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必勝ダンジョン運営方法 相手に合わせる理由がない  作者: 雪だるま
新大陸編 魔剣と聖剣

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242/2218

落とし穴34掘:あまーい日

あまーい日




side:エリス




ぱら……。


そんな音が旅館の談話室で響く。

辺りを見回すと、妊娠組のほとんどがここに集まって、妊娠中や子育ての本を読んでいる。

無論、内容は日本語で書かれている。日本の著書だ。

ユキさんが私たちの妊娠を知って大急ぎで取り揃えてくれた。

妊娠後、私たちはウィードでの安静を言い渡され、ここ数か月は穏やかに過ごしている。

お昼はこうやって本を読んで子供のために勉強するか、かるく公園に散歩に出るかぐらい。

もう随分お腹が大きくなった。

ここに、新しい命があり、それが私とユキさんの子だと思うと感慨深い。

ユキさんたちは連日新大陸の調査で忙しいが、それでも毎日私たちを気遣ってくれる。

素晴らしい男性と巡り会えたものだと思う。

最初はユキさんの得体のしれなさに怯えもしました。

けど、彼の背負っている使命を知り、そんなモノは霧散し、愛おしさが残りました。


「まったく、変な出会いもあったものですね」


私は、ユキさんに初めてあった時のことを思い出してクスリと笑う。

モーブさんたちに奴隷として買われて、連れて来られたのは、ダンジョンの中の草原。

その草原に一人佇んでいる黒髪の若者。

全然威厳などなく、奴隷の私たちに気を使い、対等に話してくる変な人。

私たちはモーブさんたちより偉い人に引き渡されると、神経をとがらせてたと言うのに。


「ん? なにか面白い記事でもあったのかのう?」


私が当時のことを思い出していると、デリーユがそれに気がついて、こちらを見ている。


「いえ、違うのよ。ちょっと、ユキさんと初めて会った時を思い出してね」


私がデリーユにそう言うと、そこの全員が顔を上げる。


「ああー、もうお兄さんとはずっと一緒な気がしますが、まだそこまで前の話でもないですよね」


ラッツは笑いつつ、お腹を大事そうに撫でている。

最近のラッツは本当に嬉しそうだ。

ユキさんの子供を一番欲しがっていましたからね。


「ほう。ユキと会った時の話しか。妾はそう言えば聞いたことが無かったのう」

「私もだわ。あのユキが奴隷だったあなたたちにどうやって接していたのかしら?」


デリーユとセラリアが本を閉じて私たちの話を聞きたがっている。


「皆さま、お茶の準備が整いましたよ」

「って、なにかあったんですか? 本を閉じてますけど、映画でもみるんですか?」


その時、お茶の用意をしていたキルエとルルアが戻ってきました。


「丁度いいですね。お茶でも飲みながらお兄さんと会った時のことでも話しましょうか」

「そのような話を、是非私もお聞きしたいです」

「私が来る前の話ですか。聞きたいですね」


ミリーは、私たちの代わりに書類仕事でいませんが、まあ後でなにかお酒でも渡しておきましょう。

そんな感じで、私たちは昔話に花を咲かせて日中を過ごしていました。



「へぇー、やっぱりと言うか夫はその時からそんな感じだったのね」

「旦那様らしいですね」


セラリアとルルアは自分たちの知らないときのユキさんの行動を聞いて嬉しそうだ。

けど、デリーユは少し考え込むような感じで。


「妾は結構激しい出会いじゃったからなー」

「それはデリーユが攻めてきたからですよ。あの時は流石に肝が冷えました。お兄さんに言われて脱出する準備もしてたんですから」

「魔王が攻めてきたって大騒ぎだったんですから」


あの時はユキさんが残ると言って本当に心臓に悪かったです。

蓋を開けてみればスラきちさんの圧勝でしたが。


「妾もまさか、新米のダンジョンマスターにあそこまでやられるとは思わんかったぞ。ま、今ではよき夫じゃが」


デリーユがポンッとお腹を叩いて笑顔になる。


「こら、デリーユ。そんな風にお腹あつかっちゃダメだって言ってるでしょう」

「これぐらい問題ないわ。多少の刺激も必要とこの本に……あ」


そんな風に雑誌を持とうとして取り落とした。


「……なにかしらこれ?」


セラリアが雑誌に視線をむけ、拾い上げる。


「んー、なになに。大好きなあの人へ?」

「チョコを?」


ラッツがその一文を読み、私がでかでかと書かれている文字を読む。


「チョコって、お菓子のチョコですよね?」

「みたいよ。ええと、いよいよバレンタインデー、愛しいあの人に心を籠めて手作りチョコを贈りましょう?」

「……ふぅん。ユキの故郷の行事みたいね」


全員が食い入るようにその記事を読みます。

あの溶けるチョコを利用したお菓子を作って、大好きな相手へ送る行事のようですね。

これに乗じて独り身の人は思いを告げるいい機会とか。


「面白そうね。チョコは幸いラッツのお店にあったわよね?」

「ええ、人気商品ですからね。チョコを個人で加工してオリジナルのお菓子を作って渡す。いいですね。お兄さんに何か作ってあげましょう。チョコは私が用意しますよ」


ラッツはそう言って即座にお店と連絡を取ってチョコの在庫を回してもらうよう手配しているみたいです。


「で、お菓子といってもどのようなものがあるのじゃ?」

「そうねー、見た感じクッキーにチョコを練り込んだりってのもあるみたいね」

「こっちはパイの中にチョコを入れた感じですね」


色々な種類のチョコ菓子があるようだ。

私もユキさんに美味しいチョコを食べて欲しいですし、なにかいいものはないかしら?


「そういえば、お菓子を作ると言っても、皆はお菓子作りの経験はあるのかしら?」


セラリアが思い出したように聞いてくる。

でも、私はお菓子なんて嗜好品を作ったことはないので首を横に振る。

皆も同じようで、キルエ以外は作れないようだ。


「ふむ。これは下手に別々に作るのは問題ねキルエ」

「はい、その通りだと思いますセラリア様」

「何が問題なのですか?」


ラッツが不思議そうに聞いてくる。


「料理と同じと思ってはだめよ。結構な調整がお菓子には必要だから、これじゃ失敗する確率が高いわね」

「そうですね……、私たちがサポートするとして、全員でチョコクッキーを作ってはどうでしょうか? 形は好きに変えられますし、生地は私たちで用意すればいいのですから」


なるほど、お菓子作りは結構難しいのですね。

下手に個人で作って、失敗作をユキさんに美味しくない物を食べさせるわけにはいきません。


「みんな一緒に作りましょう? いいかしら?」


全員は否定することなく頷く。


「オリジナルなんぞ妾は無理じゃしな。助かる」

「そうですね。無茶して失敗作でお兄さんに渡せないとか悲惨ですし」


みんなも同じ考えの様で、一緒にお菓子作りをすることになりました。

さあ、少しでも美味しいチョコ菓子を作ってユキさんに喜んでもらいましょう。




そして、夕方。

ユキさんたちが帰ってくる時間です。


「ただいまー」


そんな声が響いて、私たちは出来たチョコ菓子をもって玄関へ向かいます。


「「「お帰りなさい!!」」」

「おおっ、甘い匂い?」

「いい匂いなのです!!」

「お菓子つくったんですか?」

「なになに? なにかあったの?」


調査組は不思議そうに私たちが抱えているお菓子を覗きこんできます。


「ふふふ、今日はお兄さんの故郷の行事を再現してみたんですよ」


ラッツが嬉しそうに言う。


「なんの行事なんですか、ユキさん?」


リーアが不思議そうにユキさんに質問をする。


「あー、もうバレンタインの時期か」

「バレンタイン?」


ジェシカも首を傾げます。


「なんというか、好きな人へチョコを贈る日なんだよ。正直にいえばお菓子売りの戦略だと俺は思ってるけどな」

「へー、後半の戦略云々はよくわからないけど。それなら僕もユキさんにチョコ貰ってほしいな」


リエルがそう言うと調査組も同じようにユキさんにチョコを贈りたいようだ。


「そういうと思って、生地はまだ残ってるわ。ユキはちょっと待っててね」

「兄様まっててください美味しいのをつくるのです!!」

「お兄ちゃんちょっとまっててね!!」

「……私もいくわ」

「キルエ私も行きます!! ユキさんの妻としての務めを果たします!!」


そんな風に皆が台所へ走っていきます。

お菓子を作ってしまった妊娠組も手伝うために後を追いかけていきます。


「あー、晩飯は少しずらさないといけないな」

「……そのようですね」


その場に残ったのは私とユキさん、それとジェシカ。


「ユキさんお1つどうぞ」

「ん、あーん」


ユキさんに作ったクッキーを差し出すとそのまま食べてくれる。


「どうですか?」

「うん、美味しいよ。ありがとなエリス」

「いいえ。妻の務めですから」


ユキさんが美味しいって言ってくれてとても嬉しい。

いい行事ねバレンタインって。


「……私も作りに行った方がよかったのでしょうか?」


私とユキさんのやり取りをみてジェシカがそうつぶやく。


「どうでしょうね。護衛としては合格だと思うわ。でも、妻としては少し駄目ね」

「難しいですね」

「大丈夫。きっといつかユキさんのことが好きでたまらなくなる日が来るから」

「うーん、私もそれなりに好感は持っているのですが」

「多分それ別の好感だからな」

「私もそう思うわ」

「そうでしょうか?」


ジェシカはそうやって首をひねる。

そこで考え込む時点で愛とは別の義務とかだと私は思うの。

と、クッキーは結構焼いてしまったし、他の人にも食べてもらう。

一番食べて欲しい人には食べて貰えたし。


「うぃーす。大将、なんか用事があるって聞きましたが」

「あ」

「あ、いい所に」


スティーブが入って来たので、クッキーを渡す。


「なんすか? クッキー? 手作りみたいですけど」

「そうよ。好きな人にチョコを贈るバレンタインって行事を真似てみたの。ユキさんにはもう食べてもらったし、おすそわけ」

「あーあー」


横でユキさんが手で目を覆っている。

なにか問題でもあったのでしょうか?


「……これを見せつけるために呼んだんっすか……、ぽりぽり……美味しいっす。涙が出る程美味しいっす!!」

「それはよかったわ」


そう言うとスティーブは背を向けて外へ飛び出していった。


「え?」

「リアルの馬鹿野郎ーーーーーーー!!!」


なんで叫んで飛び出すのでしょうか?


「あー、そのなんだ。ほっとけ。明日には元に戻ってる」

「はあ? そういうのなら」



その後、私は自分が独り身の男に対して傷をえぐるような行為をしたと自覚しました。

確かに、思い人がいないのであればこの行事は意味のない寂しいもの。

というか、私がしたようにおすそわけは、みじめになるだけですよね……。

ごめんねスティーブ。

私とユキさんの愛に免じて許して。



次の日、スティーブが公園で酔いつぶれているのが見つかったとかなんとか。

俺ももらってないからOKだ!!

なあ、皆も同じだよな!!

な!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分は、毎年手作りでチョコを作って 可愛いラッピングして 女の子の文字で書いた手紙をはさんで わざわざ夜に鞄の中から出して食べてます すごい虚しいですよ
[一言] 実は毎年貰ってる(同学年の女子から)
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