第192掘:道中の格差
道中の格差
side:オリーヴ
リエル、トーリ、カヤが私たちの目の前で、食事をしながら話をしています。
「……ずずっ。でさ、その時……」
「ああ、あったね。ずずっ。でもさ、結局……」
「はふはふ……。へー、その話は初耳」
私たちは今、置いてきた1000人と合流を果たし、マーリィの指揮の下、エナーリア聖国への侵攻作戦の援軍へと向かって、道中で食事中。
王とも顔を合わせずに済んだので、ありがたい限りなのですが……。
「……ミスト。なぜ向こうは食事時にこうもいい香りが漂ってくるのかしら?」
「……お姉様、それほど基礎の技術に差があるのでしょう。こんな遠征軍でお湯を沸かすだけで、あのような食べ物ができるとは思いません」
今私たちの手元には干肉と辛うじてお湯で作った薄いスープがあるのみ。
失態の件もあり補充は受けられなかったが、ユキたちが鹵獲した物資をこちらに返却してくれたので、私財を投資して補給を行わなくて済んだのはありがたいが……。
「ユキ、このラーメンの味は初めてですが?」
「ん? ああ、味噌味だ。飲んだことはあるだろう」
「ああ、そう言えばその味ですね。しかし、美味しいですね。色々な味があって飽きません」
「ジェシカさん、私は醤油味ですよ。味見してみます?」
「はい、ありがとうございます」
目の前でいい香りを漂わせ、美味しそうに食べる姿を見せられるのは堪えます。
それが、傭兵が従える者達が全員同じような物を食べていれば余計にです。
私たちの部下たちは、必死に味気ない食事で我慢しているというのに。
「ユキ、ちょっといいかしら」
「ずずっ……。なんだ?」
「その食料は何処で仕入れたんですの? こうもいい香りが漂っては、干し肉や保存食で堪えている私たちの部下が可哀想ですわ」
「ああ……そりゃそうだな。でもなー」
「何を渋っていますの? これでは、侵攻で士気が下がって問題になりますわ」
「資金などはどうするつもりですか? 確かに私たちからの供給は可能です。しかし、1000人分。価格などは大量購入で多少は値引きができるでしょうが、それでも1000人分の食料を数か月分です」
「ジェシカの言う通りなんだよな。俺たちはあくまでも傭兵であって、そちらに食料を供給する輜重隊じゃないし、どこから金を持ってくるつもりだよ」
「……そ、それは」
私が返答に窮しているとミストが答えてくれる。
「ユキたちのいい分も分かりますが、これでは連携に問題がでます。なるべく不平等は減らすべきではありませんか? 金銭につきましては、戦後にお支払いすると言う事で手は打てませんか? いまから領地に戻ってお金を取ってくるなどは出来るわけありませんし」
「それももっともだが……。どう思う?」
ユキは横のジェシカに相談する。
しかし、前に相対した戦場で横にいたのは見ていましたが、まさか側近になっているとは思いませんでした。
マーリィは横でジェシカのおかげで普通にらーめん? を食べている。
「そうですね……」
しかし、流石のジェシカも結構難しいと思っているのか言いよどんでいますが、横かららーめんを食べているマーリィが口を挟みます。
「いいではないか。このラーメンは美味いし、私の軍にも欲しい。ちゃんとお金は払うぞ、軍資金もあるしな。即金で払おう。メルト姉妹の軍の分もだ」
「マーリィ様……」
「なに気にするなミスト。お互いのためだ。どちらもユキに痛い目を見ていて、それが上にばれている。今回の侵攻の件を成功させなければ、流石に王も処罰を下すだろう。……お互い足を引っ張り合う時じゃない」
「ありがとうございます」
「感謝いたしますわ」
流石に私も頭を下げざるを得ません。
貴族として、人として、礼を失するわけにはいかないのです。
「はぁ、これだから……」
「なにか問題でもあるのか?」
「風姫さん、物資を売り渡すのは別にいい。だが、その分俺たちの戦力がそがれるのは理解してるか?」
「「「あ」」」
確かに、私の隊でも1000人。
マーリィが率いる侵攻軍は全部で2万ほど。
それを全て補う補給物資を運ぶとなれば、ユキたちは身動きがとれないはず。
「おい、元上司がこれでよくやってこれたな」
「……いえ、戦場では的確に神がかり的に動いてくれますので」
「他は部下まかせか。ある意味では正しい指揮官だな」
「2人ともうるさいぞ。……で、戦力を削らずに補給する方法があればしてくれ」
「……本当にこういう運はいいんだな」
ん?
どういう事でしょうか、今の言葉は戦力を削らずに大量の補給物資を手に入れる手段があるように聞こえたのですが……。
「方法があるのですか?」
ミストも同じようなことを思ったらしく、ユキに問いかける。
「あるぞ。まあ、俺たちがいての方法だから他では使えない。今回限りって軍の人間には周知しとけよ。俺たちと別れてから飯や物資の質が下がって文句を言っても問題だからな」
「わかった。それはしっかり説明しておこう」
「なるほど……ユキたちと別れてからのことも考えないといけないんですね」
ミストが神妙にうなずく。
確かに私たちはユキたちという、切り札を持っていますが、便利な分それが失われたあとのことも考えなければいけないのですね。
「勝てば勝つほど、名誉ある激戦の厳しい戦場へ移動させられるのは当然だろ?」
「……そうだな」
「……ええ」
「……その通りです」
「その際、戦力はどんどん分散されるだろうしな。俺たちはともかく、魔剣使いの3人がこんな風に集まるなんてないだろう?」
確かに、これは名誉回復のための場であって、これで魔剣使いの私たちの実力を示せば前と同じようにバラバラの戦場へ向かうことになるでしょう。
「ま、俺は問題点の忠告はしたし、とりあえず物資はあるからオリーヴたちの兵にも分けてやるか」
ユキはそう言って、ゴブリンの1匹を呼びつけ指示をだします。
「じゃ、お2人ともどうぞ」
すると、リーアがいつの間にか用意したのか、出来立てのラーメンをこちらに差し出してくる。
「お気持ちは嬉しいですが、私たちが先に食べるわけには……」
「お2人が食べないと、部下の皆さんも食べられませんよ?」
「ですが……」
「このままだと冷めてしまいますので、どうぞ」
「お姉様、お言葉に甘えましょう。部下の皆もこちらを見ていますし、私たちが切っ掛けになりませんと、誰も食べられません」
「わかりました。ありがたくいただきますわ」
そして、そのラーメンを食べ翌日。
「うーんうーん……」
「お、お腹が……麺がお腹の中で膨れて……」
私たちは倒れておりました。
しかし、毒を盛られたわけではありません……。
「で、他は?」
「半数以上が倒れてますね」
「……なんで倒れる程食った」
「いえ、普通に姫様から補給物資ということで引き渡しをしていますので、裁量は姫様ですが」
「すまん。思ったよりも美味しかったので、私だけ色々食べるのが気まずくてな、どうせ私の資金からだから、昨日は好きなだけ食って良しと言ってしまった」
そう、情けない事に食べ過ぎです。
仕方ないじゃないですか、あれ程の香辛料をふんだんに使い、数多の味があるラーメンがあれば誰だってそうなりますわ。
「はぁ、ジェシカもそう言えば倒れてたな」
「……言わないでください。お恥ずかしい限りですが、あれは仕方ありません。これよりも美味しかったのですから」
「なんだと!? ジェシカその食事はユキたちのところでだな!!」
「ええ、そうです」
「くそっ!! ジェシカずるいぞ!!」
「なんと言っていいのか迷いますが、とりあえずその美味しい料理はユキが作れますので、姫様が希望すれば腕を振るってくれると思いますよ?」
「本当か!!」
なんですって!?
ラーメンより美味しいですって!?
「……とりあえず、進軍を開始できてからだからな。こんなアホな理由で1日停滞とかないわ」
……申し訳ありませんわ。
「で、なんで同じ量食べた姫さんは平気なんだ?」
「私はよく動くからな!!」
「「「理由になってない」」」
私を含み全員で突っ込みました。
あ、くるしい……。
詳しくは書いてありませんが、カップ麺から袋ラーメン系になります。
いいか、どのインスタントが美味いかないんていうなよ!!
あと、インスタントだからコンビニあれば食えるし、大抵家にストックあるからセーフだよね!!




