第199掘:とりあえず会談
とりあえず会談
side:ユキ
この街で何かをするにも、街の情報を教えてもらわない限りはどうしようもない。
相手が協力的なのかも含めてそれを知る場所が必要だ。
と言うわけで、ホースト領主の案内で街へ入って行っている。
俺の周りは嫁さんたちに、後ろにマローダー乗車組の嫁さん。
防衛の本隊である2500の兵はまだまだ到着するわけがないので、先行していた兵士が俺の横に並んでぺこぺこしている。
「本当に申し訳ありません。説明はしたのですが、ユキ殿たちのことはまったく信じてもらえず……」
あ、因みに先行していた兵士は俺たちに捕縛されたマーリィ直属部隊の精鋭で、俺たちのことは知っている。
なので、あの戦闘の結果や物資の補充の大本と言う事を知っていて、こんな感じで交流でトラブルは起きない。
しかし、ヒヴィーアが率いてた本隊の兵たちは未だ俺たちの実力に懐疑的で、傭兵が我が物顔で自分のたちの陣を彷徨き、マーリィたちと話すのはあまりいい顔をしない。
そのうちの一人が亜人で、物腰の柔らかいトーリに難癖をつけて喧嘩を売ったのだが、勝負にはならず、図らずとも、実力はそこで知れてある程度はいう事を聞くようになっている。
だが、砦の突破戦果は3姫の成果と言う事にしないといけないので、俺たちは一般兵には何もしていないようにしか見えていない。
なのでトーリはともかく、実力を見せていない俺たち傭兵の大半には未だわだかまりがあるのは事実だ。
で、自陣でもこんな感じなのに、他所者に『傭兵が占領軍のトップです!!』
なんて言われても、冗談ぐらいにしか取られないだろう。
「気にするな。どうせこんな事だとは思ってたから。変な苦労を掛けたな。後で俺から差し入れやるわ。カップ麺系でいいか?」
「あ、ありがとうございます!! アレを食べて以来、どうも普通の飯は味気なくて」
そりゃそうでしょうよ。
「で、苦労ついでだ。この街はどうだ?」
「どうとは?」
「全体的にだな。お前の感想が聞きたいってところだ。治安、防御機能、街の人の感じとか色々含めて」
「あー、なるほど。そうですね。自分は一応占領した敵兵士と言う事になりますが、特に街の人に怖がられたりとかはないです。防衛関連は見たまんましか知りません。壁が街を囲ってるくらいです。治安に関しては占領宣言がされた割には暴動や、盗みなどが多発している感じはしませんね。つい最近まで防衛のために人が集まっていたはずなんですが」
「へー、横から来た血の気の多い奴が残って暴れてもおかしくないのにな。そこのところは実際どうなんだホーストさん?」
案内として横で喋らず、俺たちの話を聞いてる領主へと話を振る。
ちゃっかり、こうやって俺たちの人となりを観察してるあたり、優秀な領主なのは間違いないだろうな。
「逆ですよ。そうやって血の気の多い連中が集まるからこそ、厳重にしているのです」
「なるほどな」
「まあ、そちらに挟撃軍を追い散らされて、数日は逃げ帰ってきた兵士や傭兵がこの街は攻め滅ぼされると勘違いして、なら自分が何をしても構わないと思い暴れようとはしてましたがね」
「それを、ちゃんと抑えたってことか。お見事」
「お褒めに預かり光栄です。が、それでもことが起こってからの処理も多々ありましたが」
「そりゃ、問題を起こしていない敗残兵をしょっぴくわけにもいかないしな。損害関係の補填はどうしてるんだ? その人が自分でどうにかしろって感じか?」
「いえ、大半が物損事件なのでこちらで代わりに弁償しました。流石に問題を起こした犯人の身ぐるみは剥ぎましたが」
「そりゃ当然だわ」
「しかし、内少数は傷害、強姦もありますな。幸いどちらも軽傷、未遂、服を破られるぐらいで済んでおります」
「それはここ数日忙しかっただろうに」
「はい。警備の兵は3倍、巡回もルートを3本増やし、回数を3倍にしましたので、兵の皆には申し訳ないですが、殆ど休み無しですな」
状況への対応力は十分と。
こりゃ、下手に俺たちが街に口出すと反感買いそうだな。
領主本人はともかく、領民がいい顔をしないだろう。
「しかし、俺たちが到着したわりには、街の人たちは普通に出歩いているな」
「少人数でしたからな。兵が集まって何ごとかとは思ったようですが」
「あー、別に兵士を沢山ってわけじゃないしな。とりあえず2、3日で駐留軍が到着するからその旨は伝えてくれ」
「はい。ミスト様からいただいた手紙の通りですな。行軍に遅れを生じさせないとはお見事です」
「ん? その感じだと従軍経験が?」
「ええ、というか領主は少なからず個人で兵士をもっていますからね。私は15年ほど前まではエナーリア聖国王都で勤めておりましたので」
「軍職で?」
「はい。とは言ってもそこまで名があるものではありません。この土地も曽祖父の頃の功績の賜物で私は特に活躍をしたわけではありません。必至に守ってきているだけなのです」
「その言葉を実践してるホーストさんは十分立派ですよ」
「ははっ、まさか自国からは引きこもりと言われたのに、敵国の相手から賞賛されるとは思いませんでした」
「世の中そんなものですよ」
「ですなー」
そんな雑談をしながら、街の中央ぐらいにある大きな屋敷へつく。
「ここが、私や代々の領主が住んできた屋敷です。皆さまにはこちらで寝泊まりをしていただくことになります。ご不便はあるかもしれませんが、ご容赦を。なるべく解決できる問題は解決いたしますので、なにか要望がございましたら、給仕、メイドをつけますので、そちらに言ってください」
そう告げて、屋敷の扉を開く。
「「「お待ちしておりました!!」」」
中でメイドがずらっと並んで頭を下げる。
あー、普通ならこの規模の屋敷はこのぐらいメイドがいるよな。
俺の旅館がおかしいのか。
自動浄化機能ってすばらしいよな。
そんな風に自分の家を思い出していると、メイドの中央から執事ときらびやかな服をきた女性が出てくる。
「お帰りなさい、あなた」
「お帰りなさいませ旦那様」
そう言ってホーストに頭を下げる。
「出迎えありがとう。私は見ての通り無事だ」
「では、この方たちが?」
「ああ、紹介しよう。この街の駐留軍の代表ユキ殿だ」
そうこちらに振り返る。
なんというか、変に視線が集まるな。
当然なのだが、居心地はよくない。
「どうも、この街の駐留軍代表、傭兵のユキです」
「……傭兵ですか?」
「そのことは追々聞きましょう」
ホーストは奥さんらしき人の疑問を流し、奥へと案内する。
しかし、その言葉を聞いた奥さんや執事はどうも不思議がっている。
当然ですよねー。
そうして、奥に行こうとすると、マローダーを降りた亜人の嫁さんたちに待ったがかかる。
「申し訳ありませんが、ここからは奴隷の方は遠慮願いたいのですが」
執事の人がリエルたちに待ったをかける。
その言葉にリエルはぽかーんと、トーリは少しイラッとした様子、カヤに至っては不機嫌全開だ。
勿論、阻まれたちびっこたち、シェーラも不快感を顔にだし、フィーリアは泣きそうだ、ラビリスは予想してたのかどこ吹く風だが。
さて、どうしたものかと思っていると、ジェシカが進み出て口を開いた。
「ジルバ帝国、傭兵部隊ユキ隊長の交渉役のジェシカ上級騎士です。この方たちは我らがジルバ王が望まれて雇われたお方たち、即ち王の直轄部隊です。その中に奴隷はおりません。誤解は分かりますが、訂正願います」
「そ、それは大変失礼をいたしました!! こ、こちらへどうぞ」
執事は大変恐縮した様子で、トーリたちに頭を下げ案内をする。
「申し訳ない。執事の失態は主である私にあります。罰があるのであれば私に」
「いえ、あの対応が普通でしょう。しかし、いくら上級騎士の宣言があったとはいえ、すぐに対応を変えられる者は少ない。いい執事ですね」
「ありがとうございます」
ホーストはほっとしたように胸をなでおろす。
今までの常識をすぐに捨ててあの対応を出来るのは少ない。
普通は主に対応を伺ったりするのだが、多分あの執事には亜人に対して偏見とかそう言ったのものがないのだろう。
「我々も普通に亜人は使っておりますから。しかし、どうも貴族の頭の固い連中は上だの下だのと言ってですね」
「どこでもある話です」
「まったくですな」
そう話して、給仕さん、メイドさんを見ると、確かに亜人の女性が混じっている。
というか、半分は亜人だ。
「私としては、耳が良かったり、力が強かったりと人よりも優れているのですから、もう少し亜人の立場を向上させたいのですが、なかなか……」
「難しいですね」
なるほど、そういうわけで執事はああいう対応を取ったのか。
めんどくさいね、威厳とか伝統とか誇りとか。
「なかなか話の分かるお方のようだ。ユキ殿、これからのお話期待してもよろしいですか?」
「どうでしょうね、自分は自分の出来ることをするだけです」
「はっはっはっは!! そうですな。私もそうです。では、他の皆は行ってしまったようですし、私が案内を。こちらです」
そう言って、屋敷の奥へと俺たちは入っていくのであった。
さあさあ、どんな話がされるのでしょうか!!
街の運命は!!
ユキたちの運命は!!
どうにもなるわけがない!!
いや、色々改善すると思うけどね。




