第194掘:侵攻目標の説明と攻略方法の立案
侵攻目標の説明と攻略方法の立案
side:ユキ
俺たちは席について、ヒヴィーアの説明を聞く体制を整える。
「さて、私の勝手で少し説明が遅れました。なるべく簡略に説明いたします。分からないことが有りましたらお聞きください」
ヒヴィーアはそう告げて、ホワイトボードに簡略的な地図を書き、自拠点から、3つの▲を書き込む。
多分、あれが攻略目標としているものだろう。
「お分かりかと思いますが、この場所が私たちが現在拠点を展開している場所で、更に上の▲が敵の拠点であり、攻略目標と言うわけです」
まー、面倒な所に布陣しているというか、守りのためでもあるのだろうが、丁度俺たちの位置はその攻略目標の中央、囲まれるように拠点を置いている。
距離はあるし、対応は出来るが、これは攻める布陣と言うより、この拠点を維持して、敵を後ろへ通さないための位置取りだな。
と言う事は、敵さんにもこの位置は既にばれてる感じか。
「今の位置取りは後方にある、エナーリアから切り取ったフェイルの街を守るための布陣でした。なにせ、姫様が貴族の後始末に戻ることになり、屈強な傭兵集団に喧嘩を売り負けて戻ってきたと思えば、次は本国からの招集で、その傭兵たちを味方として連れて戻ってくる。怒涛の5か月でしたね。おかげで、相手はその時間でこの3か所に兵を集めて防衛を固めています」
ヒヴィーアが何とも頭の痛そうに今までの経過を言う。
ただの貴族の後始末で済めばよかったのに、敗走して、それを隠してもらい、けどばれて本国招集、マーリィにしても、ヒヴィーアにしても胃によろしくない状況だったろう。
さらに、エナーリアの侵攻を一時止めるという、全体的に本当に悩みの種と言うわけだ。
「確か、俺たちとフェイルの街で会った時で既に制圧3か月だっけか? でも、その間全く攻撃してないってわけじゃないんだろう?」
「はい、その時既に……この中央の砦へ攻勢をかけていましたが、一番の戦力がいなくなるため後退せざる得ませんでした。相手も、相当の被害が出ていましたので、こちらを追撃ないし、奪還作戦へと移るには時間が足りませんでしたが……」
「防衛を整えるには十分な時間ができたってわけか」
「そうです。5か月あれば崩した守りも補修でき、援軍も入ってきています」
「そう言えば、中央の砦以外の左右の目標は同じ砦か?」
「いえ、違います。私たちから向かって右はフェイルと同じ街です。規模的にもほぼ同じで特に重要な産業などはありません。そして左も街ではありますがフェイルと比べておよそ3倍の人口で、防衛設備は中央の砦に比べて落ちますが、エナーリアでも指折りの領主がいますので迂闊に手を出せるものではありません」
「つまりだ、フェイルと同じ街は攻略価値が低くて、手を出して落とせばその分防衛に部隊を割かなくてはいけないし、領主が優秀で人口が多い方は街の掌握に時間がかかるから避けたい。なら残るは、相手の防衛の要の砦を落として両方の街の自主的な降伏を待つほうがよかったって感じか?」
「時間が経たなければと前提が付きますが」
「あー、マーリィが呼び戻されてごたごたがあったから、その手が使えなくなったって言うわけか」
「はい、砦の防衛は増強され、両方の街も傭兵や他の街の応援が少なからず到着しています。こちらも魔剣使いが2名、それと……実戦でどの程度使えるかは分かりませんが、その魔剣使いたちを圧倒した傭兵部隊が揃ってはいますが、総数的には2万5千。対して敵は現在砦に3万、優秀な領主がいるベータンの街が7千、スエイートの街が4千となっています。しかも、これは現在の数です。今後はさらに増えることが予想されます」
ついでに拠点に寄っての防衛。
時間ができたから防衛準備も万端ってことか。
めんどくせえ。
「そして、今までは防衛一辺倒ですが、一定数の戦力が集まれば打って出てきて、私たちを撃破しフェイルを取り戻そうとするでしょう」
「あんまり攻略にかけている時間はないってことか」
「はい、というか、これ以上下手に時間をかけると攻略するどころか、敗北の可能性が高くなります」
おおーう。
これじゃ、せっかく助けた魔剣使いたちが処罰されてしまう。
ジルバの戦況が悪くなるのは、協力を取り付けた今となってはとてもよろしくない。
「厳しいのはいつものことですわ。今回は私たちもいますし、敵は物の数ではありませんわ」
「はい。一気に砦を落とし、両方の街に降伏を促せばいいと思います」
オリーヴとミストはそう言って、中央の砦攻めを押す。
「と、魔剣使い2人は言ってるが、攻略にかけられる時間はどの程度だと思ってるんだ?」
「……そうですね。下手に時間をかければ街の戦力が私たちの後方、それか私たちを無視してフェイルに向かう可能性もあります。まあ、フェイルに向かう可能性は殆どありません。街の防衛の部隊もいますし、同じ戦力を向けたところで落ちる可能性は低いですし、私たちが後退して後方から追撃を仕掛ければ全滅しかねません」
「こっちの主力を落とせるいい機会だから、そんな作戦はとらないってことか」
「はい。そのような作戦を取るのであれば、マーリィ様がいなくなった後に攻撃があってもおかしくないですから。それらのことを考えて攻める時間は最低で3日、長くて1週間が限界でしょう」
「……流石に1週間は」
「厳しい……ですね」
オリーヴとミストは流石にキツイと思っているのか、少し思案顔になる。
しかし、心配するのは俺たちが囲まれて全滅する可能性か、考慮の必要はねえな、俺たちの傭兵部隊に限っては。
しかし、防衛体制の整った砦を3日から1週間でとか、普通なら無理だな。
どっかの天才軍師連れてこいや。今です!! みたいに。
「さて、とりあえず状況は聞いてもらった。ユキたちならどう動く?」
今まで黙って聞いていたマーリィはここでようやく口を開く。
「んー、状況から砦を落として街の牽制、及び降伏勧告に使うしかないな」
「お前たちの力をもってしてもか?」
「いや、それなら3か所同時に落として見せるけど」
「「「は!?」」」
そりゃ、個人個人の戦力が違いすぎるし、なにより、大軍を全部かたずける必要はない。
小隊単位で3つの攻略目標の指揮官ないし、領主やトップを抑えればOKなのだ。
抵抗する相手は勿論排除するが。
大軍で攻めるのは苦労するが、小隊が入り込むには別段苦労しない。
「でも、俺たちの功績じゃまずいだろう。お前ら後がないのは分かってるだろ?」
「「「うっ」」」
そう、この作戦が取れないのは、どう見ても俺たちの功績になるからだ。
俺の評価は上がっても無血開城後、入って来た魔剣使いたちの評価にはならん。
この戦場で名誉挽回しなければいけない3名には使えない手段だ。
俺たちが完全な部下なら上司の手柄でよかったのだが、残念なことにジルバ王や重鎮たちから単独の独立部隊と見られているしな。
「というわけで、囲まれるのを予想して、砦攻めを3日以内に終わらせて、砦を囮に囲みに来た街の軍を殲滅ないし降伏を促せばいいんじゃないか?」
「そんな簡単に3日で落ちるわけが……」
「あー、そこら辺は俺たちがどうにかする。防衛設備とか門を開いた後の真っ向勝負は負けないよな?」
「それは、門さえなくなれば、相手は陣形もなにもあったものじゃないからな。入り込んだ時点で勝ちが確定するようなものだ。さらに、数では相手が勝ってはいるが、こちらは魔剣使いが3名もいる。負ける要素はその時点ではほぼないと言っていい」
「ですが、門を開く大手柄を上げてしまえば、例え一番に砦に踏み入ってもあまり美味しくないのでは?」
そういって俺たちが成し遂げることの戦果を気にするミストだが、それは全員が俺たちの戦果だと認識できなければ意味がない。
「大丈夫だ。俺たちの戦果だとばれなければいい。オリーヴとミストは体感したよな。気が付けば全てが吹っ飛んでたってのは?」
「ま、まさか……」
「あれを、やるのですか?」
「いや、あれとさらに併用して門を一発で開くつもりだ」
「「?」」
マーリィとヒヴィーアは首をかしげているが、他は俺の意図が理解できたようだ。
そう、迫撃砲を連打による長遠距離攻撃による防衛機構の沈黙化を図り、頑丈な壁や門は俺が忍ばせてるある兵器を使って文字通り一発で開いてみせ、砦の壁が意味のない物としてやれる。
実際相手がこの兵器に対してどのような手段を取ってくるかとか、この兵器がどれだけ使えるのか運用テストもしたいからな。
2両しかないが、アイテムボックスでの持ち運びができる分、地球より運搬の足回りなどは圧倒的に上だからな。
ま、運用費が馬鹿高いがそこら辺はブリットたちに頑張ってもらおう。
俺の仕事はそれで使った費用の説明を嫁さんもとい、セラリアや会計のエリス、ラッツに頭を下げなくてはいけないところか。
んー、正直3日とかからず1日で終わるんじゃね?
相手が思わぬ奮戦をしてくれることに期待しよう。
ついに、現代兵器が動き出す。
運用テストという名目の元、砦はいったいどれだけもつのか!!




