第1857堀:いずれ来る問題への備え
いずれ来る問題への備え
Side:ヒイロ
「ヴィリお姉も大変だねぇ~」
「本当にね。北部は意味が分からない状況にあるわね。どこに地雷があるのか」
ヒイロたちはグラス港町の軍港の執務室で休憩をとりながら、ヴィリお姉たちの話をしている。
最近はようやく、海と町の警備の流れが出来て、上手く回っている。
……ふふふ。
シフトを組むのは本当大変だよね。
必要最低限であり、かといって足りないというのを避ける編成ってホント難しいんだよね。
それに空母と護衛艦の運用も研究できているし、実際動かしての近隣の海の偵察も進んでいる。
正直、普通の人が海に行けばパクっと食べられるレベルの魔境。
お兄が人が近寄らないわけだって言うのが納得できる。
「ま、落ち着いた分。いざという時はヒイロを出すわよ?」
「うん、わかっている。ドレお姉は流石に動けないし」
「そうね。まあ、ヒイロが指揮してもいいわよ? できないわけじゃないでしょ?」
「できないわけじゃないけど、ドレお姉の方が動きがいい」
流石にドレッサのような艦隊指揮はできない。
負けの方が多いし。
というか、ヒイロは基本ドレお姉の指揮下での部隊運用がお仕事だし。
「ええ。それは事実ね。とはいえ、向こうで艦隊運用となると私が出ることになるわよ?」
「向こうで? それってどういう状況?」
「さぁ、でも、新大陸での海を調査っていうのがあってもおかしくはないでしょう? あとは戦闘支援」
「むぅ、確かに」
あり得なくはない。
新大陸の情勢は本当に意味不明。
艦隊での戦闘支援とかミサイルでの超長距離攻撃だけど、それでもある方がいいに決まっている。
それに海の調査の方はもっとありえる。
というか、いずれそうなると思う。
その場合、グラス港町防衛や調査艦隊の運営はヒイロやヴィリお姉になる可能性は十分にある。
まあ、逆の場合もあるから、ヒイロが指揮することになる可能性は高い。
「まあ、今日明日で呼ばれたりはしないでしょうけど、海に面した場所に出ればいつ呼ばれてもおかしくはないわよ」
「つまり、私たちはいずれ分かれて行動をする?」
「そうね。だから、嫌ではなく出来るようになりなさい」
「……わかった」
これはヒイロでしっかりできるようにならないと、お兄に迷惑をかける。
それは駄目だ。
「はぁ、こういう勤勉なところをヴィリアにも見せればいいのに。小言を言われることも減るでしょう?」
「ヴィリお姉は常に小言を言う。ヒイロが頑張っているのも知ってはいるけど」
ヴィリお姉は何時まで経ってもお姉ってこと。
「そういうものか」
「そういうもの。で、今の話シスアとソーナに話してなくていいの?」
「今の? ああ、私かヒイロが出るって話?」
「うん。今後のグラス港町の防衛での話でしょ?」
「あ~、確かに。私たちがそういうのがあってもおかしくないっていうだけはあれね。グラス港町との連携もしているし、伝えてはおくべきか……」
「うん。決まってからあれこれ言うよりは、事前に打ち合わせはしておくべき」
「その通りね」
ということで、ヒイロとドレお姉はシスアとソーナがいる役場へと足を運ぶと……。
「お」
「「あ」」
なぜかお兄とリエお姉、デリお姉たちと出くわした。
「なんか、今日はよくみんなと出くわすな」
「そういうこともあるじゃろ」
「やっほーヒイロ、ドレッサ」
「やっほーリエお姉」
「ええ、元気そうねリエル」
そう言ってヒイロはリエお姉とハイタッチをする。
意外と、いや普通にヒイロとリエお姉は仲良し。
よく一緒に遊ぶし。
仕事でも軍と警察の連携でもよく顔を合わせるしね。
「それで、ユキたちはどうしたのかしら? 役場ってことはシスアとソーナに話?」
「ああ。ドレッサも同じか?」
「ええ。時間がかかるなら出直すけど?」
「いや、別にそこまで時間はかからないな」
「そう、ならちょうどいいわ。私たちの話も聞いてくれないかしら?」
「なんか海軍の方で問題があったか?」
「あるかもってところね。新大陸の件でね。私たちのどちらかが出る可能性があるでしょ?」
ドレお姉はあっさりとその場で内容を告げる。
まあ、隠すことでもないし。
「……あるな。いや、海の調査はしたいから確実に出すな。そして自衛戦力は欲しいから海軍になるな」
「そうなると、私かヒイロ、あるいはヴィリアが別艦隊を運用することになるでしょう? そうなると、グラス港町の海軍も編成を考えないといけないでしょう?」
「あ~、そうなるとグラス港町との連携も変わってくるか……」
「そういうこと。まあ、どこまで変わるかはわからないけど、私たちの内、誰かが残るにしても、指揮系統の変更はさけられないし、事前にあり得るぐらいは説明しておこうかって話になったのよ」
「なるほどな。そうなると、俺がいた方がいいな。ヒイロもそれで?」
「うん。ヒイロも一応指揮官候補だから」
「そうか。どっちが出るとかは、状況次第だしな。……ま、今考えても仕方がないか。とりあえず、シスアとソーナに会いに行こう」
こうしてヒイロとドレお姉はお兄たちと一緒にシスアとソーナの執務室へと向かう。
どうやら二人はいたらしく、待つことなく部屋へと通される。
そこにはいつものように、書類の山と戦っている2人がいる。
「おお~、本当にユキ様たちだ~。なんでそんなに大所帯で?」
「何か緊急の出来事でしょうか?」
2人はヒイロたちの姿を見て、数の多さで何か大事でも起きたのかと、手を止めて立ち上がる。
うん、ヒイロもこれだけの顔ぶれが仕事場に来たら警戒する。
「緊急と言えば緊急だが、危険度はほぼない」
「うむ。妾とリエルは警察としてグラス港町の治安についてじゃな」
「私のほうは、グラス港町の今後の海の警備、防衛についてね」
「つまり、別々の用事でここを訪れていて顔を合わせたついでに一緒にやって来ただけだな」
「なるほど。大事ではないのですね。よかったです。で、どちらから話を伺えばよろしいのでしょうか?」
あ~、順番とか決めていなかった。
どうしようかと思っていると……。
「ああ、俺かデリーユとリエルが先だな。ドレッサとヒイロはグラス港町の軍の動きだしな」
お兄があっさりと順番の基準になることを説明する。
「ああ~、軍の動きとかはちょっと時間がかかりますね~。で、ユキ様とデリーユ様、リエル様のご用事は~?」
「俺の方は、ほら、メインストリートで空けてもらっているお店の内装を決めたくてな、内装屋の紹介を頼みたいんだ」
「お店を開く余裕ができましたか」
ああ、お兄たちが来てたのは、あの空き店舗のことか。
確かにお兄が独自にグラス港町の情報収集するための場所っていってた。
まあ、忙しいから後回しになっていたけど、ようやく動くのか。
どんなお店が出来るか楽しみ。
「セラリアに言われて思い出した。苦情が来てたらしいな。悪い」
「いいえ。お忙しいのは把握しておりましたから。仕方がありません」
「そうですよ~。苦情に関しては準備をしているだけだからと言っていますけど~、そこら辺から何かあるかもしれないですね~」
「ま、一等地を空けたままの商人とか、才能無いと思われて当然だしな。追い出すために何かする可能性はあるか」
むう、そういう馬鹿はぶっ飛ばすに限るけど、苦情の内容は理解できないでもない。
とはいえ、追い出すのは駄目だけど。
「それなら、リエルと妾が巡回を増やすように調整するぞ?」
「うん。そういう馬鹿は一度しょっ引くに限るからね~。で、グラス港町の治安はどう? ちゃんと警邏隊は出ているけど、何か問題でてる? そういうのを聞きに来たんだけど?」
「お二人は現状を確認することで来られたのですね」
「うむ。完成パーティー以降、民間人も普通に入ってきておるからな。貴族とのトラブルとかそういうのがないか?」
「そうですね。細々したトラブルはやはりありますが、人手が足りないといったような報告は受けていませんね」
「だね~。とはいえ、私たちの知らないところでトラブルが起きている可能性はゼロじゃないですし~。ユキ様のお店があるのはいいことかもですね~」
うん、こういうトラブルはお上、つまり偉い人の所に届きにくいことが多々ある。
それを防止するため、無法に泣く人が少しでも減るように、お兄が情報が集まるお店を作る。
そういう目的。
「なら、やっぱり作った方がいいな。ということで、紹介できるか? 最初はウィードの俺の知り合いとって思ったんだが、皆に御用達だから色々バレるってな」
「あはは~。それはその通りですよ~。ユキ様のお知り合いってウィードじゃ基本超有名職人たちですよ~。そんな人たちが出向いてきたら、肝いりのお店だって周りにバレちゃいますよ~」
「そうですね。話は分かりました。グラス港町の職人を紹介してほしいわけですね。一応紹介状はしたためますが、ユキ様が顔を出すならば問題はないでしょう。場所は……」
そう言って、内装屋の場所を説明しつつ、メモと紹介状を渡す。
それを受け取ったお兄は確認したあと。
「よし、俺の用事は終わりだな。あとは、ドレッサとヒイロの番だな。待たせて悪いな」
ヒイロたちに向かってそう言う。
「別に待ってないわよ。グラス港町の治安の話だったし、私たちにも意味があるわ」
「うん。町の治安の安定は軍にとっても大事。馬鹿をやるのは軍にもいるから」
どうしても人だから、軍属でも、いや暴力を扱うモノだから暴走することはある。
それを事前に止めるのがヒイロたちの仕事だけど、それでも隠れてする馬鹿もいる。
そういうのが漏れないように情報網がより強固になるのはこちらにとっても良いこと。
軍の評判が落ちれば、グラス港町の安全も守れなくなるし。
「そうか。2人の話も詳しく、と言いたいが」
「私たちの話は色々長引くだろうし、さっさとお店の方を進めなさい。デリーユとリエルも警邏の続きよろしく」
「だな」
「うむ。任せておけ」
「うんうん。ばっちり見回るからね」
ということで、ヒイロたちはお兄たちを見送って、どちらかが欠けたり、艦隊が減る可能性があるということがあり得るということを話して、必要最低限の防衛戦力などの話を始めることになった。
必要最低限って場合で違うからね。
そこら辺を町の方とも打ち合わせしておかないと問題がある。
ヒイロもしっかり仕事をしているってお話です。




