐに探索部隊を派遣しましょう」
ホーストとミストはそう言って、重点的に部隊を派遣するべき場所を話し合って決めている。
即断即決。
このコンビ、結構凄いんじゃねーのか?
選んだ探索場所の中には、本当に遺跡の出口があったりするからすげーと思う。
「で、ミストは今回のことは上にどう報告するつもりだ?」
そう、この場の処理はこれでいい。
しかし、これをどう報告するのかが問題なのだ。
下手に報告すれば、一気にエナーリア首都侵攻作戦なんかを発動されかねない。
そんなことになれば、俺たちが横やりを入れてとめるけどな。
だってそうしないと、俺たちがどう考えても先陣で一番槍にされそうだもん。
とりあえず、ミストたちがどう動くかを聞きたい。
「……ありのままを報告するしかありません。といっても、2つの町に砦1つを落とした報告はしていますから、あと1か月ほどで兵の増員が来るはずです。これで、防衛に関しての問題は解決するでしょう。が、今回の崩落でのエナーリア軍およそ10万の停滞を上層部がどう受け取るか判断できません。といっても、結局防衛に徹するか、攻めるかの二択しかありませんが」
ミストが言った通り、結局のところ、守るか攻めるかの選択しかない。
奪い取った土地を放棄するわけにもいかないから、防衛は固めるだろうが、行方不明と言っていいエナーリア軍が不安要素だ。
このエナーリア軍を警戒して、相応に時間をかけるか、それとも、チャンスとみてエナーリア聖国首都へ一気になだれ込むかだ。
「しかし、恐らくこちらに兵と時間を割いている暇はないので現状維持になるでしょう」
「なぜですかな?」
「私たちジルバ帝国もエナーリアだけと戦をしているわけではないのです。エナーリア軍も大軍を送り込んできましたが、それでも全軍と言うわけではないでしょう?」
「……ですな。10万程度では全体の6分の1程でしょう。ふむ……、逃げ帰った補給部隊も、増援を連れて来たとしてもまずは将軍たちの救出の方向へ流れるはずですしな」
「ですから、魔剣使いのしかも二刀流の魔剣使いを放置して、私たちと戦を始めるはずがありません」
「こちらは魔剣使いが3人と情報を流してもいますしな。相手の増援の中に魔剣使いと対等に戦える人物がいるとは思えませんな」
なるほどね。
他所とも色々やってるし、これ以上戦力は割けないわけか、首都を落としたからといってエナーリア聖国が滅びるわけでもないしな。
手間が増えるリスクは上も分かってるか。
「こちらも、兵の増援は到着しますが、防衛のための増員なので、爆発的に戦力があがるわけではないのでこちらから攻勢をかけて追い返すというのは厳しいでしょう」
「ふむ、防衛戦になるわけですな。今回の崩落は時間稼ぎと言う意味ではとても重要になりましたな」
「ええ。本来ならホースト殿の街が大攻勢をかけられていたことですし、これは私たちにとって良い事だと思いましょう」
ホーストはミストの話に合わせているが、こちらに視線を向け、少し残念そうな顔をしている。
あれはたぶん、鉄条網の威力を確認したかったってことだろうな。
「敵の増援が来るまでに、防衛の更なる強化と、遺跡に入ったエナーリア軍の情報を少しでも多く手に入れる。これが今するべきことです。砦のお姉様、マーリィ様には私から状況説明と今後の予定を伝えますので、ユキさん、ホースト殿たちは町に戻って話した通り、防衛の強化と遺跡の出口探索を行ってください」
大まかな方針を決めて、細かい話を詰めたあと、その場で少数の遺跡監視部隊を残し、俺たちは解散することになった。
ミストもホーストも連れて来た兵士の撤収指示で忙しく、俺たちは車の中でその様子を眺めながら会議をすることになった。
「とりあえず、一安心といったところでしょうか?」
シェーラが俺の膝の上でウサミミを揺らしながら言う。
「話した通り防衛主体になるみたいですから。私としてはジルバ帝国がなにかしら手を打ってくるとは思いますが」
シェーラの言葉に地元民のジェシカがそう答える。
「どうしてですか?」
「現状維持と言いましたが、現在の戦力と増員も合わせても、敵の軍よりは圧倒的にすくないのです。かと言ってさらに人数増加するわけにはいきませんし、領土を拡大できたのに失うような真似はしたくありません。幾ら魔剣使いが3人いるとはいえ、攻勢ではなく防衛、それで10万以上の大軍を押しとどめられると、流石に上も楽観視はしていません。そんな事が可能であれば、既に魔剣使いを単騎で送って山ほど領土を奪い取ってるはずですから」
「ジェシカさんの言う事はわかりますが、何かしら手をうつにして、ジルバはどういう手をうつと思いますか?」
「それは……」
ジェシカは明確な答えを出せないで口ごもる。
そりゃわかるわけないよな。
でも、シェーラと同じようにジェシカの言っていることはわかる。
ジルバ王は今回の大戦果を無にするような馬鹿ではない。
俺も明確な答えを出せるわけではないが、ある程度絞れる。
人数増加の手段は取れない、敵の方が圧倒的に多いし戦力的に負けている、それでも引けない状況下。
絞れるって言うのはおかしい話か、あとはこれしかないってぐらいだ。
味方が奮起できる理由になり、相手には攻めにくいと認識させるのが戦いには重要だ。
それは、士気という形で兵士たちに現れる。
だから、なんか1人だけお偉いさんとか、天才とか呼ばれてる人でも連れてくるんじゃねーかな?
魔剣3人と、更にジルバで名を広めている有名人が来れば、相手さんは動きが鈍るだろう。
「ま、考えても仕方ない。答えはジルバ本国が勝手にだすし、ベータンの街だけなら俺たちがどうとでもできる」
「まあ、そうですね」
「結局のところ、今までの話は私たち傭兵団抜きの話ですからね」
そうそう、結局、俺たち傭兵団>>>>ジルバ帝国とエナーリア聖国ってパワーバランスは変わらんのだ。
相手がどう動いても適度に調整をすればいいだけの話だ。
side:ジルバ帝国国王 フィオンハ・レーイガ・ジルバ ジルバ8世
「ふむ……、エナーリア聖国の領土をあっという間に奪い取ったのは見事だが、逆に敵を刺激してしまったか」
我の手には、魔剣使いミスト将軍からエナーリア領占領報告書と、さらに奪還を目的に敵の大軍が向かって来ているという報告書がある。
当然と言えば当然なのだが、10万を超える大軍と、それを率いるのがエナーリア聖国の最強の剣と言われておる、前代未聞の二刀の魔剣使いプリズム将軍なのだ。
「指示有るまで、防衛を続けるか……。なにか作戦あってのことだろうが、占領軍の派遣を行って、これ以上増員はできん」
だが、ようやくエナーリアへの切り口を手に入れたのだ、このまま取り返されるのは惜しい。
いっそのこと、他の方面軍の戦力を割いてエナーリア方面に送るか?
いや、もう敵は迫ってきている。
この報告書が1週間とちょっとで届いたと言う事は、そろそろ敵と戦端が開かれていてもおかしくはない。
今更、増員を送っても間に合わんか……。
「ここは兵を無駄に失う愚を犯さず、占領した地域の機能を奪うように指示するべきか……」
焦土作戦だ。
正直、この作戦は旨味が少なすぎるし、実行する兵には多大な負担をかける。
焦土作戦は、街や砦の機能を奪うと、やんわり言ったが実際は人が住めなくするといった意味だ。
食料を奪い、井戸には毒を撒き、家には火をつける。
こうすれば、奪還軍は街の救援のため足を止めざるを得なくなる。
しかし、これは人が行ってよい事ではない。
だが、このままでは、あっさり敵がこちらが奪った領土を取り返しにくることは目に見えている。
無事に魔剣使いたちとあの傭兵たちを撤退させなければ、逆にこちらが窮地に立たされることになる。
「やむなしか……」
我が覚悟を決め、焦土作戦を遂行する命令書をしたためようとした時、もう1つの報告書が届いた。
それは、敵が崩落と言う自然災害に巻き込まれ、ほぼいなくなったという報告書であった。
これは、我にエナーリアを落とせと天命かと思ったが、よくよく報告書を読んでみるとそうでもないらしい。
崩落に巻き込まれはしたが、敵のほとんどは無事で、遺跡へと逃げ込んだらしい。
現状、どこかにある遺跡の出口からエナーリア軍が出てくるかわからない状況下なので、防衛を整え、敵に備えると言った報告だった。
「時間はできたということか、しかし、敵もこの報告をうけ増援を送るであろうな……」
こちらも更なる増援を送れないことはないが、他所に行ってる軍を呼び戻して向かわせる分、エナーリアより遅くなる。
それでは意味がない。
「ならば、もう1人際立った人間を送ればなんとか時間を稼げるか?」
魔剣使いが強いと言っても、3人が10万の兵を止められるわけがない。
しかし、抑止力にはなりうる。
だが、現状は敵に二刀流の魔剣使いプリズム将軍がいることにより、その抑止力は消えてしまっている。
だから、もう1人、こちらから良い人材を送れば、相手の足を止める材料になるのではないか?
その間に、増援を間に合わせればよい。
「だが、問題は誰を送るか……」
我の護衛につけておるエアは、無論送るわけにはいかぬ。
名が通っておる将軍たちは出払っておる。
我がそう悩んでいると、廊下から走る音が聞こえ、乱暴に我の執務室の扉が開かれる。
エアが何も反応をしていないところを見ると敵ではないようだが……。
「お父様!! 傭兵ごときが城を荒らしたと聞きつけ、急いで戻ってまいりました!!」
「大至急、魔剣使いマーリィ将軍の元へ向かえ!!」
「へ? いえ、あの、お父様、傭兵は?」
我の目の前に現れたのは、王位継承権が殆ど無きに等しい、お転婆娘。第5王女のミフィーだった。
と言うわけで、決戦が先のばしになっただけです。
しかし、状況は混乱化しつつありますw
エナーリア侵攻軍はユキたちの手のひら。
変なデュラハンもユキたちの捕虜。
エナーリアの増援。
お転婆姫の登場と、ユキの仕事が一気に増えてきました。
この面倒な状況をどう料理するのでしょうか!!
いや、きっと敵が奇跡を起こしてユキたちを追い詰めるかもしれないぜ!!




