第1894堀:落ち着いてきたけどそれでも
落ち着いてきたけどそれでも
Side:スタシア
「なるほど、そんな話が」
「ええ。そういうわけで私が直接話を聞きにきたってわけ」
そういって私の前に立つのは、ウィードの女王であるセラリア。
とはいえ……。
「わざわざ北の町に来なくてもいいでしょう。出かける前にウィードで話してもよかったのでは?」
「それだけならね。エノラから聞いているかはわからないけど、亜人を救出したあとに衛生兵部隊の士気が高揚しているって話があってね。現場を見に来たのよ。この北の町もそういうのがあったでしょう?」
「ああ、なるほど。というか、そっちが本題では?」
真っ先に妊娠のことを聞かれたらそっちがメインと思います。
「いえ、子供の話がある意味メインよ。視察は大事だけれど、別に兵たちの状態を悪くしているとは思わないもの」
「それは……まあ、そうですが」
仕事を信頼してもらえていると思えばよいですが、どうも……。
「その感じだと、別にフィンダールの方から圧力はかけてられていないわけね?」
「ええ、とくには。何せ私は元々厄介払いの意味もありましたからね」
私は苦笑いしながら自分の立場を改めて伝える。
それを聞いたセラリアは不満げに顔をゆがませ。
「そうだったわね。嫌なことを聞いたわ」
「いえ。なので、それを利用して、女としての立場で重用してもらえるウィードに来たことはありがたいことですし、子供に関してもそこまで心配しておりません。ユキ様とは仲良くさせていただいていますし」
「そう、ならよかったわ。となると、やっぱり状況ってとこかしら?」
「基本的に子供は授かりものですし、明日いきなり妊娠報告するかもしれませんが、やはり精神的なことが関係するのであれば、新大陸の件が落ち着いたらというのが一番可能性が高いかと」
「そうよね~。正直子供を作ることは止めはしないし、推奨はしているけど、全員内心新大陸が落ち着くまでは妊娠はって思っているでしょうし。あ、避妊とかしていないでしょうね?」
「大丈夫です。子供は作る気満々なので。妹からはせっつかれてますし」
アージュは私とユキ様の子供の世話をする気満々ですから。
それに私も子供は欲しいので。
「ああ、そういえば勇んで話していたわね。とはいえ、やっぱり補填は必要か」
「補填というと?」
「ユキみたいに過保護すぎるつもりはないけれど、妊婦を最前線に立たせる積もりはないわよ?」
「ああ……」
「その顔、出たいって感じね」
「まあ、セラリアならわかると思いますが、将軍が妊娠で後方に引っ込むとかなると、それこそフィンダールでの評判がですね……」
「ちっ、女を何だと思っているのよ。しかも自分の所のお姫様の懐妊でしょうに」
「姫としては喜んでくれるでしょうが、将軍職を追われていた連中は私は邪魔でしたからね」
「……男尊女卑か。まったく実力のない連中が。いえ、まあロガリ大陸でもなくないわね」
そうなのです。
結局のところ女が男ばかりの職場にいるというのは、色々あるわけです。
「セラリアも当初は文句はあったでしょう?」
私がそう言うと、セラリアはソファーの方に座って、出されていた紅茶を飲み……。
「あったわ。とはいえ、全部ねじ伏せてきたけど。というか、最後は女性部隊を作って押し込まれた感はあったけどね。それでも成果は上げてやったわよ」
ふんっという感じで答えます。
セラリアらしいですね。
「聞いています。クアルたちからも、おかげで女性の騎士としての立場が出来たと」
「とはいえ、今考えれば私たちが作った親衛隊はウィードにまるっと移動しているから、体の良い厄介払いって感じね。はぁ、あまり私も変わらないか」
「いえいえ、おかげで私も助かっていますよ。こうして一軍を預けられていますからね。惜しむらくは、向こう、故郷で女性騎士の立場を上げられなかったことですね」
「そういえば、スタシアの周りは男ばかりだったわね」
「私も陛下に掛け合ったのですが、やはり女性が騎士になるのは難しく。まあ、意図的に排除されていたというのもあるでしょう」
「それぐらいは跳ね除けられないとって、意味もあるでしょうけどね」
確かに、何かと女性騎士への反発があるのです。
そこで私の側近となれば、相応に問題も出てくるでしょう。
それを独力でどうにかできるぐらいの実力がなければ、認められないでしょう。
つまり、当時のフィンダールの将軍であったときにそこまでの女性たちはいなかったと言えます。
と、そんなことを考えていると、セラリアは考えるような素振りを見せていて。
「……ふむ。スタシア。聞きたいのだけれど、フィンダールで騎士を目指している女性ってどれぐらいいると思っているかしら?」
「どれぐらいと言われると、正直わかりませんが、私がそうだったように、いないわけはありません。とはいえ、なりたいと言って、なれる職業でもないですし。なにせ、どこを訪ねればいいのかという所から始まりますから。魔術師で部隊のトップを目指す方がまだマシというぐらいです。実際魔術師は女性の隊長はそこまで珍しい物ではありませんからね」
「まあ、力よりも魔力のほうが女性にとってはやりやすいものね」
「ええ」
どうしても力勝負となると、男の方が上回ることが多く、女性で身体強化が強いというのはあまり聞きません。
私は珍しく身体強化が強く、剣術や体術も行けたのでこの道に進んだのですが。
「と、話がそれたわね。フィンダールに掛け合って女性騎士を募集してもいいかもね」
「ウィードではだめですか? 流石にフィンダールで徴兵をするのは立場が悪くなるのでは?」
セラリアの提案に思わず反論っぽいことをしてしまう。
何せ他国で兵隊を募るような真似など、宣戦布告に近いものがあるからだ。
「立場に関しては問題ないわ。そしてウィードでの兵士応募はもうやっているのよね。だから、追加はあまり望めないわ。なにより、ウィード自体の治安はすこぶる良いしね」
「なるほど。必要なのは遠征する兵士ですから、それを考えるとウィードの生活を知った住人が兵士に志願するのは難しいですね」
なにせ、別に命を危険にさらさなくても生きていけるのです。
わざわざ危険が伴う兵士になろうとする女性は少ないでしょう。
いえ、冒険者ならいますが、冒険者にしてもウィードはダンジョンを売りとしたところなので、ダンジョン専門の冒険者は多くいますが、兵士になりたいわけではないですからね。
なりたいのであれば、ウィードに来た時点で兵士になっていますからね。
「ですが、立場のことはなぜですか?」
他国から徴兵など、頭がおかしい話です。
弱みを作ることに他ならないと思うのですが?
「そっちは女性は騎士にならない。いえ、なれないのよね。だから、募集かけても文句はないのよ」
「いえ、そういうわけにはいかないでしょう。ただで人材を流出するような形になりますし」
流石に陛下、父上もそういうことは認めはしません。
何かしら対価を求めるはずですが……。
「ただじゃないわよ。向こうでは不遇だった女性が兵士として役立つという証明になるでしょう? 志願した人物しか連れて行かないし、女性兵士の練成ノウハウも学べる。向こう、つまりフィンダールに戻ることも許可するしね。どう?」
「そういうことですか。確かにそれならばメリットがありますね。とはいえ、女性が兵士ですか。騎士よりは可能性はありますが、男性からは反発があるでしょうね」
私は姫という立場とある程度の実力があったからこそ認められたのです。
実力は力を付ければ良いとして、立場については……。
「まあ、そこは国の方針だし口は出さないけれど、使えると思えれば、それだけ兵士が増えるってことだしね。そして勝負もするし……」
「……確かに実力は示せますね。なおの事反発がありそうですが、それでも負けたという事実があれば文句を付ければそれだけみじめになるということですからね」
「そうね。女に負けて言い訳。情けないわ。と、まあ、そこはいいとして、実際に話すかどうかは任せるわ。ウィードも兵士補充に陰りが見えているからの話ね」
「ああ、そういうことですか。ジェシカが頭を抱えていましたね」
兵士は簡単に育ちませんから。
ウィードは農民というか平民からの徴兵はしませんからね。
訓練されてない一般人を兵士とするのは、ウィードの技術力を考えるとただの邪魔でしかないです。
なので、兵士を揃えるというのは並大抵のことではありません。
「それで、ついでに北の町の兵士について聞きましょうか? 問題はないとは聞いているけれど?」
「はい。北の町の防衛に関しては問題はありません」
「防衛ね。つまり……」
「討って出るなどは夢のまた夢ですね。北部が攻めてきてもやはり守ることしかできません」
「そっか。まあ、オーエの総人口から考えれば当然の話なのだけれど」
「ええ。それに北部を落とせたとしても、ユキが以前話したように占領統治が出来ませんから。却って足を引っ張ります」
これはユキが以前から言っていたことです。
いえ、私もわかります。
歴史を振り返れば、そういう話はよくあるのです。
なのでこの状況を打破するには……。
「やはり、北部で動いているヴィリアたちの動きですね。ギアダナ王国が国内のクリアストリーム教会の動きを押さえるということで、少しは原因が分かればいいのですが」
「そうね。やっぱりそこか。まあ、当初の目的だった、南部から気を逸らすというのは果たせたと思っていいわね」
「ええ。おかげで南部で戦争が勃発するという可能性は格段に下がったと思っていいでしょう。油断はできませんが」
ギアダナ王国王都のクリアストリーム教会を押さえたということで足並みが乱れればと前につきますが。
ギアダナ王国とは別の支部が勝手に動いて南部に喧嘩を売らないとは言い切れませんが。
「そうよね。ギアダナ王国以外が勝手に動き出す可能性もある。やっぱりオーエからスタシアたちは動かせないわね」
「即時対応するのであれば仕方がないことです。まあ、エージルやフィオラを北に戻して守りに置けば私は動けますが、動かせる兵はどれだけいますか? 国を落とすのはいいとして、駐屯できるほどいます?」
「……いないわ。そんな兵力があればどれだけよかったか」
「ですよね」
と、そんな感じで北の町が安定していることを確認しつつ、手数が少ない、いえ、相手が大きいことを改めて実感するのでした。
オーエは落ち着いてきましたが、戦力を外に出すのはやっぱり無理という結論。
なので、ウィード以外の所から戦力を集められないかという方向へ。
まあ、男は無理なので、女はだろうだろうという話。
ちなみに、スタシアは妊娠してても前線指揮官希望。
ユキにどう黙っておくかをセラリアと検討中。




