第207掘:蘇る過去は帰り道の邪魔
蘇る過去は帰り道の邪魔
side:???
酷く永いまどろみに私はいる。
自分が何者なのか、ここは何処なのか思考がまとまらない。
それでも、永くこのまどろみに自分がいることだけは理解できるのだ。
「これからよろしくね」
そう、この笑顔を何度も見てきた。
名前は思い出せない。
しかし、目の前にいる女性は私の中で確かに、心から気を許せる、大切な人なのだと理解できる。
「うーん。今日も大変だったね。ゆっくり休んで明日に備えよう。まだまだ始まったばかりなんだから」
もう何度もくりかえし、このまどろみで見てきた光景だ。
彼女は何かを目指し、私はその彼女の手助けをしていた。
「やったー!! これでまた大きく前に進めるよ。皆のおかげだよ、ありがとう!!」
多分、なにか大きなことを成し遂げたのだろう。
彼女はとても喜んでいる。……私もそれがとても嬉しかった。
「よーし、今日からここの仲間になる人たちだよ。皆仲良くしてね」
「……よろしくお願いします」
「「「よ、よろしくお願いします」」」
ある日彼女は自分と同じ種族を連れてきて、一緒に暮らしてくれと言ってきた。
……?
私は彼女とは違う種族なのか?
でも、彼女が嬉しそうだからあまり気にならなかった。
「よし。この剣があれば……」
そして、悲しい時がやってきてしまう。
彼女は目的のためにある剣を作り上げた。
なにがどう凄いのか、よく思い出せない。
だけど、それで彼女が連れてきた同じ種族の人たちは一気に強くなった。
ドサッ
結果、彼女は同じ種族に斬られて動かなくなってしまった。
「あ……、あー、駄目かぁ。ごめん……ね。君達……を置いてけぼりに……、でも……彼女たちを……」
最後に彼女がなんて言いたかったのか、私たちは知る由もない。
だけど、彼女と一緒に今まで生きてきた皆は芯から怒り染まった。
私もその1人だ。
だから、人に復讐を企てた。
彼女に助けてもらったくせに、彼女を殺した人に。
それから、私たちは残った彼女の力を使い、人を、あの裏切り者を殺すために地上へ出た。
そして、多くの戦いの果てに、ようやくあの裏切り者と出会ったんだ。
「……お前か」
その女たちは、彼女から渡された剣をこちらに向けながらそう言う。
「……いまさら許しを請おうとは思わん。そして、私が間違っていたとも思わない」
「……あなたで最後です」
「地獄に落ちるのは……多分私たちなんだろうな。結果がこの様だからな」
「でも、今更、引き返せません。彼女を裏切って、切り捨てた私たちは自分の道を最後まで押し通す義務があります」
なにかごちゃごちゃ言っているが、私にはそんな事は関係ない。
ただ、許すわけにはいかなかった。
「行くぞ、魔王!!」
そして、私は彼女たちと戦った。
気に入らなかった。
半数以上をこの手で仕留めたが、その全員が後悔や恐怖の顔を浮かべていなかった。
どこか、仕方ないな、少し悲しいな、という感じで自分の終わりを受け入れていた。
「そこだぁあぁぁあ!! くぉぉおぉおお!!」
そんな風に裏切り者の顔を見て油断をしたのが私の失敗だった。
生き残りの裏切り者がここぞとばかりに猛攻を仕掛けてきて、私もボロボロになった。
「……終わりだ」
そう告げられ、彼女が作った剣が振り上げられる。
私は体を動かそうとするが、動かない。
……くそっ、私は結局彼女の仇を……。
「これからよろしくね」
目を開ければまた、彼女の笑顔を見る。
なにか、悲しい出来事があったような。
これから起こるような。
でも、私に、このまどろみにいる私に何ができるのだろうか。
何度も、彼女の死を見届け、そして仇も討てない、そんな惨めな映像を見なければいけないのか。
いやだ。
もうこんなのは沢山だ。
私は、貴女を守れなかった。
だから、貴女を殺した人を滅ぼすと決めた。
貴女が戻ってこないのなら……いや、人は生かすべきではない。
あんな愚かなことは、あの人たちが起こしたのだ。
自業自得だ。
滅んでしまえ。
嫌と言うなら、私が土に帰してやる。
「がぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁあああ!!」
私はまどろみを振り払い、叫んだ。
こんな結末は許せない。
せめて、せめて、私が彼女の仇を討つのだ!!
ドオォォン!!
辺りに爆音が響く。
「……これは、どういう事だ」
私は、体を起こす。
体に被っていた土が下へと落ちる。
「いや、爆音の発生源は……私か」
辺りを見回すと、私の要る場所を中心に地面がえぐれている。
「しかし、私は勇者を名乗る盗賊女どもに敗れた……。いや、最後に逃げたのだったな」
そう、あの剣が振り下ろされる瞬間、魔術を使い目をくらまして、逃げたのだ。
追撃がくるかと思ったが、それもない。
だが、私の傷は深く、それを治すには膨大な魔力が必要だった。
これでは、あの盗賊女たちの生き残りを倒すことは叶わない。
「そうだ。私は自らを地中に埋めたのだ。愚かな人のことだ、近いうちに大きな争いがあり、それで生まれた魔力を吸収し、蘇るために!!」
魔力が枯渇しているこの大陸では、私の様な強力なモンスターはダンジョンでの魔力供給を受けなければ存在できない。
だが逆に、魔力供給さえ出来れば活動できる。
「私は戻って来たのか。今度こそ、あの盗賊女どもに裁きを」
そうつぶやいて、彼女が残してくれた大事な剣を握り込む。
しかし、ここは何処だ?
あの時は意識がもうろうとしていたから、私は何処に逃げたのかよく覚えていない。
ここはとりあえず、ダンジョンに戻って情報を集めるべきだな。
今度こそ、人を根絶やしにしてやる。
カラッ、カンカン……。
上から石が落ちてくる。
これは爆発の影響ではない。
誰かが意図的に落とした音だ。
「なんだ、いきなり爆発したぞ? たっく、セラリアの所へ急がないといけないのに……」
「まあまあ落ち着いてユキさん。とりあえず調べておかないと」
「……掌握のために魔力を拡散した影響が出たのは初めて」
「……とりあえず皆さん警戒してください。なにが起こるか……」
人だ。
ならば……。
「心配はいらぬ。お前たちはここで死ね」
復活の祝いだ。
全力で消し飛ばしてやろう。
剣に魔力を流し込み、最大威力で盗賊女に聖剣と呼ばれた彼女の形見を私は振るった。
side:ユキ
俺は時計を必死に見つめていた。
秒単位まであるから逆に性質が悪かった。
3時間がこんなに長いとは……。
セラリア大丈夫かな。
ミリーからの連絡はないから、まだ問題はないんだろうけど。
でも、でも……。
「ユキさんウロウロしても仕方ないよ」
「……ん。リエルの言う通り。まだミリーからも連絡ないし、まだ大丈夫」
リエルとカヤにそう言われているが、どうも気持ちが落ち着かん。
というか、この場にいる全員からそう言われている。
「……これでは子供が生まれる時はどうなることやら」
「でも、こんなユキさんもかっこいいです!!」
「……まぁ、写真とムービー撮っておきましょう」
ジェシカとリーアはニコニコしながらこちらを撮影してくるが、そんなことを注意している気にはならなかった。
うーん、安全に産めるとはリリーシュは言ってたけど、実際見たわけじゃないし、産後の経過が悪いと地球でも普通に死んでしまう。
俺の回復魔術を早くかけてやらないと……、落ち着け、まだ生まれたわけじゃない。
そんなやきもきしながら、敵軍の経過を見守っていたのだが、結局動きはなかった。
『報告します。敵本隊は即座にダンジョン内に撤退した模様。魔剣使いは目視できませんでした。おそらくスキル封じで魔術が発現できなかったと思われます』
『こちら、補給急襲隊。予定通り、半数近くをダンジョンへ落とし、残りを追い返すことに成功しました』
報告も特に問題なく。
ま、スライム軍団がスキルを封じて、昇る道具は溶かす手筈だからな。
地力で何人か上ったが、それも上にいたゴブリンたちに蹴落とされる。
補給急襲隊も問題なく、様子を見ていた所を襲って一網打尽。
あえて、襲わなかった部隊は後退してエナーリアへの報告に信憑性を加えることになるだろう。
そして、待ちに待った3時間が経過した。
「よし、さっさとウィードに帰るぞ!! ゴブリン部隊はローテーションで警戒を継続!!」
「……命令を先に言ってください」
「ジェシカ仕方ないんだ!! 心配で、心配でたま……」
ドオォォン!!
「は?」
「なにかの爆発ですね」
後方200メートルぐらいで爆発が起きて、土ぼこりが巻き上げられる。
「3時間待って正解ですね。流石ユキ」
ジェシカはそう称賛するが、全然俺は嬉しくない。
しかし、無視するわけにもいかないので、様子を見にいくことにする。
あーもう、なんでですかね!!
俺とセラリアの邪魔をしたんですか、運命は!!
「神、許すまじ」
『私関係ないわよね!!』
「見てるならなお性質悪いわ」
『た、たまたまよ!!』
なろ。
覗き見してやがったな。
どんな仕返しが効果があるか考えつつ、爆発地点を覗き見る。
見た感じ爆発物の破片は落ちていない。
「なんだ、いきなり爆発したぞ? たっく、セラリアの所へ急がないといけないのに……」
口から自然と現状の不満が出る。
原因はなんだ、もうガスポケットが爆発したってことでよくね?
「まあまあ落ち着いてユキさん。とりあえず調べておかないと」
「……掌握のために魔力を拡散した影響が出たのは初めて」
「……とりあえず皆さん警戒してください。なにが起こるか……」
皆で爆発地点をのぞき込んで話をしていると、爆発地点から何者かの声が聞こえた。
「心配はいらぬ。お前たちはここで死ね」
そして、爆発地点から、人より一回りくらい大きい豪華な鎧をまとった首なし騎士が現れ、そして剣を振るう。
「お前が原因か!! 邪魔だ、伸びてろ!!」
俺は迫る変な剣を素手で握りつぶして……、あれ?
何かこれ魔剣と似てね?
ま、いいか。
とりあえず考えを放棄して、とりあえず気絶するレベルの拳打を浴びせる。
「ば、か……な」
「うっさい。やられ役のセリフ吐いてないで、さっさと倒れろ」
頭が無いので、とりあえず肩を叩いてとどめを刺す。
「よし、こいつはゴブリンたちに任せて帰るぞ!!」
「「「うわぁ、可哀想」」」
皆の視線が痛かったが、仕方ないのだ。
一瞬でも早くセラリアの元に帰らなければ!!
「待っていてくれセラリア!!」
もう、車に乗っている時間も惜しいので駆け出す。
「あのーユキさん。指輪使えば一瞬で戻れるよね?」
「あ」
仕方ない。
だって、慌ててたんだもん!!
いいか、ギャグの前にシリアスは役にたたない。
それは、現実で証明されている。
突飛な行動をされると人間は反応できない!!
でも、あのデュラハンはスティーブが率いるゴブリン隊と同じぐらいのレベルです。
ま、出現する場所が悪かったってことで。
彼が色々話すのはセラリアの出産が落ち着いたころになるでしょう。




