第1877堀:動き出す北部
動き出す北部
Side:リーア
無事にヴィリアが冒険者としてのランクを上げているっていうのは、姉として誇らしいとは思うんだけど……。
「ユキさん。いくら何でも3日で二段階もランクが上がるのはおかしくない?」
「おかしいな。もっと様子を見るとは思っていたが、予想外ではある」
私の疑問にユキさんも同意する。
冒険者って確かに実力主義ではあるけど、それは信頼があってのこと。
たった3日での仕事ぶりで信頼が積みあがるわけがない。
というか、傍から見れば無茶な量の依頼をこなして大量に素材を持ち込むとかいうことをやっていたんだし、怪しまれている時間だと思うんだよね。
「まあ、そこらへんはドドーナ大司教や、ダエダ宰相の口添えがあるしな、それを確かめるところだ。こっちの環境ではありえない話ではないって言っていたしな」
「まあ、言っていましたけど……。ロガリでランクが一つ飛びで上がるとかあるかなぁ~?」
「どうだろうな。そこらへんはミリーとかに聞いてみるといいかもな」
「確かに」
ミリーなら、冒険者ギルドに詰めているし、ランクに関してはよく知っていると思う。
「さて、そこはいいとして、さっき話したように上の方に話を聞いてみようか。プロフ?」
「はい。エナに連絡を取ります」
ユキさんがそういうと、プロフが即座に動いて連絡を取る。
なんというか、ばっちり秘書をやっているよね~。
そんなことを思っていると、ユキさんが不思議そうに。
「どうかしたか?」
「ううん。私がキャナリアと色々している間にプロフたちは立派になったな~って」
彼女たちがユキさんの側付きになったときはすぐに勉強で各方面に回されて、私がキャナリアのフォローをするときに入れ替わりになったからね。
新人の印象が強かったんだけど、最近一緒になってみていると、立派にユキさんの補助を務めているな~って。
「ヤユイたちはわかるが、プロフは元々優秀だっただろう?」
「あ、うん。プロフは……仕事はそうだね。あれだよ。ユキさんの前だとガチガチだったじゃん」
そう、プロフは当初仕事モードの時は良かったけど、オフモードだとユキさんの大ファンみたいでまともに喋れていなかったからね。
「ああ、なるほど。で、本人としてはどうだ?」
ユキさんは納得して、プロフに声をかける。
いや、今はエナに連絡とっていたはずだけど……。
「ユキ様。エナ殿と連絡がつきました。ギアダナ王やダエダ宰相との面会を申し込むとのことです。返答はお待ちください。それで、リーア様が私のことを評価してくれているようですが、間違いございません。ユキ様の側付きになったときは緊張でガチガチでした。とはいえ、それでは私が疲れるだろうということで、ユキ様が私の緊張を解すために色々やってくれましたので」
プロフは仕事のことを答えつつ、私の質問にもばっちり答えてくれる。
うん、流石はエリスやラッツも認める勤勉さだ。
そう思っていると、お仕事をしていたヤユイも声を上げる。
「そうですね。私もプロフさんと同じように緊張していたんですけど、同じように色々してもらいました」
「ああ、そういえばヤユイもユキさん相手には緊張していたよね。かみかみだった」
「そうだな。最初はよくかんでいたけど、最近ではめっきり減ったよな」
ヤユイもユキさん相手というか、私を含めてウィードの上層部には緊張しきりだったもんね。
いや、まあ普通に考えれば女王のセラリアや王配のユキさんを始め、ほかのメンバーも全員国の重鎮だし、緊張して当然だよね。
「あはは、当時は私は奴隷としてユキ様の下に来ましたから、粗相とかすると色々大問題になるかな~って思ってまして」
「ああ、それはわかる」
ユキさんって付き合えば一般の人と感覚は変わらないってわかるけど、初めて会ったときは偉い人なんだろうなってイメージがあるから緊張するんだよね~。
「リーアもか? 意外とすぐに打ち解けたとは思ったけど」
「それはユキさんと一緒にいて、わかりましたから。セラリアとも剣を打ち合わせて言い負かしましたし」
「そんなことあったな~」
セラリアは当時ユキさんを特別な人としか見ていなかったもんね。
だから、普通の人だからって押し返したんだ。
まあ、剣の勝負は負けたけど。
そんな話をしていると……。
「ユキ様。エマから面会の連絡が届きました」
「内容は?」
「いまからでも可能だとのことです」
「日中に会ってもいいのか?」
「執務室で仕事をしながら、というかそういうカモフラージュにするそうです」
「なるほど、下手に夜に集まるよりはということか」
「おそらく。いかがいたしますか?」
「じゃあ、すぐにつなげてくれ。情報は早く集めた方がいいしな」
思ったよりも早く連絡が取れたようで。私やヤユイは黙って自分の机で様子を窺う。
『こちらエマです。映像、音声は届いているでしょうか?』
私たちもこの手の会議はすぐそばで別窓で通話を監視することが当然となっている。
録音録画は当然しているけど、私たちがその場で見て聞いて感じることもあるからね。
ユキさんがそれを推奨している。
「ああ、届いている。こちらの声や映像は届いているか?」
『ああ、ユキ殿。聞こえているし見えている』
『こちらも同じくです』
そう声が聞こえたかと思えば、モニターにギアダナ王とダエダ宰相が映っている。
「それはよかった。ですが、執務室と聞いていましたが、宰相も同じ部屋で仕事を?」
『いえいえ、お互い別の仕事なので、同じ部屋で仕事をしていれば書類の山で部屋が埋まります』
『だな。とはいえ、宰相から回されるものもあるから部屋を同じにした方がはかどるか?』
『はかどるモノもあるでしょうが、私や陛下だけへの相談もあるでしょうし、そこらへんは不便になるかと』
『ああ、その際に一々外に出るのも面倒か……』
なんか、どこも同じ問題は抱えているんだね。
私たちウィードでもみんな同じところで仕事をすればいいんじゃないって話はあったけど、結局個々に相談、話に来る人がいるから部屋は分けておいた方がいいだろうってことになったんだよね。
『と、話がそれたな。それで話があると聞いていたが?』
あ、そうだ。本題を話さないとね。
「はい。ダエダ宰相から紹介してもらったドドーナ大司教からの冒険者活動ですが、動きが出まして」
『動き?』
『まだ、冒険者になって数日と聞いていますが?』
「ええ。冒険者としての活動を始めて3日だったのですが、初心者であるEランクからCランクにと言われたようです」
『ほう。たった3日でCランクというのは驚きだな』
『そうですな。珍しいというか、まずありえませんな。とはいえ、ドドーナ大司教からの言伝もありますし、なくは……ないと思います』
そっか、ギリギリ有り無しで言うと有りなんだ。
『まあ、冒険者ギルドとしてもコネというのはあるからな。それにドドーナ大司教からの言伝と3日間の実績はあるのだろう?』
「ええ。そこはちゃんと積んでいるようですが、たった3日ですからね。そこで気になったわけですよ。今度はギアダナ王国から出てイアナ王国で活動をといわれているようで」
『イアナ王国か……確か、ダエダ?』
『はい。最近、魔物の被害が大きいという話が出ていますな。高ランクの冒険者はもちろんクリアストリーム教会からの騎士も派遣されていると』
まあ、そういうことだろうとは思ったよ。
魔物の被害がないのに、冒険者、ヴィリアたちを送り込むような理由はないしね。
とはいえ……。
「つまり、なんらかの厄介ごとは待っているということですね? 具体的にイアナ王国のお話を聞いても?」
『ああ、まずはイアナ王国の位置だが、このギアダナ王国からかなり北に位置する。国は3つほど越える』
うわぁ、思ったよりも遠いね。
国三つ分って。
『ギアダナ王国を中心とした国は、当時のドドーナ大司教や冒険者たちの協力もあり、魔物を討伐していますからね。厄介な魔物は北部と南部のオーエの大森林に限られているというのはおかしいですが、中央は人の生存圏となっているわけです』
まあ、どちらかというと、魔物の生息区域を減らしたって方が全体から見れば正しいだろうけど。
「人の生存圏ですか。やはり北部の損耗率は高いと?」
『ああ、連絡はたびたび届く。なにせ北部の国が崩れるほどの強力な魔物がいれば、この中央も危険だからな。まあ、そういう意味でもクリアストリーム教会はギアダナを手にしたいんだろうが』
『このまま国の戦力を回せますからな。とはいえ、南部に仕掛けるというのはそういう意味では逆の方法なのでよくわからないのですが』
ああ、そっか。
戦力がたりないから、ギアダナ王国を乗っ取って、北部の戦力に当てるって考えか。
でも、自分たちの後方を脅かすようにオーエに宣戦布告ってどうなんだろう?
いや、正直に考えれば意味が分からないよね?
亜人も敵って公言しちゃっているし、味方につけるっていうのは無理があるよね?
「うーん。ダエダ宰相の言う通り、オーエや南部の国々を敵に回すような動きはよくわかりませんね」
『わからんな。南部を敵に回せば自分たちも困る羽目になる』
『ドドーナ大司教のお話では北部の本部には亜人の騎士たちもいるといいますし、そことの意見が分かれてもいますし、本当によくわかりませんな。亜人を追い出せと言っているのは事実ですし』
「……まあ、そこら辺のことを調べるために冒険者に扮しているわけなんで、今後の活躍を期待しましょう。それで、イオア王国の詳しい話の前に、シアナ男爵たちはどうなっているのでしょうか? 誰かクリアストリーム教会の者を引き連れて、オーエに戻るというお話でしたが? それに醜聞暴露のこともあるでしょう?」
あ、そんな話は聞いたことがある。
クリアストリーム教会はハイデンのハイレ教の時みたいに酷いことをしているって話だから、それをわざとばらして、問題にしてクリアストリーム教会の動きを止めようって話。
『ああ、そうだったな。冒険者たちに出て行ってもらっては困るな。ダエダ、そっちはどうなっているのだ?』
『いえ、そこは別にユキ様たちの部下でなくてもよいのです。とはいえ、醜聞を広げるのはシアナ男爵たちがクリアストリーム教会の者を連れて行ってからですからね。まあ、そちらも準備はできています。ある意味丁度良いと言っていいかもしれませんね』
「というと?」
『すでにクリアストリーム教会の代表は到着しております。あとはこちらの準備が整い次第ということになっていたのですが、あとはユキ様たちとのタイミングだったのです。冒険者が旅に出るとなれば、後腐れもないでしょう』
なるほど、目撃者としてヴィリアたちは遭遇する予定だったけど、それだけ目を付けられる可能性もあった。
でも、旅立つとなると、目を付けられる前に姿を消せるか。
「わかりました。その話を詰めていきましょう」
ということで、クリアストリーム教会の醜聞暴露の為に会議を始めるのでした。
ようやく北部のギアダナ王国で大規模なことが動きそうです。
南部もアスリンとフィーリアが陣頭指揮を執って動いているので、こちらも何か期待できる。
さて何がでてくることやら。




