第1859堀:現場復帰のために勉強中
現場復帰のために勉強中
Side:リーア
「ねぇ、フィオラここだけど」
「ああ、これはですね……」
私は今、ユキさんの執務室でフィオラに手伝ってもらいつつ、ユキさんが抱えている現状の仕事について確認をしている。
なにせ、キャナリアに付きっ切りで、最近の仕事は軽くしか把握してなかったからね。
とはいえ……。
「ごめんね。フィオラも新大陸の方で忙しいのに」
そう、今日はフィオラにわざわざ付き合ってもらって新大陸の状況について説明してもらっているところ。
新大陸と繋がった結果、小国外交官担当だったフィオラも新大陸の南部の方へ出て、調査の指揮を執っている。
トーリが一応亜人たち向けの代表としているけど、そこまで指揮は得意じゃないからね。
エージルは台地の研究が優先だし、フィオラが全体指揮を執っていて忙しいんだよね。
そこでここに来てもらっているんだ。
「いえいえ、いいんですよ。今は南側の防衛はそこまで忙しくありませんし。いえ、進みようがないんですけどね」
「あ~、魔物が北上していないんだっけ?」
「ええ。私たちが南部にでてからぴったりと止まりましたね。集まっていた分は蹴散らして色々利用していますが、後続が全然です。まあ、おかげで土地の調査や台地の調査も進んでいるのでありがたい限りですが」
「そういえば、鉱脈がいくつか見つかったんだっけ?」
「はい。おかげで、大陸間交流同盟の進出の後押しになるとユキ様が喜んでいましたよ」
「まあ、そうだよね~。車とかそういうのを造るための資源になるし」
元々、新大陸への大陸間交流同盟の進出は土地が無料でもらえて、ウィードの支援ができる程度だったんだけど、ここにきて鉱物資源ももらえるっていう話になっているんだよね。
それは喜ぶだろうと思って当然かな。
「でも、まだ動きはないんだよね?」
「まあ、国内で選定は進めているようですが、流石に軍も動かし、町を一つ作るような大事です。何より、車や医療を整える施設を作るという大事業です。簡単に決めるのも難しいでしょう」
「そっか~。ユキさんみたいにはいかないよね~」
「ええ、ユキ様のようにダンジョンマスターではありませんし、多数の部下と領土を抱えていますからね」
「部下の統制か~。大きい国は大変だね~。私たちはユキさんの元にまとまっているんだけど、他はそうもいかないか~」
「どうしても歴史がありますからね。今までの積み重ねがあり、それをもって評価はもちろん付き合いを決めなくてはいけませんから」
「うへ~。聞いているだけで大変だ。ユキさんが偉くなりたくないって気持ちはよくわかるよ」
本当に、ユキさんの側で色々経験してきたけど、理解できてくるほど、上に立つ人っていうのは大変でしかない。
もちろん、馬鹿をして威張っているだけのアホはいるけど、真っ向から立場を理解している人は絶対に重しにしかならない。
……だからユキさんは、そういう立場になるのを嫌っている。
人の人生を背負うのは大変だって。
まあ、それでもやっちゃうんだけどね。
「そうですね。それでもユキ様は困っている人を見れば、助ける困った人です」
フィオラもそれが分かっているようで苦笑いだ。
「何せ、私がその困った人でしたから」
「私も同じだよ。出来ることは限られているとか言って、なんとかしちゃうんだからさ」
このウィードにいる人たちは基本ユキさんに救われたようなものだしね~。
本人は必要に応じて動いただけで、対価ももらっているっていうのが口癖だけど。
いや、対価をもらっているのは事実でもあるんだけど、傍から見れば全然対価としてはね~。
ウィードの発展のために働いてもらう。
それがユキさんのいう対価だけど、全然吊り合っているようには見えないんだよね。
無償で働かせているわけでもないし、給与も出して、至れり尽くせりの環境だし。
「しかし、リーアは別にここまでしなくてもユキ様の側について教えてもらってもよかったのでは?」
不意に、フィオラからそんな疑問が飛んでくる。
確かに、私がユキさんの護衛に復帰したら必要なことは教えてもらえると思う。
でも、なんというか……。
「自分で周りの人から現場のことを聞いた方がいいって思ったんだよね。ユキさんもよく言っている、独自の視点っていうかそういうの?」
「なるほど、確かに、そういうのは大事ですね。今回の件はなんというか不可解なので、何か気が付いてもらえると私たちもありがたいです」
「北部の動きだよね~。本当に意味が分からない」
「ええ、下手したら北部の国々で衝突が起こりかねないことをしていますからね。とはいえ、亜人の排斥は従っている。何が原因なのか。下手をすれば即時武力介入することになってもおかしくはありません」
下手するとギアダナ王国の亜人が殲滅される可能性もあるからね。
その場合は、オーエに味方している側としては守らないとね。
あと、クリアストリーム教会の勢いを削ぐためでもある。
そうしないとオーエに敵が攻め寄せることになるからね。
「ヴィリアたちが情報を集めるためにクリア教会のドドーナ大司教さんにおしえてもらっているんだっけ?」
「その予定ですね。まあ、教えられることがあるかという問題がありますが……」
「まあ、敵の実力が分かる分だけましじゃないかな」
ヴィリアたちに教えるっていうと微妙なんだけど、技術的なことや経験的なことになると、ヴィリアたちだって劣ることはあるからね。
まあ、素の実力だけじゃ圧倒するだろうけど。
そういう情報を引き出せることはありがたいよね。
「それはその通りですね。ドドーナ大司教の強さからクリアストリーム教会の戦力について多少図ることは出来るでしょう」
うん、ドドーナ大司教よりはクリアストリーム教会の方が強いとは思えるけど、それでも圧倒的な差があるとは思えない。
そうでもないと誘おうなんてしないもんね。
「いま、教えてもらっているんだっけ?」
「確かそのはずです。今は監視は他のモノたちに任せていますからね。私たちも忙しいですからね。つきっきりというわけにはいきません。一番の責任者であるユキ様も仕事で外に出ていますし。確か、グラスのお店でしたか?」
「あ、うん。キャナリアのお弁当屋とは別にオレリアたちにお店を任せてみようって話があって、ラッツが物件を確保してくれてたんだよね。まあ、色々ありすぎて、放置してたからお店を出したいって人たちから、開けないなら譲れって話が来て突き上げられているようだね」
「なるほど、商売をしたい人にとっては空き店舗なら自分に欲しいという話ですか」
「うん。ということで慌ててお店の準備」
そしてそこはオレリアたちの手による情報収集場所になる。
まあ、グラス港町でそうそう私たちが動くような問題はないとは思うけど、ウーサノやアーエの新大陸への誘拐事件の発端となる噂話が入ってきたりしたから、こういうのは大事だよね。
と、そこはいいとして、ヴィリアたちの訓練だ。
「ヴィリアたちの映像はみられたよね?」
「ああ、話がそれましたね。はい、私たちであれば外出先でもみれます。まあ、作戦指令室の方が情報の精度は高いですけど。見るのですか?」
「うん。どの程度かって見てみたいかな。大体現状の把握は終わったし、どんな訓練するのか参考にしようかなって」
「ああ、それはいいですね。私も一緒に見てもいいですか?」
「いいよ。でも、仕事はいいの?」
「ええ。さっきも言いましたが、南部は膠着気味なのですよ。こうしてリーアに教えられる程度には暇があります」
「あはは、暇なのも辛いか」
「まあ、何かあれば物凄く忙しくなるんですがね。では、見てみましょう」
ということで、私とフィオラはヴィオラたちの映像をコール画面で見てみることにする。
ドゴンッ!
いきなりそんな音が耳に轟いて、2人して、両耳を押さえてのけぞる。
「な、なに?」
「なんでしょうか? というかボリューム下げましょう」
即座にフィオラがボリュームを下げて、耳の安全を図り、私はその間に画面をよく見てみる。
すると……。
「あれ? ここって外かな?」
画面に映っているのは、岩が転がっている場所だ。
こんなところがギアダナ王都にあるとは思えない。
「……そのようですね。先ほどの音は岩が割れたというか、衝撃が走った音のようです」
確かに画面の真ん中には割れた? というか粉々に近い岩が転がっている。
まあ、それでも破片は人の頭より大きいんだけど。
それで、ヴィリアたちはと思っていると、声が聞こえてくる。
『おお、まさか、ここまでの腕の持ち主とは。いやはや、事前に見せてもらって正解ですね。受けていたら粉々になっていたでしょう』
『粉々になる前に空の上に吹き飛ぶから安心して』
『いや、着地で死ぬわ。手加減しろよニーナ』
どうやら、岩を粉砕したのはニーナのようだ。
相変わらず、こういうことは大雑把というか、まあ、力とかを見せるならそれが最短だけどさ。
ニーナって諜報活動がメインの割にはこういう大雑把な所が多いんだよね。
いや、女性だから舐められやすいって言うのは聞いていたし、それを払しょくするために一気に実力を見せるにはいいんだろうけど。
『ははは。それは怖い。とはいえ、今のように力を見せるのはニーナ殿たちのような女性はいいですな。女性というだけでやはり侮られることは多いので、場所さえ選べば、このように力を見せるというのは有効でしょう』
おお、ドドーナ大司教はそこまで驚くことなく、ニーナの実力や見せ方をほめている。
普通はひくと思うんだけど、こういう人は慣れているのかな?
『それで、ほかの皆さまはどうですか?』
『あ、はい。一応ニーナさんがやったことはみんなできます』
『だな。同じようにぶん殴ってできるな』
『そうですね。基礎という感じです』
ヴィリアたちは素直にそう答える。
まあ、ニーナだけが出来てもニーナだけが評価されて、足手まといって思われるもんね。
『おお、それは素晴らしいですね。思った以上にダエダ宰相は良い人を送ってくれたのですね。では、次は動きを見てみましょう。相手は私が勤めます。ああ、ちゃんと力の手加減はお願いいたしますよ。老骨には厳しいですから』
確かに、ニーナたちの力がドドーナ大司教に当たればひとたまりもない気がする。
受け止められる例外はいるけれど、別にそういう例外を探しているわけじゃないしね。
『はい。よろしくお願いします』
ヴィリアがそう答えて、今度は技術的な実力を調べることになったのを、私はフィオラと一緒に観察しているのであった。
リーアはちゃんと色々学習してできることを増やすことには余念がありません。
まあ、プロフやオレリアたちがついて、リーアのやれることが少なくなったのも原因ですどね。
とはいえ、ユキとしてはリーアは意外と指導する側としての才能があるのではと思っているようです。
何せキャナリアのお花屋さんを軌道に乗せた実績がありますからね。
店舗の手配から、運営のノウハウも教えてもらったとはいえ主導で色々やっていましたから。
意外と万能型なリーアです。
ちなみに、勇者ってことわすれてないよね?




