第213掘:事情聴取
事情聴取
side:スティーブ
世間が、大将とセラリア姐さん、ルルア姐さんの子供の誕生でお祝いモードの中、おいらたち、魔物軍の幹部は他所の大陸でダンジョン運営のお仕事をしております。
勤勉な魔物って珍しくね?
特にゴブリンとか。
「で、えーと、名前なんだっけ?」
「……ピース」
「ピースね」
おいらは現在、大将が慌てて、エナーリア軍との大戦を即座にダンジョン任せにして、様子を見て撤退した時、捕縛した正体不明のちょい強力なデュラハンを尋問していた。
もう子供が生まれて5日、なんでここまで尋問が遅れたのかと言うと、
1日目はエナーリア軍の監視……もとい、大将の子供を待とうという宴会を行い。
2日目は出産を祝い宴か……いや、エナーリア軍が大幅にダンジョン深部への本格的探索を開始したので警備強化。
3日目は宴会で2徹を重ね、モニターを見るだけの仕事に疲れ爆睡を……いや、エナーリア軍の監視をさらに強化した。
4日目、爆睡から起きて、そろそろ宴会用の食料品が乏しくなってきた……物資の補給のため、ウィードで買い出……補給を上層部に陳情して受け取る。
この様な激務の中、おいらたちは部下からの報告により、捕らえたデュラハンが目を覚ましたと聞き尋問を開始したというわけだ。
そう、大将が慌てて加減を間違えて5日近くデュラハンが昏倒したのが主な原因であって、おいらたちがさぼっていたわけではないっす。
ま、そんな経過がありまして、ようやくこの正体不明のデュラハンの調査に乗り出したわけっす。
ちなみに、エナーリア軍、約12万はダンジョンを順調に踏破しているっす。
脱出できる希望を絶たないために、上への階段をわざと設けているので、自暴自棄にならず上をめざし探索をしているっす。
実のところ上に行くと逆においらたちがいる最深部に近づく構造になっているっすけどね。
そろそろ食料とかが不足しがちになるはずだから、侵攻速度が上がるはずっす。
そんな事を考えつつ、尋問して聞きだした内容を、紙に書いている。
少し強いとはいえ、所詮一般兵のゴブリンたちと変わらないレベル。
個体として強くても、装備や戦闘経験が違いすぎるからまず間違いなく、このデュラハンが負けるだろう。
事実、意識を取り戻した際は暴れたのだが、看守役のゴブリンにあっさり鎮圧されてる。
「で、なんで大将……人間を襲ったっすか?」
「それは、人間を倒す。滅ぼすためだ。お前たちとてダンジョンの魔物。わかるだろう?」
「ん? ダンジョンの魔物ってことはそっちも?」
「その通りだ。お前たちは知らないだろうが、私はこの地にあるダンジョンをまとめていたダンジョンマスターの代理だ。お前たちが独力でここまで強くなっているとは知らなかったが、好都合だ。あの人間たちは私にとどめを刺さずに逃げたみたいだが、それがあだとなったな。今こそ、このダンジョンの戦力をまとめ、地上を我が物顔でいる人間を滅ぼす!!」
えーと、んー?
なにかずれてね?
おいらは書き留めていた手を止めて、なにがずれているのかを考える。
「何を悩んでいる? 何をすればいいのかわからないのか? そうだな、まずはこのダンジョンに来ている敵の軍勢を平らげ、一気にDPを稼ぎ、外へと侵攻するのだ!! 今こそ、亡き主への仇討の悲願を達成する時なのだ!!」
「あー、いや、うちらの大将は死んでないっすよ。というかアレを殺せる方法があるなら教えて欲しいっすね」
「なに!? 主殿は生きていたのか!!」
「いや、別人だから」
そう、なにか違うかなーと思ってたら、こんなデュラハン知らないし、おいらに対してここまでタメ口きける奴はいない。
いや、ジョンとか部下は普通にタメ口だけど……ほら、なんとなく、わかるっすよ。
「別人? 新しいダンジョンマスターが神より遣わされたということか?」
「あー、合っているというか、間違っているというか……」
確かに、ルナとかいう駄女神に呼ばれたが、なんか違う気がするっす。
ここの土地のためにダンジョンマスターが呼ばれたというのも、方向性が違うっすよね。
後始末を押し付けられたというか……。
「そうか……、新しいダンジョンマスターが……」
このデュラハンは今の話を聞く限り、前任者であるダンジョンマスターの腹心ってところっすか。
だとすれば色々情報を集めるのに便利じゃね?
これは、おいらの中間管理職の待遇改善に使えるのでは?
んー、どうするにしろこのままダンジョンに放逐してもエナーリア軍を壊滅させそうだし、外に放っても適当に暴れまわりそうだし、手元に置いとくべきっすね。
「そちらの事情はわかったっす。前任者の部下だったすか……苦労したんすね」
「……ああ。情けない事に主を失ってしまった。それからしばらくこの大地に眠り、魔力が回復するまでまったのだ」
「なるほど。そしておいらたちがここらへんにダンジョンを展開した時の魔力を受けて復活したっすね」
「そうだろうな。時にこちらも聞きたいことがあるがいいか?」
「ん? うちの大将と話したいなら、ちょいと立て込んでいてあと数日は無理っすよ?」
「ああ、そっちも願いたいが別のことだ。私はいったい何年眠りについていたのだ?」
いや、しらねーっすよ。
そもそも、ダンジョンって言葉が遺跡に変化してるっすから、かなーり時間が経ってると思うっすよ。
「おいらたちもこっちに来たばかりでそういう情報が全然足りてないっす。良ければ協力してほしいっすけど、どうっすか?」
「うむ。どちらにしろ、外の状況を知るにはそちらの協力が必要だ。新しいダンジョンマスターに助けてもらった恩もある。喜んで協力させてもらおう」
あー、あんたをぶっ飛ばしたのはそのダンジョンマスターっすよ?
「して、ダンジョンマスターが立て込んでいるとはどういう事か聞いてもいいか?」
「ああ、隠すことでもないっすからね。奥さんとの子供が産まれたっすよ」
「おお!! 次代を担う子供を!! それならダンジョンも安泰だな。先をよく考えておられる。だからか、今、侵攻してきてる敵軍を監視だけにとどめているのは」
「そうっすよ」
まあ、子供にこんな厄介な仕事を押し付ける気は、大将には全然ないっすけどね。
「ならば、礼にダンジョンの人間どもを殲滅してみせよう!!」
うん、予定が崩れるからやめて。
「はい、座って座って。今はダンジョンの人間を全滅に近い状態にするわけにはかないっすよ」
「どういうことだ?」
「そっちにも事情があるように、おいらたちにも現在の事情があるっすよ」
立ち上がるピースを椅子に座らせる。
「ふむ。確かにそちらの事情もあるだろうが、敵がこのダンジョンに入っているのはまずいのではないか?」
「そこら辺も含めて説明するっすよ。多分人間滅ぼすとかいってますけど、うちの大将はその人が元っすから、人間をどうこうするつもりは今のところないっすよ。魔力枯渇を探っている現状で、変に現状の環境で魔力を拡散するのは色々問題があるっすよ」
「それは、我が主と似ているな。魔力枯渇の件に対しての魔力拡散を制限する理由はわかった。だが、人は信用ならん。それだけはいっておく。我が主は人に裏切られて亡くなったのだ。必要以上に内側に人をいれるのはやめておくことをおすすめする」
「そこら辺はうちの大将は鉄壁と言っていいほどっすよ。と言うわけで、あと数日は待って欲しいっす。こっちの邪魔をしない限りは不便はさせないっすよ」
「……わかった。だが、ダンジョンにいる人間を迎撃する際には私も参戦させてほしい。せめて、助けてもらった恩は返したい」
義理堅い男っすね。
ま、嫌いじゃないっすよ。
おいらの部下に比べて好感がもてるっす。
「了解したっす。そっちの実力も知りたいっすからね。その状況になれば手をかしてもらうっすよ」
「任せてくれ。しかし、ゴブリンでありながら、私を凌駕するその力。余程、戦上手なのだな。新しいダンジョンマスターは」
……いや、ルール違反というか、自分のダンジョンで自分の魔物相手に戦闘訓練で実力引き上げたとか、普通はしないっすからね。
で、おいらがそんなことを考えていると……。
「お、ここにいたかスティーブ。この5日わるかった……」
大将が久々に顔を出してきたっすけど……。
「貴様!! このダンジョンに侵入していたのか!!」
「あ?」
おいらが制止をかける暇もなく、拳を振り上げて、大将に振り下ろす。
ズドン!!
そして、言わずもがな……デュラハンは壁に頭を突っ込んで動かなくなっていた。
「で、こいつの事情聴取はどうだ?」
「手加減してるっすよね? このデュラハン、物凄く重要な情報もってるすよ」
「無論してる。が、重要な情報もってるのか……このままプチッとして、妻と子供の傍にいたいなー。こいつの情報が妻たちに知られれば俺もしばらく仕事漬けだ……」
「まあ、頑張ってくださいっす。おいらたちもがんばってるっすから」
おいらがそう言うと、流石に重要性は分かっているので、あきらめたように肩を落とす。
「はぁー……。あ、そういえば名前決まったぞ。セラリアの娘がサクラ。ルルアの娘がスミレだ」
「ほーそりゃ雅な。おめでとうございます」
「あと、任せきりですまんな。これで今日は飲んでくれや」
そう言って、アイテムボックスから、高いお酒やつまみを出してくれる。
「今日の監視は俺がするから。ま、色々さぼってたからな仕事もするついでだ気にするな」
そう言って、監視室へ向かいでていく、大将は少し寂しい背中をしていたっす。
「さて……、とりあえずピースを医務室に運んでからっすね……」
皆で飲む前に、再び昏倒したデュラハンことピースを介抱しなければ。
次は何日後に目が覚めるっすかね?
スティーブたちは働いていたと思う人!!
飲んだくれてたとかいうなよ!!
あ、デュラハンはちゃんと出て来たよ!!
すぐ、いなくなったけどね!!




