第1900堀:ヒーローに必要なモノ
ヒーローに必要なモノ
Side:ナールジア
緊急連絡のコールが鳴り響き出てみると……。
『ナールジア姉様。ついに、ヒーローが必要になったのです! あの道具を!』
そう必死なフィーリアちゃんの声を聴いて私は椅子から立ち上がります。
「え? どうしたんだい。ナールジア?」
「というか緊急コールだったよね? え、やばい?」
この研究室にはたまたま、意見を交わすために集まったコメットさんとエージルさんがいます。
ですが、それは好都合。
私はすぐに二人の顔を見て。
「外皮に魔力ほぼなしのヒーロースーツを使う時が来たようです」
私がそう短くつぶやくと、二人とも、読んでいた書類をテーブルに置き、すくっと立ち上がった。
「なんだい。いらないとかいいつつ、やっぱり使うのか」
「まあ、あれは非合法なやり方としては一番便利だしね。用意することに対してはユキは否定的じゃなかったよ」
文句を言いつつも二人もやる気なのは誰が見てもわかります。
使わないために道具を作るなんてしないんですし、稼働実験ではなく、文字通り必要になったんですから。
「そうですね~。それに、この手の正義のヒーローがいるってことは、現在の政府で取り締まれない者がいるっていう証拠でもありますし」
「ああ、確かに、ウィード内で非合法の正義のヒーローがいるのは不味いか」
「あはは、非合法の正義のヒーローですか。その通りではありますけど、不思議なヒーローもいたもんですね」
「矛盾の塊だね。とはいえ、そういうモノか。人って」
その通りです。
人は矛盾をはらむモノ。
戦いはダメだ。人を傷つけてはいけないといい。
守るために戦い、守るために傷つける。
人を守るために法を守り、法の為に悪を裁けなくなる。
良くある話ではあります。
そして、そのことに苦虫を嚙み潰したようにする人も多くいます。
でも、ユキさんはきっと平然としながら……。
『人ってそういうモノ』
っていうんでしょうね。
そういう人なんです。
と、そこはいいとして、フィーリアちゃんのヒーロースーツの詳しい話を聞かないと。
「それで、外皮に魔力ほぼなしってことは、敵や場所に魔力無効みたいなところかしら?」
「ああ、それは気になった。正直魔術を用いた変身スーツの方がかさばらないんだけど。そんなに厄介な敵ってことなのかい?」
「詳しく聞きたいところだね」
ということで、3人で質問すると、フィーリアちゃんはデータを送ってくる。
すぐにそれを開きつつ、フィーリアちゃんの説明を聞く。
「兄様から連絡があったのです。クリアストリーム教会を押さえた結果、亜人を集積して、大きな教会に輸送してから、拷問をして魔力を集めているとのことなのです。ヴィリアたちがイアナ王国に向かう道中の町にもそういうのがある可能性があるらしく……」
「なるほど~。そこで助けるために必要なのですね? あれ? でも、別にそこは変身ヒーローでなくてもいいと思うのですけど~?」
私の疑問にフィーリアちゃんはすかさず答えます。
「現在、ウィードは北部の国で渡りをつけているのはギアダナ王国だけなのです。そして、ヴィリアたちは相応に優秀な冒険者としてイアナ王国へ向かうというのが建前なのです。なので……」
「なるほど。そりゃ時間はかけられないし、援軍を送って裏工作をしている暇もないか」
「そうなれば、変身ヒーローが一番便利だね。騒ぎも起こせて、ヴィリアたちだとばれない」
なるほど、確かにその通りです。
冒険者としての旅の行程があるなか、道すがら人助けというか、教会の囚われている人を助けるとなると、到底無理です。
ならば別の人を立てるしかないのですが、そういうわけにもいきません。
ウィードは常に人材不足なのです。特に最前線となると、それだけの実力をもつ人はそうそういません。
だから、そこで役立つのが、今話している変身ヒーローというわけですね。
「変身ヒーローになるのは、ヴィリアたちの中から3人。残り一人はサポーターとして残るのです」
「妥当だね」
「そうだね。全員が戦線に出ると情報がどうしても入らなくなるし、保護対象の安全とかもあるだろうし、そうするのが無難だろう」
ふむふむ。
全員変身ヒーローになることはないと。
まあ、そうですね。
町で暴れることになるのですから、援護できる人は必要でしょう。
町の衛兵を殺すわけにもいきませんし、囲まれないように立ち回ることも必要ですね。
「それで、具体的な兄様のオーダーは、女性だとばれないこと、背格好は男に見える変身ヒーローということなのです」
「完全にヴィリアたちを犯人から外すってわけか」
「そうでもないと、冒険者として活動はできないだろうしね」
「そうなると、外は魔術を使えないから、内部機構で誤魔化すタイプね。いえ、内部なら魔術を展開できるタイプもいいのか」
私はそう言われて、使えるヒーロースーツを思い浮かべる。
色々作っていてよかったと思うわ~。
「ヒーローたちに統一性を持たせるか、別のにするのかは任せるのとのことです。ほぼばれることが前提なので、どっちでもいいと言っているのです」
「ま、情報を集める時間がほぼないんだし、そうだろうね。でも、そうなると関連がない方がいいかな?」
「どうだろう? 結局あちこちでドンパチやるんだから、組織として見せる方がいいかもしれないけどね」
コメットさんとエージルさんが提供するヒーロースーツに関してあれこれ話し合います。
確かに大事なことです。
戦隊ものとしてチームとするのか。
それとも、単独で別々のヒーローを出すのか。
「そうですね~。まずは、ヴィリアちゃんたちに合うヒーロースーツがあるのかを確認いたしましょう」
「ああ、そういえば外皮は物理的に作っているものだったね」
「何かの対策で魔術無効とかの空間だと変身が解除されるからね。そういうのを防ぐための物理的な外皮を用いて変身した方がいいんだろう」
その通りです。
今回はサポーターが極端に少なく、現場でヴィリアちゃんたちの姿がばれれば今後の予定が全ておじゃんになります。
だから、そういうことがないように、魔術が解かれても外が解除されないのであれば問題ないというわけです。
もちろん、外皮はその魔術無効の効果を受けても中身は魔術を使えますからそこまで問題は無いのですが。
ということで、あれこれ作っていたヒーロースーツを取り出します。
「変身ベルトは除外か~……。悲しい」
「夢は無いよな~。スーツをいそいそ着るんだから、着ぐるみだよな」
あはは、その気持ちはわかります。
変身ベルト、あるいは変身ステッキを持って一瞬で姿が変わるのはいい演出なんですけどね。
そこを阻害される可能性を考えると使えないんですけどね。
いつか、それを押し通せる、魔術阻害をどうにかできる技術を開発するしかないですね。
「いや、あえてヘンテコ着ぐるみを使うのも手では? 別に何を着ても内部の足りない部分を補うためのマジックアイテムですし」
「そういえば、外皮に設定したものに抗魔術を付与するタイプだったね。でも、腕からとかの魔術放出が出来なくなるのが問題じゃなかったっけ?」
「そこら辺も部分解除ができるようにしていただろう? 流石に飛び道具なしの本物のヒーロー勝負はなかなか難しいって」
確かに、着ぐるみは誰でも快適に使えるように変身ヒーロースーツの技術を応用したものですが、変装という点については使えるのではないのでしょうか?
「フィーリア。ユキは変身ヒーロースーツの指定は無いって言っていたんだよね?」
「はい。なので、着ぐるみでも問題はないと思うのですが……」
「ん? なんか歯切れが悪いね。問題でも?」
「一応、亜人たちを救うためのヒーローなのです。あまり突飛なものだと、信頼されないかと思うのです」
「「「ああ~」」」
確かに、普通に着ぐるみをと話していましたが、目的は亜人たちの救出でした。
余りに意味不明なきぐるみでは……。
「逆に怖がられるかもね~」
「いや、あえてヘンテコな着ぐるみで威嚇するのもありじゃないかい? ほら、ゾンビをデフォルメしたやつの……ゾ~ンビってのがいたよ」
「それ、教会が総力を挙げて潰しにきそう……って、ありかもですね。陽動にはなりそうです」
「……えーと、姉様たち。デフォルメの可愛らしい二頭身の着ぐるみゾンビがヒーローって無理なのですよ。せめて亜人に似せてくださいなのです」
「「「……」」」
確かに、フィーリアちゃんの言う通りなので、少し路線を変更しましょう。
いえ、着眼点を変えるべきですね。
「少し落ち着きましょう。まずユキさんが求めているのは変身ヒーロースーツ。これはヴィリアさんたちが亜人さんたちの救助活動をするときに正体がばれないようにするためです。そして、種類の統一などは求められていないのです。そうですね? フィーリアちゃん?」
「そうなのです」
「では、私の提案を聞いてください。これは稀有なヒーロースーツ。あるいはパワードスーツの実験場と言えるでしょう。なので、種類を多数。いえ、毎回救助を行う際は別のスーツを使って実戦における性能評価を行うべきだと思います」
「「「おお!」」」
私の提案は高評価だったようで、話は進んでいきます。
「じゃあ、今すぐ渡す分を決めて、後日送る分を決めればいいわけだ」
「なら、そこまで悩む必要はないね。ジャンル違いで色々あるし。完成度で選べばいい。フィーリアも試したい奴があるだろう? それを選ぶといい」
「はいなのです!」
こうして、私たちは変身ヒーロースーツを色々見繕っていくのでした。
ですが、その過程であることに気が付きます。
「フィーリアちゃん、大事なことを忘れていました。ヒーローが使う武器は持って行っていいのでしょうか!」
その質問にコメットさんやエージルさんも驚いた様子でフィーリアちゃんの反応を待ちます。
「当然なのです。格闘はヒーローの華ではありますが、専用武器もヒーローの証でもあるのです!」
「「「良し!」」」
安心しました。
まさかヒーローがヒーローである証ともいえる必殺技を放つ武器が使えないとかはありえませんから。
「では、早速武器の用意もしなくてはいけませんね」
「試したいものは沢山あるよね」
「どれを……どれをもっていけば……」
持ち込んだヒーロースーツと武器を見たヴィリアさんたちが喜ぶ顔が浮かびますね。
山ほど詰まれたヒーロースーツに山ほど詰まれた戦略兵器を前にヴィリアたちは喜ぶのでしょうか?
まあ、負けることはこれで無いので大丈夫です。
手加減をどうするのかということに目をつぶれば。




